みずみずしい新緑とつるバラの花と香りに包まれる初夏は、ガーデナーにとって最も幸せな季節。神奈川県横浜で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんの庭では、宿根草や多年草の花と競い合うようにつるバラが咲き乱れます。「どのバラも、栽培しやすく落葉樹の庭に馴染むナチュラルな品種」という、前田さんが育てるお気に入りのバラを6種ご紹介していただきます。
目次
窓際の2種のランブラーローズ
‘アルベリック・バルビエ’&‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’
テラスの窓際に、つるを約5m誘引している ‘アルベリック・バルビエ’は、乳白色の品のよいロゼット咲きのつるバラ。清潔感のあるほのかな香りも、このバラによく似合います。光沢のある葉との調和が素晴らしく、花後も緑陰をつくり落葉するまで美しい景観を演出してくれます。ただ、驚くほど生育旺盛なので、こまめな剪定と誘引が欠かせません。
さらに、つると葉の裏に厄介なトゲがあるので注意が必要です。とはいえ、枝はしなやかさがありどんな仕立ても可能なので、わが家は、ガーランド風に緩くつるを絡ませながら軒下に誘引しています。また、病害虫の心配も少なく、消毒や駆除といった手入れが不要なのも嬉しい限りです。
とても花つきが良いので、満開時には惜しみなくカットして室内で楽しみます。浅めの器に挿すほか、浮かべてみるのも素敵ですね。‘アルベリック・バルビエ’が醸し出す落ち着いた品の良さは、和室にも馴染むので、今年は、染付けや備前焼の器に活けてみようかなと思っています。
ガーデンシェッドの壁面と窓際を彩る‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’は、杏色から白色へと移ろう暖かい色彩が魅力のつるバラ。房咲きの中小輪の花も軽やかで、満開時に壁面からこぼれ咲く姿は感動の一言。橙色のシベがその魅力を際立たせています。また、刻一刻と色合いが変化するので、時間の経過とともに、さまざまな花の表情を楽しめます。残念ながら香りは微香ですが、トゲがほとんどないので扱いやすいのが長所。病害虫予防として芽吹きから開花前までニームオイルを定期的に散布しています。
そして、‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’が終盤を迎える頃、同じ場所にフロリダ系のクレマチス‘ビクター・ヒューゴ’が咲き始めます。つるバラとクレマチスが奏でるハーモニーも楽しみの一つです。
小輪房咲きのピンク系バラ2種
‘ブラッシュ・ノアゼット’&‘コーネリア’
‘ブラッシュ・ノアゼット’は、桜のような淡いピンクが美しい、小輪房咲きのつるバラです。花つきと返り咲き性がすこぶる良好で、オリエンタルなスパイス香(丁字香)も魅力的。その香りに魅了されてこのバラを庭に迎えました。ただ、天敵のバラゾウムシもこのバラに魅了されるらしく、毎年その被害に遭っています。そのため、つぼみが上がってきたら要注意。パトロールを怠らず見つけたら直ちに捕獲します。その他は、比較的病気にも強くとても育てやすいバラです。
半つる性なのでオベリスクに誘引していますが、鉢仕立ても可能。わが家の庭のような狭いスペースの植栽に最適です。
コロンとした濃いピンクのつぼみと桜色の花の優しい雰囲気は、目にするだけで自然と心が和むので、切り花にして家族が集うリビングやダイニングに飾ります。器は、花のイメージに合った形のかわいいピッチャーを。また、時には玄関に飾って来客を迎えます。摘みたての‘ブラッシュ・ノアゼット’の香りも、ささやかなおもてなし。
日々の暮らしがちょっと豊かになるこんな設えに、バラを育てる歓びを感じます。
杏ピンクの小輪房咲きの愛らしい‘コーネリア’。このつるバラを庭に迎えて、かれこれ15年以上が経ちました。庭づくりを始めて間もない頃、園芸店で初めてこのバラに出合い、温かみのある柔らかな色合いと愛らしい表情に一目惚れ。バラの栽培知識もさほどなかったのに、思わず衝動買いしてしまいました。
以来、毎年花を咲かせてくれますが、ここ数年、経年のせいか元気がなく花つきがあまりよくありません。だからこそ、このバラの愛おしさは格別です。咲いた花はもったいなくて、なかなか切り花にできないのですが、せめて一輪挿しで楽しみたいもの。間近で見る ‘コーネリア’は、柔らかな色にくっきりとしたシベが本当に美しく、時を忘れて見入ってしまいます。あと何年楽しめるかわかりませんが、もし枯れてしまっても、また庭に迎えたいほど大好きなバラです。
シックな個性が光るオールドローズ
‘カーディナル・ドゥ・リシュリュー’
‘カーディナル・ドゥ・リシュリュー’は、オールドローズ最古の系統といわれるガリカローズ。その歴史は、2000年前の古代ローマ時代にまでさかのぼります。咲き始めの赤紫から灰色を帯びた青紫へと移ろう色合いは、惚れ惚れする美しさ。まさにオールドローズの品格と繊細さを兼ね備えたバラだと思います。
どちらかというと強い色みですが、中小輪の房咲きなので華美な印象はなく、咲き進むにつれ渋みが増すと、意外とアヤメや山アジサイ、京カノコなど和の植物とも好相性。しっとりとした和の植栽に深みを与えてくれます。
満開時には、花びらが散りそうなものから順にカットして室内に。 ‘カーディナル・ドゥ・リシュリュー’のニュアンスのある渋い色合いを邪魔しない透明なガラス製の器を選びます。また、褪色して灰色を帯びた花には、古いピューター皿もお似合いです。このお皿を添えるだけで雰囲気がぐっと西洋風になり、心は遥かローマ時代へ…。きっと‘カーディナル・ドゥ・リシュリュー’は、こんな風に長い歴史の中で、人々の心を魅了し続けてきたに違いありません。
原種系つるバラ
ロサ・フィリペス‘キフツゲート’
わが家のつるバラの中で、最も伸長力旺盛なロサ・フィリペス‘キフツゲート’。白い小さな一重の花はとても清楚で、野バラのような風情があります。ところが、このつるバラは、見かけによらず一番の暴れん坊。じつは、バラの栽培に不可欠な肥料もまったく与えていないのに樹勢が非常に強く、年に何度も剪定が必要です。しかも太く硬いトゲもあるので、グローブをして作業しても手はいつも血だらけに。
「どうして、こんな狭い庭にこのバラを植えたのだろう….」と、正直なところ反省と後悔は多々ありますが、庭の入り口で、波打つ一重の白花が大きな房になって咲く姿を目にすると、そんな気持ちもどこかへ飛んでしまいます。ちょうど同じ頃、スタージャスミンも開花し、庭の入り口は白い小花で溢れます。
さらに、バラとジャスミンの甘い香りがブレンドされて、それはそれは素晴らしい香り。その香りに誘われて、どこからともなくミツバチたちもやってきて、庭の入り口は朝から大にぎわいです。そして、何より嬉しいことは、ご近所さんからも「すごくきれいね、癒やされるわ」、「ほんとにいい香り」、「またこの香りを嗅げて嬉しいわ」と、声をかけてもらえること。ありがたいことに、このバラの開花を毎年楽しみにしてくださっているのです。
満開時には、そんな皆さんへ自宅でも楽しんでもらえたらと、小さなバラの花束を差し上げています。こんなお付き合いができるのもこのバラのおかげ。
これからも手間はかかるけれど、この暴れん坊のつるバラと仲良くしていきたいと思います。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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