神奈川県の自宅の庭で25年間、ガーデニングを楽しむ遠藤昭さんが、庭で育てがいのあるガーデニングプランツをご案内します。今回は、秋植え、春咲きの定番の球根花、チューリップがテーマ。いつか自宅の庭で「チューリップの花園を実現させたい!」と、思いがけず入手した大量のバーゲン球根で取り組んだ独りプロジェクト。後編では、チューリップでつくる景色のバリエーションをご紹介。
バーゲンチューリップで叶えた花いっぱいの春


『チューリップが咲き乱れる庭を目指して! 独りだけのチューリップ・プロジェクト【栽培編】』で、3月下旬に開花が始まった我が庭のチューリップだが、1週間も経つと、きっと花が終わってしまうだろう。こんな楽しみな時期だが、これから旅に出ることになった。成田に行く、出発前のわずか30分で寄せ置きチューリップガーデンを完成させた。男庭風チューリップガーデン完成編。いかがだろうか。これで安心して旅行に行ける。
と、出かけてからもチューリップのことが頭から離れない。これだけ色とりどりの花を使用した寄せ置きは初めてだったので、色がぶつかり、ごちゃごちゃになるのを避けるために、アリッサムの白やビオラの黒などをアクセントカラーとして、チューリップの間に配置してみた。こんな即席の配置を試せるのもガーデニングの楽しみだ。
4月10日 旅先のオーストラリア
「メルボルン・フラワーショー」にて

メルボルンの季節は秋だが、フラワーショーでは何故かチューリップも花盛りだった。やはり、フラワーショーにはチューリップは欠かせないのだろう。10月(現地では春)の、ワールド・チューリップ・ショーの予告も兼ねた展示のようだ。しかし、グラスツリーとチューリップ! この意外な組み合わせ、素敵だ。
4月14日
チューリップ・プロジェクト 満開編

メルボルンから帰った翌朝、庭に出ると、意外なことにチューリップも、しだれ八重桜もまだ咲いているではないか! もう、すっかり終わったと思っていたので、嬉しさ2倍! 1週間ですっかり木々の芽が伸び、緑が増えていた。

秋のメルボルンから一転、春の横浜に帰ると、日本の春のしっとり感がなんともいえない。緑が溢れて公園のような広々としたメルボルンの街並みに較べると、日本の街並みも我が家の庭もチマチマゴチャゴチャしているが、まっ、個人個人がそれなりに楽しむのがガーデニングのいい所でもあるのだ。メルボルンで感動的な庭や人々に触れ、おおいに刺激を受けてきた筆者であった。

チューリップにこんなに熱心になるのは初めてだが、育ててみると意外な新発見がいっぱいある。まず、花の大きさだ。チーリップはここまで大きな花だとは思っていなかった。じつにデカイ! 最近の品種改良のせいだろうか?

つぼみの状態の時は、そんなには感じなかったが、開花すると、そのサイズ感に驚いた。直径15cmくらいある。特に八重咲きの存在感は大したものだ。それと品種によっては背丈が60cmくらいあり、これも少々意外だった。奥の赤花の背丈が特に高い。

花というのは不思議なもので、思い入れが大きければ大きいほど美しく見えるものだ。
4月15日
自宅でできる贅沢! 切り花編

今まで、チューリップを子どもの花と思い込んでいたが、なかなかに凄いパワーのある花だ。部屋からも通りからも見ることができない場所に咲いていた赤花を、20本ほど切って活けてみた。なかなか豪華だ。バーゲン球根だから、花材費はせいぜい30円程度だと思う。どうだい? バーゲン球根もまんざら捨てたものではないだろう。

こうして、いろいろなチューリップを活けて家の中で楽しむのも贅沢なことだ。
4月20〜22日
チューリップ・プロジェクト 終盤編

チューリップの季節もそろそろ終盤だ。まだまだつぼみがついた品種もあって、開花寸前の様子も美しい。しかし、散りゆく間際もまた美しい。花びらを羽のように宙に広げ、まるでコレから大空に飛び立つようだ。

ふと、この姿を見て、バイオリンの名曲、「タイスの瞑想曲」”Meditation from Thais”の最後の部分で、タイスが昇天し天使になってゆくフレーズを思い出した。
娼婦タイスの、若い修道士アタナエルを誘惑しながらも、宗教への改心にゆさぶられる女心。そして最後には静かに死という天使になってゆくタイスだ。
チューリップにも散り際のはかなさがあるとは、新発見! ガーデニングは追求すると底知れず深い世界が開けてきて面白い。音楽との共通世界である。
4月21・22日
チューリップ・プロジェクト 番外編

我が家の狭い庭にバーゲン球根300球は植えきれずに、歩道の並木花壇にも数十球植えた。花色が分からずに植えたのだが、結局、赤と白だった。赤は早咲き品種だったようで、4月下旬にはすでに咲き終わっているが、それに遅れて白が咲き始めている。かなり小ぶりだが、八重でなかなか気品がある。赤花は、通りかかる子どもや家族連れに好評だったが、白花は大人に好評だ。朝の散歩中の夫婦が立ち止まって、「まあ、素敵~」と言ってくれた。

ここは歩道に面した我が家の土地。擁護壁と歩道の間に数十センチの隙間があり、有効活用しているのだ。ユーカリの鉢の根元にチューリップを植えた。黒と白の色合わせだが、なかなかオトナっぽく仕上がった。

4月22日は、原種系のチューリップが咲いてきた。ちょいと和風の雰囲気のコーナーに置いてみた。石灯籠の前で、シダなどの緑たちの中に引き立って見える。チューリップって「洋風」だけれど、そもそも自然界の花そのものには、洋風も和風もないわけで、チューリップにも和の景色がつくれることの証明だ。
4月29日
バラの彩りも加わったフロントガーデン編

我が家には、メインの庭以外に、4坪程度の庭が西側にある。こちらに植えたチューリップは遅咲きで、キモッコウバラとの共演も実現できた。

この2~3カ月間、チューリップとつき合ってきたが、「情が移る」という以前に、実にたくさんの新発見をする機会となり、自分の中でのチューリップの魅力が100倍に膨れ上がった。まあ、花ってなんでも育ててみると好きになってしまうものである。しかし、チューリップは奥が深い!
チューリップ・プロジェクトを振り返って

年明け早々スタートした、「独りだけのチューリップ・プロジェクト」は、子どもやガーデニング初心者に馴染みのあるこの花を、どこまで「男庭」として表現できるかの実験プロジェクトだ。
投資金額1,300円で、約4カ月も楽しめて、オマケに最終の開花の庭写真を地元の園芸店で募集していたガーデニング・フォト・コンテストにも応募してみた。なんと入賞し、1万5千円分の商品券をいただいてしまった。翌年の球根資金は、この商品券を使用させていただいた。サンキュー!

たかがチューリップだが、されどチューリップである。大の男がチューリップに夢中なんていうと、ヘンに思われそうだが、チューリップに限らず、どんな花だって、育てる人の感性と創造性でいかようにも表現できるものだと思う。ベテランになると、とかく一般的な草花への興味が失せがちだが、こうして原点に戻ると新たな発見があるものだ。園芸は奥深く楽しい。
ここでご紹介のチューリップ・プロジェクトの植え込みから開花までは、『チューリップが咲き乱れる庭を目指して! 独りだけのチューリップ・プロジェクト【栽培編】』もご覧ください。
併せて読みたい
・イギリス流の見せ方いろいろ! みんな大好き、チューリップで春を楽しもう
・花の庭巡りならここ! 22のガーデンスタイルが楽しめる「名古屋港ワイルドフラワーガーデン“ブルーボネット”」
・カメラマンが訪ねた感動の花の庭。長年通ったアンディ&ウイリアムス ボタニックガーデン
Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
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