春一番を花で楽しもう! ビオラとスミレの花あそび

木の芽起こしの雨に、草木がいっせいに目覚める季節。冬の寒さに耐えた鉢植えのビオラやこぼれ種で増えたスミレが、春の陽射しに次々と可憐な花を咲かせ庭を彩ります。そんな早春の彩りが室内でも楽しめる花あしらいを、神奈川県で小さな庭づくりを楽しむ前田満見さんに教えていただきます。寒い冬を耐えて春一番に咲く花たちは、ポジティブな力を与えてくれますよ。
目次
春色のビオラのコンポート

3月になると、暖かな陽射しを浴びて可憐な花を溢れんばかりに咲かせる鉢植えのビオラたち。その姿は、まるで群舞する蝶々のように華やかです。程よく伸びた花茎に青々と繁った葉も美しく、春のビオラは切り花にも最適。さまざまな器にあしらって春一番の彩りを楽しみます。

器は、浅鉢やコンポート、リキュールグラスやミルクピッチャーなど、食器棚にあるものを用います。例えば、直径20〜25cmの浅鉢やコンポートは、縁に沿って挿すとリースのような花あしらいになります。やや大きめのフリルビオラをあしらうだけでも十分華やかですが、クリスマスローズや葉物をプラスすると色彩が豊かになります。葉ものは、ヒューケラやワイルドストロベリー、ゲラニウムなど、小ぶりで形の可愛らしいものを。

また、この時季、道端や空き地でよく見かけるカラスノエンドウもお気に入りです。ご存じの通り、カラスノエンドウはいわゆる雑草ですが、スイートピーに似たピンクの小花も交互に並んだ小葉も、クルンと巻いたひげも何とも愛らしく、目にするとつい手にとってしまいます。

そんなカラスノエンドウは、意外にもビオラを引き立てる名脇役。しなやかな花茎をあえて無造作にあしらうと、ナチュラルで生き生きした印象になります。極小ながら鮮やかなピンクの花もいいアクセントに。とても雑草とは思えない存在感です。
うららかな春の野辺を思わせるこんな花あしらいは、ダイニングテーブルに飾るのが最適。旬の食材やお茶菓子と合わせれば、五感が喜ぶ季節感に溢れた食卓に。家族や親しい友人と心躍るひとときを味わえます。

また、つる性植物をリース状に丸めて添えても素敵です。以前、友人の庭から分けてもらった種子付きの冬咲きクレマチスをひと枝添えてみたところ、ふわふわの綿毛を纏ったクレマチスとビロードのような濃紫色のビオラの、儚なくも凛とした美しさに見惚れました。

冬を彩ったクレマチスと、春への希望を託されたビオラ…。器の中で季節の移ろいを感じられる趣のある花あしらいができるのも、庭の草花だからこそですね。
小花を束ねたブーケのように

グラスに脚と土台が付いたゴブレットやリキュールグラスなども、ビオラの花丈に程よく使い勝手のよい器。ガラス製や陶器製、素材を変えて楽しみます。
普通のグラスよりちょっとリッチなデザインなので、フリル咲きのビオラを1輪あしらうだけで様になるのも嬉しいところ。小ぶりのビオラは、数輪まとめると可憐さが際立ちます。

さらに、早咲きのスイセンやバイモユリ、ムスカリなどの球根花を添えると、春一番の彩りを束ねた小さなブーケのように。初々しい色合いとほのかな香りに癒やされます。
片手で容易に持ち運びできるので、チェストやサイドテーブル、また、キッチンカウンターなど、その日の気分で飾る場所を変えて楽しみます。たったそれだけで、部屋の空気が変わり、居心地がよくなります。

暮らしの其処此処で、ふと目にした先にある庭の花は、わたしの心の癒やし。特に、寒い冬を耐えて春一番に咲く花たちは、ポジティブな力を与えてくれます。
野趣あふれるスミレの花あしらい

この時季、薄紫色の絨緞のように庭を彩るタチツボスミレ。もともとこの庭に自生していた山野草ですが、いつの間にか増えて、今では待ち遠しい春の風物詩です。
ビオラより花も葉っぱも小さく、花茎も極細で短いので、一株を根っこごと抜いて小鉢に植えたり、根洗いして浅鉢にあしらいます。そうすると、次々とつぼみも開花して自然な姿を長く堪能できます。

また、タチツボスミレと同じ山野草のユキノシタを添えると、野趣あふれる風情に。「春は足元から…」。そんな景色が眼に浮かびます。それにしても、地味な姿からか、つい見過ごしてしまうユキノシタも、こうして見ると縞模様の斑入りの丸葉が何と愛らしいこと。楚々としたスミレによくお似合いです。

心躍るスミレの砂糖菓子

数え切れないほど花をつけるタチツボスミレは、花をカットして砂糖漬けにするのも楽しみの一つ。スミレの砂糖漬けといえば、ウィーンのDEMELやパリのLADUREEが有名ですが、さすがにお値段もなかなかのもの。それならばと、数年前にタチツボスミレで手作りしてみたところ、意外と簡単にできました。見栄えは劣りますが、一つひとつ丁寧に砂糖を纏わせる手作業は、何だかお化粧をしているような気分。庭のスミレが、次第にお洒落なお菓子に変身する姿を目にするだけでワクワクします。

さらにもう一つ、昨春は、スミレの砂糖漬けを使って琥珀糖を作ってみました。琥珀糖は、寒天に砂糖を加え乾燥させて固めた和菓子。一説によると、何と江戸時代に誕生したお菓子だそうですが、ここ数年、カラフルな見た目の美しさから「食べる宝石」といわれ、女子に大人気ですね。老舗の和菓子屋さんやインスタグラムでも度々見かけるようになりました。

ずっと気になっていたので作り方を調べてみたところ、材料も手順もシンプルなことが分かり、早速作ってみることに。そこでふと、カラフルな色の代わりにスミレの砂糖漬けをトッピングすることを思いつきました。出来上がった琥珀糖は、ガラスのような透明感にスミレの砂糖漬けがキラキラ輝いて、とても綺麗。薄紫色のスミレの色と相まって、思いのほか品よく仕上がりました。

外側はシャリッと、噛むとプルルンとした独特な食感が味わえる琥珀糖。甘さも控えめで癖のない味は、緑茶やほうじ茶などの日本茶や紅茶にもぴったりです。
今年の春も、こんなスミレの琥珀糖をたくさん手作りして、僅かな乙女心をくすぐるような華やいだひとときを過ごせたらと思っています。
Credit
写真&文 / 前田満見

まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。
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