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「私の庭・私の暮らし」和の植物とバラが調和する庭 神奈川・白井邸

「私の庭・私の暮らし」和の植物とバラが調和する庭 神奈川・白井邸

花や緑に親しみ、季節感に溢れる暮らしを訪ねる「私の庭・私の暮らし」。日本にイングリッシュローズが紹介されてすぐの頃、新しいバラの香りと美しさに魅了され、以来約20年に渡りバラが身近に咲く暮らしを楽しみ続けてきた神奈川県横浜市の白井恵美子さん。和の樹木や住宅にも調和するバラが咲く風景を実現させたご自宅の庭をご紹介します。

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和の庭に少しずつバラを植えてガーデニングをスタート

ガーデン
公道から見た白井邸。形よく整えられた木々と満開のバラが彩る5月上旬。

家を建てた頃に植えたシャラ(ナツツバキ)やサルスベリの木が大きく育ち、庭木の緑の間で白やピンク、オレンジのバラが前庭に彩りを添える──。道ゆく人にバラが咲く季節が来たと伝えるこの家は、庭づくり歴20年になる白井恵美子さんのご自宅です。建物は、公道から5mほど高い位置にあり、それを囲むL字の敷地に、約80種のバラと樹木、草花が多数育っています。

ガーデン
公道から玄関へ向かうスロープを上っていくと、左手にはシュラブローズの‘群星’と‘マダム・プランティエ’が壁を覆うように一面に咲き、白花のスクリーンになります。

白井恵美子さんがバラを育て始めたのは、今から20年前。あるイベントでイングリッシュローズに出会ったことがきっかけでした。それは、日本にイングリッシュローズが紹介され始めた1998年。イングリッシュローズの生みの親であるイギリスの育種家、デビッド・オースチン氏と‘コンスタンス・スプライ’誕生のストーリーが掲載された小冊子を見たことから。そこには、ガーデニングトーク&レッスンやイングリッシュローズの特別展示販売が開催されるという告知もあり、そのイベントに迷わず参加したのです。

バラ チャールズ・オースチン’
初めて家に迎えたバラの一つ ‘チャールズ・オースチン’は、植えてから約20年経ちました。

イベント会場で実際に目にしたイングリッシュローズは、オールドローズの花形と素晴らしい香り、そして四季咲き性まで備えているというのです。さらには、自宅の敷地に植えればそのバラを育てることができるのだという衝撃に、株をその場で購入していました。その時に買った白井さんのファーストローズは、アプリコット色の‘チャールズ・オースチン’や‘エブリン’、ピンクの‘コテージローズ’、‘マサコ’などのイングリッシュローズ計5種。前庭に植えた‘チャールズ・オースチン’は、今も毎年美しい花を咲かせてくれています。

自宅に大好きなバラが咲く日々の喜び

アイスバーグ
玄関ポーチの頭上につるバラの‘アイスバーグ’を誘引して、明るい雰囲気に。

そうして購入した5種のイングリッシュローズとつるバラの‘アイスバーグ’を庭に植えたものの、「トゲがあるバラは主人に敬遠されていたのです。でも、ある日、仕事帰りに玄関先に植えた‘アイスバーグ’の花を見て、美しい白花と香りに癒やされたようで。このバラはいいなぁと褒めてくれたんですよ。それは私にも嬉しい出来事でした」と、白井さんは当時を振り返ります。

アイスバーグ’
バラの中でも、比較的トゲが少なく、耐陰性もあり、四季咲き性が強い‘アイスバーグ’。

ご主人が‘アイスバーグ’を気に入ってくれたことを機に、玄関付近は、白花を主役としたホワイトガーデンのエリアにしていきました。頭上に誘引したバラのつるに白花がいっぱいに咲くことで、少し薄暗く感じていた玄関付近が明るくなるという思いがけない効果も。公道から玄関をつなぐゆるいスロープのエリアは、春先は、イチリンソウやニリンソウなど小さく可愛い山野草が咲き、‘アイスバーグ’などのバラが咲いた後は、ヤマアジサイやヤマブキショウマが楚々とした花を咲かせる、落ち着いた雰囲気に。行き来する家族や訪問者の目を楽しませてくれます。

ガーデン
左/スロープの途中、建物沿いに奥のテラスへ続く小道にはオールドローズやクレマチス、季節の草花が咲いてナチュラルな雰囲気。右/外壁にはクレマチス‘パコダ’やオールドローズの‘カーディナル・リシュリュー’が彩りになっています。

こうして自宅でバラを育てているうちに、白井さんはますますバラの花の美しさと香りの素晴らしさに惹きつけられました。そして、もっとバラを知りたい! と勉強していくにつれて、次はオールドローズへと興味が移っていったのです。オールドローズも幅広い花のバリエーションがありますが、中でも特に芳香が素晴らしいガリカ系やダマスク系に注目。ガリカ系はトゲが少なく、枝がしなやかで、誘引がしやすく、大きくなりすぎない点からも、自分の庭で育てやすいと思い、‘デュセス・ダングレーム’や‘ベルイシス’、‘デュセス・モンテベロ’などのバラも育て始めました。

緑とバラに囲まれた屋外リビング

バラの庭

格子状のフェンスで囲われたウッドデッキのテラスには、‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’が群れ咲いて、周囲の家からは見えないプライベートなスペースです。右手の建物の壁沿いには、最初の頃に買った香りのよい‘エブリン’や‘コテージローズ’などが優しく色を添えています。バラを育て始めた頃は、バラの天敵となる害虫の存在をうっかり忘れていたと白井さん。「ここには、‘エグランティーヌ(マサコ)’も植わっていたんですよ。まさか、幹の中にテッポウムシ(カミキリ)が入って枯れてしまうなんて。今は、虫が入ったことを知る手がかりとなる木屑がすぐ発見できるようにと、下草が生えないようにしています」。

イングリッシュローズの‘エブリン’
香りのよいイングリッシュローズの‘エブリン’。
バラの庭
つるバラが植わる株元付近(写真左下)は、テッポウムシが入っていないか日頃チェックできるように、下草が茂って隠れてしまわないように管理。

テラスの格子状のフェンスは、一部大きく開けていることで圧迫感がなく、華奢な枝ぶりの樹木、トネリコの枝葉がさりげない目隠しになっています。このテラスは駐車場の上に位置しているので、デッキの下に地面はありません。でも、他の場所と同じように緑が心地よく育つスペースにするため、トネリコやコアジサイなどの植物は、コンテナ植えにしています。

ポールズ・ヒマラヤン・ムスク
公道から見上げると、淡いピンクから白までのグラデーションが美しい‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’がテラスを囲み、中の様子は見えません。

和の雰囲気が残るように意識した植栽

ウッドデッキと庭

‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’が咲くテラスを抜けてさらに進むと、しっとり落ち着いた雰囲気の小道が敷地の奥まで続いています。ここは家の西側にあたり、敷地を縁取るフェンス沿いに多品種のつるバラが植わっていることで、半日陰となる場所。多種のつるバラがつくる緑陰を利用して、小道沿いにはヤマアジサイがコレクションされています。

庭の小道

この半日陰の小道は、リビングの掃き出し窓に接している場所です。部屋からの眺めも意識して、軒下にはつるバラ‘フランソワ・ジュランビル’を誘引、葉が光に透けて、窓一面に広がる緑が涼しげです(写真左)。この景色をつくるため、外壁に沿って柱を横に渡したシンプルなパーゴラを外構工事の業者さんに施工してもらいました。

チドリソウ

リビング前の軒下には、毎年、タネを播いて一年草を育て、頭上から枝垂れ咲くつるバラとの調和を楽しんでいます。取材で伺った年は、チドリソウがバラの下草に。チドリソウは通常バラより少し早く咲き始めるのですが、切り戻したことでバラと同時に花が咲きました。

バラと樹木の調和を楽しむ

アブラツツジ
玄関前の‘アイスバーグ’の株元付近には、アブラツツジがスズランに似た花を咲かせていました。

白井さんは、華やかなバラも大好きですが、心安らぐ和の雰囲気も好きなので、これまでその2つが共存する庭空間を目指してきました。

雑木の庭

「庭にはバラだけではなく、樹木も重要」と思い立った10年前に、敷地の一番奥のエリアに数種の樹木も植えました。それは、株立ちで樹皮が美しいアオハダやアオダモ、斑入り葉が明るく低く茂るアメリカハナズオウ‘フォレスト・パンシー’、それにツリバナマユミ、セイヨウカマツカなどです。時を経て樹木も庭に馴染み、その間を縫うようにクレマチス‘ロマンチカ’やつるバラの‘アデレード・ドルレアン’が自然に木に絡んだように咲く、ナチュラルな雰囲気に。小さなスペースですが、華奢な木々が何種も入って、木漏れ日まで美しいエリアです。

ポリアンサローズ‘シュネープリンセス
公道に面した場所には、家を建てた頃からずっと植わる木肌が美しいシャラの幹を背景に、白花のポリアンサローズ‘シュネープリンセス’が調和。

大好きなバラが一面に咲く西側のエリア

ガーデニング

雑木が美しいエリアから隣の敷地へ出ると、数々のバラが一斉に咲く贅沢な景色が出現します。ここは、西側のフェンスを端から端までバラで埋め尽くしたエリアです。写真手前に写っている隣地は、お父様から引き継いだ土地で、現在は野菜やハーブを育てています。そのため、白井さんのバラの庭は減農薬栽培で維持しています。

バラの庭

光に向かって無数に花咲くバラは、左から‘アデレード・ドルレアン’、‘ベルイシス’、‘シャルルド・ミル’、‘フェリシア’、‘ベルド・クレイシー’、‘ジュノー’、‘テス・オブ・ザ・ダーバー・ヴィルズ’、‘プリンス・チャールズ’、‘ジ・インジニアス・ミスター・フェアチャイルド’、‘デュセス・ダングレーム’、‘ローズ・ド・メイ’、‘トリギンティペタラ’、‘セルシアーナ’……。どれも白井さんが大好きなバラばかり。「このバラは?」と端から尋ねると、花を眺めながらスラスラと名前やチャームポイントを教えてくれました。花色に惹かれたバラ、これは香水に使われているバラ、房になって豪華に咲くバラ……どのバラも本当に美しく、眺めていると時間を忘れてしまいます。

‘テス・オブ・ザ・ダーバー・ヴィルズ’
柱と柱の間に渡した綱につるを誘引することで、宙に浮いて咲いているように見えるワインレッドのバラは‘テス・オブ・ザ・ダーバー・ヴィルズ’。

毎年、今年はどんな様子で咲いてくれるのか、その日が来るのを心待ちにしている白井さん。花を眺めたり、香りを嗅ぎながらも、バラの健康チェックは怠りません。「この株はもう少し日当たりが欲しいのかもしれませんね。ちょっと調子が悪いなと思った品種は、日当たりがよい場所へ移植して様子を見たりもするんです」。植え付けた後でも、その品種がベストな状態で成長できているのか、それぞれの不調を素早く察知して改善を試みるのも、バラの庭を美しく保つ秘訣です。

バラのフェンス

お互いが寄り添い合って、まるでバラだけで自立した壁のように見えますが、下方は低く細い格子状の鉄製フェンスが支えとなり、また、上方は柱と柱の間に太いロープが張られた花綱仕立て(ガーランド)になっています。こうすることで、株と株の間に風が通って蒸れを抑え、減農薬でも美しいバラの姿が楽しめます。

自宅のバラ栽培から街のボランティア活動へ

バラの窓辺
つるバラの葉陰が美しく見えるリビングの窓辺。

バラとともに暮らし、バラに親しんできた白井さんですが、さらにバラの知識を深めようと、地元にあるバラ咲く公園「太陽ローズガーデン」でお手入れのボランティア活動をするバラの会「Joy of Roses」にも参加しています。「太陽ローズガーデン」は、神奈川のバラ100選に選ばれている名所の一つで、白井さんと同じようにバラを育てている地元住民の同志にも出会える嬉しい機会にもなりました。

バラの花
終わりかけたバラも捨ててしまうのは忍びなく、部屋に飾って。

現在は、年6回のボランティア活動に参加しながら、高木絢子さんのバラ栽培教室にも通うほど、バラへの情熱は冷めない白井さん。常に自分の庭で無理なく育てられる品種選びと栽培知識を得てきたことは、家族も心地よく感じるガーデンを育むことにつながっています。20年前、イングリッシュローズ5株から始まったバラ栽培は、家族と花咲く季節の喜びを共有できる暮らしへと、導いてくれたのでした。

Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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