バラは本当にたくさんの種類があって、何を基準に自分好みのものを探せばいいか困っていませんか? バラには花の美しさはもちろん、花がらを残すと晩夏から秋にローズ・ヒップと呼ばれる美しい実をつける種類があります。バラの専門家河合伸志さんに「横浜イングリッシュガーデン」の秋を彩るローズ・ヒップを教えていただきます。
バラの中には野生種や野生種系の品種を中心に、美しいローズ・ヒップを楽しめるものがあります。多くの種類は晩夏の頃より色づき始め、秋の庭に彩りを添えてくれ、特にナチュラル・ガーデンなどではその野趣のある姿が大いに活躍します。
目次
ローズ・ヒップの残し方
ローズ・ヒップを楽しむ場合は、花後に花がらを切らずに残します。‘バレリーナ’や‘桜木’、‘伽羅奢’など返り咲き性や四季咲き性の品種の場合、花がら切りをしないとローズ・ヒップは楽しめますが、一番花以降の開花がしにくくなります。花を優先するのか、実を優先するかの決断が必要です(数を制限して残すという選択肢もあります)。また小さな株を大きくしたい場合などは、結実させてしまうと養分を実に奪われるため、株がなかなか大きくなりません。この場合も成長を優先するのかの検討が必要です。
ローズ・ヒップが美しい品種の多くは成育が旺盛で、成株になったものは肥料を控えたほうが株は暴れにくくなります。少量の施肥で栽培することは同時に結実の安定化や、実が腐りにくくなるなどにも繋がる傾向があります。
秋を彩ってくれたローズ・ヒップたちは、真冬の剪定の時期には乾燥しきって干からびていたり、鳥の餌となって残っていなかったりとさまざまです。いずれの場合もこの時期に剪定と共に除去します。リースなどに使用する場合は、冬まで待たずに着色後から晩秋までに収穫するのがオススメです。
横浜の秋を彩るローズ・ヒップ
6.ロサ・ルクスブルギー・ノルマリス

中国に自生する野生のバラで、日本の富士箱根地域に分布するサンショウバラの近縁種。サンショウバラと外見上で共通する点も多いが、株はサンショウバラよりも小さく、高さ1mほどの中小型で自立するシュラブ。一重咲きの花はサンショウバラよりも花色が濃く、紫色を含んだ桃色で大きくよく目立つ。開花は主に春だが、時にその他の季節に返り咲くこともある。ハリセンボンのようなトゲのある実は黄色から淡橙色に熟し、観賞価値が高い。黒星病はほとんど発生することがなく、病気に強く育てやすい。流通量は多い。本種の八重咲きの個体はイザヨイバラ(ロサ・ルクスブルギー)として知られるが、こちらは結実しにくい。
7. ‘メアリー・クイーン・オブ・スコット’

ハイブリッド・スピノシッシマ系(スコッチ・ローズ)の品種で、やわらかな印象の葉、細くしなやかな枝ぶりなど野趣のある姿がとても魅力的。枝は弧を描くように伸長し、樹高1m以下の小ぶりなシュラブに成育する。花は淡めの桃色の小輪一重咲きで、主に一輪咲きだが、花つきがとてもよい。他のバラに先駆ける極早生品種。赤く色づくローズ・ヒップはぶらさがるように実り、小さなクラブ・アップルのような印象。ハイブリッド・スピノシッシマ系の品種は夏に黒く熟した実がなるものもあり、これらは秋までもたないが、本品種は着色がやや遅く秋にも実を楽しめる。黒星病にも耐性があり、初心者でも育てやすい。流通量がやや少ない。
8.‘エアシャー・スプレンデンス’(‘スプレンデンス’)

ロサ・アルウェンシスの交配種エアシャー系の品種で、ミルラの香りのルーツと考えられているバラ。同名異品種が多いことからしばしば最初に系統系である「エアシャー」を付けて‘エアシャー・スプレンデンス’と呼ばれる。淡桃色の中小輪の花は外弁が濃い桃色に染まり、色のグラデーションが美しくとても魅力的。小さいながらも整ったカップ咲きで、一輪もしくは数輪の房で開花し、中程度のミルラの香りがある。実はオレンジ色に着色し、やや小さめ。枝は細くしなやかで、伸長力がとても旺盛で1年間に4m以上伸びる。一般家庭ではつるバラとして扱うことができる。樹勢は強いが、やや黒星病に弱いので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。流通量がやや少ない。
9. ロサ・グラウカ(ロサ・ルブリフォーリア)

赤みを帯びた美しいブルー・グレーの葉で知られるヨーロッパ産の野生種。花は小さく濃桃色の細弁の一重咲きで観賞価値はさほど高くはないが、たわわに実るローズ・ヒップは大変に魅力的で、ヨシノスズバラの名前で切り枝としても流通する。一季咲き。夏の高温多湿が苦手で、関東以西の平地ではやや脆弱な印象の成育だが、高冷地では立派な株になる。平均的な耐病性なので、ある程度薬剤散布をしたほうが順調に成育する。暑さの厳しい地域では西日を避けた場所などに植栽するとよい。流通量は多い。

春の花の季節のロサ・グラウカ。
10. ‘カルメネッタ’

ロサ・グラウカとハマナス(ロサ・ルゴーサ)の交配種で、全体の印象はロサ・グラウカによく似ている。葉は親同様に赤みを帯びたブルー・グレーだが、ロサ・グラウカに比べると葉色が淡く、花も一回り大きく、全体として雄々しくがっしりとした株姿になる。一季咲き。本品種は耐暑性もあり、関東以西の平地でも問題なく成育し、耐病性もロサ・グラウカよりも優れている。栽培性の点ではすべての点でロサ・グラウカを上回るが、その繊細さは失われている。株が大きくなってからは肥料を控えたほうが、株が暴れなくてよい。流通量はやや少ない。

春の花の季節の ‘カルメネッタ’。
ご紹介のローズ・ヒップの他にも美しい種類があります。『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】』や『晩夏から秋のバラの楽しみ。ガーデンで鑑賞する珍しいローズ・ヒップ』も併せてご覧ください。
撮影協力/横浜イングリッシュガーデン ローズヒップ写真/3and garden
Credit
花写真&文責 / 河合伸志 - バラ育種家 -

かわい・たかし/千葉大学大学院園芸学研究科修了後、大手種苗会社の研究員などの経歴を経たのち、フリーとして活躍の場を広げる。現在は横浜イングリッシュガーデンを拠点に、育種や全国各地での講演や講座、バラ園のアドバイスやガーデンデザインを行う。著書に『美しく育てやすい バラ銘花図鑑』(日本文芸社)、『バラ講座 剪定と手入れの12か月(NHK趣味の園芸)』(NHK出版)監修など。
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