美しい白花とかぐわしい香りで人気のクチナシ! 育て方を分かりやすく解説
ピュアホワイトの花から芳醇な香りを強く漂わせるクチナシ。花の香りから初夏の到来を知る……そんな季節感の味わい方もガーデニングの醍醐味です。この記事では、クチナシの基本情報や種類、詳しい育て方など、幅広くご紹介します。
目次
クチナシの主な特徴
クチナシは、日本人にとっては初夏の風物詩として馴染みのある存在ですが、いったいどんな植物なのでしょうか。ここでは、基本情報やその特徴についてご紹介します。
基本情報
クチナシは、アカネ科クチナシ属の常緑性低木です。原産地は日本(東海地方以西)、中国、台湾など。昔から日本に自生して親しまれてきた花木で、環境に馴染みやすく育てやすいですが、東海地方以西が原産地のため寒さには弱い性質をもっています。
6〜7月の梅雨時に開花し、甘い香りを放ちます。この香りはとても濃厚なため、敏感な方にとっては「リビングの近くに鉢植えを置いていたら頭痛の原因になった」というケースもあるようです。そのため、玄関先や通路など長くとどまらない場所に配して、花姿や香りを楽しむのがおすすめ。また、日向で管理するほうが花つきがよくなるのですが、曇りや雨の日のほうが花の美しさが際立ちます。開花時期に強い日差しにさらされると、白い花がすぐに傷んで茶色く変色してしまうので、鉢栽培の場合は明るい日陰などに移動して、長く楽しめるようにするとよいでしょう。
花・葉・実の特徴
クチナシの樹高は1〜2m、常緑性なので冬でも青々とした枝葉を保ちます。葉は楕円形で、表面は艶やかな光沢があります。梅雨の時期に咲く花は純白で径5〜6cm、開花が進むとアイボリーのような黄みがかった白へと変化します。花弁6枚の一重咲きが基本種ですが、八重咲きの品種もあります。開花後には実がついて秋に熟しますが、熟しても破れることがなく、「口を開かない」ために「口無し」という名前になったという説があります(諸説あり)。クチナシの果実は、昔から黄色に染める染料として使われてきました。
花言葉
クチナシの花言葉は、「とても幸せです」「喜びを運ぶ」「洗練」「優雅」など。
「とても幸せです」は、欧米では女性をダンスパーティーに誘う時にクチナシの花を贈ることにちなんでいるとか。「喜びを運ぶ」は、甘い香りを漂わせるため。「洗練」「優雅」は、白い花の咲き姿に由来します。
クチナシに適した栽培環境
クチナシは、どのような環境を好むのでしょうか。ここでは日当たりの具合や土壌、暑さ寒さなど、クチナシに適した栽培環境についてご紹介します。
適している場所
日向〜半日陰で栽培できますが、あまりに日当たりが悪いと花つきが悪くなってしまいます。土壌はやや湿り気があって、腐植に富んだフカフカとした状態が好適。クチナシは暑さに強いのですが、西日が照りつける場所や乾燥しやすい場所は苦手です。寒さには弱いので、寒風が吹きつけたり凍結しやすい場所は避けてください。寒冷地では最初から鉢栽培にするか、地植えにする場合は鉢に植え替えて暖かい場所で越冬させるとよいでしょう。
用土
【地植え】
一年を通して日向〜半日陰で、風通しのよい場所を選びましょう。植え付けの2〜3週間前に、直径・深さともに50cm程度の穴を掘ります。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきましょう。このようにしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
市販の樹木用の培養土を利用すると手軽です。自身でブレンドする場合は、赤玉土小粒7、腐葉土3の割合にするのがおすすめです。
育て方の基本
ここまで、クチナシの基本情報や特徴、花言葉、栽培に適した環境など、多岐にわたってご紹介してきました。では、ここからはガーデニングの実践編として、クチナシの育て方について詳しく解説していきます。
種まき・苗の植え付け・植え替え
種まき
クチナシの種は、ほとんど流通していないため手に入れるのが難しく、また種を採取して播いたとしても花が咲くまでには数年かかります。そのため、栽培は苗木を買い求め、植え付けから始めるのが一般的です。
苗の植え付け・植え替え
クチナシの植え付け・植え替えの適期は、4〜5月か9月頃です。
ただし、それ以外の時期にも苗は出回っているので、花苗店などで入手したら早めに植え付けるとよいでしょう。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、根鉢をくずさずに植え付けます。最後にたっぷりと水を与えましょう。
地植えで育てる場合は、環境に合えば植え替える必要はありません。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、入手した苗よりも1〜2回り大きな鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから草花用の培養土を半分くらいまで入れましょう。クチナシの苗をポットから取り出し、鉢に仮置きして高さを決めたら少しずつ土を入れて植え付けます。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取っておいてください。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりして株の勢いが衰えてくるので、2〜3年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出してみて、根が詰まっていたら、根鉢をくずして古い根などを切り取りましょう。根鉢を1/2〜1/3くらいまで小さくして、元の鉢に新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢をくずす程度にして植え替えてください。
水やり
水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。
真夏に水やりする場合は、朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。気温の高い昼間に行うと、すぐに水の温度が上がってぬるま湯のようになり、株が弱ってしまいます。
また、真冬に水やりする場合は、気温が低くなる夕方に与えると凍結の原因になってしまうので、十分に気温が上がった真昼に与えるようにしましょう。
【地植え】
根付いた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、雨が降らない日が続くようなら水やりをして補います。
【鉢植え】
日頃の水やりを忘れずに管理します。クチナシは乾燥に弱いので、水切れに注意してください。ただし、いつもジメジメした状態にしておくと、根腐れの原因になってしまいます。土の表面がしっかり乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がしおれそうにだらんと下がってきたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。また、冬もカラカラに乾燥させることのないように、適宜水やりを続けてください。
肥料
【地植え・鉢植えともに】
生育期に入る少し前の2〜3月に、成長を促すために緩効性化成肥料を株の周囲にまき、周囲を軽く耕して土に馴染ませましょう。また花が咲き終わった頃、開花のためにエネルギーを消耗した株の体力回復を目的に、お礼肥として同様に緩効性化成肥料を施します。
剪定・切り戻し
クチナシの剪定適期は、花後の6月下旬〜7月上旬です。開花が終わった後、1カ月くらいすると、もう翌年に花を咲かせるための花芽が作られるので、剪定のタイミングを逃さないことが大切。花芽分化後に剪定すると、翌年の花つきが少なくなってしまいます。
自然に樹形が整うので、あまり刈り込んだり強く切り戻したりする必要はありません。枝葉が込み合っている部分があれば、枝の付け根で切り取って風通しをよくします。樹高は1mぐらいを目安にまとめるとよいでしょう。
夏越し・冬越し
夏越し
【地植え】
真夏は強い日差しによって土壌が乾燥しやすいので、バークチップなどを株元にまいてマルチングをし、対策しておきます。
【鉢植え】
風通しがよく、涼しい半日陰に移動して管理します。真夏は乾燥しやすいので、特に水切れに注意してください。
冬越し
【地植え】
暖地では地植えのままで越冬できます。しかし、霜が降りたり凍結しやすい寒冷地では、鉢上げして暖かい場所に移動して管理しましょう。
【鉢植え】
暖地では霜や凍結の恐れのない、日当たりのよい軒下に移動しましょう。寒冷地では日当たりのよい室内や温室に取り込み、寒さにあてないように管理します。
増やし方
クチナシは、挿し木、株分けで増やすことができます。
【挿し木】
挿し木とは、枝を切り取って地面に挿しておくと発根して生育を始める性質を生かして増やす方法です。植物のなかには挿し木ができないものもありますが、クチナシは挿し木で増やすことができます。
挿し木の適期は、6〜7月頃です。その年に伸びた新しい枝を10cmほどの長さで切り取ります。採取した枝(挿し穂)は、水を張った容器に1時間ほどつけて水あげしておきましょう。その後、吸い上げと蒸散のバランスを取るために下葉を2〜3枚切り取ります。3号くらいの鉢を用意してゴロ土を入れ、新しい培養土を入れて水で十分に湿らせておきます。培養土に穴をあけ、穴に挿し穂を挿して土を押さえてください。発根するまでは明るい日陰に置いて管理します。その後は日当たりのよい場所に置いて育苗し、大きく育ったら植えたい場所に定植しましょう。挿し木のメリットは、親株とまったく同じ性質を持ったクローンになることです。
【株分け】
クチナシの株分けの適期は3月下旬〜4月です。株を植え付けて数年が経ち、大きく育ったら株を掘り上げて数芽ずつ付けて根を切り分け、再び植え直しましょう。それらの株が再び大きく成長し、同じ姿の株が増えていくというわけです。あまり細かく分けると開花しにくくなるので注意してください。
病害虫
【病気】
クチナシを育てる際に発生しやすい病気は、さび病、すす病などです。
さび病は、かびによる伝染性の病気です。葉にくすんだオレンジ色で楕円形の斑点が現れます。この斑点は、やや細長くイボ状に突起するのが特徴で、症状が進むと破れ、中から粉のように細かい胞子を飛ばします。発症すると株が弱り、枯死することもあるので注意。発病した葉は見つけ次第切り取って処分し、適用する薬剤を散布して防除します。
すす病は、一年を通して葉や枝などに発生する病気です。葉に発生すると表面につやがなくなり、病状が進むと黒いすすが全体を覆い、見た目もよくありません。また光合成がうまくできなくなり、樹勢が衰えてしまいます。カイガラムシ、アブラムシ、コナジラミの排泄物が原因ですす病が発生するので、これらの害虫を寄せ付けないようにしましょう。込んでいる枝葉があれば剪定して、日当たり・風通しよく管理します。
【害虫】
クチナシを育てる際に発生しやすい害虫は、オオスカシバの幼虫、カイガラムシなどです。
オオスカシバはガの一種で、クチナシに被害をもたらすのは幼虫です。独特のしっぽを持ったグリーンの幼虫は5〜6cmにもなり、見つけるとギョッとしてしまいます。クチナシの葉が大好物で、食欲旺盛のため一晩で丸裸にしてしまうこともあるほど。見つけ次第捕殺することが大切です。
カイガラムシは、ほとんどの庭木に発生しやすい害虫で、体長は2〜10mmほど。枝や幹などについて吸汁し、だんだんと木を弱らせていきます。また、カイガラムシの排泄物にすす病が発生して二次被害が起きることもあるので注意。硬い殻に覆われており、薬剤の効果があまり期待できないので、ハブラシなどでこすり落として駆除するとよいでしょう。
代表的な品種
クチナシは、昔から家庭園芸に取り入れられてきた人気の花木です。ここでは、クチナシの種類についてご紹介します。
コクチナシ
中国南東部原産。樹高が30〜40cmで、基本種のクチナシよりもコンパクトにまとまり、横に広がるような樹形になるのが特徴。花も葉もやや小ぶりで、鉢植えにも向いています。
マルバクチナシ
基本種よりも葉がやや小さく、丸みを帯びた愛らしいフォルムが特徴。花もやや小ぶりで、花径3cmほどです。
ヤエクチナシ
花が基本種よりもやや大きく、八重咲きになるのでより華やかな雰囲気をもっています。香りも強いのが特徴。クチナシの中で最もポピュラーな種類です。八重咲き種には実がつきません。
クチナシは美しい白い花弁と強い香りが魅力!
甘くて濃い香りを漂わせるクチナシ。花の姿が見えなくても、風が運ぶ香りが「もう初夏ね」と季節の移り変わりを教えてくれるのも魅力の一つ。庭に季節感を演出するのに重宝するクチナシを、ぜひ育ててみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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