世界でもっとも大きな花⁉︎ ショクダイオオコンニャク(燭台大蒟蒻)が咲いた!

写真撮影(右)/Yuri Endo
2023年12月上旬、世界最大の花が東京の植物園で開花しました。その植物の名は「ショクダイオオコンニャク」。インドネシア、スマトラ島が原産のサトイモ科の多年性塊茎植物で、日本で初開花したのは1991年のこと。2023年に3度目の開花が見られた小石川植物園のショクダイオオコンニャクを、ガーデンプロデューサーの遠藤昭さんがレポートします。
目次
紅葉深まる植物園で初めて目撃した世界一大きなつぼみ

世界一大きな花として度々メディアで取り上げられる、ショクダイオオコンニャク(燭台大蒟蒻)が、2023年12月に東京都文京区にある「小石川植物園」で開花しました。私がその花の存在を認識したのは12月3日のこと。小石川植物園の近所で音楽仲間の会合があり、帰りに数名の仲間とモミジの紅葉を見に立ち寄ったら、偶然にも開花直前のつぼみ状態に遭遇。

音楽仲間たちは当然、ショクダイオオコンニャクにはあまり関心がなさそうでした。その後、開花の情報を聞いたのに見に行くことができず悔しい思いをしていたら、開花を見に行ったという園芸仲間が、12月8日の開花の写真をSNSにアップしていたのを発見。

そして、茨城のつくば方面に住む音楽仲間の一人が、地元の筑波実験植物園で11月にたまたま撮っていたという写真を思い出しました。なんだか変な植物だと思っていたのですが、それがまさにショクダイオオコンニャクの実の姿であることを認識。こんな経緯から、ショクダイオオコンニャクの開花前・開花・花後の実の経過が分かる貴重な写真が揃ったので、ここで皆さんに見ていただこうと筆を執った次第です。
ショクダイオオコンニャクとは

国内にある数カ所の植物園で、このショクダイオオコンニャクは栽培されているようですが、毎年咲くことはなく、不定期のようです。小石川植物園での開花は13年ぶりですし、筑波実験植物園の開花も3年ぶり。さらにこの花は、こんなに大きいのに、何と一日花。一日経つと萎んでしまうのですから、開花の瞬間に出会えるのは非常に貴重なことなのです。
調べてみると、国内での開花は、2023年12月の段階で30例にも満たない希少なもの。次はいつ話題になるのか分かりませんが、世界一大きな花であるショクダイオオコンニャクについて解説しておきましょう。また後半では、今の時期になると食卓に上ることの多い、いわゆる「おでんの蒟蒻」の原料であるコンニャク芋についても触れたいと思います。

和名:ショクダイオオコンニャク(燭台大蒟蒻)
学名:Amorphophallus titanum
英名:Titan arum
科名:サトイモ科
属名:コンニャク属
別名:スマトラオオコンニャク
原産地:インドネシア、スマトラ島

ショクダイオオコンニャクは、インドネシア、スマトラ島に生育するサトイモ科コンニャク属の希少植物(絶滅危惧種)。日本国内でも数カ所の植物園にあるだけで、人工的な実生は極めて難しく、増やすこともなかなかできないようです。別名をスマトラオオコンニャクといい、世界最大級の花を咲かせる植物として知られ、大きいものではなんと高さ3m超え。小石川植物園では成長の記録が白板に書かれていましたが、開花時で213.5cm。ギネスブックで認定された世界最大の記録は高さ3.1mなので、少し及ばなかったようです。
ショクダイオオコンニャクの花の香り

その名前のとおり、ロウソク立ての燭台のような形をした花を数年(7年説もある)に1度咲かせるといわれていますが、その花は一日花で、長くても2日間しか花姿が保たれません。花は肉が腐ったような強烈な悪臭がすることでも有名で、見学に行くと服に匂いが移り、帰りの電車で気まずい思いをするともいわれるほど。そんな悪臭を放つことから、「死体花」(corpse flower)とか、またその大きさから「お化けコンニャク」とか呼ばれています。
国内での開花は稀で、同一株が複数回開花した例はさらに限られます。最近の開花記録を調べてみました。
最近の国内の開花記録は下記のとおり、滅多に開花しません。
- 2023年12月 東京・小石川植物園(13年ぶり)
- 2023年7月 愛知・東山動植物園(栽培12年で初開花)
- 2023年5月 茨城・筑波実験植物園(この10年間で2014年、2016年、2018年、2020年に開花)
- 2022年12月 東京・神代植物園(この10年間で2015年、2019年、2021年に開花)
*国内ではほかに、鹿児島・フラワーパークかごしまでも栽培されているようですが、2010年が最後の開花記録のようです。

世界最大級の花といわれていますが、厳密には、小さな花が集まった花序です。このように、花序全体がまとまって1輪の花のように見えるものは「偽花(ぎか)」と呼ばれます。
絶滅危惧種で繁殖が難しいとされていますが、腐肉や獣糞の臭いで昆虫を集めて花粉を媒介させるようです。意味があって悪臭を放っているんですね。
ショクダイオオコンニャクの生態
栽培・成長に関しては文献がなく、ショクダイオオコンニャクの栽培経験がある植物園「フラワーパークかごしま」より下記引用させていただきます。
「種子をまいてから花が咲くまで14~16年ほどかかるといわれ、その間十数回にわたり破れ傘をひっくり返したような1枚の巨大な葉を広げ、地中のコンニャクイモに栄養を貯えます。そしてある時、イモから花芽が出芽し約1ヶ月後には開花します。肉穂花序の先端は棍棒状の付属体となり、その下の仏炎苞に包まれた部分の上部に雄花、下部に雌花が密生します。花序は高さ3m、直径1.5mに達するとされ、本種は花序(花の集合体)として世界最大の花であり、ラフレシアは1個の花として世界最大です。当園では2008年に2株、2010年に1株が開花しました。開花時に付属体が発熱発臭し、腐臭を周りに拡散させて花粉媒介甲虫を集めます。栽培には最低18℃が必要です。」
参考出典:フラワーパークかごしま

また今年、つくば実験植物園で結実や種子の採取に成功しましたが、これは国内初とのこと。これまでも人工授粉を複数回試みたものの、失敗したそうです。今回は、1週間差で咲いた2株を使って人工授粉できたのだといいます。この実の写真は非常に貴重ですね。さらに、この種子を播いて、日本初のショクダイオオコンニャクの発芽に成功したとのニュースがネットに流れていました。
配信記事によると、「同園によると、発芽が確認されたのは12月12日。20日現在で3つが発芽し、いずれも11月10日に植えたものという。約20個の種子を植えており、残りも順次発芽するとみられる。順調に育てば約3カ月で葉が出て、10~12年で開花する見通しという」とのこと。写真を提供してくれた後輩のK君に感謝!
下の2枚はニュージーランドのオークランド植物園とニューヨーク植物園の開花の写真ですが、どちらも、凄い人だかりですね。


ショクダイオオコンニャクの仲間、日本の食用蒟蒻は?

さて、蒟蒻というと、最近ではダイエット食でも人気のようですし、これからはおでんの季節で蒟蒻は欠かせませんが、原料はコンニャク芋であることはご存じの通り。その生産トップは群馬県で、日本の全生産数の95%を占めています。私は東京で生まれ育っているため群馬は比較的近く、旅行で度々訪れてはいるものの、「コンニャク畑」も植物としてのコンニャクも見たことがありませんでした。では、いわゆるコンニャクの花とか、いったいどうなのでしょうか? ショクダイオオコンニャクのような花と葉っぱなのでしょうか? この機会に調べてみることにしました。
和名:コンニャク(植物はカタカナでコンニャク、食品は蒟蒻と漢字で示して区別されます)
学名:Amorphophallus konjac
英名:elephant foot、devil’s tongue(悪魔の舌)
科名:サトイモ科
属名:コンニャク属
原産地:原産地はインドまたはインドシナ半島(ベトナム付近)とされ、東南アジア大陸部に広く分布
英名が凄いですね。それぞれ芋と花の形態に由来するようです。

コンニャク芋は、ジャガイモやサツマイモ同様に種芋から増やしますが、ジャガイモと違って収穫まで2~3年必要とのこと。通常は3年生または4年生の2~3kgにまで成長した芋を、秋に出荷するそうです。
コンニャク芋は低温に弱く、腐りやすいため、収穫から植え付けまでの保管が難しいそうです。丈夫そうに見えますが、じつはデリケートな植物で、強い日光・風・干ばつを嫌い、水はけの悪い場所ではうまく育ちません。

コンニャク芋は、年平均気温が13℃以上必要なため、寒冷地での栽培は難しく、東北南部が北限となっているようです。
食用の蒟蒻の作り方は、大雑把にいうと、コンニャク芋を蒸してすり潰し、石灰水(アルカリ水)を混ぜて煮込み、型に入れて固めるそうです。

身近な食べ物の蒟蒻ですが、この神秘的な花を見ると育ててみたくなりますね。今度、おでんを囲んだときは、ぜひコンニャク芋や、その花や葉、世界一大きな花を咲かせるショクダイオオコンニャクを話題に、お召し上がりください。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -

えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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