「ヤドリギ」という植物をご存じでしょうか? 「知ってる! 見たことある! 高い樹の上にある緑色の丸い鳥の巣みたいな、あれでしょ?」という方は、幸運な方です。ヤドリギはヨーロッパでは特別な樹です。古代ヨーロッパの時代から、ヤドリギは霊力がある不思議な霊草、魔除けとなり、幸運をもたらすと信じられてきました。そんな神秘的な魅力にあふれるヤドリギ。日本で見られるヤドリギスポットとともにご紹介します。

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ヤドリギは永遠を象徴する神聖な樹、恋人の樹

冬でも青々と葉を茂らせるヤドリギは、永遠を象徴する神聖な樹として、クリスマスシーズンにその枝を飾る習慣もあります。「ヤドリギの下に立っている女の子にキスをしてもいい⁉︎」という習慣から、ヤドリギは「恋人の樹」とも言われています。「ヤドリギなんて知らない」という方、少し興味を持っていただけましたか? 不思議なヤドリギの特徴、生態、数々の伝説を詳しく知って、きたるべきクリスマスシーズンを楽しく迎えましょう。

ヤドリギの特徴と生態

ヤドリギ
Natalia Golubnycha/Shutterstock.com

ヤドリギは樹木の枝や幹に寄生して、水分、栄養分をもらって成長する常緑の多年生植物です。しかし、葉緑素を持っていて自分で光合成によって栄養分を作り出すこともできます。正確には半寄生植物と言えるでしょう。1年につき1節だけというゆっくりとした成長のため、大きな球形になるまでには20年以上かかります。成長するにつれ葉が密集し、鳥の巣のような形になっていくのです。2月頃にあまり目立たない黄緑色の花を咲かせ、11月から2月にかけては、白、薄い黄色、オレンジ、赤の実をつけます。

ヤドリギ
Orest lyzhechka/Shutterstock.com

ヤドリギはビャクダン科、ヤドリギ属。ヨーロッパから日本にかけてユーラシア大陸の端から端まで広く分布しています。そして、ヤドリギが寄生する樹木によって多くの品種があります。日本で見られるヤドリギは、ケヤキ、エノキ、ミズナラ、コナラ、ブナ、シラカバ、サクラなどさまざまな樹に寄生します。落葉樹が多いですが、マツのような常緑樹に寄生することもあります。冬になって寄主(寄生植物が寄生する相手)が落葉すると、丸いヤドリギの形が蒼天にはっきりと姿をあらわし、「ここにいるよ!」とその存在を宣言します。

ヤドリギにまつわる伝説

すっかり葉を落とした冬の森。そのモノトーンの世界に、枯れずに青々と茂り、丸い形を高いこずえにフワリと浮かせているヤドリギ。古代の人々はヤドリギに不思議な霊力とパワーを感じたに違いありません。

ヤドリギにまつわる幾つかの伝説、習慣をご紹介しましょう。

紀元前1000年頃のヨーロッパに定住していた古代ケルト族は、特にオークの樹にやどったヤドリギを神聖視しました。ケルト族の宗教を司る僧が1月6日に黄金の鎌でヤドリギを切り落とす儀式を行っていたと伝えられています。その枝は不老長寿の薬、魔除け、幸福をもたらすものとして、特別の日に人々に配られたということです。

ヤドリギ
PapierZaha/Shutterstock.com

北欧神話では、光と喜びの神バルデルは皆に愛され、全ての自然物はバルデルを殺したり傷つけたりしないと誓いをたてました。ところが、ヤドリギはあまりに小さな樹であったため、この誓いに参加しなかったのです。そこでバルデスの敵がヤドリギを用いてバルデスを殺してしまったということです。

ヤドリギ
maritime_m/Shutterstock.com

イギリスでは、ヤドリギの下に立っている女の子はキスをされるのを拒めない、という習慣があります。このキスは2人の結婚を確実にしてくるといわれています。恋人のいる女性は心してヤドリギに近づかなければなりません。

ヤドリギ
Oksana_Schmidt/Shutterstock.com

また、スカンジナビアではヤドリギは「平和」を表します。ヤドリギの束をドアの外に吊るすと、客人の身の安全が保証されるというものです。物騒だった昔の旅で、旅人にとってヤドリギは心強い味方ですね。

さて、日本ではヤドリギはどのように捉えられていたでしょうか?

8世紀に編集された万葉集に、大伴家持がヤドリギを詠んだ歌が収められています。

あしひきの 山にこぬれ(木末)の ほよとりて かざしつらくは

ちとせ(千年)ほ(寿)くとぞ

この「ほよ」はヤドリギの古名。

「山の木のこずえからヤドリギを取って髪に飾るのは長寿のおまじないなのだそうだ」

という意味の歌です。めでたい正月の宴席で詠んだものと言われています。

ヤドリギ
Federico.Crovetto/Shutterstock.com

どうやら、ヨーロッパでも日本でも、ヤドリギは生命力の象徴として、人々を守り幸運を授けるものと信じられてきたようです。

最後に宮沢賢治の『水仙月の4日』という童話を紹介したいと思います。短いですが、とても素敵なファンタジーなので、ぜひ読んで見てください。もちろん、ヤドリギも出てきますよ。

ヤドリギの増え方

ヒレンジャク
ヤドリギの実を食べるヒレンジャク。Richard Constantinoff/Shutterstock.com

ヤドリギはどうやって高いこずえに種子を付着させるのでしょうか。種子が地面に落ちてしまったら、地上では種子は発芽できないのです。

その秘密は種子のある性質にあります。種子はネバネバとした粘着物で包まれています。鳥に食べられたヤドリギの実の種子は消化されずに、鳥のお尻から出てきます。この時種の周りのネバネバが糸のように伸びてぶら下がり、風に揺られて近くの枝にくっつくというわけです。枝に運よく? くっついた種子は寄主の枝の表面に「寄生根」と呼ばれる根を伸ばして、水分や養分をもらう寄生生活を始めます。

なんと巧妙な仕組み!

日本ではヒレンジャク、キレンジャクが好んでヤドリギの実を食べるそうです。これら特定の鳥がヤドリギの繁殖に貢献しているのです。

ヤドリギは園芸向きではない?

ヤドリギを自分の手で育ててみたいと思っている方、いらっしゃいますか?

じつは、ヤドリギを人工的に寄生させることは非常に難しいと言われています。その理由はまず苗や種子が出回っていないこと、一般的に植物を増やす時に用いられる接木ではヤドリギは増やせないことが挙げられます。

運よく種子が手に入って発芽に成功したとしても、成長するのに時間がかかり、大きく目立つようになるには20〜30年もかかります。

ヤドリギは神秘的な植物ですから、やはり自然の手に委ねたほうがいいようですね。

ヤドリギを見つけに行こう

ヤドリギ
Art_Pictures/Shutterstock.com

さあ、ヤドリギを見にいきましょう。冬に向かう季節は寄主が落葉し、常緑植物のヤドリギが目立つので、見つけるのにピッタリです。ヤドリギがよく寄生する植物を目当てにします。

平地ではケヤキ、エノキ、サクラなどの大木。こういう大木は神社やお寺、城跡など古くからあってあまり人が行かない場所にあります。川沿いの桜並木に寄生していることもあります。まず、近所の古そうな神社、お寺へヤドリギ探検に行きましょう。山地や北日本ではコナラ、ミズナラ、ブナ、シラカバなど。山歩き、きのこ採りの時に見つけることが多いようです。

なかなかヤドリギに遭遇しないという関東の方には、ヤドリギが確実に見られる関東近郊の場所をご紹介します。都会に近く簡単に行けるところばかりです。

① 皇居(北詰橋門 東京メトロ半蔵門線竹橋駅から徒歩5分)
② 砧公園(東京都世田谷区 一の橋近くの広場)
③ 黒川清流公園( 東京都日野市 中央線豊田駅から徒歩10分)
④ 東高根森林公園(神奈川県川崎市 北口前の広場)
⑤ 富岡総合公園(神奈川県横浜市 管理センター近くの北台広場)
⑥ 秋ヶ瀬公園(埼玉県さいたま市)
⑦ 親沢公園(茨城県涸沼湖畔 駐車場付近)
⑧ 栃木県民の森(栃木県矢板市 宮川渓谷沿い)
⑨ 大室公園(群馬県前橋市 五料沼の周囲)

ヤドリギは高いこずえに寄生していますから、オペラグラスを持って行ってよく観察しましょう。寒くなりますから、マフラーや手袋も忘れずに。

クリスマスにヤドリギを飾りましょう

ヤドリギ
marilyn barbone/Shutterstock.com

ヨーロッパではクリスマスシーズンになると、魔除けや幸運を呼ぶシンボルとして家の玄関や窓辺にヤドリギが飾られます。最近、日本でもヤドリギをクリスマスの飾りに取り入れて楽しむようになってきました。

ヤドリギを店頭販売しているお店は多くありませんが、インターネットで探して見つかる場合があります。手に入ったら、貴重なヤドリギです。早速飾ってみましょう。

簡単でも見栄えがする、おすすめの飾り方が「スワッグ」です。一本でもヤドリギが生育する姿がよくわかります。お気に入りのリボンで結んで窓辺に飾ってみましょう。また、数本を束ねたらより豪華なスワッグが楽しめます。もしくは、クリスマス時期の葉物や松ぼっくりと組み合わせても楽しいです。ヤドリギは1本からいくつか枝分かれしているので、短く切り分け小さな花瓶に活けてもその独特なシルエットが楽しめます。リース作りはちょっと上級者向けかもしれません。リース作りの経験者はリースに挑戦してください。素材によって枝が落ちやすいことがあるので注意しましょう。

ヤドリギ
Anastasia Lembrik/Shutterstock.com

今年のクリスマスはヤドリギの神秘的な生命力と感じ、そのパワーを家族や友人とあるいは恋人と分かち合いながら過ごしてみませんか。いつもとはちょっと違うミステリアスで楽しい雰囲気のクリスマスが味わえることでしょう。

Credit

文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。

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