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ナチュラリスティックな植栽によく似合う秋植え球根植物「カマッシア」

ナチュラリスティックな植栽によく似合う秋植え球根植物「カマッシア」

New Africa/Shutterstock.com

世界的なムーブメントとして関心が高まっている“ナチュラリスティック”な植栽スタイルによく似合う秋植え球根植物、カマッシアに注目! 植えっぱなしで毎年楽しめ、春に空色や青紫、白色などの爽やかな色合いの美しい穂花を咲かせる人気の球根植物です。分類の垣根を取り去った植物セレクトで話題のボタニカルショップのオーナーで園芸家の太田敦雄さんがお届けする連載「ACID NATURE 乙庭 Style」。今回は、購入時期を迎えた秋植え球根のカマッシアを6品種ピックアップ! その魅力と性質をご紹介します。

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ナチュラリスティックな植栽によく似合う秋植え球根植物 カマッシア

カマッシア
Judith Andrews/Shutterstock.com

2022年現在、植栽手法の世界的なムーブメントとして注目が高まっているナチュラリスティックな宿根草植栽によく似合う素敵な秋植え球根植物、カマッシアの仲間をご紹介します。

カマッシアの詳しいプロフィールは後述しますが、関東地方では4月下旬~5月半ばにかけて、空色や青紫、白色などの爽やかで美しい穂花を咲かせてくれます。草丈60~70cm程に成長して花を咲かせる種もあり、高さの出る宿根草がまだ少ない時期に植栽を彩ってくれる花として重宝しますよ。

カマッシアの球根

カマッシアは一般的な宿根草とは異なり、一年中苗が手に入るわけではなく、秋の限られた期間だけ球根の形で流通する植物です。

朝晩涼しくなり、秋の気配も感じられる9月下旬から10月上旬にかけては、園芸家のみなさんも来年春の庭に向けて、植栽プランを練っている時期ではないでしょうか。ぜひ、球根を買うタイミングを逃さず、来春のお庭に活用していただけたらと思います。

ナチュラリスティックプランティングとは

ここで、ナチュラリスティックプランティングという言葉になじみがない方も多いと思うので、ご説明しますね。

みなさんはピィト・アウドルフ氏をご存じでしょうか。ニューヨークの「ハイラインパーク」やイギリス、サマセットのアートギャラリー「ハウザー&ワ―ス」の庭園など、近年、世界的に注目されている植栽スポットのデザインを手がけたオランダ人植栽家です。

イギリス、サマセットのアートギャラリー「ハウザー&ワ―ス」
イギリス、サマセットのアートギャラリー「ハウザー&ワ―ス」。Sergey V Kalyakin/Shutterstock.com

日本でも2022年春、東京都稲城市にピィト・アウドルフ氏デザインのガーデンがオープンしたことでも話題になりましたね。

ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて 1

ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて 2

ピィト・アゥドルフ氏デザインが提案する ‘生命の輝きを放つガーデン’を訪ねて 3

2010年代から「ナチュラリスティックプランティング」と呼ばれ、世界的に注目を集めているのは、このピィト・アウドルフ氏の植栽に代表されるような、その地の風土に合った植物や宿根草を使った植栽手法を主に指します。

※ピィト・アウドルフ氏は、自身の植栽を「ナチュラリスティック」とは称していません。「ナチュラリスティックプランティング」という呼称は、宿根草を主体的に使用して、花後や冬の枯れ姿も美的観賞対象とする、今日世界的に広がりを見せている宿根草植栽ムーブメントについて、メディアによって後からつけられたものです。

ナチュラル
Emils Vanags/Shutterstock.com

ここでちょっと注意したいのが、「ナチュラリスティックガーデン」は「ナチュラルガーデン」ではないということです。

ナチュラルガーデンというと、日本の雑木を多く用いた庭のように、外来の植物を避け、人為的な刈り込みや操作も抑えて、その土地元来の自然に近づけるような庭を指しますよね。より、SDGs的な思想の強い植栽法といえるでしょう。

しかし、ナチュラリスティックな植栽というのは、ピィト氏とその庭の一年を記録した映画「FIVE SEASONS」の中で、氏が自邸の庭の美しい植栽風景について「これは自然の風景ではない。自然の中で見たい風景だ」と述べているように、自然な植栽ではなく、「自然への憧憬を植物で審美的に表現した植栽」なんですよね。その土地に持続的に根付くことと共に、人の手による美的表現も追求されている植栽手法といえます。

ニューヨーク、ハイラインパーク。
ピィト・アウドルフ氏が植栽デザインを手がけたニューヨーク、ハイラインパーク。Albachiaraa/Shutterstock.com

つまり、ナチュラリスティックな植栽は、その土地固有の植物で構成されたありのままの自然の再現でもなく、決してノーメンテ・ローメンテでもないのです。

日本固有の植物だけで構成することにこだわらず、もっと自由な視点で「日本の気候に合う植物」を使って、日々の管理で植栽のバランスを審美的に整えることで「自然の中で見たい」風景を創り出せるのだといえるでしょう。

カマッシアは苗では流通しない秋植え球根植物。買い時を逃さないように!

カマッシアは宿根草植栽に織り交ぜて、植えっぱなしで楽しめる秋植え球根植物です。

カマッシア
Judith Andrews/Shutterstock.com

宿根草のように苗での流通はほとんどなく、秋の一時期にのみ球根の形で流通するので、買い時を逃さないように注意しましょう。

カマッシア属は、チューリップやスイセンのように大メジャーな球根植物ではないので、流通量もあまり多くありません。私の店、「ACID NATURE 乙庭」でも扱っていますが、真夏から始まるネットショップの秋植え球根の早期予約を上手に活用すると買い逃しを回避できておすすめですよ。

日本でも植栽にぜひ取り入れてみたい球根植物 カマッシアのプロフィール

では、本記事の主役であるカマッシアについてご紹介します。カマッシアは、ヒヤシンス科に属する北アメリカ原産の植物です。主にグレートプレーンズと呼ばれる、アメリカ中西部の南北に広がる台地状の大平原地域に生息し、2015年の時点で6種の原種が認められています。

カマッシア
グレートプレーンズでのカマッシア自生風景。Sean Xu/Shutterstock.com

カマッシアという属名は、アメリカ先住民 ネズパース族の言葉で「甘い」を意味する「Qém’es」に由来します。アメリカ北西部の先住部族はカマッシアの球根を採取して、焼きイモのように調理して食料としていたといわれています。

カマッシア
New Africa/shutterstock.com

カマッシアは、日本の関東平野部などでは4月下旬~ゴールデンウィークの頃に、ヒヤシンスの花穂をまばらに背高く伸ばしたような雰囲気の空色、青紫色、白色などの穂花を咲かせます。

原生地では湿った平原地帯に多く群生し、開花時にはお花畑のような群生美のある幻想的な花景色が見られます。

カマッシア
アメリカ、ワイオミング州イエローストーン国立公園でのカマッシア群生開花風景。Danita Delimont/Shutterstock.com

カマッシア原生地の環境は、土壌や緯度などの面から考えても日本での栽培環境と近く、比較的降水量の多い日本でも植えっぱなしで宿根草のように育てやすい植物です。

カマッシアの植栽
水辺の植栽にカマッシアを用いた例。Peter Turner Photography/Shutterstock.com

日本で「ニューペレニアルムーブメント(新宿根草主義)」、あるいは前述の「ナチュラリスティックプランティング」指向の植栽を考えるとき、日本の環境にも合い、野生みとガーデニング的な観賞価値を兼ね備えたカマッシアはとても有用性の高い植物といえますね。

カマッシア
Peter Turner Photography/Shutterstock.com

カマッシアは日向でも半日陰でも、どちらの環境にもよく適応します。日向の宿根草植栽にも、ちょっと山野草的な木陰の植栽にもよく似合い、いろいろな組み合わせで楽しめますよ。

逆に特に開花前の乾燥には弱く、春の芽吹き以降に土壌が乾燥する瞬間があると花茎が萎れてしまい、その年は開花が見られなくなるので、生育時には水切れさせないように注意しましょう。

では庭の植栽にぜひ取り入れてみたいカマッシアの注目種を乙庭セレクトで、以下ご紹介します。

セレクト1
カマッシア・クシキィ

日本の関東平野部あたりでは、5月頃、60cmくらいの花茎を伸ばして30~50個ほどのつぼみをつけ、下から順に美しい空色の野生的な穂花を咲かせる、アメリカのオレゴン州北東部~西中央部あたりを原産とする大変魅惑的な原種です。

カマッシア・クシキィ
Kristine Rad/Shutterstock.com

爽やかな空色の花が植栽の中でも品よく目立ち、全体的な草姿もとても自然な雰囲気があって、野生的な宿根草のように高性の植栽にとてもよくなじみます。

カマッシア・クシキィの球根

【DATA】
■ 学 名:Camassia cusickii
■ ヒヤシンス科
■ 主な花期:春
■ 草 丈:60~70cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向~半日陰

セレクト2
カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’

カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’
Tom Cardrick/Shutterstock.com

前出のクシキィよりもひと回り背が高い70~90cmとなり、クシキィ種よりも濃い青紫みの花を咲かせる、アメリカ、カリフォルニア州中部からカナダ、ブリティッシュコロンビア州に及ぶ北アメリカ西部を原産とするカマッシア・ライヒトリニーのたいへん魅惑的な濃青紫花品種です。

カマッシア・ライヒトリニー ‘カエルレア’の球根

【DATA】
■ 学 名:Camassia leichtlinii ‘Caerulea’
■ ヒヤシンス科
■ 主な花期:春
■ 草 丈:70~90cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向~半日陰

セレクト3
カマッシア・ライヒトリニー ‘アルバ’

前出のライヒトリニー種の中でも、清楚な雰囲気の強い白花品種です。

カマッシア・ライヒトリニー ‘アルバ’
Aleksandr Naumenko/Shutterstock.com

野の花のような雰囲気、あるいは日本の山野草にも通じる雰囲気があり、たとえば半日陰の植栽で、ホスタやコゴミなどのやや大型のシダなどと合わせてもよく似合うでしょう。

【DATA】
■ 学 名:Camassia leichtlinii ‘Alba’
■ ヒヤシンス科
■ 主な花期:春
■ 草 丈:70~90cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照 :日向~半日陰

セレクト4
カマッシア・ライヒトリニー ‘サカジャウィア’

葉縁に美しいクリーム色の覆輪が入り、早春の芽吹きからカラーリーフプランツとしても楽しめる、大変魅惑的なライヒトリニーの斑入り白花品種です。日本ではまだとても流通量が少なく、2022年の時点では比較的手に入りにくい品種です。

カマッシア・ライヒトリニー ‘サカジャウィア’
Nancy J. Ondra/Shutterstock.com

白花の清楚な雰囲気と、覆輪斑入りの細葉のオーナメンタルな装飾性の両方を楽しめ、とても観賞価値が高いです。

カマッシア・ライヒトリニー ‘サカジャウィア’
Aleksandr Naumenko/Shutterstock.com

品種名の ‘サカジャウィア’ (Sacajawea)は、19世紀初頭、アメリカを横断した探検家たちの通訳として働き、彼らの重要な食料となるカマッシアの球根を見つけるのを手伝ったアメリカ先住民族の女性の名前に由来します。

【DATA】
■ 学 名:Camassia leichtlinii ‘Sacajawea’
■ ヒヤシンス科
■ 主な花期:春
■ 草 丈:70~90cm
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照 :日向~半日陰

セレクト5
カマッシア・クアマッシュ ‘ブルーメロディ’

草丈40cm程度のやや小型の草姿で、青紫色の花を咲かせます。葉縁に美しいクリーム色の覆輪が入る、大変魅惑的な斑入り品種です。前出の品種 ‘サカジャウィア’ 同様、早春の芽吹きからカラーリーフプランツとしても楽しめます。

カマッシア・クアマッシュ ‘ブルーメロディ’
Galina Bolshakova 69/Shutterstock.com

本種 ‘ブルーメロディ’ は、カナダからアメリカの西部広範囲を原産とするやや小型の原種、クアマッシュの美しい斑入り品種です。前出のクシキィやライヒトリニー系の品種は草姿が大ぶりなことからオーナメンタルな植栽効果がありますが、本種はそれらよりも球根も草姿もコンパクトで、よりナチュラルな雰囲気があります。

原生地でのクアマッシュの開花風景
原生地でのクアマッシュの開花風景。Danita Delimont/Shutterstock.com

やや草丈の低い宿根草と組み合わせたり、ボーダー植栽の前面に使用すると効果的でしょう。

【DATA】
■ 学 名:Camassia quamash ‘Blue Melody’
■ ヒヤシンス科
■ 主な花期:春
■ 草 丈 :40cm程度
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照:日向~半日陰

セレクト6
カマッシア・クアマッシュ

草丈40cm程度のやや小型の草姿で、園芸に用いられるカマッシアの中でも最も野草的雰囲気を感じさせる原種です。植栽家のポール・スミザーさんも自身の植栽でしばしば使用する素材ですよね。

カマッシア・クアマッシュ
Alex Manders/Shutterstock.com

クアマッシュ種は、カナダからアメリカの西部広範囲に生息し、前出のクシキィやライヒトリニー系の品種よりも球根も草姿もコンパクトで、よりナチュラルな雰囲気があります。

カマッシア・クアマッシュ
visionteller/Shutterstock.com

落葉樹の木陰になるような半日陰などで、ホスタやシダの仲間など、少し湿った土壌を感じさせる宿根草と組み合わせたりするとナチュラリスティックな雰囲気を演出することができます。

【DATA】
■ 学 名:Camassia quamash
■ ヒヤシンス科
■ 主な花期:春
■ 草 丈:40cm程度
■ 耐寒性:強い
■ 耐暑性:強い
■ 日 照 :日向~半日陰

カマッシア
OA2/Shutterstock.com

これは 自然の中で見たいけど 決して見られない景色なんだ

(ピィト・アウドルフ 植栽家 1944 – )

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