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【魅力再発見】種類豊富! たくましく育つ日本原産のシダ植物 前編

【魅力再発見】種類豊富! たくましく育つ日本原産のシダ植物 前編

Mali lucky/Shutterstock.com

シェードガーデンに定番のシダ植物は、葉の形や草姿の変化がとても多く、他の植物と組み合わせる楽しさもある日本原産の植物です。シダというと、繊細で日当たりが苦手なイメージが強いですが、ワイルドな雰囲気で日向でも育てられるシダ類があるのをご存知でしょうか。分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがお届けする連載「ACID NATURE 乙庭 Style」。今回は、日向から半日陰の植栽も使えるシダ類を5種ピックアップ! その魅力と品種バリエをご紹介します。

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バラエティ豊富! 植栽の頼もしい味方 野生種のシダ類

シェードガーデンといえば、ホスタやヒューケラ、ブルネラなど、葉色の違いや形の違いの組み合わせによって、日陰のエリアをさまざまなリーフプランツで楽しんでいる方も多いのではないでしょうか。

シェードガーデン
Monika Pa/Shutterstock.com

今回は、野趣を感じさせる素敵なコントラストでシェードガーデンプランツやその他の植物と相性よく似合うシダ類に注目。なかでも園芸植物としては意外と見落とされがちな日本の山野にも自生が見られるシダを中心に、庭の植栽にも活用できるものを前編・後編で紹介します。

シダ
Svetlana Mahovskaya/Shutterstock.com

前編は、これらのシダの中からどちらかというとやや日向や明るい半日陰となる場所の植栽にも適する種を選んでいます。

次回後編では、直射日光を避けたシェードガーデン向けの種を紹介します。

日本の環境に合う植物を用いた、多様性で持続可能な庭づくりの参考になれば幸いです。

日本の山野植生に発見できる素敵な植物の組み合わせ

たとえば山深い温泉に旅行に行ったり、趣味で山歩きなどに出かけた時などに、道脇の自然植生をよく観察してみましょう。すると、シェードガーデンの主役としてよく使われるギボウシ(ホスタ)やヤグルマソウ(ロジャーシア)、サラシナショウマ(シミシフガ)などのダイナミック素材の野生種などとともに、さまざまなシダが生えているのを見つけられます。

クサソテツ
沢近く湿った場所に群生するクサソテツ。長野県軽井沢にて。 Yukikazu/Shutterstock.com

このように庭でも実践できるシェードガーデン植栽のヒントを日本の山野植生の中でたくさん発見することができます。日本原産のシダ類は種類も豊富で、大きさや葉の雰囲気、常緑や落葉性など性質や形状もとてもバラエティに富んでいて、ガーデニング素材としてもさまざまなシーンで活用できます。

オスムンダの植栽
オスムンダ(ゼンマイの仲間)を大胆に使用した英国での庭園植栽例。 STEVENSON/Shutterstock.com

日本にも自生するシダについては、日本国内では園芸植物として注目されることは少ないかもしれませんね。しかし、逆に海外の有名庭園ではとても目立つ場所に燦然と植栽されていたりもしますし、元来日本国内に野生で分布している植物なので日本の庭の気候環境にもなじみやすいものです。

「元気に育ち、かつ野趣や装飾性を楽しめるリーフプランツ」として、活用してはいかがでしょうか。

では日向~明るい半日陰の植栽に向く、日本原産の素敵なシダを乙庭セレクトでご紹介します。

注)森林所有者に許可を得ず野生植物を山採りするのは違法行為、あるいは自然の生態系を崩しかねない非常に良心に欠ける行為です。自然の環境を思いやり、自生地から採取するのではなく、信頼のできる園芸店や山野草店などで正しく栽培品の苗を購入しましょう。

セレクト1
ドリオプテリス・クラッシリゾーマ  (=オシダ)

草丈1mほどにダイナミックに成長する、日本では北海道から東日本地域の山野に広く分布が見られるたいへんアーキテクチュラル(建築的)でオーナメンタルな植栽効果を得られる冬季落葉性のシダです。

ドリオプテリス クラッシリゾーマ

大きく展開したロゼット姿も、とても原始的な雰囲気でカッコいいです。オシダは、関東地方の山野部では、同様の大型シダ、クサソテツよりも少し明るめで、湿気の少ない場所にも生息しています。例えば山間の車道脇など、やや日光が当たるような林床などにも生えているのもよく見かけます。

ドリオプテリス クラッシリゾーマ
Beach Creatives/Shutterstock.com

春にはゼンマイのように渦巻状に巻かれた大きな新芽が芽吹きます。新芽は野獣の毛皮を思わせるような褐色の毛状体に覆われていて、葉の展開と共に緑の葉が展開していきます。株元の葉柄にその野獣的な毛がワイルドに残る点がクサソテツと見た目で大きく異なります。

また比較的立ち葉状の草姿になるクサソテツに対し、オシダはより開いた葉張りのある雄壮な草姿となります。

クサソテツ
比較的立ち葉ぎみのシュッとした草姿になるクサソテツ。Roca Mharas/Shutterstock.com
オシダ
比較的ロゼットが開いた葉張りのある草姿となるオシダ。Emagnetic/Shutterstock.com

たいへん原始的かつハンサムな雰囲気のある植物で、シェードガーデンの主役に据えても映えます。

大型のホスタにも全くヒケを取らない、存在感抜群の日本原産種です。

性質は日本の気候環境にも合い、乾燥しない明るい半日陰~日陰で元気に育ちます。

【DATA】
■ 学 名:Dryopteris crassirhizoma
■ オシダ科 
■ 草 丈:1m程度
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:やや明るめの半日陰~日陰

セレクト2
ドリオプテリス・エリスロソラ (= ベニシダ)

春~初夏の新葉が赤褐色がかり、カラーリーフプランツとしてもたいへん面白い、日本の本州以南~東アジア南部、南はフィリピンあたりまで自生が見られるオシダ科の種です。

ドリオプテリス・エリスロソラ 
Joe Kuis/Shutterstock.com

小苗のうちは冬季落葉しがちですが、大株になるにつれて日本でも比較的温暖な地域であれば常緑で越冬する傾向があります。関東平野部以南の地域では、南向きの暖かい庭での常緑リーフプランツとしても活用できるでしょう。

同属のオシダよりも小ぶりで、葉柄や葉の様子もオシダより繊細な雰囲気の草姿となります。1つのロゼットで主役級の存在感があるオシダに対して、ベニシダは群生させて葉の色形の美しい宿根草のように植栽に織り交ぜるように使うと効果的です。

ドリオプテリス・エリスロソラ 
Ineke de Lange/Shutterstock.com

シダ類に多く見られる繊細で美しい葉の形状そのままに、新葉に現れるアンバーブラウンの新葉の美しさと常緑性を兼ね備えた、とても植栽での利用価値が高い種といえるでしょう。

どちらかというと日本では温暖な地域での植栽に向きます。適地に植えれば、性質も丈夫でさほど手間もかからずに栽培することができます。

DATA】
■ 学 名:Dryopteris erythrosora
■ オシダ科 
■ 草 丈:50cm程度
■ 耐寒性:普通
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:やや明るめの半日陰~日陰

セレクト3
キルトミウム・ファルカツム (= オニヤブソテツ)

シダの中では厚みと硬さのある、やや皮革質を感じさせる照り葉のテクスチャーが独特の植栽の中で独特の存在感を発揮するシダです。

キルトミウム・ファルカツム
lindasky76/Shutterstock.com

オニヤブソテツは、日本では北海道から沖縄まで、その他東アジア~インドあたりまでの広い地域に分布しています。日陰に生息するイメージが強いシダ類の中にあって、人家の周辺や海岸近くなど比較的日向で乾燥ぎみの場所にも生息する面白い種です。

葉質が厚めで日照や乾燥にも比較的耐えることから、葉焼けしやすいシダが使いにくい明るい場所の植栽にも使えます。暖かい南向きの庭であれば常緑性の傾向もあらわれ、ウィンターガーデンでも活躍します。

シダ
Svetlana Mahovskaya/Shutterstock.com

オニヤブソテツという和名に違わず、シダにしては硬めのテクスチャーでソテツのような原始的な野生みを感じさせます。シェードガーデン向けのエレガントなシダとはまた違ったワイルドな雰囲気の植栽にも使えます。

アガベやユッカ、ニューサイランなどを取り入れたドライな雰囲気の植栽の下草として取り入れても野性味ある演出ができて面白いでしょう。日向から日陰まで植栽できるので、日向と日陰のエリアをまたいで植えたりすると庭全体の統一感にも繋がりますね。

DATA】
■ 学 名:Cyrtomium falcatum
■ オシダ科 
■ 草 丈:60cm程度
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:直射がきつくない日向~日陰

セレクト4
ネフロレピス・コルディフォリア (=タマシダ)

日本では伊豆半島から沖縄にかけて、その他、台湾から東南アジア、ポリネシアなどの熱帯から暖かい温帯地域に広く分布する、トロピカルな雰囲気を感じさせてくれるシダです。

タマシダ
Paramarta Bari/Shutterstock.com

前出のオニヤブソテツのように、タマシダも自生地では海岸近くの日当たりのよい場所などに生育しています。

また自生地では特徴的な生え方が見られます。それは、地面に生えるだけでなく、カナリーヤシなど幹に根付けるからまり代(しろ)がある樹木や岩の上に着生する生育スタイル。

タマシダ
NATTANAN KLOENPRATHOM/Shutterstock.com

これを参考に、たとえばバショウやカミヤツデなど、トロピカルな雰囲気のある耐寒性植栽で下草として使ったり、板付けや苔玉での吊りものとして織り交ぜるのにも向きます。

日向に耐えますが、日本の都市部では建物のガラスや舗装面などからの照り返しも強く、夏場の直射日光にさらされる場所では葉焼けすることもあるので、明るい半日陰程度の場所に植えるとよいでしょう。

タマシダ
Puain/Shutterstock.com

やや寒さに弱い傾向があり、関東平野部でも寒さの厳しい冬は常緑性を保てず、冬季落葉しての越冬することがあります。耐寒性が少し弱めという以外は性質丈夫で育てやすいです。

どちらかというと温暖地でのセミトロピカル植栽で活用範囲の広い素材といえるでしょう。

【DATA】
■ 学 名:Nephrolepis cordifolia
■ ツルシダ科 
■ 草 丈:40cm程度
■ 耐寒性:やや弱い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:直射がきつくない日向~日陰

セレクト5
ピロシア・リングア (=ヒトツバ)

日本でも本州の関東以南から沖縄にかけて分布する、着生傾向が強めの常緑性シダです。

ピロシア・リングア
Peter Turner Photography/Shutterstock.com

野生では地面に生えるだけでなく、比較的乾燥した岩や樹皮上に着生して生息することも多く、他の多くのシダと異なり、羽状複葉ではなく「ヒトツバ」という和名のごとく一枚羽根のような先端の尖った細長い楕円状の単葉となります。

ピロシア・リングア
Pomme Home/Shutterstock.com

葉質は厚くやや硬い皮革質でもあり、他の繊細で柔らかい雰囲気のシダとは明らかに違う見せ方ができる、シダ類の中でも異色な素材といえるでしょう。

葉表は照りのある濃緑色、葉裏はマットな質感。胞子が出ると葉裏はシナモンブラウン色を呈します、ランダムな立ち葉で生えるので、群生させると照り緑とマットブラウンの2つの質感と色が混在するような植栽効果が得られます。日本にも多く自生が見られる植物なのですが、なんとも風変わりな印象を観る者にあたえる植物だと思います。

ヒトツバ
Pavaphon Supanantananont/Shutterstock.com

通常のヒトツバ以外にも古典園芸の分野では葉の先端部が裂けるシシヒトツバや綴化種のハゴロモヒトツバ、斑入りなどの葉芸品が珍重されてきました。

性質は強く育てやすいです。通常の地植えだけでなく、たとえば壁面緑化や樹木の幹に着生させて野生みのある演出をするなど、多様な使い方のできるたいへん興味深いシダです。

【DATA】
■ 学 名:Pyrrosia lingua
■ ウラボシ科 
■ 草 丈:30cm程度 (着生して這い上がることも多い)
■ 耐寒性:普通
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:直射がきつくない日向~日陰

シダ

「雑草というのは、その美点がまだ発見されていない植物だ」 

(ラルフ・ウォルドー・エマーソン 思想家・作家 1803 – 1882)

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