クリスマスツリーとして冬に注目されるコニファー類は、一年中常緑を保つカラーリーフプランツとしても重宝する庭木です。海外では古くから品種改良が進み、葉色や樹形のバリエーションが豊富。中には表情豊かな“葉芸”が楽しめるレアカッコいい品種も登場! 定番品種から、国内では流通が極めて少ない魅惑品種まで8種を、分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがセレクト。庭で本物のクリスマスツリーを楽しむ夢を叶えたり、庭のおしゃれ度アップに貢献するコニファーは、今が買い!
目次
耐寒性強く一年中美しい姿を楽しめるオーナメンタル・カラーリーフ、コニファーの魅力
多くの植物が葉を落としてしまう冬の庭を、どう魅せるか。園芸家にとってはとても悩ましく、答えを模索し続けるべき難しい課題といってもいいかもしれませんね。
今回は、年間通じて常緑を保ち、冬の庭でも美しい葉色と樹姿を楽しめ、寒冷地での「オーナメンタルプランツ・カラーリーフプランツを使ったガーデニング」の主役としても期待できる美しいコニファーの仲間をご紹介します。
「オーナメンタルプランツを使ったガーデニング」というと、上写真のようにアガベなどの幾何学的ロゼットの植物や、カンナやバショウなどアーキテクチュラル(建築的)な植物を使った庭を連想する方が多いかもしれませんね。こういった植物はトロピカルな雰囲気があるため、寒冷地ではオーナメンタルプランツの植栽はちょっと難しいのでは、と思っている方も多いことでしょう。
しかし、上写真に見られるような、近年注目を集めているオーナメンタルグラスや花序や花殻の形状などがオーナメンタルな冬季落葉性の宿根草を多く用いた、いわゆる「ナチュラリスティックプランティング」の植栽は、むしろ夏場に冷涼な地域のほうが、高温多湿で傷んだり徒長して植物のオーナメンタルな形状が乱れることなく成功しやすいですし、本記事でご紹介するピセアなどのコニファー類も、冷涼な地域のほうが綺麗に育てやすいです。
コニファー類は常緑のシンボリックな庭木として、海外でも古くから品種改良が進められています。クリスマスツリーに用いられるモミの木のように、絵に描いたような円錐コーン状の「樹」のイメージの樹形や、イトスギのような尖塔のように屹立する樹形に代表される幾何学性を感じさせる樹種、不気味だったりアーティスティックな雰囲気を感じさせる枝垂れ樹形や這い性の品種など、樹形のバリエーションも豊富ですし、水色葉や黄金葉などのカラーリーフの品種も多く作出されています。
そして、コニファーは草花よりも格段に大きく育ち葉の付き方も密なので、庭の中でオーナメンタル形状の巨大な色のマッス(塊)となって彫刻的な美しさを発揮します。
柔らかい質感の宿根草植栽の中に、いくつかコニファーのカッチリした形状を織り込むことで、絶好のフォーカルポイントにすることもできますね。
では耐寒性が強くて、オーナメンタル樹形や美しい葉色を楽しめるおすすめのコニファー類を、乙庭セレクトでご紹介します。まだ日本国内では流通が極めて少ない魅惑品種も含め、先取り情報もたっぷりですよ。
セレクト1
ピセア・プンゲンス (コロラドトウヒ) ‘ホープシィ’
アメリカ コロラド州~ワイオミング州あたりのロッキー山脈地域原産種 ピセア・プンゲンス の“ワックスがかったような質感”の水色葉がたいへん美しい有名品種です。 葉色の美しいコニファーというと、真っ先にこの品種を思いつく方が多いことでしょう。
幻想的な銀灰水色の葉とずんぐりと整った円錐樹形が美しく、成木の円錐樹形も、幼木時のモコモコしたテディベアっぽい樹形も可愛い雰囲気があり、幼木から年数をかけて育てても楽しいですよ。
大きく育てればそれだけで存在感抜群のシンボルツリーになりますし、冬景色にとても似合うので、クリスマスの季節にオーナメントなどで飾ってもスペシャルな感じになるでしょう。
また成木になると球果(いわゆる松ぼっくり)も実るので、収穫してゴールドやシルバーに塗装すればオーナメントなどにも使えます。
ピセア・プンゲンスの仲間は、日本の夏の高温多湿はやや苦手です。冷涼地域のほうがキレイに育てやすいので、寒冷地でのオーナメンタルガーデンで絶好の見どころになる逸品といえるでしょう。
【DATA】
■ 学 名:Picea pungens ‘Hoopsii’
■ マツ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:やや弱い
■ 日 照:日向(温暖地では西日を避けられる場所のほうが安全)
セレクト2
ピセア・アビエス (ヨーロッパトウヒ) ‘ゴールドドリフト’
春の新芽が特に美しく、輝くような明るい黄金葉で芽吹き、ピセア属特有のちょっと重さを感じさせる、ぼってりとした枝葉の姿に加え、ドロッととろけたような枝垂れ性の樹形が個性的な品種です。
夏場は若干葉色が黄緑がかりますが、秋以降も黄金色の発色が冴えてきます。下の写真は2022年11月に撮影した姿ですが、枝先を中心に美しい黄金色になっていますね。
春の新芽も美しいですが、気温が下がる晩秋~冬の間も黄色みが冴えてウィンターガーデンの見どころになります。とても素敵な品種なのですが、日本国内ではたいへん生産量が少なく、とても手に入りにくいレア品種です
また本種 ‘ゴールド・ドリフト’ は、枝垂れ樹形のドロッととろけた形状がちょっと不気味なようでもあり、仕立て方でどれ一つとして同じ樹形にはならないため、唯一無二の個性や芸術的な観賞価値という面でも植栽の見どころになります。
上写真は‘ゴールド・ドリフト’ と同じピセア・アビエスの枝垂れ品種 ‘インヴェルサ’ 。コニファーの枝垂れ品種の多くは、写真に見られるように支柱をはずした位置から主幹が下向きに垂れて伸び始め、独特な個性のある樹形になっていきます。
ピセア・アビエスの仲間は、前出のプンゲンス系の品種よりは全般に耐暑性があり、夏の酷暑地、乙庭のある群馬県前橋市でも、特に弱ることなく夏越しできます。
【DATA】
■ 学 名:Picea abies ‘Gold Drift’
■ マツ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向(温暖地では西日を避けられる場所のほうが安全)
セレクト3
ピセア・アビエス (ヨーロッパトウヒ) ‘アクロコナ’
若木のうちからたくさん実る球果(松ぼっくり)の美しさを楽しめる、比較的矮性の品種です。春、新枝の先に、葉色との対比がとても美しい燕脂色みの花をたくさん咲かせます。深緑色の針葉と燕脂色みの花色との対比もとても美しい品種です。
そして花後、夏に向けてベージュ色みの球果が熟し乾いていく様子や、枝先に球果がたくさん実ることでやや枝垂れたような枝ぶりに見える、こなれ感のある樹形など、大人っぽい、あるいは通好みな観賞ポイントをたくさん兼ね備えています。
また、やや矮性の性質から生育がやや緩慢で、大きく育ちすぎて困ってしまうようなこともなく、日本の都市部の立て込んだ住宅地の庭事情にも合いやすいでしょう。
樹全体のシルエットは、コニファーらしいクリスマスツリー状の樹形となり、庭のシンボルツリーとしてだけでなく、シーズンには地植えのクリスマスツリーとしても楽しめます。 日本国内ではたいへん生産量が少なく、とても手に入りにくいレア品種です。
【DATA】
■ 学 名:Picea abies ‘Acrocona’
■ マツ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向(温暖地では西日を避けられる場所のほうが安全)
セレクト4
アビエス・コンコロール (コロラドモミ) ‘カンディカンス’
前出のピセア‘ホープシィ’と比較すると知名度は劣るかもしれませんが、じつは‘ホープシィ’よりも白みが強いパウダーブルー色の針葉がとても美しい、注目の魅惑品種です。
アビエス属はいわゆる「モミの木」の仲間です。本種、‘カンディカンス’は、この上なく美しい白水色の葉色はもちろんのこと、耐暑性もあり、ピセア‘ホープシィ’がキレイに育ちにくいといわれる日本の温暖地での栽培にも期待できます。
ゆっくりと樹高5m程度のコニファーらしい円錐形に茂る樹形も美しく、成長も緩慢で、密集した日本の都市住宅の庭環境にも合います。
針葉も比較的柔らかく、触ってもあまり痛くありません。些細なことかもしれませんが、これは実際に栽培する上では大きなメリットといえるでしょう。
【DATA】
■ 学 名:Abies concolor ‘Candicans’
■ マツ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向(温暖地では西日を避けられる場所のほうが安全)
セレクト5
アビエス・コレアナ (チョウセンシラベ) ‘シルバーロック’
銀水色の葉裏を見せながら内巻きにカールする針葉が作り出す枝姿が他に類を見ない個性的な存在感を発し、コニファーらしい円錐樹形もオーナメンタルなチョウセンシラベのレアな銀葉品種です。
アビエス・コレアナは「チョウセンシラベ」とか「コレアナモミ」などの呼び名でも知られる種で、その名の如く朝鮮半島などの東アジア地域原産種です。日本の気候にも合い育てやすいので、日本の温暖地ではやや育てにくい‘ホープシィ’などよりも実践的に使える品種です。
本種は、内側にカールする葉姿が本当に個性的で、なにげに庭の来訪者の話題の的になる素敵な品種です。このような内側カールの“葉芸”は、ほかにはあまり類を見ないですよね。遠目には葉裏の白っぽさが目立ち、近くで見るとこの“カール芸”の風変わりな様子を楽しめます。
多様な観賞価値と話題のネタになる特徴を兼ね備えていて、私自身好んで植栽案件に使用しています。
アビエスも球果(いわゆる松ぼっくり)がオーナメンタルで美しい属です。ある程度成木にならないと球果は実りにくいのですが、熟す前の色みも美しいですし、完熟して明褐色に乾いて松笠が開いた球果を収穫してメタリックカラーのスプレーで着彩すれば、手作りのクリスマスツリーオーナメントとしても使えますよ。
【DATA】
■ 学 名:Abies koreana ‘Silberlocke’
■ マツ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向(温暖地では西日を避けられる場所のほうが安全)
セレクト6
アビエス・コレアナ (チョウセンシラベ) ‘オーレア’
黄金色の短針葉が枝に密生する、とても美しい品種です。本種は基本的な特性として黄金葉の品種ですが、通年黄金葉というわけではなく、季節ごとにかなり大胆に葉色が変わります。その移ろいも美しく、私自身とてもお気に入りの品種です。
上写真は2022年11月下旬に撮影した晩秋の葉色。とても輝かしい黄金葉ですね。本種は、比較的冷涼な晩秋から冬にかけて黄金葉となり、早春に向けて、枝元のほうからとてもニュアンスに富んだ深い灰青緑色へと葉色が移ろっていきます。
そして春の新芽の色みが、一年の中でも最も鮮やかで新鮮な黄金色となり、枝元の灰青緑葉と枝先の輝かしい黄金葉とのコントラストが見事です。
本種も前出のアビエス2種と同様、モミの木らしい中木サイズの円錐樹形に育ちます。長い年月をかけた最終樹高は中木サイズになりますが、生育スピードはかなり緩慢なので、広いスペースがなくとも比較的導入しやすいといえるでしょう。
【DATA】
■ 学 名:Abies koreana ‘Aurea’
■ マツ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向(温暖地では西日を避けられる場所のほうが安全)
セレクト7
ケドルス・アトランティカ (アトラスシーダー) ‘グラウカペンデュラ’
灰水色の短針葉に枝が覆われる枝姿や枝垂れ樹形がワイルドでカッコいい北アフリカ原産種。本記事でご紹介しているピセアやアビエスの品種よりも耐暑性があり、温暖地でも比較的育てやすいです。
北アフリカ、アトラス山脈地域などのやや乾燥した山地を起源とするため、湿った環境を好みません。日当たりと水はけのよい所で管理するとよいでしょう。
日本の気候環境では、同様に乾燥気味の日向で育てるアガベやユッカ、耐寒性のサボテンなどと組み合わせてもよく似合います。
アトラスシーダーは耐寒性がやや弱いといわれることもありますが、私が知る限りでは寒冷地の長野県軽井沢町でも庭園植栽事例があります。冬季最低気温マイナス8℃程度までの地域であれば、栽培可能でしょう。
【DATA】
■ 学 名:Cedrus atlantica ‘Glauca Pendula’
■ マツ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い(寒冷地以外)
■ 耐暑性:強い
■ 日 照 :日向
セレクト8
ジュニペルス・コムニス (セイヨウネズ) ‘ホーストマン’
球果がアロマテラピーの精油やお酒のジンの風味づけに使われ、「ジュニパー」という英名でもお馴染みのセイヨウネズの枝垂れ品種です。
振り袖をだらーんと垂らしたような樹形が、西洋の怖いおとぎ話の挿絵に描かれるおどろおどろしい森の雰囲気があり、植栽の中でもひときわ異彩を放ちます。
幾何学樹形のコニファーと組み合わせても樹形のコントラストがとても際立ちますし、落葉樹と組み合わせても、冬季落葉したときに本種の姿があらわになることで、あっと驚くような植栽効果を演出できます。
本種 ‘ホーストマン’ は品種としてはまだ日本ではたいへん手に入りにくいのですが、基本種のセイヨウネズ自体は日本の気候環境でもさほど栽培は難しくはないので、庭植えには有望な樹種といえるでしょう。
ジュニペルスの仲間は、植え付け時に根をいじられるのをたいへん嫌いますので、根鉢を崩さないように注意して植え付けましょう。
主幹に支柱を添えてまっすぐに育てると、円錐のコニファー樹形の外枠が溶けたような感じのシルエットになります。主幹の支柱をはずせば、主幹も枝垂れてうなだれた亡霊のようなシルエットにもなります。いずれにせよ、現実の庭ではなかなか演出しにくい寓話的な雰囲気があり、たいへん面白い品種だと思います。
日本国内では、まだほとんど流通がなく、2022年末の時点ではたいへん激レアな品種です。記事を最後までお読みいただいた方にのみ先取り情報としてご参考まで。
【DATA】
■ 学 名:Juniperus communis ‘Horstmann’
■ ヒノキ科
■ 主な花期:春~初夏
■ 樹 高:5m程度 (日本で庭栽培した場合の標準的最終樹高)
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向
「冬がなければ、春はそれほど快適ではないだろう」
(アン・ブラッドストリート 詩人 1612頃 – 1672)
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -
おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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