“ハス(蓮)”というと、みなさんはどのようなイメージを思い浮かべますか? ハスといえばレンコン、という方も多いかもしれませんが、とても綺麗な花を咲かせる植物でもあります。この記事では、そんなハスの特徴から、自宅での観賞用のハスの育て方まで詳しくご紹介します。
ハスとは
まずはハスの基本情報を見てみましょう。
ハスはインドや中国、オーストラリア、日本などの温帯~熱帯域の湿地に広く分布する水生植物です。なんと、およそ1億4000万年前から地球上に存在していたそうです。
泥の中から茎を伸ばして美しい花を咲かせるその姿から、ヒンドゥー教の神話や聖典では清く生きることの象徴とされています。その意味は仏教にも継承されており、仏像の台座や仏具の扉などにはハスの花の模様が彫られています。そういった宗教的背景から、インド、スリランカ、ベトナムでは国花となっています。
ハスの花の見頃は7月中旬~8月中旬。朝に開花して午後には花を閉じてしまうという特徴があります。よく似た花にスイレンがありますが、水面で咲くスイレン(睡蓮)とは異なり、葉や花を立ち上げること、葉の形や質感などに違いがあります。花言葉は「清らかな心」「休養」「神聖」「雄弁」「沈着」「離れゆく愛」などです。
ハスは食べられる!
ハスはレンコン(蓮根)としておなじみの根はもちろん、葉や茎、実まで、さまざまな部分が食用に利用されています。東南アジア諸国では、お盆の時期になるとスーパーでもハスの葉が売られ、下に敷いて料理を乗せたり、包んで蒸したりするのに使われています。茎の部分は、ベトナムではサラダなどにして食べます。ハスの実は砂糖をかけて甘納豆のようなお菓子にしたり、ご飯と一緒に炊いて蓮の実ご飯に。また蓮茶というハスを使ったお茶もあります。
ハスの土づくり
ハスは、苗を植えた鉢を水中に沈めて栽培します。植える用土は、水もちのよい粘土質の土を選びましょう。田んぼの土が理想ですが、手に入らない場合は、小粒の赤玉土7 : 腐葉土3に苦土石灰を少し混ぜ合わせたものを使うとよいでしょう。また、水生植物専用の土を使うのもおすすめです。
種まき・苗植えのポイント
ここからは、ハスを育て始める際の種まきと苗を植える方法について、それぞれ解説します。
種まき
種まきの適期は4~5月です。ハスの種は傷をつけないと発芽しないため、播く前にまず種の凹んでいるお尻の部分をニッパーややすりで白い部分が見えるまで傷つけます。傷つけた種を水につけておくと、4~7日で発芽します。発芽したら鉢に入れた土へ横向きに置き、2cmほど土をかぶせます。その後、水を入れた睡蓮鉢などの容器に鉢ごと沈めます。
苗植え
苗植えの場合は、3~4月が植え付けの適期です。
鉢に2/3ほどまで土を入れ、新芽を上向きに置いて土をかぶせます。鉢の大きさは大型種では直径60cm以上、中型種は50cm以上、小型種では30cm以上のものを選びましょう。漬物用の桶やバケツでも代用可能です。
そして水を鉢の縁までたっぷりと注ぎ、日当たりがよく暖かい所に置きます。
水に沈める特殊な栽培方法のため、庭土に直接地植えするような植え方はできません。
水やり・肥料のポイント
ここからは、ハスを育てていく上で欠かせない、水やりと肥料について項目ごとにご紹介します。
水やり
水に沈めて育てるため、水が腐らないように交換する必要があります。また、水は蒸発した分だけ継ぎ足します。水深は土の表面から最低10~15cm以上をキープするようにしましょう。こうすることで、水温などの環境の過度な変化を防ぎます。また、水を交換する際は、水道から出してすぐの水ではなく、一度バケツにくんで1日程度置いたものを使いましょう。このように「くみ置き」にして水温を上げてから交換すると、鉢内の水温が下がらず、おすすめです。
肥料
ハスを植え付ける際には、元肥を混ぜ込んでおきます。緩効性の化成肥料か、同量の骨粉と油かすを水でこねたものでも使えます。
その後は4~9月の時期は月に1度のペースで同様の肥料を追肥します。葉が落ちて根が休眠状態になったら追肥をする必要はありません。
植え替えのポイント
ハスは根をよく張るため、地下茎が成長して鉢が窮屈になってきます。1~2年に1度を目安に、暖かくなってきた3~4月に植え替えをしましょう。
ハスの植え替えの際は、土から株を取り出し、根についた土を取り除いて新しい土に植え替えます。根茎の節目から新しい根を生やす特徴があるため、植え替え時に根の節を傷つけないように注意しましょう。根が乾燥すると腐ってしまうので、植え替えは素早く行うのがポイントです。
植え替え後はしっかりと水の中に沈め、水深は10cm以上を維持しましょう。
ハスの増やし方
ハスの増やし方には、株分けと種まきがあります。
種まきの手順は育て始めと同様で、10月頃に採取した種を1週間ほど陰干しし、次の年の春まで保管して播きます。
株分けは3~4月に行います。根っこを掘り出して丁寧に水洗いし、それぞれに新芽がつくように3~4個に切り分けます。その後、切り口に園芸用の殺菌剤を塗ってから、苗植えと同様の手順で土に植えましょう。
ハスのかかりやすい病気や害虫
ハスの栽培では、病気や害虫に注意が必要です。ここでは代表的なものについて一つずつご紹介します。
腐敗病
腐敗病とは、地中に潜む菌が地下茎へと侵入し、根や葉、茎を腐らせる病気です。
乾燥が引き金になって菌が繁殖してしまうので、容器の中に水を十分に入れておくことが予防につながります。
鉄欠乏症
鉄は植物にとってはとても大事な栄養素で、光合成を行うための葉緑素を作るのに必要な成分です。鉄欠乏症は、鉄分が不足することで上の葉から黄色く変色し、その後白っぽくなっていく病気です。そのままにしておくと光合成ができず枯れてしまいます。鉄の栄養素を含んだ肥料を与えるか、太めの釘を一緒に沈めておくことで防ぐことができます。
ボウフラ
ボウフラは、ハスの栽培の中でも最も悩まされる害虫といえるでしょう。梅雨から秋にかけて発生しやすい蚊の幼虫で、産卵を防ぐことが難しく、増殖すると厄介です。綺麗な水質を保ったり、10円玉などを沈めて銅イオンを水中に溶かすことでボウフラの増殖を防ぐことができます。メダカなどの生き物を一緒に育てるのもおすすめです。
アブラムシ
アブラムシは4~6月の生育期に発生しやすい害虫で、新芽や茎葉にくちばしを刺して栄養を吸い取り、植物を弱らせてしまいます。見つけ次第、園芸用の殺虫剤などで駆除するようにしましょう。
育てる時のポイント
ここからは、ハスを育てる時のポイントについて項目別にご紹介します。
水の管理
ハスを育てる際に重要なのが水の管理です。常に水の中に沈めて育てるので、水の量や状態はこまめにチェックしましょう。ハスは日当たりが悪いと花が咲かないため、日当たりのよい場所で育てることがポイント。そのため、水をたっぷりと用意して、水が蒸発しすぎないように気を付ける必要があります。
特に、春から夏にかけての生育が活発になる時期は水分が蒸発しやすいため、水の量の管理には特に注意が必要。一日家を留守にするだけでも水が無くなってしまうことがあります。水やりに使う水を、常にくみ置いておくようにしましょう。
エビやメダカと一緒に育てるとよい
ハスは水の中に沈めて育てるので、エビやメダカ、タニシなどを一緒に育てることもできます。
特にメダカはハス栽培で悩まされやすいボウフラを食べて駆除してくれるので、非常におすすめです。ハスの鉢の中に魚が泳ぐ姿も楽しめ、害虫の駆除もできて一石二鳥の効果があります。なお、メダカなどの生物を鉢の中で育てる際には、化成肥料や殺虫剤を与えると生物に悪影響が出るため注意が必要です。
美しい花を楽しもう
この記事では、ハスの基本的な情報や、種まき・肥料などの詳しい育て方などについてご紹介しました。ハスは水中に沈めて育てる植物ですから、他の園芸植物とは育て方が大きく異なるのも醍醐味です。育てるにはさまざまな準備が必要になりますが、水面から茎を伸ばして咲くハスの花は、ほかの植物とは一線を画す魅力があります。そんな美しいハスを、ぜひ育ててみてはいかがでしょうか。
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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