花や緑に親しみ、季節感に溢れる暮らしを訪ねる「私の庭・私の暮らし」。今回はコンパクトな庭ながら、つるバラを使って立体的に華やかな庭を演出している実例をご紹介。小さな庭づくりの参考にもなりますよ。

「キレイですね」、「本当にね」。短い会話が交わされた後、やがて2人は会釈をして互いに反対の方向へ進んで行った。通りがかりの見知らぬ2人の間に、思わず会話が生まれるほど、5月の庭でバラは美しく咲き、甘い香りで辺りを満たしている。庭は壁やフェンスで囲まれず、公道に面してオープンなつくりになっているため、先ほどの2人のように道行く人が足を止めて花を眺めていく。「花の手入れをしていると、よく話しかけて頂くんです。長年暮らしたところを引っ越してここに来たんですが、おかげで全然寂しくないんですよ」。そう話すのは、庭主の柴田和代さん。バラが好きで、バラの庭をつくるためにこの家を建てた。

白い壁に勢いよくつるを這い上らせ、窓辺を囲んでいるバラは、濃いピンクから淡いピンク、斑入り、白といくつもの種類がグラデーションになって流れるように誘引されている。「室内からもバラが咲くのを見たくて、ちょうど花が見える位置に枝を誘引しているんです」と柴田さん。この窓にはバラの葉陰を美しく透かす、オーガンジーのカーテンを選んだ。ドレープをつけて裾の片端を上げ、庭を望む額縁のように仕立てている。寂しくなりがちなつるバラの株元では、ジギタリスやキャットミントなどが咲き、セイヨウアジサイ‘アナベル’も瑞々しい葉を茂らせている。バラの後に庭を彩るべく、すでにつぼみが待機中だ。


白と濃いピンクが混ざり合う絞り咲きのバラは‘バリエガータ・ディ・ボローニャ’。春にだけ咲く一季咲きのオールドローズで、旺盛に枝を伸ばす。華やかで個性的な花姿に加え、濃厚な甘い香りで魅了する。コロンとしたピンクのバラはイギリスのバラブランド、デビッド・オースチン・ロージズ社の名花‘コンスタンス・スプライ’。花だけでなく、葉に触れるとハーブのような爽やかな香りがする。こちらも枝をよく伸ばすつるバラで、一季咲き。


玄関までのアプローチという限られた空間を、樹木やつるバラで豊かな庭に仕立てている。手前では株立ちのシマトネリコが枝を広げ、株元の花壇にほどよい木陰を提供している。玄関へと導く敷石の周りには、いくつかの這性の植物とハーブが植えられており、行き来し足が触れるたびに香りが立ち上るように計算されている。庭のコーナーにある一人分のベンチはフェンスと一体になっており、公道に面していながら視線を感じない位置に配置されている。つるバラがカーテンのように空間を覆って、ゆったりとくつろげる空間だ。「夕暮れ時、ここに座って庭を眺めるのが好きなんです」。

左はジギタリス。バラが咲く頃、ちょうど開花してくれる。柴田さんがバラと並んで大好きな花だ。ベル型の花が下から咲き上がっていく様子が可愛らしい。英名では「キツネの手袋」とも呼ばれ、古くから親しまれるガーデンフラワーだ。右はオールドローズの‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’。クリーム色とアプリコットを混ぜた、黄昏時のような花色がアンティーク好きの柴田さんの心を射止めた。小花を房になって咲き、甘い香りを放つ。トゲが少なく、半日陰でもよく咲いてくれる。


柴田さんは自宅でパン教室をしている。バラの花に囲まれたサインボードは、友人の手作り。玄関扉の脇に置いたチェアには、訪ねてくる人が楽しめるように季節ごとに花材を変えた寄せ植えや花鉢を置いている。バスケットの中の花は小さなアジサイ。優しい雰囲気の花は、家人の人柄を少なからず伝えている。

リビングとひと続きになっている庭のデッキ。隣家との境にフェンスを設置し、そこにバラを誘引している。バラの最盛期の頃には、パン教室の生徒さんや親しい友人を招いて、バラの花を眺めながらここでお茶を楽しんでもらう。もう一つのリビングとして活躍してくれる空間だ。
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Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
撮影/竹田正道
庭施工/小林篤(ユピテル)
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