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患者さんのためにつくったバラ香る庭 面谷内科・循環器内科クリニック

患者さんのためにつくったバラ香る庭 面谷内科・循環器内科クリニック

神殿のような重厚な石の列柱に、這い上り枝垂れ咲くダイナミックなつるバラ。辺りは甘美な香りで満たされて、思わず誰もが感嘆のため息を漏らすこの景色は、鳥取県米子市の面谷内科・循環器内科クリニック。壮麗な庭景色は外からだけでなく、クリニックのすべての窓から眺められるようにつくられており、患者さんは待合室でも、診察室でも、点滴室でも花と緑を眺めて過ごすことができます。

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患者さんのためにつくられたバラ香る癒やしの庭

一見すると病院とは思えないこの庭は、院長の面谷博紀さんと妻のひとみさんが、患者さんやスタッフの癒やしにとつくったものです。

「患者さんの辛さや不安が少しでも和らぐようにと思いましてね。というのも、私は医師として日々、診療をしたり検査をしたりして、患者さんの不調や不安を改善するのが職務なわけですが、果たしてそうした医学的な治療だけで自分の仕事は十分なのかな、という気持ちがあったんです」(面谷医師)

クリニックの玄関には、季節ごとの寄せ植えが彩り、いつも花がら一つない。
駐車場に設けられたクリニックの看板の下の花壇。バラの株元でニコチアナやハイブリッドジギタリス、スーパーアリッサムが溢れ咲く。

面谷医師は、大学病院など複数の医療施設でさまざまな患者さんに接する中で、医学的な知見からは何も問題がないケースも多く見てきたと話します。

「もちろん、そうした診断結果を伝えて不安が解消される患者さんもいらっしゃいますが、逆に、なんでもないですよ、と医師から言われることで、かえって不安が募ってしまったり、孤独感を感じてしまうケースもあるんです」(面谷医師)

そうした処方箋の出せない患者さんにも寄り添い、不安を少しでも軽くしてもらえるように。また、「怖い」「痛い」という病院への固定観念を払拭し、快適な時間を過ごしてもらえるように。庭はそのための大切な空間演出です。

点滴室の窓を覆うのは‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンドゥ’、‘ベンジャミン・ブリテン’、‘デビュタント’などのつるバラ。手前で魅惑的な青紫色の花を咲かせるのはセリンセ・マヨール。
感染の可能性がある患者さんのための個室の待合室。ローラ・アシュレイでコーディネート。
診察室の窓辺も瑞々しい緑。
採血室の窓辺には豪華な大鉢の寄せ植え。ペチュニアやイソトマ、アンゲロニアなど夏の草花で涼しげに彩られています。鉢植えの周辺も同じ花でコーディネートし、庭の風景になじませています。
オールドローズと宿根草が、華やかでエレガントな5月の庭。奥にはモーブ色の壁のガーデンシェッドがある。

「だから、この庭はいつも、めいっぱいきれいである必要があるんです。具合の悪い方に、しおれた花なんか一本も見せたくないですから」と話すのは、庭づくりを担当している妻のひとみさん。毎朝早くからクリニックの庭を訪れ、花がら摘みや水やりを欠かしません。また、この庭では病害虫に対しても薬品を使わないため、4月からは虫とりも加わります。

庭に置かれたベンチの側では、オールドローズの‘ジャック・カルティエ’が咲き香ります。紫の花はネペタ。

ひとみさんも長年、看護師として働いてきましたが、医療現場の空間は、患者さんにもスタッフにも、必ずしも心地よいものではなかったと言います。

「白い蛍光灯の下で、真っ白な壁に囲まれて、外の天気も分からない状態で、一日に100人近くの患者さんと接するんです。その緊張感とストレスを身をもって知っていますから、医療従事者にとっても心地よい職場環境をつくりたいと思っていました。ですから、新しいクリニックをつくることになった時、どの窓からも緑が見えるように、というのをコンセプトにしたんです」(ひとみさん)

クリニックの玄関脇で真っ白に花を咲かせているのは、つるバラの‘スノーグース’。

「そして庭は、患者さんにとっては癒やしと同時に、アッと驚くような感動を与えられるようなものにしたいと思いました。実は私、ディズニーランドが大好きで娘とよく行くんです。ディズニーランドって、あの空間に入った途端、思わず現実を忘れてしまいませんか。ディズニーマジックっていうんでしょうか。そういう高揚感や感動って、病を抱えた人にとっても、とても大事だと思うんです。具合が悪かったのを、思わず忘れてしまうくらいの圧倒的な美しさで、ガーデンマジックにかかってもらうのがこの庭の役目です」(ひとみさん)

列柱を彩るバラは‘コンスタンス・スプライ’、‘モーティマ・サックラー’、‘スーブニール・ドゥ・ドクトル・ジャメイン’など香りの良いイングリッシュローズやオールドローズ。

そうした要望を形にしたのが、ガーデンデザイナーの安酸友昭さん(ラブリーガーデン)。実はこの庭は、県道と生活道路が鋭角に交差する角地にあります。しかし、ひとたび庭の中に入ると、まるで別世界が広がるのは、そのデザインのおかげです。待合室に面したこの庭は建物から地面が数段低くつくられた、サンクンガーデン(沈床式庭園)のスタイルになっています。そして、住宅街が立ち並ぶ生活道路側には高い壁を設けつるバラを這わせ、県道側にはいくつかの樹木を植栽。それらが育つにつれ、緑が柔らかに視線を遮って、県道を行き交う車が気にならないようになっています。

ピンクと赤のバラが入り混じって咲く庭の一角。壁の向こう側は生活道路。つるバラは‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’、‘ラッセリアーナ’、‘スーブニール・ドゥ・ドクトル・ジャメイン’。

角地の突端にはバラが這い上るモーブ色のコテージを配置し、コテージまでの通路の両脇には色彩豊かなバラと草花をたっぷり植栽。壁側にはレイズドベッドを、もう一方の植栽帯は石のペイビングを所々食い込ませ、道路側にいくに従ってなだらかに盛り土がしてあります。そうした高低差やペイビングの食い込みによって生まれる適度な空間が、バラや宿根草、一年草などたくさんの鮮やかな花が咲いた時にも、繊細で風通しのよいナチュラルな風景をつくり出しています。

県道側の植栽。木々にもつるバラの‘ローブリッター’が這い上り、車の往来を隠してくれる。
花の彩りと香りに包まれたコテージ。

「病院の待合室って、患者さんたちの間で病談義が繰り広げられることがよくあるじゃないですか。でもうちのクリニックでは、それが花談義なんです。この花キレイだね、とか、あれは私の庭でも育てたことある、とか。そういうのを聞くと、今はお身体の不安を忘れられているのかな、と嬉しくなりますね。お子さんも庭で花びらを集めて遊んだりしていて、具合が悪くなくても来たいと言ってくれたりするんです」(ひとみさん)

面谷医師の患者さんへの思いと、それに応えることのできる安酸さんの確かなデザイン力、そしてひとみさんの日々の丹念な手入れ。3つの力によって生まれたガーデンマジックは、その効力を庭の成長とともに強める一方です。

夢の世界へ誘う庭の入り口。バラは‘メイヤー・オブ・キャスターブリッジ’。
毎日、庭を丹精するひとみさん。バラの季節は日の出とともに庭仕事。
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