「アプローチを兼ねた庭を日々行き来することで、四季折々の自然に寄り添った潤いのある生活が実現できます」と語るのは、2013年に新井アトリエ一級建築士事務所を設立した一級建築士の新井崇文(あらいたかふみ)さん。新井さんの考える「家と庭の関係」についてお話を伺った。

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内と外の一体感を常に楽しむ

写真/新井アトリエ

私が住まいづくりで大切にしていることの一つは「室内と庭に連続性を持たせる」ということです。これを実現する上でポイントになるのが、窓などの開口部のあり方です。家族が集うリビングと気持ちの良い庭が大きな窓でつながっているような住宅は多いと思いますが、実際には道路やお隣さんからの視線が気になって、昼間はいつもカーテンやブラインドを閉めたまま……というケースが割と多いのではないでしょうか。それではせっかくの気持ちの良い庭があっても日常的に楽しむことができません。

そこで私は、まず庭を建物や塀、ルーバー、植栽などで囲い込んでプライバシーを確保したうえで室内とつなげる、という設計をよく行ないます。私の自宅兼事務所であるこの「荏田町の家」もそうした構成で、日中はカーテンなどは一切閉めずに、明るくオープンな空間が楽しむことができます。

アプローチ空間の可能性

また、私が住まいづくりでもう一つ大切にしているのが、アプローチのあり方です。私は生まれも育ちもこの横浜ですが、以前会社に勤めていたとき、3年間大阪の支社にいたことがありました。そのとき、週末になると京都へと足繁く通い、伝統的な日本建築や庭園を見て歩いたのですが、特に大徳寺高桐院の素晴らしさに大きな感銘を受けました。

山門の前に立つと、切り取られたフレームの中に奥深い世界が佇む。そして山門から建物へとアプローチを進んでいくと、心洗われるような自然の中で、右へ左へ歩を進めるとともに次々とシーンが変わっていく。新緑の初夏や紅葉の秋など、訪れる季節によっても違った表情を見せてくれます。この素晴らしいエッセンスを街中の一般的な住宅にも採り入れたい。

そういう想いから私は住宅の設計においてアプローチをとても重視しています。

アプローチとはどういう場所かと考えますと、ここを通って外へ出かけたり、また外から家へ戻ってきたり……、住まい手が日常頻繁に行き来する場所です。外部ですので、光・風・緑といった自然の恵みをふんだんに生かした空間づくりができますし、一方で外ではありますが敷地内のプライベートな空間でもあるから、室内のような親密な雰囲気の空間としてデザインすることも可能です。つまり、アプローチには人の心の琴線に触れるような魅力的な場所にできる大きな可能性があるのです。

またアプローチがもつ、もう一つの重要な役割として、ここを通って内と外を行き来する人の気持ちを切り替えてくれるということがあります。日々、外に働きに出る大人にとっても、学校に通う子どもにとっても、1日の始まりや終わりにどういうシーンに迎えられるかということは、日々繰り返される人生の体験の中でとても重要なウエイトを占めると思います。

いったん家に入ってしまえば、家事や勉強など、何かに取り組む時間がそのほとんどを占める日常において、アプローチを歩くときは意識が純粋に空間体験へと向きます。そのわずか数秒、数十秒の「心が洗われる、ホッとした一瞬の体験」を日々繰り返すことで、その家に住むことの充実感、満足感はより大きなものになると思っています。

 

庭とアプローチを兼ねる

写真/新井アトリエ

このように私が住まいにおいて重要だと考えている「室内と連続性を持った庭」そして「アプローチ」という要素をどちらも両方、現在の一般的な規模の住宅で実現しようと考えたとき、スペースの問題から困難となる場合も多いのが現状です。そこで考えたのが「庭とアプローチを兼ねる」という設計手法です。

アプローチを兼ねた庭を日々行き来することで、四季折々の自然の表情や変化を日常的に感じることもできますし、それによって生活に安らぎを得ることもできます。仕事などで外出するときには、大なり小なり心理的なハードルを伴うものですが、玄関を開けてすぐに街に出るのではなく、室内から庭、そして街へという空間やシーンの連続性を通って出かけることで、人の心理も緩やかに変化していき、気持ちのうえでも随分良いものです。

この「荏田町の家」や最近手掛けた「朝霞の家」もこのような構成になっていますが、私自身、実際に住んでいて、そういう心理面での素晴らしい効果を感じています。

 

点から面へと風景をつなげる

写真/新井アトリエ

このようなアプローチを兼ねた庭の植栽には、樹木から地被類まで、極力多くの種類を採用することを心掛けています。それによって自然の野山に近い風景となり、ホッとくつろげる風景をつくることができます。植物の種類は、お施主さんのご希望があればもちろんそれに応じますが、基本的にはその地域の在来種を中心に構成することを大切にしています。そうすることで、その土地に元々ある風景との連続性をつくり出すことができますし、その花や実を求めて、鳥や蝶などその土地に息づく生き物もやってくる素敵な庭をつくることができるからです。

 

写真/新井アトリエ

アプローチを兼ねた庭に植栽を施し、豊かな空間にすることは、住まい手の人生を豊かにするだけでなく、それを目にする道行く人の気持ちも豊かにしますし、何より街の風景に貢献します。私が設計に関わる家は、街の中では「点」の存在に過ぎませんが、日々そこを通る街の人々の心に響き、それが「線」になり、「面」となって広がっていけば、これほど嬉しいことはありませんね。

 

 

引用元/『HomeGarden&EXTERIOR vol.2』より
写真提供/新井アトリエ

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