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春の妖精 スプリング・エフェメラル「カタクリ」を咲かせよう

春の妖精 スプリング・エフェメラル「カタクリ」を咲かせよう

「春の妖精=スプリング・エフェメラル」とも呼ばれるカタクリは、深い山林に人知れず群生して咲きます。その様は高貴なお姫さまのようで、手の届かない存在と思われがち。しかし、実はつい最近まで都市近郊の林内でもよく見られた身近な植物でもあるんです。育て方のコツが分かれば、庭先や鉢でも十分育てられます。正しいカタクリの植え方、育て方、管理の方法を学んで、この愛らしい「春の妖精」を自分の手で育ててみませんか。

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カタクリとは。日本全国で春を知らせる身近なかわいい花

カタクリ
YukoF/Shutterstock.com

早春の落葉樹林にいち早く花を咲かせるカタクリ。落ち葉の間からそっと芽を出し、やわらかな日差しのもとで透き通るようなピンクの花びらをくるりと反り返らせて揺れている姿は可憐そのものです。カタクリのことを、もう少し詳しくご紹介しましょう。

カタクリとは?

カタクリは、ユリ科カタクリ属の多年草。

北東アジア(朝鮮半島、千島列島、ロシア沿海州)と日本に広く分布しています。
学名は、Erythronium japonicum Decne、英名は和名と同じく「Katakuri」です。また、「Dogtooth violet」とも呼ばれています。古語では「堅香子(かたかご)」。花の様子が傾いた籠に似ていることからといわれています。

カタクリの生育環境

カタクリは冬に日光がよく差し込むブナ、ミズナラ、イタヤカエデなどの落葉広葉樹林の林床に群生します。

カタクリが芽を出し花を咲かせ、葉を茂らせて根(鱗茎)に栄養を蓄えることができるのは春先の2カ月という短い期間。この短さが「スプリング・エフェメラル=春のはかない命(妖精)」と称せられ、愛惜されるゆえんです。

カタクリのライフサイクル

カタクリは夏に葉を枯らし、翌年の春まで休眠します。光合成ができる期間が短いため栄養を蓄えるのに長い時間を要し、種子から花を咲かせるまでに8、9年もかかります。そのため、カタクリを育てる場合は種子からではなく、球根を手に入れて9〜10月頃植え付けます。通販で芽出しポット苗を購入することもできます。

なお、料理で使う片栗粉の原料はジャガイモやサツマイモのデンプンです。かつてはカタクリの鱗茎から抽出していましたが、製造量がごくわずかであるため、現在はほとんど見られません。本物の片栗粉は、薬局などで漢方薬として扱われています。本物は消化がよく、病後の滋養に用いられています。

カタクリの種類・初心者におすすめの品種も!

カタクリ
カタクリとサクラソウなど春の花と一緒に。semper-scif/Shutterstock.com

前にも述べましたが、カタクリはユリ科カタクリ属の植物。

カタクリ属は北半球に約20種類が分布しており、その大部分は北アメリカに生育しています。また、ヨーロッパアルプスや日本を含む北東アジアに分布している種類があります。

日本でカタクリといえば、ピンクの花を思い浮かべますが、海外では白や黄色の花が多く、早春のガーデンの彩りとしても活躍しています。では、カタクリの代表的な種類をご紹介しましょう。

エリスロニウム・ヤポニカム

エリスロニウム・ヤポニカム
backpacking/Shutterstock.com

日本の自生種。「エリスロニウム」はカタクリ属を表します。「ヤポニカム」は日本産という意味です。夏は日陰になる涼しい場所を好みます。

エリスロニウム・パゴタ

エリスロニウム・パゴタ
hotoPOU/Shutterstock.com

性質強健で暖地でも育てやすい種類です。花は明るい黄色。カタクリを初めて育てる人におすすめです。

エリスロニウム・アメリカヌム

③エリスロニウム・アメリカヌム
Dan4Earth/Shutterstock.com

生育環境は日本のカタクリによく似ていますが、花は黄色。

エリスロニウム・ヘンダーソニー

④エリスロニウム・ヘンダーソニー
Dinkum/Shutterstock.com

白から薄いピンクで、濃い赤紫の斑紋が入ります。アメリカのカリフォルニア州に分布しています。

エリスロニウム・デンスカニス

エリスロニウム・デンスカニス
mizy/Shutterstock.com

日本のカタクリに似たヨーロッパ産の種類。日本のカタクリより花は赤みが強く、また増えやすくて多くの園芸種があります。

カタクリの育て方・落葉樹の下がポイント

シラー・シビリカとカタクリ
冴え渡る青花が美しいシラー・シビリカとカタクリの共演。Greens and Blues/Shutterstock.com

カタクリの基本的な植え方についてご紹介しましょう。

植え付け時期

カタクリは夏前に休眠に入ります。休眠中の根の出る前が、植え付けの最適期。

7〜10月に球根を入手し、植え付けましょう。植える時期が遅くなると、成長に悪い影響が出る可能性があり、花が咲かないこともあります。

植え付け場所

カタクリは寒さには強いですが、夏の暑さが苦手。枝が粗い落葉樹の東側に植え付けると、適度に木漏れ日や早春の日差しが当たり、夏の地温の上昇を防ぐことができます。自生地に似た環境を用意しましょう。腐植質に富んだ、水はけがよく、かつ乾きすぎない場所を選んでください。

植え付け時の注意点

<地植えの場合>

植え付け場所は40cm程度の深さまで耕しておきます。そして土に対し、堆肥、腐葉土、ピートモスを3割程度入れます。さらに根を傷めにくい緩効性の化成肥料を混ぜます。球根は、5〜6cmくらい土がかかる深さで、10cmくらいの間隔で植え付けます。定植後の乾燥に注意して、適宜水やりをしてください。

ワラや落ち葉をかけてマルチングしておくと、地温が高くなりすぎたり、雨で土が固くなるのを防ぎ、乾きや凍結防止などにも役立ちます。

<鉢植えの場合>

鉢が小さいと乾燥しやすいため、直径15〜18cm、深さ20cm程度の腰高の鉢を使います。腰高鉢を使うことで、根が深く張るようにもなります。用土は腐葉土が3割程度入っている培養土を選び、緩効性の化成肥料を混ぜておきます。

球根は2〜3cmくらい土がかかる深さで、4〜5球植え付けます。植え付け後、軽く水をかけ、2日後くらいにたっぷり水をやります。土が乾くと根張りが悪くなるので、常に湿り気を保つようにします。

冬季、鉢が凍る恐れがある時は、南向きの軒下に埋めておくと、乾きすぎと鉢土の凍結を防げます。

発芽後から開花期の管理

3月、暖かくなってくるとカタクリの2枚ある本葉のうち1枚が開き、霜の恐れがなくなる頃にもう1枚の葉と蕾が出て、短期間のうちに花が咲きます。花は2週間ほど楽しめます。この時期、葉を大きく広げて光合成を行い根に栄養を送るため、しっかり太陽に当てます。葉を1日でも長くもたせるのがポイントです。芽出しから葉が緑色になっている間に、月2回程度の頻度で液肥を水の代わりに与えると効果的です。

また、土は常に湿り気を保つように管理します。鉢植えは特に注意して鉢土を乾かさないようにします。

病害虫

気温が低い時期に成長し開花するため、病気が発生したり、害虫がつくことはほとんどありません。ただし、近くに黄色いパンジーなどを植えている場合、そちらからアブラムシが移動してくる可能性があるので注意しましょう。

2〜3月は、葉に赤茶色の粉がついているように見える「さび病」に注意。さび病になると、葉に異変が起きるだけでなく、花が咲かなくなる恐れがあります。さび病に感染したら、その部分の葉を切り取って焼却してください。

開花後の管理

カタクリが地上で活動するのは2〜3月。短い期間なので、葉をできるだけ長くもたせて、光合成を行い栄養分を根に送ることが大事です。そのため、芽出しと同時に置き肥をしたり、液肥をやるなどの肥培が重要です。

生育中は水を切らさないように、また休眠中も表土が乾かないように管理します。

自生地に近い環境を意識し、開花後の鉢は木漏れ日の当たる場所に置きましょう。

カタクリの寿命は40〜50年と意外に長いです。特に洋種のカタクリは丈夫なため、きちんと環境を整えてやれば、何年も花を咲かせてくれます。

カタクリの自生地に行ってみよう

カタクリとエゾエンゴサクの群生
北海道旭川で咲くカタクリとエゾエンゴサクの群生。takuyama/Shutterstock.com

桜の開花情報が聞かれると同時に、日本全国のカタクリの自生地からカタクリ開花のニュースが流れてきます。木々のこずえが、うっすらと芽吹き始める直前の里山。うらうらと暖かな陽光の差す落葉樹林の足元を一面ピンク色に染めてカタクリは咲き出します。花の寿命は2週間ほど。はかなくも美しい命を輝かせて咲くカタクリとの一年に一度の出会いです。

さっそくカタクリの自生地を調べてカタクリを見に行きましょう。

カタクリの自生地は全国各地にあります。有名な自生地の一例として

  • 北海道 旭川市 男山自然公園
  • 秋田県 仙北市 鎌足カタクリ群生地
  • 千葉県 千葉市 泉自然公園
  • 栃木県 三毳山、佐野市万葉自然公園
  • 神奈川県 相模原市 城山かたくりの里
  • 埼玉県 新座市 牛沢地区
  • 東京都 練馬区清水山の森 / 清瀬市清瀬中里緑地保全地域

などがあります。

これらの自生地では、カタクリだけでなく、早春の山野草のイチリンソウ、ヒトリシズカ、アマナなども見ることができます。なお、カタクリは絶滅危惧種Ⅱ類として保護されている植物ですから、十分注意して観察しましょう。

自生地の環境をじっくり観察すれば、カタクリの育て方のヒントをもらえるはずです。

カタクリ

万葉の昔、大伴家持が

「もののふの八十乙女らが汲みまがふ寺井の上の堅香子の花」

(注)堅香子(かたかご)はカタクリの古名

と詠んだ短歌で知られるように、カタクリは古くから美しい春の花として親しまれてきました。植え方、環境に配慮すれば、毎年花を楽しむことができます。

「スプリング・エフェメラル=春の妖精」との再会を期して、まず球根を手に入れて植えてみませんか。

Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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