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ナチュラル or オーナメンタル、どちらの植栽にも似合う! 秋植え球根「シラーの仲間」10選【乙庭Styleの植物39】
今人気の2つのガーデンスタイル「ナチュラル植栽」と「オーナメンタルな植物を印象的に用いる植栽」。そのどちらにも効果的に取り入れることができる秋植え球根植物、シラーの仲間に注目! 植えっぱなしで毎年楽しめ、春に空色や青紫色、白色などの爽やかな色合いの美しい穂状の花を咲かせる人気の球根植物です。分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがお届けする連載「ACID NATURE 乙庭 Style」。今回は、購入時期を迎えた秋植え球根のシラーの仲間を10品種ピックアップ! その魅力と性質をご紹介します。
目次
ナチュラルにも、オーナメンタルにも、両植栽に似合うシラーの仲間
今回は、種類を的確に選ぶことで、現代植栽の2つの大きな流れであるナチュラル植栽とオーナメンタルな植物を印象的に用いた植栽のどちらにも効果的に取り入れることができる秋植え球根植物、シラーの仲間をご紹介します。
シラーの仲間というと、早春咲きの小型種 シラー・シベリカや、チューリップなどと合わせて春の花壇に植栽されることの多い普及種のシラー・カンパニュラータ(Hyacinthoides hispanica)を思い浮かべる方も多いと思います。
シラーは2022年現在、キジカクシ科に分類されている植物です(過去にユリ科やヒヤシンス科に分類されていた時期もありました)。ヨーロッパやアフリカ、中東地域を中心に日本原産のツルボなども含めて世界の広範囲な地域に起源をもつ約30~80種からなる属です。
原種の自生地も森林地帯や草原地域、海岸など多様な気候風土にわたります。このように世界の多様な地域・気候の中で、その場所の環境に適応してきた植物なので、同じシラー属の中でも半日陰の森林のような場所に合うもの、乾燥ぎみの日向で元気に生育するものなど多様性に富んでいます。
植物は原生地の気候環境に適応した姿に進化を遂げたものなので、同属の種であっても林床や乾燥地など、それぞれの出身地の風情・雰囲気を感じさせてくれます。
原産地はどこで、どんな場所に生えている植物なのか。それを少し念頭に置くことで、庭に植える際に、どんな場所にどんな植物と組み合わせてたらいいかのヒントが得られますね。
シラーは苗では流通しない秋植え球根植物。買い時を逃さないように!
シラーは宿根草植栽に織り交ぜて、植えっぱなしで楽しめる秋植え球根植物です。宿根草のように苗での流通はほとんどなく、秋の一時期にのみ球根の形で流通するので、買い時を逃さないように注意しましょう。
いざ植え時の秋本番になってから購入しようとしても、お目当ての品種が園芸店やネットショップですでに完売になっていて手に入らないという残念なことも結構起こりがちです。
本記事でご紹介するシラー属の植物、比較的有名種のシベリカを除いては、数ある秋植え球根植物の中でもあまりメジャーではなく、流通量も多くありません。私の店、「ACID NATURE 乙庭」でも行っておりますが、真夏から始まるネットショップの秋植え球根の早期予約を上手に活用すると買い逃しを回避できておすすめですよ。
では、ナチュラルな植栽、オーナメンタルな植栽に取り入れてみたいシラーの仲間を乙庭セレクトでご紹介します。
セレクト1
シラー・シベリカ
ロシア南西部、コーカサス地方、トルコに自生する、深い暗青紫色の花が美しい小型の原種です。種小名の「siberica」は「シベリアの」を意味するラテン語ですが、名前に反してシベリアには自生していないのも面白いところ。
日本でも1990年代から園芸店にも流通するようになり、シラーの仲間の中では比較的よく知られている種といえるでしょう。
関東地方では3月頃、草丈10〜15cmの可愛らしい草姿で、ヒヤシンスの花序を小さくか弱く、そしてまばらにしたような楚々とした雰囲気の暗青紫色の花を咲かせます。
早春の花の少ない時期に可憐に咲く花は、春の訪れを予感させてくれますね。落葉樹の樹冠下など林床の環境に近い場所によく似合います。
性質は丈夫で、日本の気候環境にも順応し、植えっぱなしで育てることができます。クリスマスローズの仲間や早咲きのスイセン小型原種などと合わせてみてはいかがでしょうか。
上写真のような紫色の外皮をまとった小球根です。
【DATA】
■ 学 名:Scilla siberica
■ キジカクシ科
■ 主な花期:早春(関東平野部では3月頃)
■ 草 丈:10~15cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト2
シラー・シベリカ ‘アルバ’
前出のシベリカの白花品種です。早春に咲く純白花は清楚な印象がより強く、まさに「春の妖精」のような神秘的な雰囲気を感じさせてくれますね。
白花となる本品種の球根は、青紫花の基本種の球根とは異なり、白ベージュ色っぽい外皮に包まれています。このように花色と球根外皮の色みが符合する特徴は、ヒヤシンスの仲間にも見られます。こういったことは園芸の専門書でもほとんど言及されることはないので、実際に球根を植えた人しか知らないトリビア知識かもしれませんね。
【DATA】
■ 学 名:Scilla siberica ‘Alba’
■ キジカクシ科
■ 主な花期:早春(関東平野部では3月頃)
■ 草 丈:10~15cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト3
シラー・ビフォリア
ヨーロッパ南部~トルコ・シリアにかけての岩の多い山岳地帯などで自生が見られる青紫花の原種です。
前出のシベリカにやや似ていますが、本種は種小名「bifolia (2枚の葉の意)」のごとく、葉の数が2枚(3枚出ることもある)と少ないことから見分けられます。
また本種は花茎が赤紫褐色がかる傾向もあり、花色の青紫色とのコントラストが美しく、シベリカとはまた違った美観を備えているといえるでしょう。性質や栽培方法は、おおむねシベリカに準じます。
本種の球根は外皮が紫色のシベリカと異なり白ベージュ色、よりコロッとした丸みの形状なので、その点でも区別できます。
【DATA】
■ 学 名:Scilla bifolia
■ キジカクシ科
■ 主な花期:早春(関東平野部では3月頃)
■ 草 丈:10~15cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト4
シラー・ミシュチェンコアナ
白地の花弁中央にひと筋、淡青紫色のラインがスッと入る花色がたいへん魅惑的な、南コーカサス地方とイラン北部原産の小型種です。
日本では「ミスクトケンコアナ」などいろいろにカタカナ表記される、とても読みにくい名前が逆に印象に残る種ですね。種小名の「mischtschenkoana」は、英語圏でもたいへん発音が難しいとされる名前ではありますが、この種小名はロシアの植物学者Pavel Ivanovich Mishcenkoにちなんだものなので、本記事では由来者の名前の読みに近いと思われる「ミシュチェンコアナ」と表記しています。
本種は、セレクト8でご紹介する プシュキニア・スキロイデス 変種 リバノティカに花色や姿がよく似ていますが、関東では主に3月半ば頃に開花するプシュキニアに対し、本種ミシュチェンコアナは、スノードロップの開花後に入れ替わるくらいのタイミングで、2月の後半~3月上旬に開花します。
一つひとつの花はプシュキニアよりも大きく、神秘的な花色も相まってとても美しい植物です。その他の性質や栽培方法は、おおむねシベリカに準じます。
【DATA】
■ 学 名:Scilla mischtschenkoana
■ キジカクシ科
■ 主な花期:早春(関東平野部では2月下旬~3月上旬)
■ 草 丈 :10~15cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト5
シラー・リタルディエリ
ムスカリの花序をよりゆるくナチュラルにしたような雰囲気の、淡い青紫色の花。バルカン半島のスロベニア~クロアチアあたりを原産とする美しいシラーです。栽培が難しいわけではないのですが、日本ではほとんど流通のない珍しい植物です。
青紫色のナチュラルな雰囲気の花は、ホスタなど山野草的な植物ともとてもよく似合います。植えっぱなしで宿根草のように育てることができます。
セレクト10でご紹介する日本の山野にも自生する秋咲き種ツルボ(上写真)のピンク花を青紫色にしたような雰囲気ともいえますね。ナチュラルガーデンの植栽にもとてもよく似合い、かつ珍しい雰囲気も兼ね備えていて、さりげなく庭の来訪者の目に留まるでしょう。
【DATA】
■ 学 名:Scilla litardieri
■ キジカクシ科
■ 主な花期:晩春~初夏
■ 草 丈:20~30cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト6
シラー・ペルビアナ
関東地方では5月頃、20cm程度の花茎を伸ばし、径2cmぐらいの星形の小花数十個が傘状に集合して咲きます。直径20cmにもなる青紫色の花序が壮麗な原種です。
本種ぺルビアナは、南欧の地中海沿岸部から北アフリカあたりを原産とする種です。原産地のようにカラッとした日向の環境を好み、ずんぐりしっかりしたシルエットや幾何学造形的な花序の姿から、たとえばアリウム クリストフィなどのように見立ててオーナメンタルな植栽に取り入れることができます。
同じような地域原産のユーフォルビアやフロミスなどのオーナメンタルな宿根草と組み合わせたり、アガベやユッカなどを取り入れた乾燥地系のオーナメンタル植栽に季節感を出す花モノとして取り入れても効果的でしょう。
手のひらいっぱいに、ずっしりと収まるような大きな球根です。性質は丈夫で、明るく比較的乾燥した場所を選べば、数年間は植えっぱなしで育てられます。子球が増えて大株になると花数が少なくなったり花が小さくなりやすいので、数年に一度、掘り上げ分球して植え替えてあげるとよいでしょう。
【DATA】
■ 学 名:Scilla peruviana
■ キジカクシ科
■ 主な花期:春
■ 草 丈 :30~40cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向
セレクト7
シラー・ヒアキントイデス ‘ブルーアロー’
4月頃、上部が神秘的な青紫色となる60〜80cm程度の花茎を伸ばし、日本原産のツルボを巨大にしたような、少しまばらで不思議な空間性を感じさせる青紫色の壮麗な花序を咲かせます。オーナメンタルなフォルムと花の美しさを兼ね備えた、たいへん魅惑的なシラーの大型種です。
本種‘ブルーアロー’は、中近東~イスラエル辺りといった乾燥気候の地域を原産とするシラー・ヒアキントイデス系統の品種です。シベリカ種のような小型種をイメージしやすいシラーの仲間にあって、本種‘ブルーアロー’は開花時の草丈が80cmにもなるビッグシルエット。小型種のシラーとはスケール感が全く異なるダイナミックかつ可愛らしい穂状の花を咲かせます。
本種は花茎の上部も花色と同じような青紫色となり、草姿は全く異なりますが、エリンジウムの仲間のようなレアで神秘的な色みを植栽に提供してくれます。
咲き方も、一つひとつの花が小さい星形のため、他にはあまり類を見ない拡散的な空間性を感じさせる不思議オーナメンタルな個性で、とても目を引きます。やや乾燥ぎみの環境に適し、同じシラーのペルビアナと同じような環境に合うでしょう。アガベやユッカなどと組み合わせると、意外だけれど似合う演出になって面白いです。
球根は大きく、耐寒性もあり、植えっぱなしで自生的に栽培することができます。
【DATA】
■ 学 名:Scilla hyacinthoides ‘Blue Arrow’
■ キジカクシ科
■ 主な花期:春
■ 草 丈 :60〜80cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向
セレクト8 <番外編1>
プシュキニア・スキロイデス 変種 リバノティカ
コーカサスやレバノン、トルコなど西アジア~中東地域の高地原産のシラー属の近縁種です。白地の花弁中央にスッと淡い藍紫色の筋が入る花は、前出のシラー・ミシュチェンコアナにとても似ていて、清楚でおしゃれな雰囲気があります。
本種はスノードロップの開花後期と花期が合うといわれているシラー・ミシュチェンコアナよりは遅く、関東地方では3月の中頃に開花します。
一つひとつの花はミシュチェンコアナよりも少し小さく、花序全体で見ると、ミシュチェンコアナより花数が多く、ヒヤシンスの花序を小さく、花をまばらにしたような姿です。
また、プシュキニアは花弁基部が分裂せずひと繋がりの花冠となる点が、花弁1枚1枚が独立しているシラー属と異なるため、見分けることができます。
シラー・シベリカ同様、植えっぱなしでも定着し育てやすいです。ムスカリなど他の小型球根類と組み合わせてもよく似合いますよ。
シラー・シベリカよりも一回り小さく、アイボリー色の球根です。
【DATA】
■ 学 名:Puschkinia scilloides var. libanotica
■ キジカクシ科
■ 主な花期:早春(関東平野部では3月頃)
■ 草 丈:10~15cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:普通
■ 日 照:日向~半日陰
セレクト9 <番外編2>
ヒアキントイデス・ノンスクリプタ (=イングリッシュブルーベル)
「イングリッシュブルーベル」の英名でも知られ、イギリスのナチュラルガーデンで春の見せ場として自慢げに植栽されることも多い、野趣と清々しい美しさを兼ね備えた北西ヨーロッパ原産種です。
イギリスでも古くからある森林地帯に生息し、「ブルーベルの森」と呼ばれる青紫色の花の絨毯を作ります。その幻想的な風景は、多くのガーデニングファンの憧れでもありますよね。
以前はシラー属に分類されていましたが、2022年現在は独立した別属として扱われています。
性質は丈夫で、日本の気候環境下でも比較的育てやすいです。
落葉樹の根元などに無造作に散らして植えると原生地っぽい自然な雰囲気を演出できますし、花壇などでまとめて植えれば青紫色のマッス(塊)でガーデンデザイン的に魅せることができます。
【DATA】
■ 学 名:Hyacinthoides non-scripta
■ キジカクシ科
■ 主な花期:春
■ 草 丈:30cm程度
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照 :日向~半日陰
セレクト10 <番外編3>
バルナルディア・ジャポニカ (= シラー・スキロイデス、ツルボ)
日本の北海道~沖縄、朝鮮などの東アジア地域を原産とする植物です。今日の日本でも林縁や堤防の土手、草地など比較的日当たりのよい草地に自生が見られるので、野草としておなじみの方も多いことでしょう。
ツルボは2022年現在は別属扱いになっていますが、旧名はシラー・スキロイデスで、シラー属に分類されていました。花も前出のシラー・リタルディエリを桃紫色にして秋咲き性にしたような感じです。
球根植物ですが、秋植え球根のような姿で園芸店で流通することはなく、主に鉢植えの苗として山野草店などで手に入れることができます。
花の少ない初秋の時期の花モノとしても重宝しますし、日本の気候環境にも合い、庭でも自生的に育てやすいので、「日本の野草」枠ではなく、ガーデニングプランツ見立てで庭に取り入れても面白いでしょう。
【DATA】
■ 学 名:Barnardia japonica
■ キジカクシ科
■ 主な花期:初秋
■ 草 丈:30cm程度
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照 :日向~半日陰
「進歩が生まれるのは、多様性の中の選択からであって、
(ジョン・ラスキン 美術評論家 1819 – 1900)
画一性を保持するからではない」
Credit
写真&文 / 太田敦雄 - 「ACID NATURE 乙庭」代表 -
おおた・あつお/園芸研究家、植栽デザイナー。立教大学経済学科、および前橋工科大学建築学科卒。趣味で楽しんでいた自庭の植栽や、現代建築とコラボレートした植栽デザインなどが注目され、2011年にWEBデザイナー松島哲雄と「ACID NATURE 乙庭」を設立。著書『刺激的・ガーデンプランツブック』(エフジー武蔵)ほか、掲載・執筆書多数。
「6つの小さな離れの家」(建築設計:武田清明建築設計事務所)の建築・植栽計画が評価され、日本ガーデンセラピー協会 「第1回ガーデンセラピーコンテスト・プロ部門」大賞受賞(2020)。
NHK『趣味の園芸』講師。(一社)ジャパンガーデンデザイナーズ協会(JAG)正会員デザイナー。ガーデンセラピーコーディネーター1級取得者。(公社) 日本アロマ環境協会 アロマテラピーインストラクター、アロマブレンドデザイナー。日本メディカルハーブ協会 シニアハーバルセラピスト。
庭や植物から始まる、自分らしく心身ともに健康で充実したライフスタイルの提案にも活動の幅を広げている。レア植物や新発見のある植物紹介で定評あるオンラインショップも人気。
「太田敦雄」公式ブログ https://note.com/acid_nature_0220
プロフィール写真/田中雅也
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