植物を育てる人のごくごく個人的なガーデンストーリー。山林を自ら造成し、裏の森へとけこむような土地で花と緑に囲まれて暮らす北海道の山崎亮子さんの冬の過ごし方とは。今回は、雪国の冬に備えるバラの雪囲いアイデアや、冬でも花を欠かさない窓辺のミニガーデンのつくり方などを教えていただきます。
目次
今日も窓の外は銀世界です
こんにちは。季節が春へ巡っていますね。先日は、九州に暮らす友人から「春のお届けです」と、満開紅梅の写真が添えられたLINEを受け取りました。ですが、私の暮らす北海道の2月はまだまだ厳冬期。気温は毎日マイナスで、窓から見える森の景色は純白に包まれています。
雪の季節は晩秋から始まります。
草葉が優しいベージュに染まり、穏やかながら物寂しくも思う頃、季節を先駆けるように初雪が舞い降ります。ベージュの世界が一転して純白に染まる朝…。毎年しばらく眺める雪景色にもかかわらず、その美しさに「わあぁ〜」と思わず声がもれます。もう思春期の一人息子も「お母さん! 雪だあっ」と弾む声。
この時期の雪は昼には溶けてしまう場合がほとんどです。まるで、空から届く冬の挨拶状のよう。
「しばらく大地が閉ざされますが、準備は大丈夫ですか…?」
雪は美しいけれど、やはり冬は長く厳しい季節です。まだ温もりがある日だまりに、ずっとそばに居て欲しくて…なんだか切ない季節です。
大切なバラが食べられないように一手間かけた冬支度を
バラの枝が雪の重みで折れないように、支柱を中心に挿して株全体を麻紐でまとめるのが、庭最大の「冬支度」。ハサミを入れた場所は、皮がないので凍って傷みやすいため、剪定は早春に行います。
バラが好きなのは人間だけではありません。森の動物もバラが大好き。ネズミやリスは皮をカリカリむいてしまうし、シカは株ごと丸かじりです。どうやら、とっても美味しいみたい。
下からかじるネズミやウサギ避けのためには、上部を切った苗の保温容器が効果的です。また、バラを頭からムシャムシャ丸かじりするシカ避けには、ビニールのムシロで防御です。ワラのムシロを使ったら、逆に食事にお誘いしてしまうので要注意!
バラをしっかり守った後の庭は、小さなティピーが並んだ小人の村のようです。半年も続く草花のない季節が、少しでも色のある世界になったら楽しいなぁ…と、余り布で作ったリボンをかけて回りました。
縫い物が大好きなので、余り布はふんだんに家にあります。冬囲い作業時に着ていたコートは、しなやかなウールの生地を見つけたので、裏生地に綿麻の生地を使って8年前に作りました。マフラーも10年前に作った一枚。いい布で動きやすく作った服は、流行も無くて飽きがこないうえ、とっても丈夫。ですから、縫い物はやめられず、あげく布好きなので、余り布は増える一方です。そろそろ断捨離しなくっちゃ。
庭のリボンに選んだ布は、できるだけ薄手のものを選び、色はブルー系のグラデーション。幅10cm、長さは布幅いっぱいの110〜140cmの大きなリボンにしてみましたが、雪囲いにちょうどよいサイズだったみたいです。
地面には、枯れ草で作った草木灰を撒いています。アルカリ性なので、土を中和してくれる肥料になるほか、不思議とネズミが寄りつきにくくなります。本能で火を避けるのでしょうか?
春を待つ時間は窓辺にミニガーデンを作ります
庭は今、深い雪の中。すべてを雪が覆い尽くしています。
すっぽり雪に覆われた地面ですが、ネズミのトンネルや、リスの食料庫となり、人の目にとまらない生活の跡が刻まれているはずです。さあ、今年の動物たちとの知恵くらべ。春にはどんな結果が待っているでしょうか?
雪に覆われた長い冬を彩ってくれるのが、窓辺の花たちです。長い間花を次々と咲かせるシクラメンと、香りのよいヒヤシンスがいつしか私の定番になりました。ヒヤシンスは、秋に鉢へ植え込み、霜が降りる寸前まで外で管理し、霜柱が立つ前に家の中に迎えます。
寒冷地の家は、高気密高断熱でポカポカです。十分寒さにさらされた球根は、家に入ると「春が来た〜!」と勘違いするみたい。
すぐに緑の芽を出して、スクスク大きくなっていきます。ブドウの房のようなつぼみがのぞくと、ワクワクドキドキ。部屋が暖かすぎると、せっかちなヒヤシンスは茎が立ち上がらないうちに、葉っぱの影で咲いてしまうんです。「ちょっと待ってよ〜」と言いながら、寒さにあてたり、光を遮ったり。
ちょうどいい高さにつぼみが上がるとウキウキワクワク。花が咲くと、小さな家は濃厚な香りが立ち込めて、春気分満点です。
花が終わった後のヒヤシンスは、ツン! と立った葉を観葉植物に見立てて、たまに液肥をあげながら、葉が茶色に枯れるまで大事に育てます。育てたいのは、来年も咲くプックリ太った球根です。
葉が映えるよう、鉢の上にエバーグリーンの松の小枝を載せて土を隠したり、マイクロシクラメンやアイビーと合わせたりしながら、グリーンの濃淡を主役に窓辺を彩りました。
私の心の中のテーマは「ホワイトガーデン」。こんなミニガーデニングもとっても楽しい!
何と何を合わせようかな? 小さな鉢や木の実などを、あっちに向けたり、こっちに持ってきたり。寄せ植え気分? いえフラワーアレンジ気分でしょうか? 光の方へと伸びていくので、リビングから一番よく見えるように、時折鉢の位置や向きをずらします。
でもね、ヒヤシンスは、これで終わりではありません。
長い冬を過ごしながらいつも花がそばにあるように
楽しみを長続きさせたくて、ヒヤシンスは全部をいっぺんに咲かせず、半分は冷蔵庫に入れて休眠させ、時期をずらして咲かせています。一番先の花はクリスマスから年末にかけて。花が終わった頃に冷蔵庫から出せば、だいたい2月に入ってすぐにまた花を楽しめます。
色も、最初が青と白なら、次はピンク系へと変えて、イメージチェンジ! 葉だけの球根が次第に増えていき、小さなグリーンのコーナーも広がっていきます。
写真のカゴの中は、春の野原のイメージ。ヒヤシンスの葉の鉢と、大きく広がるワイヤープランツ、切ったシクラメンを挿した小瓶を一緒に入れました。
冬中大切に育てた後、庭におろしたヒヤシンスは、分球を繰り返しながら少しずつ増えています。
森の中で自然に広がった野原のような庭を目指している私の庭。重たそうな花より、スズランのような花に育てたくて、過保護にしていた室内栽培から一転、肥料をあげずに育てています。見る人が見たら、貧弱なヒヤシンスかもしれませんが、お店に行っても見つからない、風が花を揺らすような小さなヒヤシンスが私は大好きです。
私にやすらぎをくれる春の庭をイメージして
そんな調子で育てていても、いつの間にか庭は球根でいっぱいになりました。素朴な花で包まれた庭が私の安らぎです。
草葉の枯れる10月から、延々と続く長い冬。体が丈夫ではなく、移動には杖や車椅子が必要な私にとって、車椅子のタイヤが雪にめり込み身動きの取れない季節です。杖も雪にズボッ!
家に引きこもりがちになり、つい鬱々となりそうな日々ですが、小さな花たちに一喜一憂することで、私の脳内はいつも春! だからこそ、この長い冬を、飽きもせず美しいと思えるのかもしれません。
本格的な雪解けは、3月半ば頃から4月頭です。溶け始めた雪が水を含んで重たくなると、土が顔を見せる前からワクワク胸が高鳴ります。それまでずっと純白の世界に見慣れた目には、枯草も土も、すべてが新鮮です。土の香りを感じると、懐かしさと春の喜びが湧き上がります。
クロッカスがつんつん伸びて花の季節の到来を告げるのは4月半ば。大きな庭では見過ごすほどの小さな花ですが、鮮やかな色が目に染み入ります。
まだまだ先の春を待ちながら、家を心地よく整えて、ぬくぬく過ごす冬の家です。Garden Storyをお読みの皆様のもとへ、一日も早く明るい春が訪れますように♡
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