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ここはクリニックの庭。身体や心に不安を抱える患者さんや、日々忙しく働くスタッフたちの癒やしにと、院長先生と夫人が作った庭です。一年365日を通じて季節の花が咲き継ぎ、さまざまな表情を見せる庭とその舞台裏をご紹介します。5月の主役はバラ。木漏れ日のなかで咲き香るバラと草花たちが共演する、一年で最も華やかな季節。庭を丹精する面谷ひとみさんがご案内します。

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バラと草花が共演するクリニックの庭

ガーデン

5月の庭はバラが主役です。入り口のアーチや壁をつるバラが覆い、庭の中にもたくさんのバラが咲きます。でも、バラ園のようにバラだけを咲かせるのではなく、さまざまな草花と共演させるのがこの庭のスタイルです。自然の美しさには、人を癒やす力があると私は思っています。それは、私自身が忙しい看護師時代にそうだったから。この庭も、できるだけ自然に近い美しさを表現できるように心がけています。

自然風を演出するための植物のコントロール

バラの庭

実際のところ、庭を「自然風」「ナチュラル」に演出するのはそうたやすくはありません。「自然風」は、自然のままに放っておいてはできないからです。まず、たくさんの種類があるバラの中から、この庭に似合う少し野趣のあるバラを選び、開花期の合う草花を選び、いい具合に茂るよう植え付けのタイミングを見計らって植えます。

バラの庭
診察室に面した小道状の庭。円柱に‘コンスタンス・スプライ’など複数のつるバラを絡ませ景色を作っています。

「いい具合」というのは、草花の中には旺盛に茂りすぎて、バラを覆い隠すように咲いてしまうものがあるので、そうならない程度に生育してもらうよう植えどきをコントロールするのです。例えばイギリスのお屋敷の庭のように広大なスペースがあれば、思う存分育ってくれて構わないのでしょうが、ここは両脇を公道に挟まれた三角地帯で、広さは限られています。その中で多種多様な草花を咲かせるには、1種だけに盛大に育ってもらっては困ります。あるときは、ワスレナグサが繁茂して庭中が青く染まってしまい、抜くのに一苦労しました。というように、庭づくりの失敗談も含めて、これからこの庭の四季と舞台裏を皆さんにご紹介していきたいと思います。

ガーデニング
庭づくりを一緒に行っているガーデンデザイナーの安酸友昭さんと。

コントロールできない自然の事象こそ庭の癒やし

庭の植物にはコントロールが不可欠ということを教えてくれたのは、私のガーデニングの師匠で、このガーデンをデザインしてくれた「ラブリーガーデン」の安酸友昭さんです。安酸さんの「咲きすぎとるがん、抜かなあかんです」という言葉を初めて聞いたときは、衝撃的でした。きれいにいっぱい咲いているものを抜くなんて、私には思いもよらぬことでしたから。

アオスジアゲハチョウ
セントランサスにとまるアオスジアゲハ。

しかし、「咲けばいいというもんではないですがん。庭の美しさは、植物だけで成り立っているわけではないんです。草花をそよそよと揺らす風や、葉の間からこぼれる木漏れ日、花の陰影、飛び交う虫たちや鳥の声。人にはコントロールしきれないそういう自然の事象こそが、美しさや癒やしにつながるんです。花がぎゅうぎゅうに咲いてたら、風にも揺れんし、陰影もできませんが」と言われて、いたく納得。

つるバラの誘引
つるバラの誘引は安酸さんが担当。構造物とのバランスを考えながらシュートを誘引していきます。

庭の美しさの所以は、どこにあるのか。普段はとても寡黙な人なのですが、じつは常にそういう目で庭を見て考えているんだな、と感心した瞬間でもありました。こんな素晴らしいガーデナーに指導を受けながら庭づくりができるのは、とてもラッキーなことではありますが、大変ダメ出しも多く「なんでダメなん? だったら最初から教えといてくれたらいいがん(面谷)」、「面谷さんなら言わんでも分かると思いましたがん、まだまだでしたね(安酸)」と、いつも言い合いをしながら庭仕事をしています(笑)。

右/‘ムンステッド・ウッド’。左/‘セプタード・アイル’
右/‘ムンステッド・ウッド’。左/‘セプタード・アイル’。どちらもとても香りのよいイングリッシュローズ。

バラのセレクトは、基本的に私の好みです。香りがあり、草花とも相性がよく、どこか儚げだったり、野趣があったり、やわらかい雰囲気で咲くものが好きです。たくさんのバラを育てていると、そうした微妙な花の雰囲気の違いが分かって、好みができてくるものです。分かりやすいのは、花屋さんで売っているバラとの違い。花屋さんで売っているバラは、アレンジがしやすいように茎が真っ直ぐで長いものが多く、香りもほとんどありません。一方、庭植え用のバラは、茎が細く華奢な雰囲気で、香りのあるものもたくさんあります。両者は用途や輸送上の事情もあり、品種や育てられ方も異なるのです。

バラ
左/小輪の‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’と‘スーブニール・ドゥ・ドクトル・ジャメイン’。右/咲き始めでピンク色が濃い‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’と名前のわからないオールドローズ。
バラの庭
左/薄紫色に咲く‘シャルム’。右/深紅の‘ザ・ダークレディ’。

バラによく似合う「ライン状」の草花

オールドローズの‘ジャック・カルティエ’
オールドローズの‘ジャック・カルティエ’。手前にアリウム・ギガンチウムのつぼみが上がっています。

バラに添わせて咲かせる草花は、まずは開花期が合うことが条件です。そして、この庭では先ほどもお話ししたように、限られたスペースでたくさんの種類を植えるため、一株が大きくなりすぎないものが適しています。大きくなり方には、縦方向と横方向があります。横に広がるものは場所をとりますが、縦に伸びるものならOK。というわけで、アリウムはバラに合わせる花として最適です。

アリウム・ギガンチウム
アリウム・ギガンチウム。ピンポン玉のようなつぼみ(左)が開くと、直径10cm以上の花に。草丈は70cm前後で、スッと茎を伸ばして咲く。
アリウムとニゲラ
左/白い花を咲かせるアリウム・コワニー。草丈40cmほど。右/アリウム・クリストフィー。草丈30cmほど。ブルーの花は一年草のニゲラ。
ジギタリス
左/アプリコットカラーのバーバスカム‘サザンチャーム’、ピンポン玉のような黄花のクラスペディア・グロボーサ、ブルーのギリア・レプタンサなど。右/さまざまな品種の中から選んだ小型のジギタリス。

草花の中には、長い茎に縦に花を連ねてライン状に咲くものがたくさんあります。ジギタリスやデルフィニウム、バーバスカムなどがそういう花で、この庭ではバラと共演する定番の草花です。木立性のバラは、木がこんもり丸い形になるので、こうしたライン状の花をそばに植えると、それぞれの美しさが際立ちます。縦にすっきりと咲いてバラと共演してくれますが、株元では葉っぱが展開するので、株間は30cmくらいあけて植栽する必要があります。

寄せ植えで庭に彩りを添えて

バラと草花
バラのそばでチラチラと白い花を咲かせているのは、一年草のオンファロデス。右の写真のようにバラのそばに鉢植えで咲かせています。

草花は地植えにするだけでなく、鉢植えにしてバラとコラボさせることもあります。草丈の低い一年草などは、本来バラの株元で咲きますが、鉢植えにすると高さが上がり、バラの花との共演が楽しめます。「寄せ植え」というと、玄関先などに置くイメージですが、庭の中でも手軽に色を添えたり、バラとコラボさせたり重宝します。一年草はワンシーズン限りですが、3〜4カ月咲き続けてくれるものも多く、庭でよく活躍してくれます。

オンファロデス
春からバラが散る頃まで咲いているオンファロデス。左は一年草のオンファロデス・リニフォリア。右は園芸品種で多年草のオンファロデス・カッパドキカ‘スターリーアイズ’。

5月の庭はバラが主役ではあるものの、毎年同じ風景では飽きてしまうので、草花の種類に変化をつけ、雰囲気が変わるようにしています。テーマを決め、それに合うような草花を植えます。その様子を次回ご紹介します。

●面谷さんが使う新しい庭資材の話はこちら

まるでバラ園!“365日美しい庭”の舞台裏に密着! バラや草花を美しく咲かせる新しい庭資材とは[PR]

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