カリンに似たマルメロ! 実の食べ方・育て方のポイントなどをご紹介

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香り高い果実マルメロは、果実酒やジャムに加工すると極上の味わいを楽しめます。この記事では、果樹マルメロの基本情報や果実の特徴、加工の仕方、また育て方など、幅広くご紹介していきます。
目次
マルメロってどんな植物?
マルメロとはどんな植物なのでしょうか。果樹としては初めて聞いた、という方に向けて、マルメロの特徴など、基本情報についてご紹介します。
マルメロとは

マルメロは、バラ科マルメロ属(シドニア属)の果樹。学名はCydonia oblonga。別名セイヨウカリンとも呼ばれており、カリンと混同されがちですが、別属に分類されています。原産地は中央アジアで、寒さに強い性質を持っています。樹高は1.5〜2.5m。冬には葉を落として休眠する落葉樹です。4月下旬〜5月上旬に開花し、10月頃に洋ナシに似た果実をつけます。
マルメロの花

マルメロの開花期は、4月下旬〜5月上旬。花色は白または淡いピンクで、花径5cmほどの愛らしい5弁花が咲きます。一斉に多数の花が咲くので、開花期も見応えがあります。
マルメロの実

マルメロは、10月頃が収穫期です。果実は10cm前後。パステルイエローで洋梨やカリンに似た姿をしています。芳香がありますが、酸味が強いので生食には向いていません。果実酒やハチミツ漬け、ジャムなどに加工して食されています。
「カリン」とはどう違うの?

セイヨウカリンの別名を持つことから、マルメロとカリンは混同されがちですが、ここで主な異なる点を挙げておきましょう。
①まず属名が異なり、マルメロはマルメロ属で、カリンはカリン属です。
②マルメロの葉の縁はなめらかですが、カリンの葉にはノコギリのように細かな切れ込みが入ります。
③マルメロの花は、白または淡いピンクで、カリンは濃いめのピンクです。
④マルメロは樹皮がはがれませんが、カリンは樹皮がはがれてなめらかです。
⑤マルメロの果実には細かい産毛があり果肉は硬いのですが、カリンは無毛で比較的柔らかい果肉です。
マルメロの実の食べ方

マルメロは芳醇な香りが魅力ですが、果実は硬くて生食には向かないとされています。では、どんな食べ方があるのでしょうか。ここでは、加工の仕方についてご紹介します。
果実酒
香り高いマルメロの長所を生かした果実酒は、大変人気があります。
保存容器はあらかじめ煮沸消毒をしてしっかり乾燥させておきましょう。
マルメロ500g、氷砂糖100g、ホワイトリカー900ccを目安に材料を準備します。
マルメロはよく水洗いをして産毛などを取り除き、キッチンペーパーなどで水分を拭き取りましょう。ヘタとお尻を切り、縦に4分割して軸を取り除きます。種や皮はそのままでOK。
容器に材料を入れて、密閉して冷暗所で保存。半年後くらいからが飲み頃です。
ジャム
マルメロは煮ると果肉が柔らかくなるので、ジャムにするのもおすすめ。
煮沸消毒して乾燥させた保存容器、マルメロの実、実の半量のグラニュー糖、レモン汁を準備します。
マルメロは十分に水洗いして、頭とお尻を落として皮をむきます。縦に切って種を取り除き、くし切りにして素早く塩水(分量外)につけておいてください。
水を切って鍋に入れ、しばらく弱火にかけます。実の形が崩れてドロドロになるまで煮込み、グラニュー糖を加えてよく混ぜます。レモン汁を回し入れ、とろみがついたら出来上がり。保存容器に入れて冷蔵庫で保存します。
マルメロの栄養

マルメロは100gあたり48kcal。カリウムが豊富で、ほかにビタミンC、ビタミンE、食物繊維などを含んでいます。
マルメロの保存方法

マルメロの果実にまだ緑色が残っていたら、新聞紙などに包んで室温に置き、追熟させます。全体に黄色くなって香りがたち、ツヤが出てきたら熟した目安なので、冷蔵庫で保存して早めに利用しましょう。
マルメロの産地と旬

マルメロの産地は長野県、青森県、北海道など。冷涼な気候を好むので、高冷地や寒地が目立ちますね。旬は秋で、10〜11月にフレッシュな果実が出回ります。
マルメロの品種

マルメロは、それほど多くの品種が流通しているわけではなく、在来種のほかには350gほどの大きな実がつく‘スミルナ’が有名です。
マルメロの育て方
ここまで、マルメロの基本情報や加工の仕方など、多岐にわたってご紹介してきました。では、ここからはガーデニングの実践編として、マルメロの栽培のポイントについて解説していきます。
適した環境

マルメロの栽培には、日当たり、風通しのよい場所が最適です。水はけ、水もちがよく、腐植質に富んでふかふかとした土壌を好みます。栽培適地は関東以北。雨が少なく涼しい気候を好み、酷暑を苦手とする傾向にあります。真夏は葉焼けすることもあるので注意。西日の当たらない場所を選ぶとよいでしょう。
土づくり

【地植え】
植え付けの2〜3週間前に、直径、深さともに50cm程度の穴を掘りましょう。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきます。粘土質などの水はけの悪い土壌であれば、腐葉土や堆肥を多めにすき込んで土壌改良し、土を盛って周囲よりも高くしておくとよいでしょう。肥料などを混ぜ込んだ後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
果樹用にブレンドされた、市販の培養土を利用すると手軽です。
植え方

マルメロの植え付け適期は、落葉期の12〜2月。植え付けから収穫までの目安は、3〜5年です。
収穫を目的とするなら、近くに2品種以上を植えることがポイントです。マルメロは基本的に自家不結実性(1本植えるだけでは実らない)のため、確実に実をつけるには、別品種の授粉樹が必要だということを知っておきましょう。開花期が同じ時期の品種を選ぶことも大切です。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘り、軽く根鉢をほぐして植え付けます。一年生の苗木の場合は、地際から約60cmのところで切り詰め、しっかりと根づくまでは支柱を立てて誘引し、倒伏を防ぐとよいでしょう。最後にたっぷりと水を与えます。
【鉢植え】
鉢植えにする場合は、7〜8号鉢を準備しましょう。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから果樹用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して鉢に仮置きし、高さを決めます。水やりの際にあふれ出さないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら用土を足していきます。一年生の苗木の場合は、地際から約60cmのところで切り詰め、しっかりと根づくまでは支柱を立てて誘引し、倒伏を防ぐとよいでしょう。最後に、鉢底からたっぷりと流れ出すまで、十分に水を与えます。
鉢植えで楽しんでいる場合、成長とともに根詰まりしてくるので、2年に1度は植え替えることが大切です。植え替えの適期は、落葉期の12〜2月。植え替え前に水やりを控えて土が乾いた状態で行うと、作業がしやすくなります。鉢から木を取り出してみて、根が詰まっていたら、根鉢をくずして古い根などを切り取って整理し、元の鉢に新しい培養土を使って植え直します。もっと大きく育てたい場合は、元の鉢よりも大きな鉢を準備し、軽く根鉢を崩す程度にして植え替えてください。
水やり

木の幹や枝葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。真夏は気温が上がっている昼間に水やりすると、水がすぐにぬるま湯になって木が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。反対に、真冬は気温が十分に上がった日中に行います。夕方に水やりすると凍結の原因になるので避けてください。
【地植え】
植え付け後にしっかり根づいて茎葉をぐんぐん伸ばすようになるまでは、乾いたら水やりをしましょう。根づいた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただし、晴天が続いてひどく乾燥する場合は水やりをして補いましょう。
【鉢植え】
日頃から水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がややだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、水やりを欠かさないように注意します。冬は生育が止まり、表土も乾きにくくなるので控えめに与えるとよいでしょう。
肥料の与え方

【地植え、鉢植えともに】
2月と10月に有機質肥料を施します。
鉢植えの場合は肥料成分が水やりとともに流失しやすいので、木に勢いがないようであれば、適宜肥料を施して様子を見てください。
人工授粉

確実に実らせるには、開花期に他品種の花粉を筆などに取り、雌しべになでつけて人工授粉を行います。
摘果

果実が多くつきすぎると、隔年結果(たくさん収穫できた翌年は実りが少なくなること)になりやすいので、樹木に適した果実がつくように、不要な果実を落として調整します。この作業を摘果といいます。
マルメロの摘果の適期は5月頃。一度にたくさんの摘果をせずに、2〜3回に分けて実り具合を見ながら行うとよいでしょう。小さい果実の品種では、葉の数が40〜50枚に1つの果実を残すのを目安にしてください。大きい果実の品種では、70〜80枚に1つの果実を残すとよいでしょう。残した果実には袋かけをしておくと、害虫対策になります。
収穫

マルメロの収穫適期は10月頃です。緑色をしていた果実が黄色く熟れてきて、フルーティーな香りを漂わせるようになったら、頃合いです。ハサミで切り取って収穫します。
病害虫の予防

【病気】
マルメロの栽培で注意したい病気は、黒点病、赤星病です。
黒点病は梅雨頃に発生しやすく、カビが原因で伝染する病気です。葉や果実などに黒い斑点が生じるので発見しやすいといえます。被害を受けた葉から伝染しやすいので、発生したら取り除き、市販の殺菌剤を散布して防除しましょう。
赤星病は、葉の表面にオレンジ色の斑点が現れ、次第に大きくなって葉が枯れていき、樹勢も衰えます。見つけ次第葉を処分し、殺菌剤を散布して防除しましょう。マルメロを栽培する際には、近くにカイヅカイブキなどビャクシン類の植物を植えないようにしてください。カイヅカイブキは赤星病の中間宿主となる植物で、冬に葉や枝に潜んでいる菌が春になると胞子を飛ばし、近くのマルメロなどの木に寄生して発病するからです。
【害虫】
マルメロの栽培で注意したい害虫はシンクイムシです。
アワノメイガ、ハイマダラノメイガ、モモシンクイガなど、主にメイガの仲間を総称してシンクイムシと呼んでいます。孵化した幼虫がマルメロの果実の中に入って食害します。摘果した後に袋かけをし、物理的に侵入できないようにしておくと安心です。
剪定

マルメロの剪定は、落葉期の12〜2月が適期です。
マルメロは花芽が枝の先端にできるので、全体を深く切り戻すことは避けてください。勢いよく長く伸びて、樹形のバランスを崩している徒長枝は元から切り落とします。他は込み合っている部分を切り取って風通しをよくし、木の内部まで日が差すように整えます。内側に向かって伸びている枝、弱々しい枝、古くなっている枝などを選んで切り取りましょう。
増やし方

マルメロは挿し木で増やすことができます。
挿し木とは、枝を切り取って地面に挿しておくと発根し、生育を始める性質を生かして増やす方法です。植物の中には挿し木ができないものもありますが、マルメロは挿し木で増やすことができます。
マルメロの挿し木の適期は、2月下旬です。若い枝を2〜3節つけた長さで切り取ります。採取した枝(挿し穂)は、水を張った容器に1時間ほどつけて水あげしておきましょう。その後、吸い上げと蒸散のバランスを取るために下葉を2〜3枚切り落とし、残した葉も半分ほど切り取ります。3号くらいの鉢を用意してゴロ土を入れ、新しい培養土を入れて水で十分に湿らせておきます。培養土に植え穴をあけ、穴に挿し穂を植えて土を押さえてください。発根するまでは明るい日陰に置いて管理します。その後は日当たりのよい場所に置いて育苗し、大きく育ったら植えたい場所に定植しましょう。挿し木のメリットは、親株とまったく同じ性質を持ったクローンになることです。
いろいろな食べ方を楽しめるマルメロ! 栽培もしやすいマルメロを育ててみよう

ジャムや果実酒に加工すると、芳醇な香りと味わいを楽しめるマルメロ。果樹を家庭で栽培すると、収穫したり加工する楽しみが生まれます。育てやすいマルメロを、ぜひ庭に取り入れてはいかがでしょうか。
Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
参考文献
『プロが教える 庭づくりと庭木の育て方』監修:茨木春草園、著:永井淳一(日本文芸社)
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