木陰に咲く可憐なたたずまい。茶花としても親しまれるミヤコワスレを育ててみよう

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春から初夏に素朴な花を咲かせ、日本情緒を感じるミヤコワスレ。シェードガーデンに色を添える初夏の花としても活躍してくれます。植え付けは、秋や早春が適期で、秋に植え替えなどの手入れをすると長持ちします。この記事では、春の庭を演出してくれるミヤコワスレについて、基本情報や種類、花言葉、育て方などをご紹介します。
目次
ミヤコワスレってどんな植物?

4〜6月に紫色や白色、桃色などの可憐な花を咲かせるミヤコワスレは、山地の日陰に自生するミヤマヨメナ(Aster savatieri)の栽培品種です。原種のミヤマヨメナは本州、四国、九州の山地林内に自生する多年草で、野菊の仲間としては珍しく春に咲くことから、六月菊、野春菊の別名もあります。
ミヤコワスレの基本データ

学名:Aster savatieri
科名:キク科
属名:シオン属
原産地:東アジア
和名:原種はミヤマヨメナ、ノシュンギク、ロクガツギク、園芸品種はミヤコワスレ
英名:Gymnaster、Miyamayomena
開花期:5~6月
花色:原種は薄青紫色がかった白色 園芸品種は白、紫、ピンク
草丈:20~50cm
花:直径3~4cmの頭状花
生育適温:15~20℃

ミヤマヨメナの花は、淡い青紫色を帯びた白色。一方、その園芸品種となるミヤコワスレは、江戸時代末期に多くの品種がつくられ、濃い紫や赤紫、白色、桃色といった花色の品種や、やや花が大きめな品種などが今に受け継がれています。
日本の気候に適応しやすく、栽培・管理は比較的簡単で、数年植えっぱなしでもよく成長します。庭植え、鉢植えはもちろん切り花としても使いやすく、「詫び・寂び」を象徴するような控えめな姿で、茶室に生ける「茶花(ちゃばな)」としても好まれてきました。

和名の由来と花言葉

「都忘れ」の名前の由来は、鎌倉時代に遡ります。承久の乱(1221年)に敗れた順徳上皇は北条氏によって佐渡ヶ島に流されます。御所の庭に咲いていた小菊に似た花を流刑の地に見つけた上皇は「いかにして 契りおきけむ 白菊を 都忘れと 名づくるも憂し」との歌を詠んだと言い伝えられています。可憐に咲く小さな花に慰められて、遠い都を思う寂寥を忘れたという由来はなんともロマンチックですが、現在普及しているミヤコワスレが栽培され始めたのは、古くとも江戸時代からのこと。順徳上皇が愛でた小菊は、趣の異なる花だったのかもしれません。

とはいえ、そんなエピソードがあるためか、たくさんある花言葉も“別れ”を連想させるものばかり。「別れ」「短い恋」「忘れ得ぬ人」「また会う日まで」「しばしの憩い」「穏やかさ」「憂いを忘れる」「別離の悲哀」「ひとときの憩い」「短い別れ」などなど、少し切ないものが並びます。
ポイントを押さえて庭や鉢で育てよう
●適した環境

夏場の高温と乾燥を嫌います。地植えにする場合は、冬の間はよく日が当たり、晩春から夏の終わり頃までは日陰になるような場所、つまり冬場に葉を落とす落葉樹の下などがおすすめです。とくに強い西日が当たると、生育が極端に悪くなり、「いつのまにか消えてしまった」というようなことも。鉢植えであれば、夏場の高温時期は、風通しがよく半日陰となる場所に移動を。直射日光が当たる所に植えてしまったときは、葦簀(よしず)などで日陰をつくってあげるとよいでしょう。耐寒性はありますが、寒冷地では敷き藁など凍結や霜よけの対策を。
●用土

排水性がよく、適度に保水性のある土壌を好むので、地植えの場合は、植える場所に腐葉土などの有機質を十分にすきこみ、しっかりと耕しておきましょう。肥料切れを起こさないように緩効性肥料も適量使います。ツツジなどと同じく酸性土壌を好むため、石灰質肥料は与えないように。成長を阻害する原因になります。鉢植えの場合は、市販の培養土も使えますが、保水・排水性のあるものを選ぶように。赤玉土もしくは鹿沼土、桐生砂などを1~2割混ぜるとよいでしょう。
●植え付け

適期は3~5月、もしくは9~10月。暑さに弱いため、秋に植えたほうが失敗しにくいようです。地植えの場合は、よく耕した場所に、苗よりも1~2回り大きな穴を掘り、植え付けます。根を傷つけると弱ってしまうので、根鉢はできるだけ崩さないように。株同士の間隔は10~15cm程度とりましょう。浅植えを避けて、根出葉を埋めてしまわないように丁寧に植え付けます。鉢植えにするなら、4~5号鉢では1株、6号鉢では3株を目安に。通気性にすぐれた駄温鉢を使用するのもおすすめです。

●繁殖
不稔性で種ができないため、栄養繁殖で増やします。挿し芽の適期は6月。葉を2~3枚残すように茎や側枝を切って、赤玉土やバーミキュライトなど清潔な用土に挿します。乾燥しないように管理すると数週間で発根してくるので、栄養分を含む培養土に移植します。花後には、株の周りの走出枝の先に新しい芽がつくので、これを取ってポットなどで育苗しても。それぞれ、秋には定植できます。
●植え替え

地植えでは、環境があえば旺盛に育ちますが、原種が持つ“嫌地”の性質を受け継ぐため、数年程度を目安に移植するとよいでしょう。
根が伸びる空間が限られている鉢植えの場合は、根詰まりを起こしやすいので、小まめに植え替えを。花つきが少なく、生育も悪くなってきたら根詰まりを起こしている合図。植え替えの適期は、花が終わった後か、9月下旬~10月。鉢から抜いて、根鉢を1/3くらい崩すように、伸びすぎた根を切りそろえます。ボリュームのある株は、同時に株分けも行います。花茎は切り、芽が数個ずつ残るように切り分けて植え付けます。
●剪定
1本の花茎に1輪の花をつけるので、花が枯れたら、花茎の付け根から切り取ります。花がらや枯れた葉をこまめに摘み取っておくことで、病気を防ぐ効果も。早春から咲いた株は、一通り花が終わったタイミングで弱剪定しておくと、わき芽が伸びて再び花が楽しめます。6月になり花が終わったら、地際で切り詰めて夏越しさせます。
●水やり
地植えの場合は、自然の降雨にまかせて、とくに定期的な水やりは必要ありません。鉢植えは、表面の土が乾いたら、たっぷりと与えます。夏場は多湿にならないように、やや乾き気味に管理を。夏場の水やりはとくに、早朝や日暮れ後など、涼しい時間帯に行うようにしましょう。
●肥料

地植えの場合は特に必要なく、植え付け時に緩効性化成肥料を土に混ぜておけばOK。鉢植えの場合は、花後と秋口に植え付け時と同じ肥料を適量、追肥として与えるとよいでしょう。9月末から12月の花芽分化のタイミングに、液体肥料を定期的に施しておくと翌春の花つきがよくなります。
●病害虫
春先~初夏と秋に発生するのがアブラムシです。株が弱るだけでなく、葉についた排せつ物がかびて見苦しくなります。オルトラン剤などで予防・防除を。梅雨から夏にかけて多湿な状況が続くとナメクジの活動が活発になり、新芽や花芽が食害されます。ナメクジは夜行性なので、昼間捕獲するのは困難。置き型や差し込み式の駆除剤を使いましょう。またビールの匂いを好むので、ペットボトルなどの容器に入れて置いておくと効率よく捕獲できます。ビール自体には駆除効果はないので、駆除剤を混ぜておくとよいでしょう。ナメクジの体内には寄生虫が潜んでいることもあるので、処理するときは素手で行わないように注意を。
また、湿度と気温の高い時期に発生しやすいのは白絹病です。株元の茎に白い菌糸がつき株を枯らします。大切なのは、風通しと土壌の水はけをよくして、発生しにくい環境を作ること。病気の株は除去し、周辺の株には殺菌剤を散布します。
一輪挿しにしても素敵。初夏のシェードガーデンに

江戸の園芸好きに愛されたミヤコワスレ。控えめな佇まい、可憐な花は、まさに“和”のテイスト。日本に自生していた野菊を改良したものなので、コツさえつかめば、すくすくと育ち、増やすのも簡単です。茶花としても親しまれているだけに、一輪でも様になるのが魅力。手元に一株あると重宝しそうです。初夏を彩る庭の花に加えてみてはいかがでしょう。
Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 3and garden

スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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