私のガーデンストーリー 「ベランダで秋植え球根をきれいに咲かせる楽しみ」

植物を育てる人のごくごく個人的なストーリーをご紹介します。今回は東京のマンションのベランダで、毎年秋になると春咲き球根を植えて、春の訪れを身近に感じるのが楽しみというKさんのストーリー。10月は球根の購入時期です。幅50㎝、奥行き30㎝、深さ25㎝のブリキのバケツ1つで5種類の開花リレーが楽しめる、簡単ガーデニングをご紹介します。
目次
秋冬の恒例行事「球根簡単ガーデニング」

暑い夏を越え、ベランダにも虫の音が聞こえてくると、「そろそろ球根を買っておかなくちゃ」と、秋冬のガーデニングへの期待にスイッチが入るというKさん。ベランダでは、一年中植えっぱなしにできる地面はないので、毎年鉢に植え込まなくては春の花風景を楽しむことができません。ある年は、気がつけば秋植えの球根はどこも売り切れ。すっかり植え時を逃してしまい、寒風が吹くだけの殺風景なベランダに、つまらない思いをした経験があるというKさん。それ以降は秋に球根を買うことが恒例行事となりました。
桜が開花する頃まで開花リレーが楽しめる球根の種類

2017年にKさんがセレクトした球根は、スノードロップ、クロッカス、スノーフレーク(スズランスイセン)、スイセン、チューリップの5種。街中の紅葉が進んだ11〜12月上旬までが植え付け適期の目安です。秋に準備しておけば、2月中旬から桜が咲く頃まで順々に花が咲く様子をマンションのベランダでも、広いスペースがなくても楽しめるといいます。

スノードロップとスノーフレークには、品種のバリエーションはほぼありませんが、早春に咲くクロッカスは紫、白、黄色など花色のバリエーションがあります。また、スイセンやチューリップは花形や色のバリエーションが多いので、Kさんは10〜11月のお出かけの際に店頭で巡り合えた品種を購入して、その年ごとで思いがけない組み合わせの変化を楽しんでいます。「園芸店に限らず、意外とスーパーの片隅でも球根が並んでいることも多いんですよ。園芸店に比べて値段が安価だったり、ちょっと時期が遅いと値下げされたりしていて、得した気分になれます」とKさん。

球根の種類は、毎年新しい品種も登場していますが、流行の品種を追いかけなくても、一般的に手に入りやすい品種の組み合わせで十分、可愛らしいコーナーがつくれます。Kさんは、馴染みの種類に1つだけ育てたことがない品種を加えて、新鮮な気持ちも楽しんでいるそう。この年の栽培チャレンジ球根は、花びらが細いスリムなチューリップ‘アクミナータ’でした。
秋植え球根の植え付けプロセス
- 鉢底石を準備する
鉢底石は球根栽培が終わってからも再利用しやすいように、球根が入っていたネットを利用して小分けにしておきます。鉢底石をネットに適量入れたら、口をホッチキスでとめるだけ。 - 鉢底石を器に入れる
器に鉢底石を敷き詰めます。これで排水性をアップ。 - 器に用土を入れる
用土をたっぷり入れます。球根は、すでに栄養を蓄えているので、栄養分を加えたり、用土のブレンドに特にこだわる必要はありません。排水性がある用土なら球根を育てることができます。 - 器の縁から10㎝程度下まで用土を入れる
鉢底石がすっかり隠れるほどに土が入ったら、球根の頭が埋まる程度の高さを確保できる厚みまでどんどん土を入れます。鉢の縁から10㎝程度下が目安。 - 球根を配置する
どこからどんな花が咲き出すか、ランダムに咲かせるのが好きというKさんは、配置にあまりこだわらず、球根同士が重なり合わない程度に間隔を開けて球根を置きました。
スノードロップやクロッカスよりも球根のサイズが大きいチューリップは、葉が多く出ますが、チューリップの葉が展開する前にスノードロップやクロッカスは咲き出すので、お互いの花が隠れてしまう心配はいりません。 - たっぷり水やりして植え込み完了
球根がすっぽり隠れるように土を均一に入れたら、最後にたっぷり水を与えて植え込み完了! 日が当たる場所に置いて、芽が出る日を楽しみに水やりのタイミングを計り、見守りましょう。水やりは、植え込んだ容器の中の土全体が湿ることをイメージして、毎回、鉢底から水が流れ出るまで行いましょう。冬場は水の乾きが遅いので、1週間に1回程度を目安に、表土が乾いていたら水やりします。土中では根や芽が伸びるために水を欲しているので、水切れには注意を。また、水を与えすぎて、ずっと土が湿ったままの状態も球根にはよくないので、適度な水やりが、球根栽培の成功の秘訣です。
次々咲く花を見逃さず春の訪れを楽しもう

年が明けて、春が待ち遠しくなってきた2月中旬、緑の芽がところどころに伸び出しています。近づいて見ると、つぼみを発見!
スノードロップの開花

開花のトップバッターは、スノードロップ。別名、待雪草。草丈15㎝程度の花茎に、鈴のような純白の花を下向きに咲かせる春の使者です。鉢植えなら、その小さな姿をすぐそばで観察することができます。ちょんと触ったら、音が鳴りそうな可愛さ。

ガーデニングの本場イギリスでは、長い年月をかけて増えたスノードロップの群生が林床に広がるという、夢のような景色が見られます。たった1輪でも、目の前でけなげに花を咲かせる姿を見るだけで、美しい風景を思い出させてくれるのもガーデニングの楽しみ。
クロッカスの開花

トップバッターのスノードロップの開花から1カ月後の3月中旬。ぷっくら膨らんだ、つややかな紫のつぼみを発見。クロッカスです。スノードロップも球根ごとに開花のタイミングがずれるため、クロッカスとスノードロップの共演が楽しめました。

クロッカスは高価なスパイスのサフランの仲間です。春に咲くクロッカスからはサフランは採取できませんが、黄色のシベが長く伸びるのも特徴です。

3月下旬、クロッカスの色違いが咲き出しました。紫色の筋が美しい‘ピックウィック’という品種です。クロッカスは、日が当たると花を開き、曇ると閉じます。お天気で花の表情が変わるのも、観察ポイントです。
スノーフレークの開花

3月下旬に、スノーフレークも咲き始めました。ヨーロッパ中南部原産のスノーフレークは、2月中旬の最初に咲き始めたスノードロップやクロッカスよりも草丈が高いのが特徴。20〜30㎝花茎を伸ばして、白い花びらの縁に緑の斑点が入る、スズランのような可愛い花を咲かせます。スズランスイセンという別名もありますが、スイセンとは別種で、ヒガンバナ科の球根です。また、和名ではオオマツユキソウ(大待雪草)とも呼ばれていて、待雪草の名を持つスノードロップより少し大きい草丈と覚えておくと混同しませんね。
スイセンの開花

スノーフレークと同じ頃に、寄り添うようにスイセンも咲き始めました。スイセンは、茎1本に大きな花を1輪咲かせる品種や、写真のように1本の茎から何輪かまとまって花束のように咲く品種があります。写真は、房咲きのミニスイセン‘ミノー’。房咲きは、小さなスペースでたくさんの花を楽しめるので、ベランダガーデンにオススメです。
チューリップの開花

4月上旬になると、スイセンの花束に彩りを添えるような桃色のチューリップが咲き始めました。球根を植え付けた時には意図していなかった、思いがけない景色です。チューリップの下に寄り添い咲いているのは、先にご紹介した房咲きのミニスイセン‘ミノー’と、中心の筒状の花弁が白い房咲きの‘セイルボート’。

桃色のチューリップが開花すると、次々と他の品種も咲き始めました。原種のチューリップ‘クルシアナ’(写真上右)や、花弁が細く珍しい開花を期待していたチューリップ‘アクミナータ’(写真上左)、爽やかなグリーンの花で人気の‘スプリングリーン’(下写真内左)や黄花種(下写真内右)が咲いて、ベランダが賑やかになりました。残念ながら、引き締め役として植えていた黒花の‘ブラックパーロット’の姿を見ることはできませんでした。
花が終わったら花がら摘み

花が次々と咲き始め、花がくたびれてきたら花がらを切り取るお手入れをしましょう。房咲きのスイセンの場合は、しおれた花だけを根本から切り取ります。チューリップのように1茎に1輪の花が咲くものは、地際付近の花茎の根元で切り取ります。花がらを取り終わると、きれいに咲いている花が引き立って、景色が変わりますよ。
花の組み合わせを毎年変えて楽しむ球根ガーデニング

2017年のKさんのささやかなベランダガーデンは、2月中旬から4月上旬まで次々と開花する、やさしい色の球根花が春の到来を教えてくれました。すくすくと伸びる葉の色形の違いも楽しめるナチュラル咲きのランダム花壇。一通り咲き終わったら、葉が自然と枯れるまで日に当てて、球根を育てましょう。5月の連休頃になったら掘り起こし、土の中に大きめの球根が残っていれば、風が通るネット(網)などに入れて日陰に置いて保管しましょう。しっかりした球根ならば、秋にまた育てることができます。新しく購入した球根と一緒に植えて2年目の球根はどう育つのか、観察するのもオススメ。
球根は、地植えの庭ならばクロッカスやスノードロップなど、植えっぱなしで翌年も開花しますが、狭いベランダでは増え続ける植物を全部育て続けるのは難しものです。咲き終わった球根は、無理をして育て続けず、断捨離するのも方法です。
無理なく、楽しく、花が咲く時間を楽しむ球根ガーデニング。球根を見つけたら、ぜひ年内に植え付けて、身近に春の訪れを感じてみませんか?
併せて読みたい
・『宿根草ショップの店長が教える! 球根植物と一緒に植えたい宿根草』
・『高価なスパイス「サフラン」をベランダガーデニングで自家採種する方法』
・『秋冬から育てる球根の水耕栽培 ヒヤシンスの香り漂うおしゃれなインテリア』
Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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