みなさんはタチアオイ(立葵)という植物をご存じですか? 別名ホリホック(Hollyhock)とも呼ばれ、6月から8月に花を咲かせます。道端にさまざまな色のタチアオイが咲いているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。タチアオイはとても丈夫で、初心者にも育てやすい植物です。またハイビスカスに似たカラフルな花色を持ち、梅雨のちょっとどんよりとした時期に元気に咲くため、気持ちを明るくしてくれることでしょう。ここではタチアオイの花を綺麗に咲かせるコツや栽培のポイントについて、詳しく解説していきます。
目次
タチアオイとは
タチアオイの学名はAlthaea rosea といい、アオイ科ビロードアオイ属の植物です。トルコ原産種(Althaea setosa) と東ヨーロッパ原産種(Althaea pallida)との交雑種といわれています。一年草、二年草、多年草があり、生育期間はそれぞれ異なります。人類史的に最も古くから利用されていた植物の一つとされており、薬草として、日本には平安時代の頃までには持ち込まれていたことが記録に残っています。
全体にうぶ毛が密生し、丸い葉は5~7ほどに浅裂して長柄があります。開花期になると数十個のつぼみを穂状にトウ立ちさせ、下部から順々に花を咲かせていきます。花そのものは数日でしぼんでしまいますが、次から次に花を咲かせるので飽きることなく楽しめます。タチアオイは一重咲きと八重咲きの品種があり、花色もピンクや赤、白などバリエーション豊富。草丈は最終的に2mほどにまで成長する、背が高くなる植物です。7月8日の誕生花でもあり、花言葉は「豊作」「あなたの美しさは気高い」など。
タチアオイの種類
花姿は大きく分けて、一重咲きと八重咲きがあります。一重咲きでは、花径の大きい品種だと10cmほどにもなります。花色は赤や白、藤色、またそれらが混ざり合った色味もあり、クロタチアオイという種は黒に近いような花色で、庭をシックに引き締めてくれます。八重咲きは‘サマーカーニバル’や‘マジョレット’という品種が主流。‘サマーカーニバル’は10cm以上の大きな花を付け、とても豪華な印象です。‘マジョレット’は比較的小型のタイプですが、それでも草丈1m以上にはなります。タチアオイ全般は一年草や短命な多年草とされることが多く、植えたままだと数年で絶えてしまいます。そのため、株で冬越しさせるよりも種子で更新していくほうが現実的です。
タチアオイの別名や由来
学名がAlthaea rosea(アルテア・ロゼア)であることから、アルテアローズの異名があります。薬草として使われていたことから「治療」を意味するアルテアと、花の姿がバラに似ていることから付けられました。日本でのタチアオイという呼び名は、アオイ科で天に向かってまっすぐに伸びることから。ほかには、梅雨時期に咲くアオイなので梅雨葵、また子どもが花びらを裂いて鼻先に乗せ、ニワトリの鶏冠に見立てて遊んだことからコケコッコの花などとも呼ばれています。
英名のホリホック(Hollyhock)という呼び名もよく聞くかもしれません。これは12世紀に、イギリス十字軍がキリスト教の聖地(holly)エルサレムから持ち帰ったゼニアオイ(hock)に似た植物ということで名付けられました。
タチアオイの育て方
タチアオイは丈夫な植物で、以下の基本を押さえれば初心者でも難なく育てることができます。まず、タチアオイは宿根草という位置づけですが、前述の通り寿命が短く、種子での毎年更新のほうが扱いやすいでしょう。種まきは、春まきの場合は3~4月に行いましょう。成長の早い植物なので、夏前には開花させることができます。秋まきの場合は9~10月に行います。秋まきにすると、6~7月、いわゆる梅雨時期には開花させることができます。
タチアオイの栽培適地は、水はけのよい土壌で、日のよく当たる場所です。乾燥にも強く、地植えであれば水やりは雨任せで問題ありません。鉢植えの場合は、用土が乾ききる前に水やりをしてください。
上手に育てるためのポイント
栽培自体は簡単ですが、大きな花をたくさん咲かせるためには、まず水はけのよい土壌を選ぶ、あるいは作ることが重要です。植えたい場所が適地ではなかった場合は、土壌改良を行いましょう。鉢植えの場合は7号鉢以上が望ましく、用土は赤玉土6に腐葉土4を配合したものなどで育てられますが、パーライトを1割程度加えた赤玉土6:腐葉土3:パーライト1の配合にすると、さらに通気性と保水性のバランスがよく、タチアオイに適しています。成長に合わせて緩効性肥料と液体肥料を適宜与えることで、大きく育てられます。
増殖は、株分けか種まきで行います。株分けの場合は根を傷つけないように慎重に掘り上げ、株を分けます。1株に2~3芽は残すように分けましょう。種まきの場合は、播く前に湿らせたティッシュなどで種子をくるんで吸水させることで発芽率がよくなります。
育てるときの注意点
タチアオイを育てる際は、以下のことに注意すると綺麗な花を咲かせることができます。
まず、タチアオイの特性として空に向かって伸びていくため、風当たりが強い場所などでは花穂が折れたり曲がったりしないように、支柱を立ててやる必要があります。また一度植えると植え替えを行うことが難しいため、しっかりと場所決めをしておきましょう。ポット苗などから移植する際も、根鉢を崩さないように気を付ける必要があります。同じく、プランター栽培や寄せ植えなどの場合も植え替えが難しいため、成長後をイメージし、間隔を取って植え付けましょう。夏場の蒸れなど高い湿度には弱いので、水のやりすぎや水はけの悪い土への移植はやめましょう。
かかりやすい病気
比較的病害虫に強い性質ですが、環境次第で以下の病気になることがあります。それらの説明と対策について解説します。
斑点病
雨の後など、多湿な環境ではカビを原因とした斑点病が発生することがあります。葉に褐色の小斑点が表れ、その部分が枯れてしまいます。植物自体が枯れてしまうことはほとんどありませんが、見た目も悪く、病気が広がったり二次感染したりする原因にもなるため、見つけたら早めに葉ごと取り去りましょう。予防法としては、周囲の風通しをよくしたり、剪定で葉数を減らすなど、カビが繁殖しにくい環境にすることが挙げられます。または土壌の水はけの改善やマルチ、薬剤散布などでも効果があります。
炭そ病
カビが原因で灰褐色や黒褐色の円形の病斑が発生します。気温が高く、長雨の時期に発生しやすく、発生後放置すると病斑が広がり、最終的には枯れてしまうこともあります。見つけたら早めに株ごと抜き取り、消毒をして袋に入れてから廃棄処分しましょう。病斑が小さい場合は、病変部を取り去るか市販の殺菌剤で治療することが可能です。予防法としては、水やりの際に株元に行うことで泥はねを最小限にし、感染を防ぐことができます、
注意すべき害虫
ハマキムシやアブラムシが発生する場合があります。ともに早期発見、早期駆除が大切です。害虫の見つけ方と対策について解説します。
ハマキムシ
ハマキムシはハマキガという蛾の幼虫です。成虫が葉にたくさんの卵を産み付け、一斉に孵化したあと葉を食害します。ある程度の大きさになると隠れ家として葉を自分の出す糸で巻きはじめ、その中で生活します。クルクルと巻かれた葉があれば、その中にハマキムシがいる可能性があります。見つけ次第捕殺するか、浸透移行性の殺虫剤をかけましょう。
アブラムシ
葉裏や新芽の部分に注意を向けてみましょう。緑色や黒色のつぶつぶが付いていたらアブラムシの可能性が高いです。特に風通しの悪いところや窒素分の多い肥料を与えすぎている場合に発生しやすくなります。アブラムシはすぐに数を増やし、密集するため、見つけ次第捕殺、あるいは浸透移行性の殺虫剤で駆除しましょう。薬剤を使いたくない場合は、粘着テープを利用して一斉に取り除いたり、天敵のテントウムシを使ったりして防除することも可能です。ただアブラムシは自身の排泄物をアリに与え、代わりに外敵から守ってもらうという共生関係を結んでいます。テントウムシをアリが遠ざけてしまうと、思ったほど防除の効果が表れないので、よく観察することが大切です。
華やかなタチアオイを庭に植えてみよう!
タチアオイは比較的栽培しやすく、種子繁殖により増殖も簡単です。前述のように水はけのよい用土と日当たりを意識して植え付ければ、すくすくと育ってくれることでしょう。また、さまざまなバリエーションの花色と花姿があります。自分のお気に入りの品種を集め、たくさん植えて綺麗で彩りのある庭をつくってみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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