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【プロが選ぶ】マルタゴンリリーを宿根草植栽の主役に! ダイナミックな秋植え球根に注目

kelifamily/Shutterstock.com
来年の庭づくりに役立つ秋植え球根の情報をプロがお届け! 植えっぱなしで毎年美しい花を咲かせてくれるユリの一種「マルタゴンリリー」は、初夏から夏にひと茎に何輪もの花を咲かせ、長く楽しめる秋植え球根です。丈高く、ダイナミックな存在感がある「マルタゴンリリー」のおすすめ7種を、ボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがセレクト。その魅力とともにご紹介します。
目次
初夏~夏の半日陰宿根草植栽の主役にもなる「マルタゴンリリー」とは
今回は、ユリの仲間の中でもまだ日本ではそれほど知られていない、とても壮麗で魅力的な種 マルタゴンリリー(Lilium martagon)をご紹介します。

マルタゴンリリーは、ヨーロッパからシベリアにかけての比較的冷涼な地域に広く分布する種です。日本では6~7月に草丈 1.5~2mにもなるしっかりとした花茎を立ち上げ、大きく反り返った花弁がとても特徴的で可愛らしい、うつむく花をひと茎に十数輪から数十輪も咲かせます。

数々の宿根草の花が見頃の時期に、他の植物より抜きん出た高さで壮麗な花を咲かせるマルタゴンリリーは、半日陰の庭で絶好のフォーカルポイントになるでしょう。
昨今話題に上ることも多い植栽のキーワード「ナチュラリスティックプランティング」の観点からも、フワフワして視点が定まりにくい宿根草植栽にマルタゴンリリーのダイナミックさとボールドで少し硬めの質感を織り交ぜることで個性的な演出になったり、植栽全体の見た目をグッと引き締めることができます。
流通時期が短いので、買い時を逃さないように
マルタゴンリリーはほかのユリの仲間と同じく、秋植え球根として主に流通します。
真夏の時期から予約を受け付けしているオンラインショップサイトなどもありますので、ぜひ活用してみてください。

マルタゴンとその系統のユリは、まだ日本国内ではあまり広く知られておらず、流通量も少ないことから、やや手に入れにくい種といえるでしょう。
とはいえ、とても魅力的な種で、先進的なガーデナーは積極的に植栽に取り入れ始めていますし、日本の冷涼地では比較的育てやすいので、近い将来、国内での人気も高まっていくと思われます。

秋植え球根の流通時期以外にも、冬~春頃まではごくわずかに苗での流通も見られることがあります。しかし、いろいろな品種の中から好みのものを選べる秋植え球根の予約受付期間に購入するのがベストな選択でしょう。
マルタゴンリリーの球根と育て方

マルタゴンリリーの球根は、上の写真の比較で分かるように、スカシユリやカノコユリなど、日本国内で普通によく見られるユリの球根よりは小さめのサイズです。

球根の植え付けは、本州以南で10月下旬~11月。ユリの仲間は地表部の乾燥を嫌うため、球根の上に球根の高さの2倍くらいの土がかかる深さに植えます。

マルタゴンリリーは、ユーラシア大陸の比較的北寄りの地域に多く生息しています。日本でも栽培可能ですが、耐寒性は強く高温多湿にやや弱い性質がありますので、どちらかというと夏場冷涼な地域のほうがキレイに育てやすいです。

ユリの仲間は土中が暑くなって蒸れるのを嫌います。そのため、植える際は水はけのよい場所を選びましょう。また、株元の土が剥き出しで直射にさらされて高温にならないよう、半日陰の場所に植えたり、株元がグラウンドカバープランツの葉で隠れるようにするなどして、土中の温度が上がらないように工夫するとよいでしょう。
植え場所に馴染めば、宿根草のように植えっぱなしで育てることができます。

株が混み合ってきたら、秋に地上部が枯れたタイミングで掘り上げ、分球し、元肥を加えて土壌改良した場所に植え直してあげるとよいです。
【DATA】
■ ユリ科
■ 学 名:Lilium martagon
■ 主な花期:初夏~夏
■ 草 丈 :1.2〜2m
■ 耐寒性:強
■ 耐暑性:少し弱め
■ 日 照 :半日陰
セレクト1
リリウム・マルタゴン (Lilium martagon)
ニュアンスのあるグレイッシュピンクの花弁に、オニユリの仲間に見られるような濃紫褐色の斑点模様が入り、花色がとても美しい基本原種です。

本記事を書いている2023年末の時点では、日本国内では花色が改良された品種のほうが流通していて、原種のマルタゴンは入手が難しいです。しかし、とても美しい原種ユリなので、近い将来、流通が広まることが期待されます。
セレクト2
リリウム・マルタゴン ‘アルブム’ (Lilium martagon ‘Album’)
清楚な純白花がシャンデリア状にたくさん開花する様が、シェードガーデンの見どころになる純白花品種です。

マルタゴンリリーは、とても特徴的な花弁が反り返った花容で、ユリの中では比較的小輪の花がたくさん鈴なりに咲きます。テッポウユリやカサブランカなど、切り花で馴染み深い大輪種とは全く異なる開花姿で、植栽の中でもとても個性的な印象で目を引きますよ。
マルタゴン ‘アルブム’は、前出の基本種マルタゴンと同様に、2023年末の時点では日本国内ではとても流通が少ないですが、 ‘アルブム’ とほぼそっくりの白花品種 ‘スノーィモーニング’ (Lilium martagon ‘Snowy Morning’) は、秋植え球根での流通があります。
セレクト3
リリウム・マルタゴン ‘クロードシュライド’ (Lilium martagon ‘Claude Shride’)
こっくり濃厚なダークマルーンの花色がたいへん渋くカッコいい品種です。

マルタゴンリリー特有の壮麗でオーナメンタルな多花性の開花姿と、大人っぽいスタイリッシュな花色を兼ね備えたとても素敵な品種。
黒花や銅葉のリーフプランツなど、ダークカラーの花や葉がお好きな方におすすめです。
セレクト4
リリウム・マルタゴン ‘ピンクモーニング’ (Lilium martagon ‘Pink Morning’)
基本種のマルタゴンと似ていますが、より淡いグレイッシュなピンク地に燕脂色みの斑点模様がとても目を引き、渋く大人っぽい魅力のある品種です。

ピンクの多花性のユリというと、少し華々しくて植栽の中で目立ちすぎてしまうような印象がありますが、本種は抑制の効いた花色と壮麗な草姿のバランスがよく、ナチュラルな植栽に織り交ぜても、馴染みつつもオーナメンタルな姿と個性的な花姿で風景を引き締めてくれます。
セレクト5
リリウム・マルタゴン ‘マニトバモーニング’ (Lilium martagon ‘Manitoba Morning’)
ニュアンスのあるコーラルレッドの花弁に、濃紫褐色の斑点模様がとても目を引き、派手さの中にも大人っぽさやナチュラルさを兼ね備えた、攻めたデザイン性のある品種です。

コーラルレッドみの派手目な花色ですが、ベタッと濃い配色ではなく、少しかすれたようなニュアンスがあります。オニユリを彷彿させるような斑点模様も相まって、より複雑な美観とアーティスティックな雰囲気が魅力です。
セレクト6
リリウム・マルタゴン ‘ギニーゴールド’ (Lilium martagon ‘Guinea Gold’)
野趣と派手めの個性を兼ね備えた黄橙色の花弁に、濃紫褐色のそばかす状の斑点模様が入る品種です。

花色や一つひとつの花容の雰囲気としては、日本に自生するタケシマユリ(Lilium hansonii)にも似ています。

さらに本種は、タケシマユリよりも花数が多く、壮麗なシャンデリア状の開花姿となります。少し派手めな色みでありながら、日本人の美的感覚には野趣やノスタルジーを感じさせつつ、かつスタイリッシュでオーナメンタルに植栽の中で映えます。
ナチュラリスティックプランティングに織り交ぜても違和感なく似合うでしょう。
セレクト7
リリウム・ピレナイクム (Lilium Pyrenaicum)
マルタゴンリリーとは別種となりますが、英名でイエローマルタゴンリリー(Yellow martagon lily)とも呼ばれ、マルタゴンリリーととても似た花容と鮮黄色地に濃紫褐色の斑点模様が入る花色とが相まって、野趣と華やかさ、カッコよさを兼ね備えた原種です。

リリウム・ピレナイクムは、スペイン北部のピレネー山脈地域からコーカサスにかけて分布する種です。
草丈1.3m程度に育ち、1茎に10数輪の花を咲かせます。大きく花弁が反り返った下向きの咲き方は、そのままマルタゴンリリーの黄花種といった様相を呈します。
本種の球根は2023年現在、日本国内ではほぼ流通がありませんが、今後マルタゴンリリーの普及が進めば、その流れでピレナイクムも日本でも手に入るようになるかもしれませんね。2023年の現状としては、本家のマルタゴンリリーの黄花品種などは、ごく少ないですが流通があるので、興味がある方はぜひ探してみてください。
花色だけに着目して見ると、日本に自生する黄金オニユリ(Lilium lancifolium var. flaviflorum)にも雰囲気が似ています。

黄色に暗褐色のソバカス状の斑点模様が入る花色というと、ちょっとショッキングな感じもしますが、日本人はユリの原風景として、鮮オレンジ色に暗褐色の斑点模様が入るオニユリの花があり、野に咲く花と理解する認識の素地があるので、この花もむしろ山野草のように野趣のある花として受け入れることができます。
本種はマルタゴンリリー特有の壮麗な多花性の咲き方なので、前出の‘ギニーゴールド’ と同様、少し派手めな色でありながら日本人の美的感覚には野趣とスタイリッシュさを兼ね備え、植栽の中でオーナメンタルに映えます。

「うつむいて何を思案の百合の花」
(正岡子規 俳人・歌人 1867 – 1902)
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -

おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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