チューリップが咲き乱れる庭を目指して! 独りだけのチューリップ・プロジェクト【栽培編】
神奈川県の自宅の庭で25年間、ガーデニングを楽しむ遠藤昭さんが、庭で育てがいのあるガーデニングプランツをご紹介します。今回は、秋植え、春咲きの定番の球根花、チューリップがテーマ。いつか自宅の庭で「チューリップの花園を実現させたい!」と取り組んだ独りプロジェクトをご紹介。前編は、バーゲン球根の大量購入からスタート。
目次
憧れはチューリップの花園
日本人で、どんなに花に興味が無い人だって知っている花は、チューリップだろう。小学校の学校花壇で球根を植えたり、チューリップの絵を描いたり、あるいは「咲いた、咲いた、チューリップの花が……♪」と、歌ったり。日本人のほぼ全員が、チューリップにそれぞれの思い出を持っているはずである。それゆえか我が家でも、毎年春にはチューリップが咲かないと、なんだか寂しい。それで、我が家は毎年、年が明けて1月に入ってから、一袋100円などとバーゲンになった球根を購入する。
そう、正月の園芸店の初売りバーゲンで、チューリップの球根詰め放題とか、掘り出し物が出るのだ。普段はオージープランツ(オーストラリア由来の植物)とか、少々マニアック系の植物が好きで、あまり一般的な草花には興味が薄いのだが、チューリップに関しては、潜在願望があった。それは、いつか庭中にチューリップが溢れる“チューリップの花園”を我が庭で実現させたいということ。数年前にその願望を実現する機会があったので、球根購入から開花までの記録を Garden Storyに綴らせていただこう。物語は、正月から始まる。
1月5日
新春の園芸店、新春バーゲンへ
年が明けると、毎年恒例となっているのが球根の買い出しだ。近所の行きつけの園芸店で行われている「新春バーゲンセール」へ行ったら、予想通り山ほどのチューリップの球根が半額セールになっていた。その中に、1球39円の球根が袋に詰め放題で、なんと1,000円! 中には人気品種も混ざっていたし、種類を自由に選べるのもよい。面白がって詰めてみたら、1袋に60球も入った。やったー!
そして、カミさんは「タコ」というヘンな名前の原種系チューリップを元値800円のところ、400円で嬉しそうに買って帰った。原種チューリップは、球根を植えっぱなしでも毎年、開花してくれる点でもお得なのだ。
家に帰って、さっそく、68球の球根を6つの鉢に植えた。横浜だと年明けに植えても4月には十分咲く。いやぁ、春が楽しみだ。
我が家は花苗や球根を滅多に定価で買うことはない。バーゲンとか、チャレンジコーナーで掘り出し物を探してくるのだ。お金で何でも買うだけのガーデニングはつまらない。貧乏ガーデニングだからこそ楽しいのだ。
1月9日
バーゲン商品専門のガーデニング
正月明けは毎年、埼玉方面に墓参りに行き、帰りに現地の園芸店のハシゴをよくする。帰りに立ち寄った某園芸店では、直径20cmほどの植木鉢一杯にチューリップの球根が入って100円というバーゲンがあり、思わず3杯300円分も買ってしまった。帰ってから数えたら240球も入っていた。全部で300円ですよ! ただし、色とか品種とかは不明! こだわり派のガーデナーたちは、こんなポリシーのない買い方はしないのだろうか。僕は、この球根を家の前の歩道の並木の根元に植えようと思っている。なんてったって、240球で300円なのだ! カミさんは一応、こだわり系の球根を数袋、半額で購入してきた。
1月20日
大人買いの満足感がある反面、花色不詳にとまどう
さて、チューリップの球根を二度に渡ってバーゲンで入手したのだが、結局、今年は僕が安物球根を約300球と、カミさんがこだわりの球根を数十球購入したことになる。きっと春には、豪華なチューリップガーデンができ上がるはずだ。子どもの頃はせいぜい数個しか植えられなかったから、300球はまさに“大人買い”の満足感である。
しかし問題は、僕が購入した内の約240球の花色不明な球根たちである。ただ植えたら、おそらく赤やピンクや黄色の色とりどりの平凡なチューリップが安っぽく咲く可能性が高い。平凡なチューリップが馬鹿にされ、やれフリンジ咲きやら原生種やらがもてはやされるご時世である。
ピンクに赤に黄色……うわ~下品でビンボーっちい? ハイセンスなガーデナーたちからはヒンシュクものだろうか?
子どもの頃から憧れていた、チューリップがいっぱいの花壇が今、実現しようとしているのに、「男庭」のコンセプトにもそぐわないし、ちょっと自分の行為に戸惑う。いや、いいのだ。買う時には「黄色が咲いたら切り花にしよう!」と心に誓ったのだ。赤にピンクに白ならば許せる! なんてったって300球なんだ。黄色だって切り花にして数十本活けたら、きっと豪華な活け花ができ上がる。すごいだろ! それも300球でたった1,300円なんだから。
園芸の原点、幼き日の思い出のチューリップなのだ。一度、原点に戻ってみよう。
2月14日
チューリップの『萌え』にときめく
寒い日が続いているが、今日は、少しは暖かくなるらしい。1月にバーゲンで購入したチューリップの球根を約300球植えつけたが、その後バーゲン品が本当に発芽するのか少々気になっていた。それが数日前からニョキニョキと芽が出てきたのである。いや、文学的表現では、「萌えて」きたのである。発芽とは感動的なものだ。実生も同様だけれど、地面から最初の芽が覗く瞬間が、「あっ! 生えた~!」と心ときめくモノである。
僕は普段、実生はオージープランツが多く、生えない場合のほうが多いから、生えることに敏感なのかも知れない。たかがチューリップといえども、芽生えは感動なのだ。早くも300球が咲き乱れる庭を空想してワクワクして微笑んでしまう。でも、チューリップの「萌え」を見てニタニタする中年男の微笑みは、他人には見せられない。
3月2日
チーリップのオトナ的愉しみ方
春はあけぼの……。そして雨上がりの朝の庭には、たくさんの感動が潜んでいる!
バーゲンで買った300球のチューリップも、僕の心配をよそに、ほぼ芽が出揃った。雨水を葉の器にいっぱい溜め込んで、春の自然の恵みを満喫しているようだ。
そして同時に、人間の凝り固まった価値観に対し、不意を打つような「水と葉」の織りなす美的表現を見せてくれる。チューリップは赤、白、黄色の花だけでなく、萌えいずる芽だって、こんなに美しく楽しめるのだ。春の雨上がりの朝に無限の発見がある。
3月20日
チューリッププロジェクト中間報告
1月に不意にスタートした独りだけのチューリップ・プロジェクト「300球のチューリップ栽培に挑戦!」。バーゲンで“大人買い”したチューリップたちは順調に育っている。バーゲン品でも十分育つことが証明された。早い株はつぼみを持ち始め、あと1週間もすれば咲き出すのではないだろうか?
東京・丸の内では、3万株のチューリップで飾られていると聞くが、それに較べれば僕のプロジェクトは、まあ100分1だけれど、僕にとっては大変な数なのだ。大のオトコがチューリップなんぞではしゃぐのは、みっともないかもしれないが、次々とつぼみが出てくると思わず嬉しくなる。
なんてったって、子どもの頃から憧れたチューリップいっぱいの庭がまもなく実現するのだ。狭い庭で植え場がないので、歩道の並木の根元にも進出している。まあ、花が咲けば道ゆく人も楽しんでくれるだろう。
3月25日
チューリップ開花宣言!
横浜では桜の開花宣言が、数日前に出された。そして僕は、チューリップ・プロジェクトで育てているチューリップの開花宣言をするのだ!
300球1,300円で入手して、一気にチューリップ熱に冒されている訳だが、心の中で密かに、平凡で安いチューリップであっても、やれフリンジだ、原種だと、最近流行の高級“ブランド”チューリップに負けない「表現」をしてやろうと、男庭魂をメラメラと燃え上がらせているのだ。
だが一方で、我が男庭に「チューリップが咲いた♪」なんてタイトルでピンクの花を紹介することに、少々抵抗があるのは事実だ。しかし、きっとこのピンクの平凡なチューリップの花に多くの人々がホッとして共感を覚えるのだと思う。誰もが、心の中には、子どもの頃の思い出としてピンクのチューリップが咲いているだろうから。
よし、これからしばし男庭をピンクの平凡チューリップで埋めて、男らしい表現を試みてみるか!
3月29日
待ちに待ったチューリップが次々開花
今朝のニュースで東京は桜が満開だという。季節の変化が早すぎる。僕のチューリップ・プロジェクトも状況は刻々と変化している。ボケッとしていると花が終わってしまいそうだ。
子どもは視線が低いのでチューリップを横からしか見ないが、オトナの僕は下から見たり上から見たりする。上から見ると、それはそれは、芸術的なのをご存じだろうか。僕は、こういう「赤と黒」でスタンダールっぽい雰囲気が好きだ。
そして、チューリップは葉の表現も魅力的だ。普通の葉と斑入り葉越しにクリスマスローズを撮ってみた。園芸を「育てる」から、さらに一歩進んで「表現する」、つまり創造の領域でとらえると、いろいろ楽しみが増すものだ。
姉がパッチワーク教室の先生をやっているが、「園芸も表現だととらえると、布で表現するパッチワークに似ているわね」と言った。なるほど、その通りだ!
1月5日からスタートした「独りだけのチューリップ・プロジェクト」。次回『チューリップが咲き乱れる庭を目指して! 独りだけのチューリップ・プロジェクト【開花編】』では、さまざまなスタイルで咲かせるチューリップの景色をご紹介したい。
併せて読みたい
・イギリス流の見せ方いろいろ! みんな大好き、チューリップで春を楽しもう
・人々を夢中にさせる魅惑の花 チューリップの歴史
・私のガーデンストーリー 「ベランダで秋植え球根をきれいに咲かせる楽しみ」
Credit
写真&文/遠藤 昭
「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー。
30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)。
ブログ「Alex’s Garden Party」http://blog.livedoor.jp/alexgarden/
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