「私の庭・私の暮らし」楽しさいっぱい! DIYで魅せる庭 新潟・高張邸 〈healing garden TAKAHARI〉
花や緑に親しみ、季節感に溢れる暮らしを訪ねる「私の庭・私の暮らし」。今回は、DIYが得意で、アーチでもベンチでも一人で何でも作ってしまう、高張静子さんの庭を訪ねます。こげ茶色の木製フェンスで囲まれた庭は、森の迷路のようなワンダーランド。アーチをくぐり抜けて小道をたどれば、アーバーに行き着いたり、ベンチが待っていたり、印象的なシーンが次々と現れます。古い牛舎を自らリフォームしたアトリエも必見です。
目次
米農家さんのおおらかな庭
新潟県にお住まいの高張静子さんは、100年続く米農家の奥様です。家と庭のある敷地は広々としていて、隣にはご主人が育てる特別栽培米の、こしひかりの田んぼが広がっています。
庭のある場所は、元々何かに使うあてもなく、良質な残土を積んでマツやスギを植えていた区画でした。それらの樹木を選び残しつつ、徐々に新しい植物を加えて、高張さんは11年かけてこの庭をつくってきました。
ピンクのバラが伝う入口のアーチをくぐり、フェンスの中に入ると、さまざまな緑に包まれた素敵な庭世界が広がっています。まず目に入るのは、ふわふわとした花が印象的なスモークツリー。このシンボルツリーから、小道がベンチやガゼボへとつながっていきます。
入口のアーチや、周りを囲うフェンス、ベンチやガゼボなど、構造物はこげ茶色に統一され、落ち着いた雰囲気です。これらの構造物はすべて、高張さんがDIYで作ったもの。レンガを敷いた小道も自身で仕上げました。
植栽は、多種多様な灌木や宿根草を組み合わせて、感じるままにつくり上げてきました。高い樹木も多く、森の開けた木立ちの中にいるような心地よさがあります。
ガーデンオーナメントを置いた、絵になる可愛らしいコーナーが所々にあって、発見するたび楽しくなります。
設計図いらずのDIY
この場所は、高張さんお気に入りの「一休み」スポット。田んぼで働くご主人の姿を「お父さんも頑張っているな~」と眺めながら、庭仕事の合間に一息入れる場所です。道路に面した庭のこちら側はフェンスを立てていますが、ここだけは田んぼを見渡せるよう、低い柵にしてあります。
当初は椅子を運んできて休んでいましたが、「ここに丸椅子を作ればいいんじゃない」と思いつき、カリンの木を囲むように円形のベンチを作りました。高張さんのDIYは、設計図を必要としません。このベンチは、木材を直接当てて、不要な部分を電動ノコギリで切り落としていくという、手慣れた高張さんならではの手法で作られました。
DIYキットを使うこともありますが、頭の中で完成形と必要となるパーツを描き、ホームセンターで木材を切り出してもらって、現場で臨機応変に作り上げるという、完全オリジナル作品も多々あります。
この植え込みは、スタンダード仕立てのバラを、ミニバラでぐるりと囲んだもの。ミニバラは剪定した際に挿し木をして、どんどん増やしていきました。
庭にはレンガや敷石を使ったさまざまなスタイルの小道があって、たどっていくと、ベンチやアーバーといったガーデンファニチャーを置いたコーナーに行き着きます。次はどんなシーンが待っているのか、めぐる楽しみが詰まった庭です。
高張さんは、とにかくアプローチ(小道)が大事、と言います。歩くところに何も生えないようにすれば、あとは多少雑草が生えてきても気になりません。
これは、初代の藤棚が崩れたため、一昨年新調したという藤棚。柱をつなぐ一辺がベンチになっているというユニークなデザインです。「ここにこれがあったらいいかな」と思いついたら、すぐに行動。やりたいことはまだまだたくさんあるそうです。
母屋前の芝生は、耕運機で土を耕し、約550枚を張ったというもの。夏のバーベキューなど、ガーデンパーティーの会場として使っています。
その芝生のエリアからは、枕木を使った小道が続いています。枕木をチェーンソーで一定サイズに切りながら敷いていったという小道は、仕上げるまでにチェーンソーの刃を4枚ほどダメにしたという力作。なんともダイナミックな作業です。
庭は今年で11年目を迎えますが、高張さんは「まだまだ完成していない」と言います。アイデアが湧く度に変化していく庭に、訪れる人は驚かされます。
「ヒーリングガーデン」の由来
日々の庭仕事を元気に楽しんでいる高張さんですが、じつは、その庭づくりの始まりは意外なものでした。
10年以上前のこと、お義母様、そして、お義父様の介護が相次いで始まり、高張さんは介護離職を余儀なくされました。当時はまだ介護関係のサービスが不十分で、高張さんがお世話を一手に引き受けざるを得ない状況でした。いずれはと覚悟していたものの、突然始まった2人分の介護。しかも、始めたばかりの新しい仕事が軌道に乗りかけていた矢先のことでした。
「納得できない。なんで私が」。そんな思いを抱えずにいられなかった高張さんは、介護が始まって2年の間に、介護うつのような状態に陥ってしまいます。そんな彼女を救ったのは、心配したご主人の「花でも植えたらいいよ。おまえは花が好きだから」という言葉でした。
背中を押された高張さんは、好きな花なら育てられるかしらと、花苗をいくつか買ってきて、お義母様が畑として使っていた小さな畝に植えます。それが、今につながる、庭づくりの第一歩でした。
「介護をしてイライラしたり、落ち込んだりしていましたが、庭づくりに没頭することで気分転換ができ、次第に庭に出ることが楽しみになりました。庭仕事をすると穏やかな気持ちになって、その穏やかな状態でお世話をすると、相手にも分かるんですね。それまで、叩かれたり、感情的な言葉をぶつけられたりしていたのが、ありがとうと、感謝されるようになったんです。自分が変わると、状況はどんどんよいほうに変わっていきました。介護と庭が、私を育ててくれました」。
介護生活はそれから5年ほど続きましたが、高張さんは介護と庭仕事を両立させて、庭を充実させていきました。自らを癒やし、ひいては、家族の癒やしにも力をもたらしてくれた庭。「ヒーリングガーデン」という名前にはそんなストーリーが秘められています。ガーデニングに癒やしの力があることを、高張さんは実体験として知っています。
DIYで作り上げた、愛しのアトリエ
高張さんの庭には、古い牛舎をリフォームした素敵なアトリエもあります。4年前、がらくた入れとして使っていた古い牛舎を解体しようという話が家族内で持ち上がった際、業者に解体費用を払うくらいなら私にちょうだいと、リフォームに乗り出しました。
ちょうどその頃に地元誌で紹介されて以来、高張さんは毎年6月から10月にかけて、オープンガーデンを行っています。アトリエは、庭を見に来られた方々が気軽にお茶を飲んで休む場所にちょうどよいと考えたのです。
それから、晴れの日は庭仕事、雨の日はアトリエづくりという日々が始まりました。強度が必要な床の張り直しと、ガラス戸の窓枠づくりは親戚の大工さんにお願いしましたが、床や壁のペンキを塗ったり、棚を取り付けたり、電気を引いたり、それ以外の作業のほとんどは、高張さんが一人で仕上げました。
苦労の甲斐あって、ノスタルジックな雰囲気の漂う、素敵なアトリエが完成。明かりを取り込む4枚の古いガラス戸は、お気に入りの古道具屋さんで見つけたものです。
ガラス戸がはまっている部分は元々壁でしたが、惚れ込んだガラス戸をここに付けたい! とインスピレーションを得て、迷わずハンマーで土壁を抜き落としました。
アトリエではドライフラワー作りといった作業の他、人を招いて、リースなどクラフト作りのワークショップも行っています。ある時は15人のグループがやって来て、庭でのピクニックとアトリエでのクラフト作りを、1日かけて楽しんだそう。大人数でいささか窮屈ながらも、居心地のよいアトリエは大人気でした。
アトリエの古いガラス戸の外には、土間のようなスペースがあります。下屋という、小さな屋根が元々あって、テラスのように使っていた場所ですが、強風で大事なガラス戸のガラスが1枚割れてしまったことから、友人からもらい受けたサッシを取り付け、壁のある構造に作り変えました。
ここには、かつて茶の間で使っていた「置き囲炉裏」が据えられています。寒い時期には炭を起こして、ティータイム。炉を囲みながらのおしゃべりに花が咲きます。
「なんでもやるの。やりたいとなると、止まらなくなってしまって」と、微笑む高張さん。自分でやらないと気が済まない、業者になんて任せられないと、大好きなDIYを楽しんでいます。
庭づくりのお手伝いに奔走
高張さんの素敵な庭とDIYの腕前は口コミで広がり、4年ほど前から「庭をつくってほしい」という依頼が舞い込むようになりました。現在、なんと4軒の庭づくりを手伝っています。
お手伝いを引き受ける条件は、「任せきりでなく、庭を一緒につくる」ということ。高張さんが思う理想の庭は、家族と一緒に育つ庭。だから、2年、3年と、オーナーさんと長くつき合いながら、一緒に庭をつくっていきたいと考えます。
依頼者に多いリクエストは、「とにかく雑草が生えないようにして欲しい。地面を固めてしまってもいい」というものです。しかし、庭の地面に、棒切れでアプローチ(小道)のラインを描き、どんな風に庭をつくっていくか、少しヒントを与えると、皆さん、不思議と庭づくりに積極的になるのだそうです。
依頼者の中には、庭づくりが楽しくなって、近所で評判になるほどの庭を2年でつくり上げるという、劇的な変化を見せる人も。「それが嬉しいの!」と喜ぶ高張さんは、いわばお庭の家庭教師となって、庭づくりの楽しみを伝えています。
Credit
取材&文/ 萩尾昌美 (Masami Hagio)
早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。ガーデン及びガーデニングを専門分野に、英日翻訳と執筆に携わる。世界の庭情報をお届けすべく、日々勉強中。20代の頃、ロンドンで働き、暮らすうちに、英国の田舎と庭めぐり、お茶の時間をこよなく愛するように。神奈川生まれ、2児の母。
写真/3and garden
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