イングリッシュガーデンなどでよく植栽されている、アルケミラ・モリスをご存じでしょうか? 初夏に黄色い花を咲かせ、フォルムの美しい葉姿も相まって人気が高く、ガーデニングを楽しむなら、ぜひ取り入れてみたい植物です。この記事では、アルケミラ・モリスの特性や魅力、詳しい育て方、楽しみ方など、幅広くご紹介します。
目次
アルケミラ・モリスの基本情報
アルケミラ・モリスは、バラ科ハゴロモグサ属(アルケミラ属)の多年草です。原産地はヨーロッパ東部〜小アジアで、寒さに強い性質です。草丈は30〜50cm、株幅は50〜80cmになります。開花期は5〜7月で、花色は黄色。落葉性のため、冬は葉を落として越年しますが、土中で休眠している期間なので、枯れたと判断して捨てないようにしてください。翌春には再び新芽を出して生育を始め、何年も生き続ける息の長い植物です。ただし、気候や環境によっては常緑のまま越冬することもあります。
アルケミラ・モリスの名前の由来や花言葉
アルケミラ・モリスの名前は、学名Alchemilla mollisをそのまま読んだものです。「Alchemilla」とは、アラビアでの呼び名の「Alkemelych」にちなんでいるとされています。諸説ありますが、錬金術という意味を持つ「alchemy」からきているそう。これはアルケミラ・モリスの葉に溜まったしずくは不思議な力を宿すと信じられ、錬金術に用いられていたことからと伝わっています。
また、英名は「レディースマントル」といい、葉の形からイメージして「聖母マリアのマント」という意味があるそうです。日本へはレディースマントルの名前でもたらされ、マントを訳して「羽衣」とし、「西洋羽衣草(セイヨウハゴロモソウ)」という和名がつきました。
花言葉は、「輝き」「献身的な愛」「初恋」などです。
アルケミラ・モリスの特徴
アルケミラ・モリスは、縁に細かな切れ込みが入る丸い葉を持っています。シルバーがかっても見える美しい葉には優しい雰囲気があり、細かなうぶ毛をもつのが特徴。このうぶ毛が水をはじくため、葉に水が落ちると細かなしずくをたたえ、みずみずしい姿を見せてくれます。初夏の開花期になると葉の間から花茎を長く伸ばし、先端で細かく枝分かれして星形の花を多数咲かせます。鮮やかな黄色の花がたっぷりと咲くので、周囲を明るく見せてくれるのも魅力です。
アルケミラ・モリスの種類
アルケミラ・モリスは基本種が主に出回っていますが、人気の高い植物だけに、人の手によって育種された園芸品種もあります。切り花向けとして流通しているのは、草丈が高く大型になるタイプの‘アウスレーゼ’や‘ロブスタ’などです。一方で、草丈が20cmほどに低く抑えられ、コンパクトな草姿が魅力の‘エリスロポダ’もあります。葉の美しさに特化した品種は‘ブルガリス’で、葉の縁の切れ込みが深めに入り、カラーリーフプランツとしての魅力を発揮します。
ハーブとしても有名なアルケミラ・モリス
アルケミラ・モリスは、西洋ではハーブの一種として古くから利用されてきました。葉を収穫してドライにし、熱湯を注いでハーブティーにしたり、抽出液を化粧水にしたりと、身近な存在となっています。ハーブとしての利用を目的に、アルケミラ・モリスを育ててみるのもいいですね。ただし、園芸用として販売されている品種の中には、薬用としての効果が薄いものもあるため、花苗店などでハーブ苗として販売されているものを選ぶとよいでしょう。
アルケミラ・モリスを上手に育てるポイント
ここまで、アルケミラ・モリスの特徴や花言葉、種類など基本情報についてご紹介しました。では、ここからはガーデニングの実践編として、適した栽培環境や植え付け、水やりや施肥、手入れなど日頃の管理、増やし方など、育て方について詳しく解説していきます。
アルケミラ・モリスに適した栽培環境
アルケミラ・モリスは、寒さに強く、暑さに弱い性質を持っています。寒冷地であれば日当たりのよい場所で放任してもよく育ち、防寒対策の必要もありません。暑さにもある程度耐性がありますが、高温多湿の環境を嫌い、蒸れやすい場所では枯れ上がることがあるので、風通しのよい場所を選びましょう。暑さが厳しい地域では、午前中のみ日が差す東側や、一日中チラチラと木漏れ日が差すような涼しい半日陰の場所に植え付けるのが無難です。
アルケミラ・モリスに適した用土
【地植え】
植え付けの2〜3週間前に、腐葉土や堆肥、緩効性肥料を混ぜ込んで、よく耕しておきます。土づくりをした後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
ハーブ用や山野草用にブレンドされた、市販の培養土を利用すると手軽です。
アルケミラ・モリスを植え付け・植え替えする時期と方法
アルケミラ・モリスの植え付け・植え替え適期は、3〜5月か9〜11月です。ただし、ほかの時期にも苗は出回っているので、入手したら早めに植え付けるとよいでしょう。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、軽く根鉢をほぐして植え付けます。最後にたっぷりと水を与えましょう。
庭で育てている場合、環境に合えば植え替える必要はありません。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、7〜10号鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてからハーブ用または山野草用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して軽く根鉢をくずし、鉢に仮置きして高さを決めたら、少しずつ土を入れて植え付けます。水やりの際にすぐ水があふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりして株の勢いが衰えてくるので、1〜2年に1度は植え替えることが大切です。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から株を取り出してみて、根が詰まっていたら、根鉢をくずして古い根などを切り取りましょう。根鉢を1/2〜1/3くらいまで小さくして、元の鉢に新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢をくずす程度にして植え替えてください。
アルケミラ・モリスの水やり
水やりの際は、株が蒸れるのを防ぐために茎葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。
真夏に水やりする場合は、朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。気温の高い昼間に行うと、すぐに水の温度が上がり、株が弱ってしまいます。
また、真冬に水やりする場合は、気温が低くなる夕方に与えると凍結の原因になってしまうので、十分に気温が上がった真昼に与えるようにしましょう。
【地植え】
根付いた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、アルケミラ・モリスは乾燥すると株が弱るので、雨が降らない日が続くようなら水やりをして補います。
【鉢植え】
日頃の水やりを忘れずに管理します。アルケミラ・モリスは乾燥を嫌うので、水切れしないようにすることが大切です。ただし、いつもジメジメした状態にしておくと、根腐れの原因になってしまいます。土の表面がしっかり乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えてください。茎葉がしおれそうにだらんと下がってきたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。また、冬に地上部が枯れても、カラカラに乾燥させることのないように、適宜水やりを続けてください。
アルケミラ・モリスに必要な肥料
【地植え】
植え付け時に緩効性肥料を施してあれば、その年の追肥は暑さが落ち着いた9月下旬〜10月に、株の周囲に緩効性肥料をばらまいてよく耕すのみでOK。
越年して以降は、生育が旺盛になり始める少し前の3〜4月と、暑さが落ち着いた9月下旬〜10月の年に2回を目安に肥料を施します。
【鉢植え】
3〜4月と9月下旬〜10月に、緩効性肥料を鉢に均一にばらまいて土に馴染ませましょう。もしくは、この時期に液体肥料を2週間に1度を目安に与えてもかまいません。
アルケミラ・モリスに必要な手入れや作業
【花がら摘み】
アルケミラ・モリスは次々に花が咲くので、終わった花は摘み取りましょう。まめに花がらを摘んで株まわりを清潔に保つことで、病害虫発生の抑制につながりますよ! また、いつまでも花がらを残しておくと、種をつけようとして株が消耗し、老化が早まって花数が少なくなってしまうので注意。花がらをまめに摘み取ると、次世代を残そうとして次から次に花がつき、長く咲き続けてくれます。
【切り戻し】
開花後は暑くなって株が蒸れて弱ることがあるので、切り戻して風通しよく管理します。草丈の半分くらいまでを目安に短くカットして、込み合っている部分があればすかし剪定をしておくとよいでしょう。
【冬の刈り取り】
アルケミラ・モリスは、基本的に寒くなると落葉して越年します。枯れ葉などをいつまでも残しておくと、病害虫の越年場所となってしまうことがあるので、地上部が枯れたら枯れ葉や茎を刈り取っておくとよいでしょう。
アルケミラ・モリスを育てるうえで気をつけるべき病気と害虫
アルケミラ・モリスは、病害虫の心配はほとんどありません。ただし、新芽やつぼみに毛虫がついて食害することがあります。虫が苦手で、ハーブとして利用する目的がない場合には、土中に混ぜ込んでおく粒剤タイプの薬剤を使用して防除するのも一案です。
アルケミラ・モリスの増やし方
アルケミラ・モリスは、種まきと株分けで増やすことができます。
【種まき】
種まきのメリットは、輸送などによる苗への負担がかからず、環境に馴染みやすいことです。敷地が広くてたくさんの苗が欲しい場合には、コストカットにもなります。
アルケミラ・モリスの種まきの適期は4〜5月か9〜10月です。発芽率が低いので、直まきせずにセルトレイなどに多めに播いて育苗するとよいでしょう。種まき用のセルトレイにハーブ用または山野草用にブレンドされた市販の培養土を入れ、1穴当たり1〜2粒ずつ播きます。種が隠れる程度に土を薄くかけ、はす口をつけたジョウロで高い位置から優しい水流で水やりをしましょう。乾燥しないように管理し、過保護にせずに冬の寒さにあわせてください。発芽後は日当たりがよく、風通しのよい場所で管理します。本葉が2〜3枚出始めたら、黒ポットに植え替えて育苗しましょう。ポットに根が回ってしっかりした株に育ったら、植えたい場所に定植します。
【株分け】
アルケミラ・モリスの株を植え付けて数年が経ち、大きく育ったら株の老化が進むので、「株分け」をして若返りを図ります。株分けの適期は4月か10月頃です。株を掘り上げて数芽ずつ付けて根を切り分け、再び植え直します。それらの株が再び大きく成長し、株が増えていくというわけです。
アルケミラ・モリスの楽しみ方
アルケミラ・モリスは、さまざまな楽しみ方ができる植物です。ここでは、アルケミラ・モリスを暮らしに取り入れる活用術についてご紹介します。
ガーデンでグラウンドカバーや寄せ植えに!
アルケミラ・モリスは、もともとイングリッシュガーデンやロックガーデンなどで人気を集めてきた植物です。株幅が大きく、野趣感のある草姿を生かして、敷地が広ければ群植させてダイナミックな景色をつくってもいいでしょう。また、発色の美しい花を咲かせる主役の花の近くに植えると、脇役としての魅力も発揮します。地面の隙間を縫うように自然に増え広がる特性を生かし、グラウンドカバーとして利用するのもおすすめ。葉姿が美しいので、カラーリーフプランツとして利用することもできます。
切り花としてほかの花と組み合わせるのにも最適
フォルムが美しくみずみずしい葉に、発色の美しい黄色い花がよく映えるので、切り花としてインテリアに飾るのもおすすめです。黄色い花は目立ちますが、一つひとつは小さい花なので主張しすぎず、他の植物を引き立てる役割を果たしてくれ、どんな花とも相性よくまとまります。
アルケミラ・モリスはドライフラワーにもできる!
アルケミラ・モリスは、ドライフラワーにして楽しむこともできます。風通しがよく乾燥しやすい環境であれば、切り取った花を束ねて逆さに吊るし、1週間ほど置いて乾燥させます。草姿がナチュラルで美しいので、そのままガラスのフラワーベースに飾ったり、バスケットに飾ったりするのがおすすめ。リースやスワッグなどにアレンジしても素敵です。
ガーデンと暮らしの中でも楽しめるアルケミラ・モリス
アルケミラ・モリスはガーデナーに大人気の植物。それもそのはず、楚々とした野趣味のある草姿が美しく、どんな植物とも相性よくまとまるうえ、切り花やドライフラワーとしてもアレンジでき、室内を豊かに彩ってくれます。そのうえ、ハーブとしても利用できる優秀な植物です。ぜひアルケミラ・モリスをガーデンに迎えてみてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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