日本の山野に昔から自生してきたワレモコウは、秋を彩る山野草として古くから親しまれてきました。山野に自生するだけに、日本の気候によくなじんで取り立てて手間をかけなくても丈夫に育つのも長所の一つです。この記事では、秋の庭を演出してくれるワレモコウについて、基本情報や種類、花言葉、育て方などについて取り上げていきます。
目次
ワレモコウとは? 特徴や花言葉
ワレモコウは昔から親しまれてきた秋の花、といってもピンとこない方もいるかもしれませんね。ここでは、ワレモコウの特徴や名前の由来・花言葉などについてご紹介します。
ワレモコウの特徴! ワレモコウは「有限花序」
ワレモコウは、バラ科ワレモコウ属の落葉性多年草で、原産地はユーラシアの温帯から亜熱帯、北米大陸北西部〜西部。日本でも古くから自生してきた、お馴染みの山野草です。耐寒性、耐暑性に優れ、植えたまま放任しても越年する、強い生命力を持っています。草丈は20〜80cmで、草丈が低くまとまるものもあれば、支柱が必要なくらいに伸びるものもあり、種類によって幅があります。
ワレモコウの開花期は7〜10月で、花色は赤茶色。花茎をすらりと立ち上げて、頂部に1〜2cmの卵形の穂状花序ができます。花は穂の先から咲き始めて「有限花序」を形成。花に見える部分は萼で、じつは花自体はほとんど退化しています。
名前の由来や花言葉
ワレモコウは、漢字で「吾亦紅」「吾木香」「我毛紅」などと書きます。語源は諸説ありますが、決定打となるものは特定されていません。学名はSanguisorba officinalis(サンギソルバ・オフィシナリス)で、サンギソルバは「血を吸う」、オフィシナリスは「薬用の」という意味。古くから薬草として利用されてきたことがうかがわれます。
ワレモコウの花言葉は、「変化」「移りゆく日々」「愛慕」「もの思い」「明日への期待」「あこがれ」「移ろい」など。ワレモコウの花が上から順に咲き移ろいゆくことからイメージされたようです。
薬草でもある
前項で、ワレモコウの学名Sanguisorba officinalisには、「血を吸う」「薬草」という意味があることをご紹介したように、根に止血や下痢止めの効果があるとされ、古くから薬草として利用されてきました。
ワレモコウの楽しみ方
ワレモコウは、茎が細くて少しの風にもゆらゆらと揺れる繊細な佇まいが魅力。野趣感のある咲き姿は、ナチュラルガーデンや雑木の庭、和の庭などで本領を発揮します。花壇では、草丈に合わせて前段や中段に入れるとよいでしょう。秋の花をまとめた寄せ植えに利用しても素敵です。
また、秋を代表する花ですから、インテリアに飾って秋色を演出するのもいいですね。風通しのよい場所で逆さに吊しておけばドライフラワーになるので、長く飾って楽しむこともできます。
ワレモコウの種類
ワレモコウの原産地は広範囲にわたっていることからも分かるように、さまざまな種類が確認されています。ここでは、主に日本で出回っている種類についてご紹介しましょう。
ナガボノワレモコウ
日本に古くから自生してきたワレモコウで、草丈は80〜120cmほど。9〜11月に開花し、花色は赤茶のほか、白もあります。花が2〜7cmと細長いのが特徴。やや湿り気のある環境を好みます。茶花としても人気。
タンナワレモコウ
草丈が15〜30cmと小さいのが特徴で、コンテナ栽培や寄せ植えなどに向いています。日当たりのよい場所を好みますが、乾燥に弱いので水切れに注意が必要。葉に白い斑が入る品種も出回っています。
サラダバーネット
別名はオランダワレモコウといい、ワレモコウの近縁種です。原産地は地中海沿岸で、乾燥した気候を好みます。草丈は20〜50cmで、開花期は5〜6月。香りのよいハーブの一種で、開花前のやわらかい葉をサラダなどに利用できます。
ワレモコウの見頃
ワレモコウは多年草に分類され、一度植え付けて環境に馴染めば越年を繰り返し、毎年開花を楽しめるコストパフォーマンスのよい植物です。ライフサイクルは、以下の通りです。3〜4月頃から生育期に入って茎葉を旺盛に伸ばし、開花期は7〜10月頃。冬には生育が止まって地上部は姿を消しますが、枯死したわけではなく休眠して越年。再び春の訪れとともに生育し始める……という繰り返しです。
ワレモコウに適した栽培環境
ワレモコウは基本的には日当たりがよく、風通しのよい場所を好みます。日当たりがよくないと花つきが悪くなったり、ヒョロヒョロとか弱い茎葉が茂って草姿が乱れたりするので注意。ただし、葉に斑が入る品種は、夏の直射日光を浴びると葉やけすることがあるので、鉢植えにして朝のみ日が差す東側や半日陰の場所などで管理するとよいでしょう。基本的に暑さ寒さに強く、日本の気候に馴染んで放任してもよく育ちます。水はけ、水もちのよい、有機質に富むふかふかとした土壌を好みます。
土作り
【地植え】
丈夫な性質で土壌を選びませんが、植え付ける1〜2週間前に腐葉土や堆肥などの有機質資材を投入し、よく耕してふかふかの土を作っておくとよいでしょう。特に乾きやすい砂質土壌では、水もちをよくするための土壌改良が必要です。有機質資材を多めに混ぜ込んでおきましょう。土作りを事前に行っておくことで、分解が進んで土が熟成します。
【鉢植え】
草花の栽培用に配合された園芸用培養土を利用すると便利です。
苗の植え付け・植え替え
ワレモコウの栽培は、花苗店やホームセンターなどで販売されている苗を入手し、植え付けることからスタートするのが一般的です。苗を購入する際は、節間が短く茎ががっしりと締まって丈夫なものを選びましょう。
苗の植え付け適期は、2〜3月です。ただし、開花株などそれ以外の時期に苗を入手した場合は、早めに植え付けます。
【地植え】
土作りをしておいた場所に苗よりも一回り大きなを穴を掘って植え付けます。苗をポットから出したら根鉢をやや崩して植えましょう。複数の苗を植え付ける場合は、草丈に応じて20〜40cmの間隔を取りましょう。最後に、たっぷりと水やりします。
多年草のため、数年は植えっぱなしにしてもいいのですが、大株に育って込み合ってきたら掘り上げて植え直し、若返りを図るとよいでしょう。
【鉢植え】
5〜6号鉢に1株を目安に植え付けます。
用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから培養土を半分くらいまで入れましょう。ワレモコウの苗を鉢に仮置きし、高さを決めます。苗をポットから出して根鉢を軽く崩して植え付けましょう。水やりの際にあふれ出さないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底からたっぷりと流れ出すまで、十分に水を与えましょう。寄せ植えの素材として大鉢にほかの植物と一緒に植え付けてもOKです。
ワレモコウは生育が旺盛なので、根詰まりを防ぐために1年に1度は植え替えましょう。植え替えの適期は、休眠中の2〜3月です。1〜2回り大きな鉢を用意して鉢増ししてもいいですし、同じ鉢を用いる場合は根鉢を崩して古い根を整理して植え直します。
ワレモコウの水やり
株が蒸れるのを防ぐために、茎葉全体にかけるのではなく、株元の地面を狙って与えてください。
真夏に水やりする場合は、気温の高い昼間に行うと、すぐに水の温度が上がってぬるま湯のようになり、株が弱ってしまいます。朝か夕方の涼しい時間帯に行うことが大切です。
【地植え】
根付いた後は、地植えの場合は地中から水が上がってくるのでほとんど不要です。ただし、雨が降らずに乾燥が続くようなら、水やりをして補います。
【鉢植え】
日頃の水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。茎葉がしおれそうにだらんと下がってきたら、水を欲しがっているサイン。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイントです。水やりを忘れてひどく乾燥させると、葉がちりちりになって元には戻らないので注意しましょう。
冬は葉を落として休眠するので、控えめに与える程度にします。
ワレモコウに与える肥料
肥料を与える期間は、生育期の4〜10月です。
【地植え】
株の状態を見て、勢いがないようであれば、緩効性化成肥料を株の周囲にまいて、土によく混ぜ込みます。
【鉢植え】
月に1度を目安に、緩効性化成肥料を少量施して株の勢いを保ちます。開花期には、開花を促進させるように配合された液肥に切り替えてもよいでしょう。
ワレモコウの病気・害虫
【病気】
ワレモコウの栽培では、うどんこ病が発生することがあります。
うどんこ病は、多湿で風通しが悪い環境で発生しやすくなります。葉の表面が白く粉を吹いたような状態になり、放置するとどんどん広がるので注意。悪化すると光合成ができなくなり、やがて枯死してしまいます。発症したら病気の葉を摘み取って処分し、適応する殺菌剤を葉の表と裏に散布して、蔓延するのを防ぎましょう。
【害虫】
ワレモコウに発生しやすい害虫は、アブラムシ、ハダニです。
アブラムシは、3月頃から発生しやすくなります。2〜4mm程度の小さな虫で繁殖力が大変強く、発生すると茎葉について吸汁し、株を弱らせるとともにウイルス病を媒介することにもなってしまいます。見た目も悪いので、発生初期に見つけ次第こすり落としたり、水ではじいたりして防除しましょう。虫が苦手な方は、スプレータイプの薬剤を散布して退治するか、植え付け時に土に混ぜ込んで防除するアブラムシ用の粒剤を利用するのがおすすめです。
ハダニは、乾燥が続くと発生しやすい小さな虫で、葉裏などについて吸汁します。大発生すると株が弱るので、葉の表や裏にシャワーを勢いよくかけましょう。小さな虫なので、水の勢いで押し流すことができます。
ワレモコウの増やし方
【株分け】
ワレモコウは、株分けして増やすことができます。大株に育ったら、株を掘り上げて土を落とし、2〜3芽つけて根を切り分けて植え直せば、その分株の数も増えるというわけです。株分けの適期は2〜3月で、植え替えのタイミングで行うとよいでしょう。
大株に育つと、存在感が大きくなりすぎて持て余してしまうことも。株を小分けにすることで、株が若返って再び勢いよく生育するメリットもあります。
【種まき】
秋に種を採取し、密閉袋に入れて冷蔵庫で保存しておきます。
種まきの適期は、4〜5月です。
黒ポットに草花用にブレンドされた市販の培養土を入れ、1穴当たり1〜2粒ずつ播きます。種が隠れる程度に土を薄くかけ、はす口をつけたジョウロで優しい水流で水やりをしましょう。新聞紙などをかけて乾燥しないように管理し、発芽して双葉が展開したら間引いて1本のみ残します。
発芽したら、日当たりがよく、風通しのよい場所で管理しましょう。ポットに根が回ってしっかりした株に育ったら、植えたい場所に定植します。花が咲くのは翌年からです。
美しく咲かせるためのワレモコウの栽培ポイント
【支柱の設置】
ワレモコウは、茎が華奢で折れやすい特性があります。草丈が高くなる品種を育てる場合は、早めに支柱やリングを設置して茎を誘引し、倒伏を防ぎましょう。支柱は地中深くまで差し込んで、しっかり支えられるようにしておくことが大切です。自力で立つことのできる、草丈の低い種類の場合は不要です。
【切り戻し】
旺盛に生育し、草丈が高くなって草姿が乱れてきたら、6〜7月に草丈の半分くらいまでを目安に全体を刈り込む「切り戻し」をするとよいでしょう。すると再び株が盛り返して勢いよく生育し、開花期には草丈が低くコンパクトにまとまった状態で開花させることができます。ただし、草姿が乱れていない場合には、切り戻さずそのままにしておいてもかまいません。
特徴的な形が可愛い! ワレモコウを自宅で育てよう
茎葉がやわらかく、少しの風でもゆらゆらと揺れて野趣感あふれる草姿が魅力のワレモコウ。群植すると迫力が出ますし、楚々とした風情を生かして主役の花の引き立て役としても活躍します。ビギナーでも失敗の心配なく育てられるので、ぜひ庭やベランダに取り入れてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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