たくさんのつぼみを立ち上げて、比較的大きめの花を次々と咲かせるひなげし。ギリシア神話や中国戦国時代のエピソードに登場することから、古くより人々に愛されてきたことがうかがえます。そんなひなげしの特徴から基本情報、育て方などについて、幅広く取り上げていきます。
目次
ひなげしとは
赤やピンク、白など華やかな花を咲かせるひなげし。ここでは、その特徴や基本情報、名前の由来、花言葉などをご紹介します。
ひなげしの特徴
ひなげしの学名はPapaver rhoeas、ケシ科ケシ属の秋まき一年草です。秋に種を播いて発芽させ、幼苗の状態で冬を越して春の生育期を迎えると、ぐんぐん茎葉を伸ばして株張りがよくなります。5〜6月に開花した後は、日本の暑い夏を乗りきることができずに枯死し、ライフサイクルは半年程度と短いのが特徴。原産地はヨーロッパ中部で、寒さには強いものの、暑さには弱い性質です。花色は白、赤、ピンク、複色など。つぼみの状態では花茎が重たそうにうなだれているのですが、開花期になるとまっすぐに立ち上げて先端に花径5〜8cmの4弁花を咲かせます。品種によっては華やかな八重咲き種もありますよ! 花つきがよくカラフルなので、庭やコンテナを豊かに彩るのが魅力です。草丈は15〜80cmで、花壇の前段〜中段に向いています。
「ひなげしがケシ科の植物ということは、薬物のアレ? 育ててもいいの?」と不安に感じる方もいるかもしれませんね。ケシの種類によっては日本では栽培が禁止されています。でも、ひなげしは栽培用として昔からガーデニングで親しまれてきた植物。アヘンなどの麻薬成分は含まれず、逮捕されることもないので安心してください。
ひなげしの種類・品種
ひなげしの園芸品種は、1880年頃にイギリスで生まれたシャーレーポピー。現在育てられているひなげしのほとんどがこのシャーレーポピーで、花つきがよく育てやすいのが特徴です。また、北海道北部の寒い地域で咲く、りしりひなげし(利尻雛芥子)もあります。水はけのよい環境を好み、小型の花を咲かせる山野草として愛好されているようです。
ひなげしの名前の由来
ひなげしは、漢字で書くと「雛芥子」。ケシ科らしい花姿の中でも、サイズが小ぶりなことから「雛」が頭につけられたとされています。
また、「虞美人草(ぐびじんそう)」という別名も持っています。由来は中国の戦国時代まで遡り、楚国の武将、項羽の愛妻だった虞姫の死後、墓のそばから咲いたのがこの花だったという話からつけられました。
ひなげしの花言葉
ひなげしの花言葉は、「いたわり」「思いやり」「恋の予感」「別れの悲しみ」「心の平静」「休息」など。色別の花言葉もあり、赤い花は「慰め」「感謝」、白い花は「忘却」「眠り」などです。
「慰め」は、ギリシャ神話に登場する豊穣の神デメテルが、ひなげしの花を摘んで心の慰めとしたことから。「眠り」「感謝」は、眠りの神ソムアヌがデメテルの苦しみを軽くするためにケシの花を使って眠らせたことに由来しています。「別れの悲しみ」は虞美人草の逸話からきているようです。
ひなげしを上手に育てる方法
ここまで、ひなげしの基本情報や種類、花言葉などについて、多岐にわたってご紹介してきました。では、ここからはガーデニングの実践編として、育て方について詳しく解説していきます。
育てる環境
日当たり、風通しのよい場所を選びます。日照が不足すると花つきが悪くなったり、ヒョロヒョロとか弱い茎葉が茂って草姿が間のびしたりするので注意しましょう。
土壌は、水はけ、水もちのよい環境を好みます。地植えする場合は植え付け前に腐葉土や堆肥などの有機質資材を投入してよく耕し、ふかふかの土づくりをしておくとよいでしょう。多湿を苦手とする傾向があるので、土を盛って周囲よりも高くしておくのも一案です。湿り気の多い場所では、川砂やパーライトなどの土壌改良資材を投入しておくとよいでしょう。また、酸性に傾いた土壌を嫌うので、土づくりの際に苦土石灰を散布して酸度調整をしておきます。
冬の寒さには強いのですが、霜柱によって根が傷むことがあるので、バークチップなどでマルチングをするなど、対策をしておいてください。
土づくり
【地植え】
酸性に傾いた土壌を嫌うので、植え付ける3〜4週間前に苦土石灰を散布して土に混ぜ込んでおきましょう。さらに1〜2週間前に、腐葉土や堆肥などの有機質資材と緩効性化成肥料を投入し、よく耕してふかふかの土を作っておきます。水はけの悪い場所では、川砂やパーライトなどを施し、周囲より土を盛って土壌改良しておくとよいでしょう。事前に土づくりをしておくことで、分解が進んで土が熟成します。
【鉢植え】
草花の栽培用に配合された園芸用培養土を利用すると便利です。
種まき
ひなげしは、ビギナーでも種まきから育てられますよ! 種まきからスタートするメリットは、輸送などによる苗への負担がかからず、環境に馴染みやすいことです。敷地が広くてたくさんの苗が欲しい場合には、コストカットにもなりますね。
ただし、ひなげしの苗は春から花苗店に出回り始めます。手軽に栽培を始めたいなら、苗の植え付けからのスタートがおすすめです。「1〜2株あれば十分だから、苗の植え付けから始めたい」という方も、次の「苗の植え付け」の項に進んでください。
ひなげしの種まき適期は、一般地で9月下旬〜10月です。ひなげしはゴボウのように太く長く伸びる「直根性」の根を持っていて、この根を傷めると後の生育が悪くなるので、「直まき」か「ポットまき」の方法がおすすめです。
【直まき】
土づくりをしておいた場所に、種をばらまきます。ひなげしの種はごく小さく、発芽の際に光を必要とする「好光性種子」のため、土をかぶせる必要はありません。はす口をつけたジョウロで高い位置からやわらかい水流で水やりし、種が流れ出さないようにしましょう。発芽後は間引きながら育成し、最終的に株同士の間隔を20cmほど取ります。密植すると、蒸れたり病気にかかりやすくなったりするので、風通しよく管理しましょう。
【ポットまき】
まず、黒ポットに草花用にブレンドされた市販の培養土を入れ、種を数粒ずつ播きます。ひなげしの種はごく小さく、発芽の際に光を必要とする「好光性種子」のため、土をかぶせる必要はありません。最後に浅く水を張った容器に入れて、底から水を給水します。これはジョウロなどで上から水やりすると水流によって種が流れ出してしまうことがあるからです。発芽までは明るい半日陰で管理し、乾燥しないように適度に底から給水しましょう。
発芽後は日当たりのよい場所で管理します。勢いがあって元気のよい苗を1本のみ残し、ほかは間引きましょう。ヒョロヒョロと伸びた弱々しい苗や、葉が虫に食われている苗、葉が黄色くなっている苗などを選んで間引きます。本葉が7〜8枚ついたら花壇や鉢などに植え付けます。
苗の植え付け
ひなげしの植え付け適期は種から育てて育苗した場合は10〜11月、花苗店で苗を購入する場合は3〜4月です。花苗店で苗を購入する際は、節間が短く茎ががっしりと締まって丈夫なものを選びましょう。
ひなげしは、ゴボウのように太くて長く伸びる「直根性」の根を持っています。この根を傷めると生育が悪くなるので、植え付けの際には根鉢を崩さずに丁寧に扱うのがポイントです。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に苗よりもひと回り大きなを穴を掘り、根鉢を崩さずに植え付けます。複数の苗を植え付ける場合は、20cmほどの間隔を取りましょう。最後に、たっぷりと水やりします。
【鉢植え】
鉢の大きさは、6〜7号鉢を準備しましょう。
用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから培養土を半分くらいまで入れましょう。ひなげしの苗を鉢に仮置きし、高さを決めます。苗をポットから出し、根鉢を崩さずに植え付けましょう。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3㎝ほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底からたっぷりと流れ出すまで、十分に水を与えましょう。寄せ植えの素材として、大鉢にほかの植物と一緒に植え付けてもOKです。
水やり
株が蒸れるのを防ぐために株全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。
【地植え】
地植えの場合は地下から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、雨が降らない日が続いて乾燥し、茎葉がしおれそうにだらんと下がっていたら水やりをして補います。
【鉢植え】
日頃の水やりを忘れずに管理します。ただし、多湿にすると株が弱るので、水の与えすぎには注意。土の表面が乾いたら鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。成長期を迎えてぐんぐん茎葉を広げ出すと、水を欲しがるようになります。気候や株の状態に適した水やりを心がけましょう。茎葉がしおれそうにだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。冬は夕方に水やりすると凍結の原因になるので、十分に気温が上がった真昼に水やりしましょう。
肥料
【地植え・鉢植えともに】
植え付けの際に肥料を施してあれば、必要ありません(鉢植えで使用する市販の培養土にはほとんどの場合肥料が配合されています)。しかし葉色が冴えなかったり、株に勢いがない場合などには、液体肥料を施して様子を見ましょう。
花が咲いた後の手入れ
【花がら摘み】
ひなげしは次から次へと花が咲くので、終わった花は花茎の根元から摘み取りましょう。まめに花がらを摘んで株まわりを清潔に保つことで、病害虫発生の抑制につながりますよ! また、いつまでも終わった花を残しておくと、種をつけようとして株が消耗し、老化が早まって花数が少なくなってしまうので注意。花がらをまめに摘み取ると、次世代を残そうとして次から次に花がつき、長く咲き続けてくれます。
【種の採取】
種を採りたい場合は、開花期の終わりを迎える時期に、花がら摘みをやめて、種をつけさせます。熟して種がはじける直前に、花茎ごと切り取って日陰で乾燥させましょう。種を取り出して紙袋などに入れ、冷暗所で種まきの適期まで保存します。
【花壇の整理】
ひなげしは一年草で、花が終わると枯死するので、花壇やコンテナから根ごと抜き取って処分します。いつまでも枯れ草の状態で放置すると、病害虫が発生しやすくなるので注意しましょう。
ひなげしを育てるときに注意すべき病害虫
ひなげしを育てる際に、注意しておきたい病害虫があります。病気では「灰色かび病」と「苗立枯病」、発生しやすい害虫はアブラムシです。どんな環境で発生しやすいか、株にどんな変化が現れるかなどについてご紹介します。
灰色かび病
灰色かび病は花や葉に発生しやすい病気で、褐色の斑点ができて灰色のカビが広がっていきます。多湿で風通しが悪いと発生しやすいので、花がらや枯れ葉をこまめに摘み取り、茎葉が込み合っている場合は間引いて風通しよく管理しましょう。
苗立枯病
苗立枯病は、種まき後のまだ幼い苗に発生しやすい病気で、全体が黒ずんでやがて枯死します。土壌に生息する病原菌が原因で、高温多湿の条件下で発症しやすくなります。
アブラムシ
アブラムシは、3月頃から発生しやすくなります。2〜4mm程度の小さな虫で繁殖力が大変強く、発生すると茎葉にびっしりとついて吸汁し、株を弱らせるとともにウイルス病を媒介することにもなってしまいます。見た目もよくないので、発生初期に見つけ次第こすり落としたり、水ではじいたりして防除しましょう。虫が苦手な方は、スプレータイプの薬剤を散布して退治するか、植え付け時に土に混ぜ込んで防除するアブラムシ用の粒状薬剤を利用するのがおすすめです。
ひなげしを育ててみませんか?
ひなげしは花つきがよく、比較的大きめの花を次々と咲かせるので群植すると迫力のある景色をつくることができます。ライフサイクルの短い一年草ですが、丈夫で管理の手間がかからないので、ガーデニングのビギナーにもおすすめです。ぜひ庭やベランダなどに取り入れてはいかがでしょうか?
Credit
文/3and garden
ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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