植物を育てる人のごくごく個人的なガーデンストーリーをご紹介します。今回は東京近郊の住宅街で、小さな花壇づくりを楽しむ40代のSさんのストーリー。広くておしゃれな庭に憧れつつも、子育てと仕事がある今は、この花壇で十分楽しいと話します。

私の庭は「庭」と呼べるほどでもない、ほんのちょっとした空間です。家と公道の間に長さ300㎝、奥行き80㎝ほど、一畳と少しくらいの空間があり、そこに枕木を積んでつくった小さな花壇と、いくつかの植木鉢で草花を育てています。とても限られたスペースですが、それでも5月になるといろいろな草花が咲き、それを摘んで家のあちこちに飾るのが私の出勤前の楽しみです。
あちこちに飾る、といっても、花瓶はどれもとても小さなものです。素敵な花瓶に花をたっぷり活けてみたいなぁ、とも思うのですが、私の家は花壇と同様とても狭く、豪華なアレンジを飾るスペースもないので、いくつかの小さな花瓶に花を挿して家のあちこちに飾っています。

その花瓶ですが、私は理科の実験で使う三角フラスコや丸底フラスコの小さいサイズを使っています。フラスコは口が狭くて茎が倒れにくいので、アレンジが下手な私でも、まあ、なんとか形になるので便利です。それに、近くのホームセンターで数百円で買えるのも助かります。朝、各部屋から花瓶を回収して洗い、新しい水を入れて並べます。

そして、花壇から適当に花を集めてきます。花壇の花を切るときは、水を張ったボウルを持って、切ったらすぐにその中に入れていきます。そして一通り切り終えたらボウルの中で茎を切る「水切り」をしてから花瓶に挿していきます。水切りをしないと茎の中に水を吸い上げる道ができず、クレマチスなどは飾っても一日ももたずにしおれてしまいます。お花屋さんの花は全部、この水切りをした状態で売っているので、もちがよいのだということを知りました。

5月の花壇ではつるバラの‘サラバンド’や ‘アイスバーグ’が咲きます。どちらもずっと昔に父が植えたもので、ごくありふれたバラなのですが、とても丈夫で、あまり手をかけなくてもたくさん花を咲かせてくれます。少し前までアントワネットの肖像画に描かれているようなオールドローズや繊細な色合いの花に憧れて植えてみたものの、管理が行き届かずにみんないなくなってしまいました。真っ赤な‘サラバンド’や真っ白な‘アイスバーグ’は、なんとなく今っぽくない花だよなぁと思っていましたが、最近はこの昭和っぽい感じも含めて、小さな我が家にはぴったりだと見直しています。

鉢植えで育てている‘珠玉’とコンボルブルス、ウィンタークレマチスの葉を合わせて、トイレの飾り棚に。‘珠玉’はほとんど何もしなくても咲く、とても丈夫でよく伸びるつるバラです。小輪の花が房になって咲く「房咲き」で、小さな花瓶も華やかに彩ってくれるので、とても気に入っています。今は子育てと仕事に追われ、あまりバラの手入れに時間をかけている余裕がないので、「丈夫でよく咲く」のがバラを選ぶ基準になっています。いつかは‘粉粧楼(フンショウロウ)’を育ててみたいなと思っているのですが、雨や病気に弱く、咲かせるまでにとても手間のかかる花だそうなので、子育てが一段落してからの楽しみにとっておくことにしています。




5月の花壇では、バラに続いて3種類のクレマチスが咲きます。一番よく咲くのはクレマチス‘プリンセス・ダイアナ’。花を惜しみなく切れるので、ありがたい存在です。クレマチスは毎年、3月下旬から新芽が出始めて5月半ばまでには、リビングの窓を覆い尽くすほど生育旺盛です。こんな小さな花壇でよく咲くなあと思います。クレマチスはトゲがなく、剪定も花後に地際からバサっと切ればよい品種(新枝咲き)だけを選んでいるので、とても育てやすいです。

ワイルドストロベリーもとても丈夫で、何年も宿根します。春に小さな白い花を咲かせた後、5月頃にはたくさんの赤い実をつけます。鉢植えなのでジャムにしたりするほどは採れませんが、アレンジに愛らしい印象を添えてくれるので重宝しています。花がら摘みの合間に食べたりしますが、とてもよい香りです。果実は6月まで次々に実り、ひとしきり終わった頃に肥料をやって水さえあげていれば、翌年も同じように実をつけてくれます。

白い小さな花がワイルドストロベリーの花。春にビオラとマツムシソウと一緒に咲かせていました。4月末までには他の花は終わるので抜いてしまいます。


朝、小さな花瓶にああでもない、こうでもないと花を入れていると、お花屋さんごっこをしているような楽しい気持ちになります。花を摘んでいるときに小さな虫やトカゲと出合うのも、とても面白いです。植物があると結構いろいろな生き物がやって来るようで、カエルも棲んでいたことがありますよ。私の育てた花でミツバチが一生懸命に蜜を集めていたりするのを見るのも、嬉しいものです。
そんなわけで、特段おしゃれでもなく、珍しい花が咲くわけでもないのですが、この花壇があるのとないのとでは、私の暮らしは全く違うだろうと思います。
このささやかな花壇は、今の私には十分宝物です。
Credit

写真&文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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