食欲の秋と称されるように、秋は実りの多い時期です。中でも栗は秋の味覚として欠かせないものではないでしょうか。里山で生活したことがあれば、トゲトゲしたイガから栗の実を取り出したことがある人も多いはず。そんな秋の風物詩ともいえる栗は、ブナ科クリ属の一種で、日本はその原産地でもあります。古くは縄文時代の遺跡からも発掘されるほど人との関わりの深い栗を、自宅で栽培して収穫してみたいと思いませんか。収穫に至るまで、剪定や施肥など難しいと感じることがあるかもしれません。しかしポイントを押さえれば、しっかりと収穫に繋げることができます。ここでは、栗の栽培方法や特徴について解説したいと思います。
目次
栗とはどんな植物?
誰もが知っている栗ですが、植物としての栗の生態を詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。ここでは、そんな栗の基本的な情報について解説したいと思います。
基本情報
日本原産の栗はブナ科クリ属の落葉樹で、学名をカスタネア・クレナータCastanea crenata といいます。日本以外にもアジア、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカの温帯域に広く分布しています。果樹として栽培されている栗は大きく分けて、日本原産の和栗、ヨーロッパ栗、中国栗などがあります。
園芸分類としての栗は庭木などに利用され、耐暑性、耐寒性ともに強く、土壌もあまり選びません。樹高2m以上になる中高木で、樹齢100年を超えるような寿命の長い果樹です。開花期は5~6月で、独特の匂いを放ちます。同じ木の花粉では受粉、結実しにくい自家不和合性という性質が強いので、受粉用の木をもう1本植える必要がありますが、近所に栗の木があれば結実を期待できます。花言葉は「豪奢」「贅沢」「満足」などといったものがあり、これはもともと栗が高級食材であったことに由来しているようです。
特徴
ブナ科クリ属に分類されるものは、世界で12種あります。私たちが食べている部分は堅果と呼ばれる果実部分ですが、種類によって食味や風味が異なります。栗は雌雄同株で5月頃からクリーム色で細いブラシ状の雄花を多数付けます。ブナ科の樹木は風に花粉を運ばせて受粉させる風媒花が多いのですが、栗は独特な匂いでハエなどの昆虫を誘い、受粉させる虫媒花です。自家不和合性といって単体では結実しにくい性質があるため、栗の実を収穫したい場合は、別の品種を近くに植える必要があります。受粉が成功すれば、花の付け根あたりに緑色の小さなドングリのような実ができます。大きくなるにつれてイガの部分も発達してきます。茶色くなって成熟するとイガの部分の皮が裂け、堅果が顔を出します。自然落下することもありますが、イガごと落下する場合もあります。
栗の主な品種
栗は世界の広い範囲に自生していることから、さまざまな品種が作出されています。産地や品種によってその特徴や用途も違うため、それぞれの品種が最適に活用できるように、ここでは品種ごとの特徴を解説したいと思います。
和栗
和栗は日本原産のシバグリから品種改良を行って作られた品種で、主に日本で栽培されています。渋皮の剥きにくさはありますが、他品種と比べ食用部分が大きいところが特徴です。
和栗の中でも古くから有名な品種に、丹波栗や利平栗があります。丹波栗に代表される「銀寄」や「丹沢」という品種は大粒で早く収穫ができるため人気があり、生産率では全体の2~3割といわれています。食味の特徴としては、大粒でほくほくとしてとても食べ応えがあります。風味や甘みもほどよくのり、蒸したりゆでたりしたものをそのまま食べても美味しく、また栗ご飯や和菓子などに使うと上品な甘さと香りが引き立ちます。
利平栗は、岐阜で作出された日本原産の栗と中国原産の栗の交配種です。生産者の屋号を取って命名されました。堅果は丸くふっくらとして、果頂部には産毛が多いのが特徴です。食味はやや粉質で食感がよく、風味や甘みの強さから栗の王様とも呼ばれています。ゆでたものをそのまま食べても美味しいですし、渋皮煮などもおすすめです。
ヨーロッパ栗
南東ヨーロッパや西アジアを原産とする栗です。イタリアやフランスでの栽培が盛んで、日本でもよく聞く「マロン」はフランス語です。洋菓子の具材として使われることが多く、堅果は小さく粘り気の少ない品種です。焼き栗にしても美味しく食べられます。病気や害虫に弱いことから、日本ではあまり栽培されていません。
中国栗
中国華北地方原産の栗で、堅果は小さいですが甘みが強く、渋皮が剥がれやすいことから焼き栗として食べられることの多い品種です。日本では「天津甘栗」として知られています。甘みは強いものの食用部分が堅いため、菓子類にはあまり使われません。
栗の育て方とは
これまで栗の特徴について解説してきましたが、品種によっては日本での栽培が難しいものもあります。ここでは、日本原産の栗の育て方について、収穫するために何を意識したらよいのか、栽培環境や剪定はどうしたらよいのかなど、幅広い視点で解説したいと思います。
栽培環境
一年を通して日当たり、風通しのよい場所に植えましょう。栗は陽樹といって日陰では生育不良や実付きが悪く、環境によっては枯れてしまうことがあります。栽培適地は、栄養が豊富で保水性、排水性に優れた弱酸性の土壌です。粘土質や乾燥しすぎる土壌ではうまく栽培できないことがあるため、植え付け前に腐葉土や果樹専用培養土などを混ぜて土壌改良をしておきましょう。
水やり
適地に地植えしている場合、水やりはあまり意識する必要はありません。植え付け直後で葉が萎れるようであれば、たっぷり与えてください。鉢植えで育てている場合は乾燥に注意し、乾いたら鉢底から流れ出るくらいたっぷりと与えましょう。
剪定
栗は幹まで日が当たるくらい明るいのを好みます。剪定は落葉期(12~3月)に行いましょう。実が収穫できない幼樹の間は、内向枝や伸びすぎた枝を切る程度の軽い剪定を。その後も内向枝は意識して剪定し、混み入った部分の枝を整理し、全体的に枝を左右の外側へ導く開心自然系に仕立てていきます。栗の花は前年に伸びた枝に花を付ける旧枝咲きのため、強剪定で旧枝まで切ってしまうと実が付きません。上に向かって強く伸びる枝はつけ根から切ります。強剪定しなくて済むように定期的な剪定を心がけましょう。
植え付け・植え替え
落葉期(12~3月)が適期ですが、霜が降りるような厳冬期は避けましょう。
鉢に植える際は7号から10号程度の鉢を用意し、まず鉢底石を敷きます。用土は保水性と排水性を意識して作りましょう。赤玉土6に腐葉土4を混ぜ合わせた配合土か果樹専用の用土を鉢の1/3ほど入れたら苗を置いて、さらに覆土します。その際、苗の根をチェックし、枯れている根は取り除いておきましょう。植え付けが終わったら水やりです。鉢底から濁った水が出なくなるまで与えてください。通常2年程度で根詰まりが起きて成長に影響が出やすいため、2年間隔での植え替えがおすすめです。
ある程度大きくなった苗を地植えする場合は、土づくりを済ませておきましょう。幅100~130cm、深さ50cmほどの穴を掘り、植え付けます。数株植える場合は、株間を6~7m程度取りましょう。
注意する病害虫
樹木としては丈夫です。適地であれば大きな病気の心配はありません。まれに剪定後の枝や露出している根から菌が入り、胴枯病という症状が出る場合があります。発症すると発症部位が黒色や褐色に変色し、樹皮の質感がざらざらしてきます。症状が進行するとその部位からの亀裂が進み、全体が枯れてしまうことがあります。心配な場合は株元をマルチングし、太い枝を剪定する際は剪定後の切り口に癒合剤を塗って菌の感染を防ぐようにしましょう。対して栗の実は、カミキリムシ、シキゾウムシ、アブラムシなどさまざまな昆虫の食害に遭う可能性があります。害虫は見つけ次第すぐに除去しましょう。
増やし方
実生でも増やすことができますが、自家不和合性の強い栗は実生の場合、交配元の両株の影響を受けるため、元株と同じ形質が出ないことがあります。そのため、同じ品質の栗を増やしたい場合は接ぎ木しましょう。販売されている栗のほとんどは、丈夫な原種のシバグリに接ぎ木されたものです。適期は3~4月。適切な台木と穂木を用意して行いましょう。
栗の栽培に挑戦し、実を収穫して楽しもう
栗を含めた果樹栽培の醍醐味は、収穫し、それを食べることにあります。特に栗は代表的な秋の味覚でもあり、収穫は大きな楽しみです。果樹の中でも大きく育ち、実を収穫するためには数株植える必要があることや、害虫対策など、やや敷居の高い部分はありますが、こまめな剪定で樹高を制限し、管理をしやすくすることで、それらの手間を軽減しましょう。栗栽培は自分の頑張りが収穫に結びつくので、満足感のある園芸ライフになりますよ。
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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