みなさんは夕顔(ユウガオ)という植物をご存じですか? 朝顔なら知っているけれど、夕顔は分からないという方も多いのではないでしょうか。もしくはどんな花かは分からないけれど、源氏物語の登場人物として夕顔という名前を聞いたことがある方もいらっしゃることでしょう。有名な作品にも登場する夕顔とは、いったいどんな花なのでしょう。ここではそんな夕顔の魅力、そして育て方の基本や特徴についてご紹介します。
目次
夕顔の基本情報
夕顔はウリ科ユウガオ属に分類されるつる性の一年生植物(一年草)です。原産地は北アフリカで、日本には平安時代以前に中国から渡ってきました。そのため枕草子や源氏物語などにもその名前があり、当時すでに栽培も行われていたと考えられています。また浮世絵や俳句の世界でも親しまれ、花は夏、果実は秋の季語となっています。夕顔は大きく2種類あり、細長い実を付けるナガユウガオと、丸い実を付けるマルユウガオに分けられます。
夕顔の名前の由来
夕顔はその日の夕方に開花し、翌日の朝には萎んでしまうことから、朝顔や昼顔、夜顔に対して名付けられました。園芸店では、夜顔が夕顔という名前で販売されていることもありますが、この2つは別種です。見た目や名前が似ていることから、夕顔も朝顔、昼顔、夜顔と同じヒルガオ科の植物と思われがちですが、夕顔は学名をLagenaria sicerariaといい、なんとヒョウタンと同一種。ヒルガオ科ではなく、ウリ科の植物です。ちなみにLagenariaという学名の由来は、ラテン語で「瓶」を意味するlagenosからとされています。
夕顔の花言葉
夕顔の全般的な花言葉は「はかない恋」。ほかにも「夜の思い出」「魅惑の人」「罪」という言葉もあります。「はかない恋」は夕方から綺麗な花を咲かせても朝には萎んでしまうはかなさに由来、「夜の思い出」は夕方から朝にかけての暗い時間に咲くことに、また「魅惑の人」「罪」という花言葉は源氏物語に登場する夕顔という女性に由来しているとされています。
かんぴょうの原料?
夕顔は花を観賞するだけではありません。果実は生で、また乾燥させたものをかんぴょうとして食しているため、私たちの食文化にも関わりがあります。夕顔は秋になると長さ60~90cmほどのヒョウタンのような実を付けます。その実を細長く剥いで加工したものがかんぴょうです。今でもかんぴょうは、日本各地の郷土料理の食材として親しまれ、炒め物や汁物などにも使われています。ちなみにかんぴょう(干瓢)という名前は、古くは夕顔の実を瓢(ふくべ)と呼んでおり、「干した瓢」が「干瓢(かんぴょう)」になったものです。現在干瓢は栃木県と滋賀県が有名な産地で、夕顔の栽培も盛んです。
夕顔の育て方
夕顔はつる性のウリ科植物で、放っておくと盛んにつるを伸ばして手入れが大変になってしまいます。ここでは、上手に栽培するコツについて解説します。
栽培環境
夕顔は風が通り、日光のよく当たる環境で広めのスペースを確保することが大切です。原産地は温暖な気候なので栽培開始適期は4~5月ですが、発芽適温が25℃以上のため、種まきから行う場合、発芽させるための温度管理が難しいかもしれません。そのため苗を購入するほうが効率よく栽培できておすすめです。しばらくはポットで栽培し、本葉が5枚程度に増えてから地植えや大きな鉢に植えるとよいでしょう。夕顔は1株がかなり大きく育ち、また株間が近すぎると蒸れて弱りやすいため、地植えであれば幅1m、長さ10m程度の畝を作り、株間は80cm程度取るようにしましょう。鉢植えであれば直径、深さともに30cm以上の鉢を用意し、つるが巻き付けるような、あんどん支柱やネットを張っておきましょう。
土づくり
夕顔は水はけのよい中性から弱アルカリ性の土を好みます。鉢植え栽培やプランター栽培の場合は、赤玉土(小粒):腐葉土を5:5の割合で混ぜたものがよいでしょう。市販の野菜用培養土も適しています。地植えの場合は、植える2週間前に、深さ30cmほどを耕し、苦土石灰を適量混ぜこんでおくとよいでしょう。用土内にチッ素分が多いと、つるぼけといって葉ばかりが茂り、実付きや果実の肥大が悪くなるので注意しましょう。これはふんだんに栄養があると植物が子孫を残す成長(生殖成長)よりも自分の体を大きくする成長(栄養成長)を優先してしまうためで、カボチャなどつる性の野菜でも起きる現象なので気を付けましょう。
種まき・苗植え
種まきから栽培を始める場合は、気温が25℃を超えるくらいの時期に行いましょう。暖地では4月の終わりから5月の半ばが適期です。ポットに種子を播き、適切に管理すると10日ほどで発芽します。本葉が5枚以上になりしっかりとしてきたら、大きな鉢に移植します。地植えの場合は、畝立てしたら、つるの方向が混ざらないよう誘引します。鉢植えでは、あんどんタイプの支柱に巻き付けながら栽培するか、ネットを張り、グリーンカーテンのように上方に誘引するのがよいでしょう。
水やり
夕顔は水分の多い土地だと弱いつるばかりが伸び、葉が茂るだけでよい株に育ちません。そのため、地植えの場合は水やりの必要はほとんどありません。ただ果実の形成、または肥大時はたくさんの水を必要とするため、その時期は水を切らさないように注意しましょう。また鉢植えの場合も、過度に水やりするとよくありません。土の表面が乾いてから、たっぷりと与えるようにしましょう。
肥料
地植え、鉢植えともに植え付け時は果実が大きくなるように、リン酸が多く配合された野菜用の緩効性肥料を土によく混ぜておきましょう。果実を見て、ピンポン玉くらいの大きさになったら化成肥料を株元に施し、その後の経過で育ち具合が悪ければ15日に1回を目安に同じ肥料を与えるとよいでしょう。
病害虫
夕顔は病害虫の被害を受けにくいとされていますが、アブラムシと炭そ病には注意が必要です。アブラムシ被害は、少しの発生であれば牛乳スプレーや木酢液、または見つけ次第捕殺することで対処できます。大量に発生してしまった場合は、野菜用の殺虫剤をうまく活用しましょう。炭そ病は葉に発生するだけでなく、果実にも発生します。発生後は回復が難しいため、その部分を取り去り感染を広げないようにしましょう。炭そ病の発生原因には、水はけや風通しの悪さがあるので、発生した場合は風通しをよくし、株元に敷き藁やマルチなどをして雨などで泥はねが起きないように対処しましょう。
誘引・剪定
夕顔は、つるを3m以上伸ばして成長します。そのため放っておくと株が暴れ、手入れが大変になってしまいます。管理や収穫を楽にするためには、鉢植えであればあんどん型の支柱を活用し、巻き付けるように誘引することで株をコンパクトに抑えましょう。またネットを活用する場合は植え付け後すぐに準備し、つるをネットに絡ませ、上方に向かって伸びるように誘引します。親づるが5節ほど伸びたところで摘心し、子づるを出させます。その子づるから出てくる孫づるは、こまめに摘心しましょう。子づるに花が咲き、着果した後は、そのまま放任で栽培しましょう。
夕顔の儚い姿を楽しもう
夕顔の特徴から栽培までをご紹介しました。夕顔は大きくつるが張り出すので、やや大きなスペースがなければ栽培は難しいですが、白く大きな花の開花の様子は、荘厳さとはかなさを感じることができ、源氏物語に登場する夕顔の面影も垣間見えることでしょう。またヒョウタンのような面白い果実を付け、食べることもできるという、とても育てがいのある植物です。みなさんも夕顔を栽培して楽しんでみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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