晩秋から春の庭に欠かせない花の一つ「ビオラ」は、近年、育種家たちの手により新品種が続々と登場しています。神奈川の自宅で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんは、多種並ぶビオラの中からお気に入りの花との出合いも楽しみのひとつ。2019年に一目惚れした育種家さんのビオラから、個性的な花色を持つ3種をご紹介します。
目次
早春の庭に咲くお気に入りのビオラたち
立春を迎えた2月。庭のテラスで、真冬の寒さに耐えながら咲き続けたビオラが、ほのかな香りを放ち、浅い春の訪れを告げています。
毎年、晩秋に鉢植えするビオラは、ここ数年育種家さんの新品種が続々とお目見えして、嬉しい反面、セレクトに悩みます。とはいえ、数ある中から好みのビオラと目が合う瞬間の高揚感は格別。あれこれと迷い悩む時間も楽しいものです。
そんな中、一目惚れして初めて庭に迎えたビオラたちをご紹介します。
育種家、見元一夫氏(見元園芸)のビオラ
「ピーチブロッサム」&「ライジングアイス」
2011年に誕生した見元園芸さんのオリジナルビオラは、ラビット形のユニークな品種や、花茎1cm以下の可愛らしい雰囲気のビオラが大人気。どの品種も、乙女心をくすぐるメルヘンチックな印象ですが、「ピーチブロッサム」は、アンティークピンクと柔らかなフリルが落ち着いた雰囲気の大輪ビオラです。もともと、花色には個体差がありますが、この時季は冬の寒さで植え付け時より赤味を帯びています。
そして、この「ピーチブロッサム」に、同系色のチューリップ「アプリコットビューティー」の球根も一緒に植え込みました。遊び心でセレクトしたピーチ&アプリコットのフルーティーな寄せ植えは、あと半月ほどでビオラの株元にすき込んだ落ち葉の中から、チューリップがちょこんと顔を覗かせるはず。暖かな春の陽射しを浴びて咲き揃う姿を想像するだけでワクワクします。
もう一つの「ライジングアイス」は、紫の「絞り」に似た模様(本当はベイン模様と呼ぶそうです)が魅惑的なビオラ。小粋な和の風情を感じる花姿にひと目惚れしました。そういえば、昨夏に鉢植えした「江戸風情」という品種のアサガオにも似ています。着物や浴衣を連想するこの模様が大好きなので、このビオラを見つけた時は、思わず声が出るほど感激しました。ひと鉢に贅沢に植えた「ライジングアイス」は、今季一番のお気に入り。何とも品のある清々しい表情をしています。
育種家、植田光宣氏(花苗うえた)のビオラ
「パピヨンワールド」
一昨年出合って以来、ずっと片思いし続けていた「パピヨンワールド」。植え付けのタイミングを逃して断念していましたが、ようやく庭に迎えることができました。このビオラの特徴は、何といっても細く長い茎と花の繊細さ。その名前通り、蝶がヒラヒラ飛んでいるように見えます。さらに、軽やかで優しげな花は、色幅も豊富。どれにしようかと、何度カゴの中の苗を出し入れしたことか…。それくらいこのビオラは、一株一株、見れば見るほど引き込まれる美しさがあります。
迷いに迷ってわたしが選んだのは、原種のスミレに似た濃紫色。ビロードのような美しい艶感に惹かれました。
さらに、この「パピヨンワールド」には、同系色のスイートピーを寄せ植えしました。スイートピーの花も、どことなく蝶に似ていませんか? 今はまだ、成長も鈍くつるも短いけれど、脇芽が増えてもう少しつるが伸びてきたら、オベリスクを立てて絡ませる予定です。
うららかな春に、紫の蝶がヒラヒラと鉢いっぱいに群れなす姿が楽しみです。
岸野直樹氏(鈴蘭園)のビオラ
「神戸べっぴんさんビオラ&パンジー(庭人監修)」
園芸店でこのビオラを見つけた時、思わずネーミングに微笑してしまった「神戸べっぴんさんビオラ&パンジー」。なぜなら、育種家さんのビオラやパンジーには、エレガントでおしゃれなカタカナのネーミングが多いから。でも、そのべっぴんさんビオラは、一株一株言葉では表せないほど、シックで個性的な色合いでした。中でも目を奪われたのが、チョコレート色のビオラとブルーグレー&イエローゴールドのパンジーです。
日本人の美意識の中に、質素で静けさや寂しさを指す「詫び・寂(わび・さび)」という言葉がありますが、この花の「色」や「青染み」に、「わび・さび」を感じました。決して華美ではないけれど感性に染み渡る深い色合いは、心を静かにしてくれます。そういえば、冬の名残りの庭の乾いた空気感や色彩によく似ています。
暮らしの中で楽しむ
ビオラとパンジーの花あしらい
残寒の時季は、暖かい室内で水耕栽培のヒヤシンスやクロッカス、芽出し球根のスノードロップを飾ってひと足早い春を感じたいもの。ビオラとパンジーも器に挿して、一緒に楽しみます。
「ピーチブロッサム」は、まだ茎が短いので、リキュールグラスやミルクピッチャーを用いるとバランスよく挿せます。デザイン性のあるこんな小さな器は、ビオラの愛らしさがより引き立ちますね。明るい窓辺を彩る春の花たちの瑞々しい息遣いに、寒さで縮こまった心身が解きほぐされていくようです。
また、シックな色合いの「ライジングアイス」、「パピヨンワールド」、「神戸べっぴんさんビオラ&パンジー」は、水を張った藍色の染付けのお皿に。ワイルドストロベリーの花とヒューケラの銅葉も添えて、絵を描くように挿します。落ち着いた花色は、和の器とも相性がよく、清らかな藍の染付けが華やかさを演出してくれます。ささやかでも季節感を味わえるこんな花あしらいは、テーブルに飾ると食事やお茶の時間を心豊かにしてくれます。
Credit
写真&文 / 前田満見
まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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