夏椿ってどんな木? 椿・寒椿・ヒメシャラとの違いや育て方のコツをご紹介
「わが家のシンボルツリーとして、何か魅力的な花木を植えてみたいな」と考えている方は多いのではないでしょうか。そこで今回おすすめしたいのが、シンボルツリーとして人気の高い夏椿です。この記事では、夏椿の基本情報や育て方のポイントなどを深掘りして解説します。
目次
夏椿の特徴
夏椿は、ツバキ科ナツツバキ属の花木です。原産地は日本の本州から九州にかけて。自然樹高は10mにも達する高木ですが、剪定によって樹高をコントロールすることができます。
開花期は6月頃で、ツバキに似た花径5〜6cmの5弁花を咲かせます。透け感のある白い花は清楚なイメージで、シンボルツリーとしても人気の花木です。花は短命な一日花で、花首から自然に落ち、花がらが木にいつまでも残らないため、綺麗な姿を保ちやすいのも魅力です。
夏椿は落葉性のため晩秋から落葉し始め、11〜2月は休眠期。越年して休眠からさめた後、春の芽吹き始めの新緑は美しく、初夏の開花は華やぎを、夏は涼しい緑陰をもたらします。秋になると紅葉して季節の移ろいを教えてくれる、庭に取り入れるのにおすすめの花木です。
夏椿の花名の由来
夏椿という名は、椿に似た花が初夏に咲くことから付けられました。また、「沙羅木(シャラノキ)」という別名を持っており、これは仏教の聖木とされる「沙羅双樹」にちなんだもの。しかしながら、実際の沙羅双樹はフタバガキ科サラノキ属の熱帯性常緑高木で、夏椿とは別種です。沙羅双樹は日本の寒さには耐えられないため、代用として寺社などに夏椿が「沙羅の木」として植えられるようになったという説があります。
椿・寒椿・ヒメシャラとの違い
夏椿に似た花木に、椿、寒椿、ヒメシャラがあります。ここでは見分け方のポイントについてご紹介していきます。
椿
ツバキ科ツバキ属の常緑性花木で、樹高は5〜10m。開花期は11〜12月、2〜4月で、花色は赤、ピンク、白、複色があります。夏椿に比べてつやつやとした肉厚な葉をもつ、常緑樹です。原産地は日本、台湾、朝鮮半島、中国。昔から親しまれてきた庭木で、放任してもよく育ちます。
寒椿
ツバキ科ツバキ属の常緑性花木で、ツバキとサザンカの交雑種とされています。花色は赤、ピンク、白など。寒椿の開花期は11〜2月で、雪の降る季節に花を開くことからこの名前がつきました。夏に咲く夏椿とは対照的に、一番寒い季節に庭に彩りをもたらしてくれます。
ヒメシャラ
夏椿の仲間で、関東以西の本州、四国、九州の太平洋側に自生しています。夏椿よりも寒さに弱く、開花は6〜7月で、花色は白。花径は2cm程度で夏椿よりも小さく、葉も小ぶりなのが見分けるポイントです。
夏椿の育て方
ここまで、夏椿の基本情報や特徴、名前の由来などについてご紹介してきました。では、ここからはガーデニングの実践編として、夏椿の育て方について、詳しく解説していきます。
苗を植える時期と植え付ける場所
夏椿の植え付け適期は、12〜2月です。落葉して休眠している期間が望ましいのですが、この時期以外にも花苗店やホームセンターなどでは苗を販売していることがあります。入手したらすぐに植え付けてください。
夏椿の栽培に適した環境は、日当たり、風通しのよい場所です。半日陰の環境でも十分育ちますが、暗すぎる場所では花つきが悪くなるので注意。西日が当たる場所では、夏の強い日差しによって葉が傷みやすくなるので、避けたほうが無難です。また、適度に水はけ、水もちのよい土壌を好み、乾燥に弱い性質をもっています。やや寒さに弱く、関東以西では地植えでも育ちますが、寒冷地などでは鉢栽培で楽しむほうがよいでしょう。
土づくり
【地植え】
植え付けの2〜3週間前に、直径、深さともに50cm程度の穴を掘ります。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきましょう。土づくりの後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
市販の樹木用の培養土を利用すると手軽です。自身でブレンドする場合は、赤玉土小粒7、腐葉土3の割合で配合するのがおすすめです。
植え付け方法
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、根鉢をくずさずに植え付けましょう。最後にたっぷりと水を与えます。
地植えで育てる場合は、環境に合えば植え替える必要はありません。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、入手した苗よりも1〜2回り大きな鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから草花用の培養土を半分くらいまで入れましょう。夏椿の苗をポットから取り出し、鉢の中に仮置きして高さを決めたら、少しずつ土を入れて植え付けます。水やりの際にすぐあふれ出さないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりして株の勢いが衰えてくるので、2〜3年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出してみて、根が詰まっていたら、根鉢をくずして古い根などを切り取りましょう。根鉢を1/2〜1/3くらいまで小さくして、元の鉢に新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢をくずす程度にして植え替えてください。
水やりの仕方
水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。
真夏に水やりする場合は、朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。気温の高い昼間に行うと、すぐに水の温度が上がってぬるま湯のようになり、株が弱ってしまいます。
また、真冬に水やりする場合は、気温が低くなる夕方に与えると凍結の原因になってしまうので、十分に気温が上がった真昼に与えるようにしましょう。
【地植え】
根付いた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、夏椿は乾燥を嫌うので、雨が降らない日が続くようなら水やりをして補います。
【鉢植え】
日頃の水やりを忘れずに管理します。夏椿は乾燥を嫌うので、水切れに注意してください。ただし、いつもジメジした状態にしておくと、根腐れの原因になってしまいます。土の表面がしっかり乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がしおれそうにだらんと下がってきたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。また、休眠している冬でもカラカラに乾燥させることのないように、適宜水やりを続けてください。
肥料の施し方
【地植え】
地植えで育てている場合、順調に生育していれば追肥はほぼ不要です。しかし、木の生育に勢いがないようであれば緩効性肥料を樹木の周囲にまき、クワなどで軽く耕して土に馴染ませて様子を見守ってください。
【鉢植え】
生育期に入る少し前の2〜3月に、生育を促すために緩効性肥料を株の周囲にまき、周囲の土を軽く耕して土に馴染ませましょう。また花が咲き終わった6月頃、開花のためにエネルギーを消耗した株の体力回復を目的に、お礼肥として同様に緩効性肥料を施します。
乾燥を防ぐためにはマルチング
夏椿は乾燥を嫌うので、真夏など日照りによって乾燥しやすい時期は、腐葉土または敷きワラ、バークチップなどを表土にまいてマルチングをしておきましょう。夏場は水切れしやすく、葉が傷む原因になるので、水の管理に注意してください。
剪定方法
夏椿の剪定適期は、落葉して休眠している12〜2月です。自然樹高は10mに達しますが、家庭で栽培するなら管理をしやすくするためにも5m以内にとどめ、剪定によって樹高をコントロールしましょう。夏椿は成長スピードがやや遅いほうです。もともと枝数が少なく、繊細な枝ぶりが美点といえるので、強い切り戻しをせずに自然に整う樹形を楽しむ剪定を心がけます。
まず樹高の半分から下の位置で幹から出ている下枝は、すべて根元から切り取ります。次に、幹の内側に向かって伸びる枝を切り、さらに込み合っている部分があれば、不要な枝を根元から切って風通しをよくしましょう。枝はどこで切ってもいいわけではなく、必ず枝の分岐点で切り取ってください。剪定した部分から雑菌が入って病気を誘発したり、木の水分を失ったりするのを防ぐために、切り口には癒合剤を塗っておきましょう。癒合剤は園芸店などで手に入ります。
増やし方
夏椿は、挿し木、種まきで増やすことができます。
【挿し木】
挿し木とは、枝を切り取って地面に挿しておくと発根して生育を始める性質を生かして増やす方法です。植物のなかには挿し木ができないものもありますが、夏椿は挿し木で増やすことができます。
夏椿の挿し木の適期は、6〜7月頃です。その年に伸びた新しい枝を10cmほどの長さで切り取ります。採取した枝(挿し穂)は、水を張った容器に1時間ほどつけて水あげしておきましょう。その後、吸い上げと蒸散のバランスを取るために下葉を2〜3枚切り取ります。3号くらいの鉢を用意してゴロ土を入れ、新しい培養土を入れて水で十分に湿らせておきます。培養土に穴をあけ、穴に挿し穂を挿して土を押さえてください。発根するまでは明るい日陰に置いて管理します。その後は日当たりのよい場所に置いて育苗し、大きく育ったら植えたい場所に定植しましょう。挿し木のメリットは、親株とまったく同じ性質を持ったクローンになることです。
【種まき】
夏椿は秋に実が熟して種子が取れるので、その種子をそのまま播きます。成長は遅く、発芽は1〜2年後になるので温かく見守ってください。種まきは庭へ直に播いても、黒ポットに培養土を入れて育苗しても、どちらでもかまいません。種を播いたら3cmほど覆土し、腐葉土などで表土を覆っておきます。黒ポットで育苗する場合は、苗の大きさに合わせて鉢上げしていき、目標の樹高に育ったら植えたい場所に定植するとよいでしょう。
病気や害虫
【病気】
夏椿を育てる際に発生しやすい病気は、さび病、灰色かび病などです。
さび病は、カビによる伝染性の病気です。葉にくすんだオレンジ色で楕円形の斑点が現れます。この斑点は、やや細長くイボ状に突起するのが特徴で、症状が進むと破れ、中から粉のように細かい胞子を飛ばします。発症すると株が弱り、枯死することもあるので注意。発病した葉は見つけ次第切り取って処分し、適用する薬剤を散布して防除します。
灰色かび病は花や葉に発生しやすく、褐色の斑点ができて灰色のカビが広がっていきます。気温が20℃ほどの多湿の環境下で発生しやすい病気です。ボトリチス病、ボト病などとも呼ばれています。風通しが悪く込み合っていたり、終わった花や枯れ葉を放置していたりすると発生しやすくなるので注意。花がらをこまめに摘み取り、茎葉が込み合っている場合は、間引いて風通しよく管理しましょう。
【害虫】
夏椿を育てる際に発生しやすい害虫は、チャドクガ、カミキリムシなどです。
チャドクガは蛾の幼虫で、いも虫のような姿で多数の細かい毛に覆われています。体長は20〜30mmで、ツバキ科の植物によく発生します。葉裏などに幼虫が大発生することがあり、見た目もよくないので、見つけ次第駆除しましょう。このチャドクガは毒をもっており、毛に触れるとかぶれて皮膚炎を起こすので、駆除の際には注意が必要です。毛が皮膚につかないように長袖、長ズボン、手袋を着用して作業し、枝ごと切ってビニール袋に入れて処分してください。
カミキリムシは、主に夏から秋に発生しやすくなります。カミキリムシの幼虫が幹に穴をあけて中に侵入し、木質部を旺盛に食い荒らすので注意。被害が進むと木が弱るうえ、中が空洞化して枯れてしまうこともあります。成虫が飛来して卵を産み付けるので、成虫や卵は見つけ次第捕殺しましょう。また、木の株元などにおがくず状のフンを見つけたら、木の内部で活動していると推測できます。おがくずが出ている穴に細長い針金状のノズルを差し込むタイプの薬剤を散布して駆除してください。
白く清楚な花を咲かせる夏椿はシンボルツリーとしても人気
椿に似た白い花を咲かせる夏椿は、昔から日本に自生してきた花木のため環境に馴染みやすく、放任しても毎年よく花を咲かせてくれます。また、新緑、開花、紅葉と季節が巡るごとに表情を変え、四季の移ろいを鮮やかに感じさせてくれます。シンボルツリーとして人気の高い夏椿を、ぜひ庭に迎えてみませんか?
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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