皆さんは、ヤマユリという植物についてご存じでしょうか。日本原産のユリで、夏に豊かな芳香を放つ白く豪奢な大輪花を咲かせる球根植物。球根の植え時は2〜3月です。この記事では、ヤマユリの特徴や基本的な育て方についてご紹介します。
目次
ヤマユリの主な特徴
まず、ヤマユリはどんな姿で育ち、どんな魅力がある植物なのか。基本情報や特徴について解説します。
基本情報
ヤマユリ(Lilium auratum)はユリ科ユリ属の球根植物です。日本原産で、東日本を中心に本州の平地から山地に分布しています。自生地によって箱根百合や吉野百合、叡山百合、鳳来寺百合などといった名前で呼ばれることもあります。
ユリの仲間では最大級の大きさで、草丈は約1~2mほどにもなります。耐暑性や耐寒性は、ともに普通程度です。
ヤマユリは漢字で「山百合」と書き、文字通り山で咲く百合が語源です。ユリの代表的な園芸品種‘カサブランカ’を作るためにも利用された花です。
花言葉
ヤマユリの花言葉は、「荘厳」「威厳」「純潔」「飾らぬ美」「飾らない愛」「人生の楽しみ」「高貴な品性」など。
「荘厳」や「威厳」、「高貴な品性」などは、ユリの女王とも称されるヤマユリの花姿からつけられたものでしょう。一方で、山地でひっそりと咲く姿から「飾らぬ美」や「飾らない愛」、山でヤマユリを見つけた人の喜ぶさまから「人生の楽しみ」という花言葉がつけられたといわれています。
花の特徴
ヤマユリの開花時期は7~8月。花径20cmほどの大きな花を、1本の茎あたり1~10輪ほど咲かせます。
花の色は白地に黄色い筋と帯状の斑点が入るものが多いですが、ほかにもさまざまな色があります。花には強い香りがあり、開花時には芳香が漂います。
球根(鱗茎)の特徴
ヤマユリの球根は、うろこ状の鱗片が何重にも重なった鱗茎(りんけい)と呼ばれる形をしています。
球根は百合根(ゆりね)とも呼ばれ、苦みが少ないため古くから食用や薬用として用いられてきました。百合根は、ユリの中でもオニユリやコオニユリ、ヤマユリの鱗茎を指します。食用の百合根と、観賞・園芸用の百合根をとでは、栽培時に使用する農薬が異なります。上記の種類の球根でも園芸用として販売されているものは食べないようにしましょう。
ヤマユリの育て方のポイント
ヤマユリの姿や自生する場所、特徴に由来する花言葉などをご紹介しました。ここからは、さらに自分で咲かせるにはどんなことに気をつければいいか、ヤマユリを育てるのに適した場所や失敗しないポイントを詳しく解説します。
栽培する場所や土壌
ヤマユリは、鉢植えでも地植えでも育てることができます。植える際は、半日陰や明るい日陰になる場所を選びましょう。終日強い光が当たるような環境は苦手なので注意が必要です。
水はけのよい土壌を好むので、地植えの場合、水はけが悪い場所であれば赤玉土や腐葉土・砂などを混ぜて土壌改良をします。鉢植えの場合は、市販の球根用植物の土や草花用培養土を使うとよいでしょう。
水やり
ヤマユリの水やりは、地植えの場合は、基本的に自然の降雨のみで十分です。雨が降らない日が続いた時のみ水やりをします。
鉢植えの場合は、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与えます。表土が乾かないうちに水やりを続けていると球根が腐ってしまうことがあるため注意しましょう。
肥料
ヤマユリの植え付けの際には、元肥として緩効性化成肥料を混ぜておきます。さらに芽が出る4〜5月と、6月に追肥します。追肥は緩効性化成肥料を与えるか固形肥料を置き肥します。
開花後から9月までは、薄めた液体肥料を7〜10日に1回を目安に与え、球根を太らせるようにしましょう。
植え付け
ヤマユリの植え付けの適期は2〜3月です。
地植えの場合は球根の3倍ほどの深さを掘って植え、たっぷりと水やりをします。
鉢植えの場合は深さのある鉢を選びます。背が高くなるユリは、鉢植えにすると倒れやすいので、なるべく重さのある鉢を選びましょう。
新芽が出てくる5〜6月には支柱を立てて、成長してきたらゆるく括りつけます。
チューリップなどの球根植物は球根の下からのみ根が出ますが、ユリは球根の上から出た茎の途中からも「上根(うわね)」と呼ばれる根が出ます。浅く植えてしまうとこの上根が伸びるスペースがなくなってしまうので、浅植えにならないように気を付けましょう。
植え替え
鉢植えの場合は、1年に1回植え替えを行います。ヤマユリは連作障害が起こりやすいため、鉢の植え替えの際は、用土を新しいものに変えます。
地植えの場合も、3〜4年に1回植え替えるとよいでしょう。地植えでは連作障害を防ぐために植える場所を変えます。同じ場所で栽培したい場合は、植え場所の土を周囲の土とよく混ぜてすき込みます。腐葉土などの有機質資材を加えることも連作障害の予防につながります。
多様な植物が生えているでは、毎年同じ場所で開花しています。庭などでも、周りにさまざまな植物が植えられているようなところでは、連作障害が出ず、同じ場所で栽培できることもあります。
日常のお手入れ
種子を採取しない場合は、花後は花首の付け根から摘み取ります。種子を採取する場合でも、いくつかの花がらだけを残して、ほかは取り除きましょう。落ちた花びらもこまめに取り除きます。
花後も葉っぱは残しておきます。冬になるまでは葉を残して光合成させ、球根を太らせるようにしましょう。
注意すべき病害虫
ヤマユリを育てる際に注意が必要な病気は、ウイルス病や球根腐敗病などです。
ウイルス病にかかると葉や花弁に濃淡のまだら模様ができ、葉がちぢれて生育が悪くなります。治療はできないので、発病したら速やかに発症した個体と用土を処分しましょう。
球根腐敗病は、土中の球根が腐ってしまって発芽しない病気です。保管している球根でも起こりますので、注意しましょう。
害虫ではアブラムシがつきやすいです。できるだけ風通しがよい場所で育て、アブラムシは見つけ次第すぐに駆除しましょう。葉が展開してきたら、株元にオルトランなどの浸透移行性の薬剤をまいておいてもよいでしょう。
ヤマユリの増やし方
ヤマユリの増やし方には、種まき、分球、木子(きご)、鱗片挿しがあります。ここではそれぞれの方法について詳しくご紹介します。
種まき
種まきは4つの増やし方の中で、最も時間がかかる方法です。植えてから開花まで5~6年かかります。
花後に花を摘まずに育てておくと実ができ、10〜11月に種を採取できます。種を採ったらすぐに種まきをする「とりまき」をしましょう。
重ならないように種を播いたら、薄く覆土をして乾燥しないように管理します。種は乾燥させて保存することもできます。
分球
分球は球根植物を増やす、最も一般的な方法です。
分球の適期は2〜3月で、植え替えと同時に行うと効率がよいでしょう。掘り上げた球根に2つ以上芽が出ていたら分球できます。球根を分けて新しい用土に植え付けて増やします。手軽で失敗の少ない方法ですが、一度にたくさん増やせないことがデメリットです。
木子(きご)
木子(きご)とは、球根植物で親球の周りにできる子球についている、さらに小さな球根のことです。
掘り上げた球根に木子がついていたら、これを新しい用土に植えて増やすこともできます。木子は小さいので、植えてから開花するまでには2〜3年かかります。
鱗片挿し
鱗片挿しは、充実した球根の外側の鱗片をはがして用土に挿す増やし方です。
はがした鱗片の上下が逆さにならないように注意して、全体の2/3ほどを土に埋めます。鱗片挿しの適期は、花が咲いた1カ月後から9月頃までです。
植えた鱗片は成長して球根になります。植えてから開花までは、最低でも3年ほどかかります。
ヤマユリの主な品種
ヤマユリの代表的な品種をご紹介します。
サクユリ
サクユリは伊豆諸島のみに分布している品種です。草丈は2m、花径は30cmと非常に大型の品種で、交配親としてもよく利用されます。
ベニスジヤマユリ
ベニスジヤマユリはヤマユリの突然変異体です。花びらに鮮やかな紅色の筋が入るのが特徴です。
シロホシヤマユリ
シロホシヤマユリの特徴は、斑点が白く花弁の色と同化して、すっきりとした見た目をしていることです。名前のシロホシも白い斑点に由来しています。
育て方のコツを知り美しいヤマユリを栽培しよう
ヤマユリは日本原産の大型のユリで、美しい花姿と育てやすさが魅力の植物です。ぜひこの記事を参考に、ご自宅の庭やベランダなどで育ててみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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