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バラに囲まれる豊かな暮らしを手作りで。中村真美さんの庭【松本路子の庭をめぐる物語】

バラに囲まれる豊かな暮らしを手作りで。中村真美さんの庭【松本路子の庭をめぐる物語】

夫婦で「ジャッド」と呼ぶ収納小屋にバラを絡ませ、103株のバラを育てる埼玉県の中村真美さん。彼女の夢は、「ジャッドの屋根を‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’で覆うこと」。SNSに投稿された写真に惹かれて、写真家でエッセイストの松本路子さんが庭を訪問しました。今年の5月、バラ咲き乱れる庭で伺った、真美さんの花に彩られた素敵な暮らしぶりを、美しい写真とともにレポートします。

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バラの芳香あふれる庭

バラの庭
庭から家を望む。左のバラは‘ブリーズ’。右はガーランドに仕立てた‘ポール・トランソン’。

つるバラや木立バラが咲き誇り、その周りにクレマチスや野趣あふれる草花が配された端正な庭。個人のお宅とは思えないほど、充実した庭をつくり上げたのは、中村真美(まなみ)さん。今年5月、バラの最盛期に埼玉県入間市にあるご自宅に伺った。

バラの庭
ガーデン入り口の瀟洒なアイアン・ゲート。左のピンクの‘モン・クール’、右奥のオレンジとオフホワイトの‘ギスレーヌ・ド・フェリゴンド’が客人を迎える。

真美さんの庭を知ったのは、彼女が発信するSNSの写真からだった。1年間かけて夫と2人でつくり上げたという小屋の写真と、その小屋の屋根をバラ‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’で覆うのが夢、という話に惹かれ、訪ねてみたいと思った。

6年目の景観

手作りの小屋
1年間かけて手作りした、おとぎ話に出てくるような小屋「ジャッド」。屋根には‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’、ドアの脇には鉢植えの‘ペレニアル・ブルー’が可憐な花姿を見せている。

庭に招き入れられてまず向かったのは、彼女が「ジャッド」と呼んでいる、農具やガーデニング用品を収納する小屋。鹿児島弁の「じゃっど」(そうだ)と、ガーデンシェッドを掛け合わせた楽しい造語だ。基礎を専門家に頼んだほかはすべて手づくりで、彼女がペンキを塗ったという青い壁が日差しの中で輝いている。屋根の上から‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’が顔を出していた。

バラの庭
左/ガーランドに仕立てた‘ポール・トランソン’。右/木に絡んで咲く‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’。バラの特性を生かした立体的なデザイン。

現在の地に家を建て、庭づくりを始めたのは6年前。だが、つるバラの茂り具合や、木々に絡まる様子などは、長い年月を経たかのように、のびやかで、自然に見える。

庭づくり
6年前、庭づくりを始めた頃の様子。煉瓦やタイル、石などをひとつずつ並べていった。丁寧に敷いたので、今でもゆるんではいないという。*

図面に沿って、小道に煉瓦を敷き、タイルや石を配すなどの庭づくりは、自ら手作業で行ったというから、さらに驚かされる。

「1日に1mとか、煉瓦50個とか目標を決めて、少しずつ作業を進めました。鉄製のアーチ以外、木製のパーゴラなどもすべて手づくりです」

煉瓦の重さや敷き詰める労力を推し量ると、庭への熱情が並大抵のものではないことがよく分かる。

バラとの出会い

バラ‘ロココ’
リビングルームに近いオベリスクに咲く‘ロココ’。大輪の花姿は、ロココ調の装飾のように優美だ。

真美さんがバラと出会ったのは、1999年、第1回「国際バラとガーデニングショウ」の会場だった。今まで見たことのないバラの花を目にして、すっかり魅了された。当時、会場だった所沢の西武球場近くに住んでいたので、毎年5月に開かれるこの催しに出かけ、購入した苗を腕いっぱいに抱えて帰った。バラづくりには20年以上の年季が入っているのだ。この頃から理想とするバラの庭の構想が生まれていたのかもしれない。

土づくりからのスタート

バラの庭
左/リビングルームからの風景。鉢植えのバラは‘バーガンディ・アイスバーグ’。右/庭の小道をたどると、さまざまなシーンが現れる。足元の植栽も豊かだ。

6年前に現在の場所に移ってきたのは、夫が定年退職後に畑で農作物を作りたいと、広い土地を探したのがきっかけだった。彼女がユーモアをこめて「畑部長」と称する彼は、近くの農地を借りて無農薬の野菜づくりに励んでいる。そこで収穫される野菜の味は格別だという。

バラの庭
家の入り口、隣家との境の壁を、‘ピエール・ド・ロンサール’が彩っている。

庭は彼女のバラのために設計され、家が完成した直後、近所の乗馬クラブから2トン車で2回ほどの馬糞堆肥が運ばれた。まずは土づくりからのスタート。以来、毎年寒肥を入れる際に馬糞堆肥を追加している。植物たちが元気な秘訣は、豊かな土壌にあるのだ。

お気に入りのバラ

バラ
左/‘つるアイスバーグ’。右/リビングルームのテーブルに飾られた‘ジュード・ジ・オブスキュア’。香りのバラだ。

以前の家から移植したバラは30株ほど。現在は88種類、103株に増えている。オールドローズが好きで、中でも香りのよいバラに惹かれるという。

「今一番気に入っているのは‘ジュード・ジ・オブスキュア’という名前のバラ。フルーティな香りが際立っています。でも最後に一株だけ残すとしたら、やはり‘アイスバーグ’でしょうか。いろいろな点で、愛すべきバラです」

庭での時間

バラの庭
庭で花がら摘みをする真美さん。念入りな手入れが、バラたちを輝かせている。この日のランチタイムは、友人を迎えてのワインパーティー。

これだけ見事なバラを咲かせるのには、どれだけの手間と時間がかかることか、想像に難くない。彼女にたずねると、毎日朝6時から8時、夕方4時から6時が庭の手入れの時間だという。鉢植えのバラへの水やり、剪定、花がら摘みなど作業は山積している。

「庭仕事で大事なことは、よく見ること。目が行く、そして手が行くことですね」

オープンガーデン

バラの庭
左/白のコーナー。‘マダム・アルディ’と‘プリンセス・スノー’。右/いくつものアーチやオベリスクが連なる、表情豊かな庭。ピンクのバラは‘リアンダー’。

こうして手入れされた庭は、年に1度、5月の第4日曜日のオープンガーデンでお披露目される。その日はローズガーデン・マルシェとして、コーヒーのキッチンカーや、焼き菓子、パンなどの作り手が出店する。

4年ほど習っているヘルマンハープの演奏を披露することもあるそうだ。バラに囲まれ、ハープの音色に耳を傾けるのは、さぞ心地よいことだろう。

庭とともにある暮らし

バラ‘アンリ・マルタン’
ジャム用に摘み取った‘アンリ・マルタン’。ジャムにするバラは無農薬で育てている。ジャムにしたときに映えるのは、鮮やかな色のバラ。*

バラは、年に1~2度だけ農薬を散布する低農薬で育てている。‘アンリ・マルタン’と‘ルイーズ・オジェ’という2つのバラだけは、ジャム作りのために無農薬に徹している。自家製のバラジャムを味わったら、やめられないという。

バラの庭
自然な花姿。手前のピンクのバラは‘春霞’。白は‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’。道路に面したフェンスに咲く‘アンジェラ’ ‘ロイヤル・サンセット’ ‘コーネリア’が、道行く人を楽しませている。

こうした庭仕事と同時に、自宅にてフラワーアレンジメントの教室を主宰し、近隣の家のバラの庭づくりも指導している真美さん。庭に寄り添い、花に彩られた素敵な暮らしぶりに出会えた、バラ日和だった。

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