トロピカルな植物から懐かしい素材、ナチュラルな宿根草など、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんが注目する庭巡りシリーズ第2回。今回は、鳥取の実験的ボーダー植栽をレポートします。植物選びに“マンネリ”しているあなたへ、庭の面白さや植物の可能性のアンテナを刺激する、新たな世界観をお届けします。

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いなばやさんご夫妻の新しい実験的ボーダー植栽、「畑のへりガーデン」

私が「日本で最も面白い庭の一つ」と思い崇敬している、鳥取県のいなばやさんのお庭レポート。前回記事「前庭 蚊園編」に続き、2回目は、現在進行形で、いなばやさんの新しい植栽実験が行われているボーダー植栽、「畑のへりガーデン」を、いなばやさんご自身の撮影による写真とともにご紹介します。

畑のへりガーデン
2019年12月の「畑のへりガーデン」。暖冬の影響で、例年に比べ緑がまだ多く残っています。

オーナメンタルグラスや宿根草を使った植栽を志向されている園芸家の皆さんに、多くの刺激と励みを与えてくれることでしょう。

「蚊園」から「畑のへりガーデン」へ

いなばやさん邸の前庭「蚊園」は、前面道路の拡幅工事に伴い、残念ながら将来的に敷地が縮小予定とのことで、蚊園の変遷と回顧も含めて前編記事でご紹介しました。

いなばやさん邸
いなばやさん邸の前庭「蚊園」(2014年6月撮影:太田敦雄)

ここ数年で、いなばやさんの植栽は、オーナメンタルグラスや宿根草を組み合わせた、よりダイナミックなランドスケープ観へと向かっています。そして植栽のメインステージも、前庭の「蚊園」から、農業を営んでいるいなばやさんの畑の縁(へり)を利用した長大なボーダー植栽「畑のへりガーデン」へと移行しつつあります。

ボーダーガーデン
「畑のへりガーデン」(2018年6月下旬)

「蚊園」が英国のグレート・ディクスターやベス・チャトー・ガーデンなど、偉大な独創性と持続可能な植生的視点を併せ持った庭からのインスピレーションを反映した庭であるのに対し、「畑のへり」は、世界の注目を集める植栽家、ピート・アウドルフ(Piet Oudolf)さんに代表されるような、オーナメンタルグラスと宿根草を中心としたナチュラリスティックなペレニアル植栽手法への傾倒が見て取れるのが大きな特徴。

ピート・アウドルフさんの植栽
(参考)ピート・アウドルフさんデザインによる、オランダ ユトレヒトの「Vlinderhof」の植栽 。Wiert nieuman/Shutterstock.com

ヨーロッパと比較して年間降水量が多く、夏の高温多湿も厳しい日本では、欧米でよく植栽に使われる宿根草でも、同じようには育てにくいものも多いです。「畑のへりガーデン」では、日本の気候にも合う植物が、いなばやさんの高い栽培経験値で選りすぐられ、日本でも持続可能な宿根草ボーダーガーデン、あるいは新しい植生のような植栽空間が作られています。

ボーダーガーデン
真夏でも弱るどころか勢いを増す「畑のへりガーデン」の巧みな植物セレクト。(2018年7月)

また、ヨーロッパの植栽を追いかけるにとどまらず、「蚊園」から引き継がれる従来のいなばやさん独自の個性的な植物セレクトも色濃く反映されており、もはやヨーロッパ人デザイナーには真似のできない、日本の気候にカスタマイズされた、オリジナリティと実験性溢れるボーダーガーデンとなっています。

畑のへりガーデン
植栽ごく初期の「畑のへりガーデン」。初っ端からカールドン(Cynara cardunculus)やルドベキア・マキシマ(Rudbeckia maxima)など、いなばやさん独自の植栽ボキャブラリーてんこ盛りですね。(2016年6月)

ピート・アウドルフさんの植栽に見られるような、冬季落葉性の宿根草やグラス類を用いて、四季の中での植物の動的な成長変化や、秋冬のオーナメンタルな枯れ姿も含めて観賞対象とする植栽。この流れは「ナチュラリステック・プランティング(Naturalistic Planting)」とも呼ばれ、世界的な広がりを見せています。

High Line Park
(参考)ピート・アウドルフさんデザインによるニューヨークの「High Line Park」。Allen.G/Shutterstock.com

しかし、ヨーロッパと大きく気候が異なる日本では、ヨーロッパの植栽をそのまま再現するのはとても難しいことです。そして、いかに新しい・美しい植栽をお手本にしても、トレンドをそのまま真似していては、流行の後追いで面白くないですよね。

「畑のへりガーデン」では、現代ヨーロッパの植栽シーンに刺激を受けつつも、魅力的な植物が日本の気候下で持続的に栽培可能かという検証に加え、日本の気候でも元気に育つ宿根草やグラスも組み込んで、ヨーロッパにはない新しい植栽の試みも同時に行われています。

チカラシバ
(2018年10月)

たとえば上写真では、自生のチカラシバの白緑穂個体から特に美しいものを選抜したり、昭和の農家の庭先植栽を彷彿させるオオケタデ(左上奥)、リキヌス ‘ニュージーランドパープル’ の掌状の巨大銅葉など、日本の植生や昭和園芸へのノスタルジー、コンテンポラリーなカラーリーフまで織り交ぜつつ、独自の言語体系で現代ヨーロッパのナチュラリスティックな植栽トレンドにも相通じる風景を生み出しています。

畑のへりガーデン
(2018年7月)

「畑のへりガーデン」でくり広げられている実験的な植栽は、日本における真の意味でのナチュラリステックプランティングの最前線を見ているようで、個性と探求心がもたらしてくれる園芸の楽しさを感じさせてくれます。

では、季節に沿って「畑のへりガーデン」の変化と見どころを観賞していきましょう。

冬 12~1月

セピアや黒褐色に乾いていくグラスの穂や宿根草のシードヘッドなど、オーナメンタルな枯れ姿のシルエットや造形美、微妙な枯れ色のニュアンスを楽しむ季節。

グラスガーデン
(2018年12月)

グラスの穂も、秋の「咲いている」生の状態から初冬にかけての「枯れゆく」過程、そして冬のドライな枯れ姿とでは、ニュアンスが確実に違います。種子が稔ってもすぐには刈り詰めずに、枯れ姿のオーナメンタルさをポジティブな美と捉えて観賞するのは、ベス・チャトーさんやピート・アウドルフさんの植栽がもたらした大きな植物観賞価値の転換ですよね。

グラスガーデン
初夏の開花から冬の枯れ姿まで観賞できるベロニカストラム‘ファッシネーション’ (Veronicastrum virginicum ‘Fascination’/手前左)、カラマグロスティス ‘カールフォースター’ (Calamagrostis acutiflora ‘Karl Foerster’/手前中)。背景の柿の木もおしゃれです。(2019年12月)

植物図鑑などを見ても、植物が生き生きしている生育期や開花期の写真しかありません。

冬を植物の枯れ姿で演出する。じつは、それぞれを育てて、植物の一生の姿を知っている園芸家でないと、なかなか創り出せない手法、光景なんですよね。

グラスガーデン
(2018年12月)

それぞれの植物の枯れ姿の静物的なシルエットや微妙な枯れ色の違いを楽しむ冬の庭。散りゆく紅葉の動的な儚さとはまた異なる、枯れ野のような静寂感に浸れます。

グラスガーデン
晩春の淡青紫色の花から、フサフサとした細葉姿、初冬の黄葉まで楽しめるアムソニア・フブリヒティ(手前右)。写真中央のカールドンの黒褐色の花がらもオーナメンタル。(2019年12月撮影)

冬の間も緑や花を絶やさないようにすると、園芸作業が年間通じて忙しいものになってしまいますよね。しかし、枯れ姿をポジティブに楽しんでしまおうと思えば、年末年始の慌ただしい時期に園芸作業に追われなくて済みますし、観賞と休養の両立ができます。なにかと忙しい現代人にとっては、メリハリがあって合理的な園芸の楽しみ方ではないでしょうか。

真冬~早春 2~3月

この頃になってくると、幾度かの積雪や寒風によって、宿根草たちの枯れ姿にも乱れが目立ってきますので、グラスや宿根草の枯れた地上部を短く刈り戻していきます。

刈り戻し
bubutu/Shutterstock.com

春に向けてスパッと気分を切り替えて、一年をリセットするイメージですね。刈り込んでスッキリと作業しやすい状態にした上で、株分けや施肥をして春に備えます。比較的、他の園芸作業がヒマな時期に春の準備をチャチャッと済ませてしまう、ヨーロッパのナチュラリスティックな宿根草植栽で、しばしば用いられる合理的な手法です。

刈り戻し作業途中のガーデン
刈り戻し作業途中の様子。(2019年2月撮影)

園芸をしていると、とかく年間通して観賞できる庭を目指してしまいがちかもしれません。「畑のへりガーデン」では、主な観賞期間を晩春~冬と限定することで、細々した園芸作業の手間を大幅に省力化しています。こういった大胆な割り切りも、身の丈で長く園芸を楽しむための省力化としては重要ではないでしょうか。

春 4~5月中旬

冬季落葉性の宿根草は、秋植えの球根類や一年草などと比べて芽吹きが遅めで、開花も晩春から初夏あたりからが見頃となってきます。

つぼみ
(2017年5月上旬)

「畑のへりガーデン」でも、一般的に「園芸シーズン」といわれる4~5月中旬の時期は「他人に見せる」という観点からすると、植物たちが芽吹きたてで、比較的花も少なく、まだシーズン前の状態です。

アムソニア・フブリヒティ
写真右手前は、アムソニア・フブリヒティ(Amsonia hubrichtii)の花。(2017年5月上旬)

しかし、庭主のいなばやさんにとっては、4月の芽吹きや5月の新緑、ジャーマンアイリスやオリエンタルポピーといった早咲きの花など、春は生命の息吹きを感じられる歓喜のシーズンであることに変わりはありません。庭主が独占で浸ることができるプレビュー期間ですね。

パパベル・オリエンターレ‘ロイヤスウエディング
パパベル・オリエンターレ ‘ロイヤルウエディング’(Papaver orientale ‘Royal Wedding’)。(2017年5月中旬)

初夏以降は、植物同士がひしめきあって圧倒的なボリューム感で迫ってくる「畑のへりガーデン」の植栽。園芸家目線で見ると、芽吹きたての春は、各植物の植え付け株間の取り方などが分かり、とても勉強になる時期でもありますね。

ガーデンの芽吹き
(2017年5月上旬)

初夏 5月下旬~6月

春バラのハイシーズンが過ぎた5月下旬~6月にかけて、多くの宿根草が開花ラッシュを迎え、「畑のへりガーデン」の最初の見頃が到来します。

ホルデウム・ユバツムとサルビア ‘カラドンナ’
輝くようなホルデウム・ユバツム(Hordeum jubatum)の穂とサルビア ‘カラドンナ’ (Salvia nemorosa ‘Caradonna’ )など。(2019年5月下旬)

それぞれの植物の花が少しずつ時期をずらして開花が進んでいくため、毎日が違った風景となり、一年で最も日々の変化に富んだ、美しく、楽しい時期です。

初夏のガーデン
(2019年6月下旬)

キク科の植物やグラス類など、一見「野」の雰囲気を感じさせる植物も多いですが、エキナセアのような「ボタン状」の花、ベロニカストラムのような「スパイク状」の花など、花序のシルエットをバラエティ豊富に展開することで、散漫にならず語彙力の深い植栽を作っています。

初夏のガーデン
ベロニカストラム ‘ファッシネーション’ とカラマグロスティス ‘カールフォースター’。6月の開花から、冬のドライ姿までの長い期間、オーナメンタルな姿を楽しめます。(2019年6月下旬)

グラス類も「尾状」、「針状」、「糸状」など、さまざまなシルエットの穂が宿根草の花と巧みに組み合わされています。

テウクリウム・ヒルカニクム
テウクリウム・ヒルカニクム(Teucrium hircanicum)やエキナセアなど。前出のホルデウム・ユバツムの穂(写真左中)がドライになり、ひと月で様子が大きく変化していますね。(2019年6月下旬)

一見「野」的ではあるけれど、見るほどに「人が脚本を書き、自然の懐で植物が演じる世界」が作られているのを感じさせられます。

黒花のスカシユリ・リリウム ‘ランディーニ’
黒花のスカシユリ・リリウム ‘ランディーニ’(Lilium ‘Landini’)と カンナ ‘オーストラリア’の濃銅葉の色を関連付けて見せる演出。(2019年6月下旬)

それぞれの植物のキャラクターが際立ちつつも、総体としても美しく、そして複雑に融合した植栽風景が、写真ではなく時間軸を持った映画のように展開されていきます。

初夏のガーデン
(2018年6月下旬)

ピート・アウドルフさんが自身のドキュメント映画「FIVE SEASONS」の中で語る「これは自然の中で見たいけど、決して見られない景色なんだ」というセリフを地で行くような植栽風景です。

夏 7~9月中旬

初夏の宿根草開花ラッシュからバトンタッチするように、暑さの中でぐんぐんと勢いを増していくカンナなどの大型プランツが、見事なフォーカルポイントになっていきます。

アザミ花とカンナ
カールドンの巨大なアザミ花とカンナ ‘ベンガルタイガー’のオレンジ花との鮮烈な対比。(2018年7月)

初夏と秋冬の「畑のへりガーデン」にピート・アウドルフさんのイメージが重なるのと対照的に、夏の「畑のへりガーデン」は、グレート・ディクスターのエキゾチックガーデンを彷彿とさせる「芸術は爆発」的な、人の脚本を超えた、植物の計り知れない役者力が感じられますね。

黄縞斑葉と銅葉カンナ
黄縞斑葉と銅葉カンナの印象的な組み合わせ。立ち込める靄のような効果を出しているグラスは、パニカム・カピラレ(Panicum capillare)。(2018年7月)

通常の宿根草ガーデンだと、真夏には花が少なく緑ばかりになって風景が平坦になり、そして植物も暑さ疲れして見どころが少なくなりがちです。

シルフィウム・ペルフォリアツム
巨大に育つキク科の宿根草、シルフィウム・ペルフォリアツム(Silphium perfoliatum)。(2018年7月)

「畑のへりガーデン」では、むしろ夏に元気になる植物を多く組み込むことで、初夏からのシーン転換が上手に図られていますね。

ベルノニア・ノベボラセンシスと カラマグロスティス ‘カールフォースター’
ベルノニア・ノベボラセンシス(Vernonia noveboracensis)と カラマグロスティス ‘カールフォースター’ の乾いた穂。(2018年8月)

また、夏を元気に越せる丈夫な植物の中から、個性の際立ったものを慎重にセレクトすることで、酷暑期に植物が枯れてしまう心理的負担も少なく、作業の手間も大幅に軽減することに成功しています。

夏のガーデン

美観と省力化の両立。園芸を長く続けていく上での大きなヒントを与えてくれますね。

秋 9月下旬~11月

グラス類の穂、ノゲイトウ、アスターなど、晩夏から秋咲きの花が揃い、初夏とはまた違った宿根草の見頃シーズンとなります。

ペニセタム ‘トールテイルズ’
ペニセタム ‘トールテイルズ’ (Pennisetum orientale ‘Tall Tails’)など。(2018年10月)

「畑のへりガーデン」の秋の風景には、秋咲きの花や穂だけでなく、初夏~夏に咲いたルドベキアなどのドライオーナメンタルな花がらや、盛夏を越して巨大に育ったカンナやリキヌスなどのエキゾチックさも加わります。

オータムガーデン
(2017年10月)

初夏~秋のモチーフが重層化されることで、季節を多重録画したような複雑なハーモニーに。

オータムグラスガーデン
(2018年10月)

そして秋の深まりとともに、風景は次第にセピアみを増し、生きた庭からドライオーナメンタルな庭へと遷移していきます。

オータムグラスガーデン
(2018年11月)

そして、最初の静的な初冬のシーンへと回帰しますが、次にやってくる冬は、去年とは違う冬。庭のありようは、成長したり進化を遂げたりしています。

ムーレンベルギア・カピラリス ‘アルバ’などのグラス
ムーレンベルギア・カピラリス ‘アルバ’(Muhlenbergia capillaris ‘Alba’ /写真手前)、パニカム ‘ダラスブルース’ (Panicum vigatum ‘Dallas Blues’/写真右奥)など。(2019年11月)

いなばやさんのお庭を見ていると、つくづく、庭は生き物であり、そして完成のない人生のアートだと感じます。一瞬のシーンでは捉えられない変化や動きに真の見どころがある、常に二度と訪れない、代えがたい体験を与えてくれる庭。

オータムガーデン
(2019年11月)

実際の庭は、絵ではなく、時間とともに変化していく植物と光の諸相なんだと実感させてくれます。

一生をともにできる庭というのは、そういうものではないでしょうか。これからのいなばやさんの庭の動向からも目が離せませんね。

オータムガーデン

「季節を通して何かが起こっていないといけない。庭は変化をしていくものだから。」
(ピート・アウドルフ 植栽家 1941 – )

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Credit


写真&文/太田敦雄
「ACID NATURE 乙庭」代表。園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科卒業後、前橋工科大学で建築デザインを学ぶ。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
2020年 ガーデンセラピーコーディネーター1級取得。庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。
レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。「ACID NATURE 乙庭」オンラインショップ http://garden0220.ocnk.net
「ACID NATURE 乙庭」WEBサイト http://garden0220.jp

写真協力/いなばや

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