長い花茎を立ち上げた先にカラフルな花を多数咲かせるトリトマは、フォルムが美しく、アイキャッチとなる存在感があります。異国情緒を漂わせる草姿から、育てるには気難しいタイプかなと思われがちですが、じつはビギナーでも育てやすい丈夫な植物です。この記事ではトリトマの基本情報や種類、育て方など詳しくご紹介します。
目次
トリトマの特徴
トリトマはツルボラン科のシャグマユリ属(クニフォフィア属)の草花です。原産地は南アフリカで、約70種が分布しています。「出身地が南アフリカなら暑さに強そう」とイメージしがちですが、標高1,000m以上の山地に自生してきた種類が多いため、寒さにも強い性質。日本には明治時代の中頃に伝わったようです。
トリトマは多年草で、一度植え付ければ毎年開花してくれる息の長い植物です。株分けで増やしやすいので、コストパフォーマンスに優れるといえるでしょう。春に新芽を出して生育期に入り、開花は5月中旬〜11月中旬。常緑性多年草で、青々とした茎葉を保ったまま生育が止まって冬を越します。そのまま春まで待つと、春には再び新芽を出して生育を始める……というライフサイクルです。
トリトマの草丈は60〜120cmで、背丈が高くなるうえに株幅も大きく張り出すので、庭に十分なスペースを確保できるか吟味しておくとよいでしょう。花壇に配すなら中段〜後段向きです。花色は黄、オレンジ、白などで、長い花穂を多数立ち上げて咲き上がっていく姿はインパクトがあります。葉は細長く、地際に放射状に広がります。
トリトマの花名や花言葉の由来
トリトマは、以前はユリ科トリトマ属に分類されていた名残で、トリトマと呼ばれています。植物の分類学では、研究が進むたびに科名や属名が変わることがありますが、長く親しまれてきた花の場合、すぐに改名が浸透せず、旧名が流通名としてそのまま残ることがあります。トリトマはその典型例となっています。
トリトマの和名は「赤熊百合(シャグマユリ)」。赤熊とは、武士が兜の飾りに使った赤く染めたヤクの毛のことで、花姿からイメージして名付けられたようです。西洋名は「トーチリリー」で、「たいまつのような」という意味。これも花姿に由来する名です。
トリトマの花言葉は「恋するつらさ」「あなたを思うと胸が痛む」など。これは、トリトマの首部分の茎が曲がりやすいことから、恋に伴う苦しみを表現したものとされています。
トリトマの種類
トリトマは約70種が確認されていますが、日本で主に流通しているのは、オオトリトマ(Kniphofia uvareia)とヒメトリトマ(K.rufa)です。
オオトリトマ
原産地は南アフリカ、ケープ地方です。開花期は6〜10月。つぼみは濃いオレンジ色で、開花が進むと黄色へと変化していきます。80〜120cmの花茎を伸ばし、花穂は15〜20cmになり、ダイナミックな花姿が魅力です。
ヒメトリトマ
原産地は南アフリカ、ナタール地方です。開花期は5〜11月頃。オレンジ色のつぼみから咲き進むと黄色に変化。花茎は60〜80cmで、ややコンパクトにまとまって扱いやすいサイズです。オオトリトマよりも一般に普及しており、園芸品種も出回っています。
トリトマの育て方
ここまで、トリトマの特徴や花名の由来、花言葉、種類などについてご紹介してきました。では、ここからはガーデニングの実践編として、トリトマに適した栽培環境や植え付け、水やりや施肥、日頃の管理、増やし方など、育て方について詳しく解説します。
植え付けの時期
トリトマは、種子の販売はほとんどないので、花苗店やホームセンターなどで苗を入手し、植え付けるところからスタートします。
トリトマの植え付けの適期は、3月下旬〜4月上旬か9〜11月中旬です。ただし、ほかの時期にも苗は出回っているので、花苗店などで入手したら早めに植え付けるとよいでしょう。
適した土
【地植え】
植え付けの約2週間前に、腐葉土や堆肥、緩効性肥料を混ぜ込んで、よく耕しておいてください。土づくりをした後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
市販の草花用培養土を利用すると手軽です。自身でブレンドする場合は、赤玉土小粒6、腐葉土4の割合で配合するのがおすすめです。
日当たりと置き場所
【地植え】
日当たり、風通しのよい場所を好みます。日当たりが悪いと、ヒョロヒョロと間のびして軟弱な株になり、花つきも悪くなるので注意してください。
水はけ・水もちのバランスがよい土壌を好むので、植え場所には腐葉土や堆肥を多めにすき込んでおくとよいでしょう。
暑さや寒さに強いので、一般地であれば酷暑や厳寒対策として鉢に植え替えて適した場所で養生させるといった手間は不要です。周年植えっぱなしにしてかまいません。
【鉢植え】
基本的に日当たり、風通しのよい場所に置いて管理します。日当たりが悪いと、ヒョロヒョロと間のびして軟弱な株になり、花つきも悪くなるので注意してください。
暑さにも寒さにも強いので、一般地であれば戸外に置いて越冬できます。
植え付け
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、根鉢を崩して浅めに植え付けます。最後にたっぷりと水を与えましょう。トリトマは背丈が高くなるうえに、株幅もボリュームがあるので、複数の苗を植える場合は60〜100cmくらいの間隔を取っておきましょう。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、10号以上の鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから草花用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出し、鉢に仮置きして高さを決めたら、、根鉢をやや崩して、少しずつ土を入れて植え付けます。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
水やりの仕方
水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。
真夏に水やりする場合は、朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。気温の高い昼間に行うと、すぐに水がぬるま湯のようになり、株が弱ってしまいます。
また、真冬に水やりする場合は、気温が低くなる夕方に与えると凍結の原因になってしまうので、十分に気温が上がった真昼に与えるようにしましょう。
【地植え】
根付いた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、雨が降らない日が続くようなら水やりをして補います。
【鉢植え】
日頃の水やりを忘れずに管理します。土の表面がしっかり乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がしおれそうにだらんと下がってきたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。また、冬は生育が止まって土も乾燥しにくくなるので、水やりは控えめにしますが、カラカラに乾燥させることのないように適宜水やりを続けてください。
肥料の与え方
【地植え】
植え付け時に元肥として緩効性肥料を施しておきましょう。
その後は生育し始める3〜4月上旬と、暑さがおさまる10月頃に、緩効性肥料を株の周囲にばらまき、軽く耕して周囲の土に馴染ませます。
【鉢植え】
植え付け時に元肥として緩効性肥料を施しておきましょう。鉢栽培では、日々の水やりとともに肥料成分が流亡しやすいので、開花期間中は1カ月に1度くらいを目安に緩効性肥料を株の周囲にばらまき、軽く耕して周囲の土に馴染ませます。株に勢いがないようであれば、速効性の液体肥料を与え、様子を見てください。
日常の手入れ
【花がら摘み】
トリトマは花茎を伸ばして下から上へ向かって咲き上がっていきます。下のほうの終わった花は早めに摘み取りましょう。まめに花がらを摘んで株まわりを清潔に保つことで、病害虫発生の抑制につながりますよ! また、いつまでも花がらを残しておくと、種子をつけようとして株が消耗し、老化が早まって花数が少なくなってしまうので注意。花がらをまめに取ると、次世代を残そうとして次から次に花がつき、長く咲き続けてくれます。開花が終わった花穂は元から切り取っておきましょう。
【枯れ葉の整理】
生育中に枯れ葉があれば、まめに取り除いておきます。株まわりを清潔に保つことで、病害虫の予防にもなります。また、冬越し前にも株の様子を見て枯れ葉があれば取り除いておきましょう。枯れ葉は病害虫の越冬場所になるので、翌年も健やかに株を育成するためにもひと手間かけるとよいでしょう。
気をつけたい病害虫
【病気】
トリトマは、病気の心配はほとんどありません。
【害虫】
トリトマに発生しやすい害虫は、アブラムシです。
アブラムシは、3月頃から発生しやすくなります。2〜4mm程度の小さな虫で繁殖力が大変強く、発生すると茎葉にびっしりとついてしまうほどに。植物の茎葉について吸汁し、株を弱らせるとともにウイルス病を媒介することにもなってしまいます。見た目もよくないので、発生初期に見つけ次第こすり落としたり、水ではじいたりして防除しましょう。虫が苦手な方は、スプレータイプの薬剤を散布して退治するか、植え付け時に土に混ぜ込んで防除するアブラムシ用の粒状薬剤を利用するのがおすすめです。
冬場の管理
トリトマは寒さに強いので、関東以南の一般地であれば特に寒さ対策の必要はありません。寒さが厳しい地域では、株元にバークチップなどを敷き詰めてマルチングをし、寒さ対策をしておきます。関東以北の寒冷地の場合は、地植えで育てているトリトマを鉢に植え替え、日当たりのよい軒下か温室などで冬越しさせてください。越年して春がきたら、再び地植えに戻し、夏から秋にかけての開花を楽しみます。
植え替えの時期
植え替えに適した時期は、3月下旬〜4月上旬か9〜11月中旬です。
【地植え】
地植えにしている場合は、数年は植えたままにしてもかまいません。しかし、大株に育って込み合ってきたら、掘り上げて株分けして植え直し、株の若返りを図るとよいでしょう。
【鉢植え】
鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりして株の勢いが衰えてくるので、1年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出して根鉢をくずし、新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢を崩す程度にして植え替えてください。
増やし方
トリトマは株分けと種まきで増やすことができます。
【株分け】
トリトマの株分けの適期は3月頃です。株を植え付けて数年が経ち、大きく育ったら株の老化が進むので、「株分け」をして若返りを図ります。株を掘り上げて数芽ずつ付けて根を切り分け、再び植え直しましょう。それらの株が再び大きく成長し、同じ姿の株が増えていくというわけです。
【種まき】
トリトマの種子は市販されていないので、開花後に種子を採取しておきましょう。秋に採取した種子を保存しておき、翌年の春に種まきして育苗。1年目はまだ苗が幼いので開花にまでは至りませんが、翌年の夏から開花する……というタイムスケジュールです。種まきから開花に至るまで時間はかかりますが、ビギナーでも簡単に育てられますよ! 種まきからスタートするメリットは、輸送などによる苗への負担がかからず、環境に馴染みやすいことです。敷地が広くて多数の苗を植えたい場合は、コストカットにもなります。
種子の採取は、10月頃に行います。開花期が終わりを迎える頃に花がら摘みをやめ、熟したら種子を採取。密閉容器に入れ、翌春まで涼しいところで保管しておきましょう。
種まきの適期は3月頃です。3号の黒ポットに草花用にブレンドされた市販の培養土を入れて十分に水で湿らせた後、数粒ずつ播いて軽く土をかぶせます。発芽まで時間がかかりますが、乾燥・過湿にならないように適度な水管理をしてください。発芽後に込み合っていたら間引き、その後は日当たり、風通しのよい場所で管理します。本葉が2〜3枚ついたら根鉢を傷めないように苗を取り出し、5〜6号鉢に鉢上げします。さらに育苗して根鉢が充実し、十分に育ったら植えたい場所に定植します。
トリトマは日当たりに注意すれば初心者でも育てやすい!
暑さや寒さに強く、病害虫の心配もさほどないトリトマは、初心者でも育てやすい草花の一つです。開花期も長く、美しいフォルムの草姿はガーデナーの憧れでもあります。夏から秋にかけて庭の主役として活躍するトリトマを、ぜひ育ててみてはいかがでしょうか。
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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