暑い夏の日差しが照りつける時期に、ピンクや白の花をたわわに咲かせる樹木、サルスベリ。街路樹としても見かける機会が多く、夏を象徴する花木です。日本で長く愛されてきたサルスベリですが、花が長期間咲くうえ品種のバリエーションも増えていることから、近年は洋風ガーデンでも人気上昇中。そんなサルスベリの魅力について、ガーデンプロデューサーの遠藤昭さんが解説します。
目次
サルスベリとは

夏の花木といえば、代表格はサルスベリ。近年はさまざまな品種が出回っていて、洋風ガーデンでも人気が復活していることをご存じでしょうか。花が長期間(100日間も!)咲くので百日紅と書き、サルスベリ、またはヒャクジツコウと読ませます。サルスベリという名前は、木登りのうまい猿でも滑るほど幹がスベスベしているという意味でつけられたといわれています。

我が家のサルスベリには巣箱を設置しているので、シジュウカラが毎年、巣作りをして雛が飛び立つ姿が見られます。
花の色は主に赤、ピンク、紫、白の4色ですが、近年、交配品種の登場によって他の色も誕生しているので、今後もますます楽しみな花木です。

赤花の代表的な品種である、‘カントリーレッド’。

昔ながらの代表的なピンクの花。

そして、最近人気急上昇の紫系の花。

純白の花は、夏に涼しげです。
海外でも人気のサルスベリ

さて、このサルスベリ、海外でも近年人気ですが、英名はCrape myrtleで、Monkey slipperとはいわないようです。そう、先進国で猿がいるのは日本だけで、ヨーロッパや北アメリカにはいないのです。Crapeは、夏のリラックスウェアでもあるステテコにもよく使われている素材のクレープのことで、つまりシワシワという意味。花弁がシワシワのmyrtle=ギンバイカといったところでしょうか。

花期が長く、なかなか優れた花木だと思うのですが、サルスベリ(百日紅)という日本での呼び名がイケテナイのか、今ひとつお洒落感に欠ける印象があるかもしれません。もともとをたどると中国の花木です。海外では、カリフォルニアのディズニーランドやスペインのグラナダでも見たことがあります。「Crape myrtle」で検索すると、欧米ではなかなかに有望視されている花木と見てとれます。

特に画像検索で「Crape myrtle」を見ると、我々が持つサルスベリのイメージが変わるかもしれません。植物をネット検索する場合、日本名だけでなく、英名や学名で検索すると、素敵で新鮮な画像に出会えたりします。
日本では平凡なヤツデやアオキ、そしてモミジが海外で人気なのと同じように、サルスベリも国内より海外での評価のほうが高いように見受けられます。
以前、カリフォルニアのディズニーランドでサルスベリを見かけたときは驚きました。

そして、こちらがスペインのグラナダ・アルハンブラ宮殿の庭園で見かけたサルスベリ。素敵な剪定です。まさかスペインでサルスベリに遭遇するとは、驚きでした。日本ではサルスベリというと、コブを作る剪定が多いですが、スペインではこんな素敵な剪定をするんですね。サルスベリの枝は混雑すると曲がるといわれていますが、その性質をうまく利用した素晴らしい剪定です。

海外旅行で日本の伝統植物に出会うと、なんだか嬉しいですね。
サルスベリのプロフィール
学名:Lagerstroemia indica
英名:Crape myrtle
和名:サルスベリ、ヒャクジツコウ(百日紅)
科名:ミソハギ科
属名: サルスベリ属
原産地:中国南部、世界の熱帯各地に分布
原産地が中国南部で世界中の熱帯地域に分布していることから察せられますが、常緑樹ですが耐寒性もあり、日本や温帯地域では落葉する性質です。春に出る新芽はやや遅く、熱帯花木の名残が感じられます。

我が家には30年近くになるサルスベリが3本ありますが、夏中咲いてくれて、丈夫な優等生です。夏は屋外の草花の手入れが大変ですが、サルスベリのような花木は手入れがほとんどいらず、楽な点もいいですね。植えて30年近く経ち、今ではすっかり大きくなって2階から花が楽しめます。

樹齢30年の我が家のサルスベリ
30年前というと、私はまだオージープランツにも手を出しておらず、ガーデニング初心者でした(30年前はガーデニングという言葉すらなかったですね。「ガーデニング」は1997年の流行語大賞です!)。ちょうど庭づくりを始めた頃で、植木屋さんで勧められたのが、このサルスベリです。現在ある我が家のその他の庭木は自分で植えたのですが、このサルスベリだけは植木屋さんに植えてもらいました。

30年も経過すると周りの樹木も変化して風景が変わり、面白いものですね。上写真は、左からネグンドカエデ、サルスベリ、ユーカリですが、下写真は、右側手前にレモンの葉、右にジャカランダの葉が見えます。いずれも2階からの風景です。2階から楽しめるのもサルスベリの魅力。

すっかり大きくなって、お隣に飛び出しそうな枝は切って壺に活けています。ただし、サルスベリは花弁が散りやすいので、屋内に飾るのは避けたほうがよいでしょう。我が家では玄関の外に置いています。

サルスベリの花

街路樹などのサルスベリは、遠くて花の細部がよく見えません。上写真は房咲きのサルスベリですが、 近寄って観察してみると、花の間につぼみがあります。

花弁は6枚、黄色く一見雄しべに見えるのは昆虫を引き付ける役の「餌雄しべ」といわれるもの。さらに実際に受粉効果のある長い雄しべが6本、そして雄しべに紛れて、雌しべが1本です。面白い花ですね。
サルスベリの四季の移り変わり

サルスベリは花だけでなく紅葉もきれいです。秋の青空に映えるサスルベリも風情があります。上写真は9月20日撮影。7月に咲き始め、本当に100日近く咲き続けます。

さらに2カ月ほど経った11月20日頃には紅葉します。
そして写真下のように、12月には落葉し、実が残ります。この実も魅力的で、クリスマスリースなどにも使用できます。



そして、冬は幹の美しさが目立ちます。猿が滑るほどの滑らかさなので、光沢感もあり、ともすると寂しい冬の庭の景色の中で、ひときわ幹の美しさが目を引きます。

サルスベリの栽培ポイント

ご紹介してきたように、夏の花に限らず、一年中魅力のあるサルスベリですが、最近は、街路樹にも多く利用されています。大きく育つとサルスベリの並木道も素敵になるでしょうね。

では実際に、庭木として育てるとどうでしょう。私が30年間育ててきた経験では、地植えして大きくなった成木は2月に剪定をするくらいで、特に水やりも施肥も不要です。
鉢植えでも育てていますが、日当たりのよい場所に置き、表土が乾いたらたっぷり水やりを忘れずに。鉢植えの場合は、2月に寒肥を施します。
なお、詳しい育て方は、以下の記事もご参照ください。
●サルスベリ(百日紅)に注目しているあなたへ! これを読んで栽培に挑戦しよう

病害虫で、一つ注意したいのは、バラやキュウリにも発生するうどんこ病です。
6月頃に発生することが多いので、風通しをよくして用心しましょう。もし発生したら、早めに殺菌剤を散布するとよいでしょう。

サルスベリについて、知っているようで知らなかった発見があったでしょうか。一年中楽しめて、優雅で丈夫で長もち。ぜひ、お気に入りの花色を見つけて、あなたのお庭の仲間に入れてあげてください。きっと、これから長年にわたって、素敵でおしゃれな庭風景を演出してくれますよ。
【四季を楽しむ花木】見直したい伝統の庭木「サルスベリ」
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -

えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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