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晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】

晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【前編】

バラは本当にたくさんの種類があって、何を基準に自分好みのものを探せばいいか困っていませんか? バラには花の美しさはもちろん、花がらを残すと晩夏から秋にローズ・ヒップと呼ばれる美しい実をつける種類があります。バラの専門家河合伸志さんに「横浜イングリッシュガーデン」の秋を彩るローズ・ヒップを教えていただきます。

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バラのなかには野生種や野生種系の品種を中心に、美しいローズ・ヒップを楽しめるものがあります。多くの種類は晩夏の頃より色づき始め、秋の庭に彩りを添えてくれ、特にナチュラル・ガーデンなどではその野趣のある姿が大いに活躍します。

ローズ・ヒップのバリエーション

小さなローズ・ヒップは野鳥の餌にもなり、バード・ウォッチングを楽しみたい方にもオススメできます。しかし、ハイブリッド・ルゴーサ系(ハマナスの交配種)やハイブリッド・スピノシッシマ系(スコッチ・ローズ)のように一部の種類は夏前に色づき、秋までもたないものもあるので、秋に楽しみたい人はこれらの種類は避けたほうがよいでしょう。

秋を彩ってくれたローズ・ヒップたちは、真冬の剪定の時期には乾燥しきって干からびていたり、鳥の餌となって残っていなかったりとさまざまです。いずれの場合もこの時期に剪定と共に除去します。リースなどに使用する場合は、冬まで待たずに着色後から晩秋までに収穫するとよいです。

一言でローズ・ヒップといっても、種類によってその形や大きさはさまざまです。球状の丸いものがあれば、細長いもの、洋ナシのような形のものまであり、中には実の表面にハリセンボンのような多数のトゲがあるものも。大きさは、小さなものでは直径5㎜程度、大きなものでは3㎝を超えるものもあります。色彩は主にオレンジ色で、熟度によって黄色→オレンジ→赤色と変化するものや、黄色のままで終わるもの、最初から赤く色づくものなどもあります。

横浜の秋を彩るローズ・ヒップ

1. ロサ・フィリペス‘キフツゲート’

英国のキフツゲート・コート・ガーデンに植栽されていることで著名なバラで、野生種のロサ・フィリペスの一個体。非常に旺盛に成育し、シュートは1年で4m以上伸びるので、植栽場所を選ぶ必要がある。一般家庭ではつるバラとして扱うのに向くが、伸びるに任せて立ち木などに絡めてもよい。花は純白の小輪一重咲きで、とても大きな房になって開花する。一季咲き。遅咲きで、花にはスパイス香がある。

実はオレンジ色でやや垂れ下がるような雰囲気でたわわに実る。ロサ・ムリガニーと特性が似ているためしばしば比較されることがあるが、ローズ・ヒップの美しさでは本品種の方が一歩勝っている。樹勢が強く暴れやすい品種なので、成株は施肥を控える必要がある。黒星病に強く、初心者でも育てやすい。流通量は多い。

2. ロサ・ムリガニー

中国~ヒマラヤ原産の野生種で、非常に旺盛に成育し、シュートは1年で4m以上も伸びる。一般家庭ではつるバラとして扱うのに向くが、植栽場所は選ぶ必要がある。伸長力を活かして、立ち木などに自然のままに絡めてもよい。花は純白の小輪一重咲きで、広く流通している個体は花弁の先がハート型をしていて愛らしい印象。遅咲きで、円錐状の大きな房になって開花し、花にはスパイス香がある。一季咲き。

実はオレンジ色で、たわわに実るが、‘キフツゲート’のように垂れ下がることはない。‘キフツゲート’と特性が似ているためしばしば比較されることがあるが、花そのものは本品種の方が優れている。樹勢が強く暴れやすいので、成株は施肥を控える必要がある。黒星病に強く、育てやすい。流通量は多い。

春の花の季節のロサ・ムリガニー。

3. アルバ・セミプレナ(ホワイト・ローズ・オブ・ヨーク)

アルバ系のオールド・ローズの代表品種で、同じく広く知られている‘アルバ・マキシマ’の枝変わりとされる(本品種の方が花弁の枚数が少なく、半八重咲きになる)。やや小ぶりの中輪花にはダマスク系の強い香りがあり、純白色の花弁の中心に黄金色のしべが現れる様は清楚でとても美しい。一季咲き。葉はブルー・グレーを帯びた色で、枝にはトゲが少なく、しっかりと自立して高さ2.5mほどの直立性のシュラブに成育する。秋にはオレンジから赤色にローズ・ヒップが熟すが、多肥状態だと結実しにくくなり、実も腐りやすくなる。成株は肥料を控え気味にしたほうがよい。黒星病に強く、悪条件に耐え、半日陰でも栽培しやすい。流通量は多い。

4. カロカルパ

ハイブリッド・ルゴーサ系の品種で、ハマナス(ロサ・ルゴーサ)と庚申バラ(ロサ・キネンシス)の交配種とされる。花は桃色の中輪花で、数輪から大きめの房で開花し、花にはスパイシーな香りがある。一季咲き。ハマナスの特徴を引き継ぎ枝は鋭いトゲが多く、直立に伸長して高さ2m程度の自立するシュラブに成育する。花首がうなだれるので、実はぶらさがったように実る。黒星病に強いが、ハダニには注意が必要。挿し木苗や深植えした接ぎ木苗は、吸枝(サッカー)で周囲に広がることがある。流通量はやや少ない。

5. ロサ・ルゴーサ‘アルバ’(白花ハマナス)

日本に自生するハマナス(ロサ・ルゴーサ)の白花の個体で、よく目立つ大きなローズ・ヒップを実らせ、果肉は食用にもなる。花は一重の大きな白花で、早咲き。濃厚なスパイス香があり、開花すると周囲に芳香が漂う。返り咲き。枝は細かなトゲが多く、葉は皺が多く、やや野暮ったい印象。高さ1.2mほどの自立したシュラブに成育し、挿し木苗や深植えた接ぎ木苗は、吸枝(サッカー)で周囲に広がることがある。黒星病などにとても強く、全国で容易に栽培できるが、ハダニには注意が必要。流通量は多い。

ハイブリッド・ルゴーサ系の品種には本品種以外にも‘フラウ・ダグマー・ハストラップ’や‘スカブローサ’のようにローズ・ヒップの美しい品種が存在するが、いずれも真夏には着色してしまい、そのため秋までに腐ってしまうことが多い。秋にローズ・ヒップを楽しみたい場合は、二番花の実を残すとよい。

ハマナス(ロサ・ルゴーサ)は条件によってはアジサイの開花期には着色することもある。

6. ロサ・カニナ(ドッグ・ローズ)

ローズ・ヒップ・ティーや接ぎ木用の台木に使用されるヨーロッパの野生種で、オレンジから赤色の実が鈴なりに実る。花はピンクの小輪一重咲きで、葉はマットな印象。一季咲き。シュートは弧を描くように伸長し、樹高2mを超える大型のシュラブに成育する。樹勢が強く暴れやすいので、栽培の際には肥料を控えたほうがよい。流通量は多い。

春の花の季節のロサ・カニナ。

ご紹介のローズ・ヒップのほかにも美しい種類があります。『晩夏から秋のバラの楽しみ。専門家が選ぶ美しいローズ・ヒップ【後編】』や、『晩夏から秋のバラの楽しみ。ガーデンで鑑賞する珍しいローズ・ヒップ』も併せてご覧ください。

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