夏の庭で主役を引き継ぐようにアジサイからバトンタッチして咲き始めるのは、牡丹臭木。別名カシミア・ブーケ、グローリー・フラワーとも呼ばれ、手毬のように豪華な花が目を引く花木です。神奈川の自宅の庭で25年以上ガーデニングを楽しむベテランガーデナーの遠藤昭さんが「牡丹臭木」の特徴と栽培のコツを解説します。
目次
なぜ人気にならない? 夏の庭木「牡丹臭木」
毎年、梅雨明け頃、アジサイから次のステージを引き継ぐように、また、アジサイに決して見劣りせずに豪華に咲く花が「ボタンクサギ(牡丹臭木)」だ。お洒落に別名で呼ぶなら、カシミア・ブーケまたはグローリー・フラワーともいう。
私は、この素晴らしく美しい花を、将来、有望な品種だと感じていた。しかし、一向に人気が出ないし、ガーデニングの世界でも話題にならず、長年、残念に思ってきた。見た目は美しいのに、何ともかわいそうな名前だ。
確かに、葉を傷つけたり、伸びた株を引き抜くと臭い! こんなに美しいのに、天は二物を与えてはくださらないのだ。花自体には、ほのかな素敵な香りがあるのだが、どうも葉や茎のにおいに負けてしまう。
ボタンクサギのプロフィール
学名:Clerodendrum bungei
和名:牡丹臭木、
別名:ヒマラヤクサギ、ベニバナクサギ、メキシコ紫陽花
英名:Cashmere bouquet、Glory flower
科名 :クマツヅラ(シソ)科
属名:クサギ属
原産地:インド・中国南部
開花期:7~9月
樹高:70~200cm
原産地はインド・中国南部で、ヒマラヤ・インド・台湾などの海抜1,000~2,000mの高地に原生していたものがメキシコでも帰化植物となり、メキシコ紫陽花という名前もある。日本国内でも九州では帰化植物として一部、野生化しているようだ。
粒々のつぼみを次第に膨らませて、6月の末に咲き始める。
花期は一般に7~9月だが、神奈川の我が家では11月頃まで咲き続けることもある。
他国での呼び名に救いを求めて別名を調べる
ボタンクサギは、20年位前から我が家に植わっていて、咲くたびにその美しさに感動し、幾度か「他の呼び方はないものか?」と、海外のサイトを含め検索をしたことがあった。
まず、Clerodendrum bungeiの学名からヒットしたのが英名「カシミア・ブーケ(Cashmere bouquet)」だ。おお美しい! お洒落な名前。救われる思いだった。
そして、世界で最も信頼されている園芸サイトの一つ、RHS(The Royal Horticultural Society・英国王立園芸協会)のサイトで、Clerodendrum bungeiの俗名が「glory flower」であることを見つけた。なんだか嬉しい。
Glory flowerというとMorning glory=アサガオも指してしまうようだが、ボタンクサギが「栄光の花」とは、汚名を返上する事ができたようで嬉しい。
Clerodendrum bungeiの他に、同じクマツヅラ科のClerodendrum philippinum(ヤエザキクサギ)もCashmere bouquetと呼ばれており、Cashmere Bouquet Mild Beauty Bar Soapという固形石鹸まで売られているのだ。
ボタンクサギと呼ぶにはかわいそうな、この可憐な花を「カシミア・ブーケ」と呼ぼうではないか。
ボタンクサギの育て方とコツ
最近、NHKニュースで、ボタンクサギが綺麗な滋賀県のお寺「湖南三山 長壽寺」が紹介されていた。テレビで「ボタンクサギ」を見るのは初めてである。「おお、いよいよボタンクサギもテレビで紹介されるようになったか!」と嬉しかったのだが、もう一声、「別名、カシミア・ブーケとも呼ばれています」と付け加えてほしかった。
こんなに美しい花なのに、あまり人気がないのは、やはり葉をむしると独特なにおいがするのと、地下茎でとんでもないところまで伸びて暴れるからだろうか。地下茎は、周りに根止めフェンスを施しておけば暴れるのを防ぐのに効果がある。
しかし、暴れるということは、丈夫で元気な証拠。比較的、放置状態でも育つ。そして、よく観察すると、咲きかけから咲き終わるまでの花姿の変化が面白い。
【植え付け場所】
アジサイと同じ環境で育つといわれているので、ある程度の日照があったほうが花付きはよくなるが、西日は苦手。
原産地がインド・中国南部の高地の亜熱帯植物で、耐寒温度はマイナス5℃程度と比較的寒さには耐えるが、どちらかというと暖かい地域に適している。関東以西では露地植えも可能だが、関東以北では鉢植えにして、冬は屋内で管理する。
なお、繰り返しになるが、地植えの場合、地下茎が思わぬところまで伸びるので、根止めフェンスで囲っておくのを忘れずに。
【水やり・施肥など】
地植えは根が安定した後の水やりは不要。鉢植えは、土の表面が乾いてきたらたっぷりと水を与えよう。
施肥は、春~夏の成長期に緩効性肥料を株元に施すとよい。
病害虫は特になく、肥沃な土壌を好む。
【増やし方】
株分け、または挿し木で増やすことができる。株分けは3月中旬~下旬、挿し木は6~7月が適期。
最近は、斑入りの品種で‘ピンク・ダイヤモンド’(Clerodendrum bungei ‘Pink Diamond’)なども出回り、ますますお洒落になった姿にうっとりしている。
苗の取り扱いのある「おぎはら植物園」によると、ボタンクサギは色合いが綺麗で、強健でよい植物なので、人気商品になっているのだそう。
欠点は、ひこばえで増えすぎたり、ひこばえでは斑が消えることもあるそうで、極寒冷地では露地で越冬できないので注意が必要とのことだった。
カシミア・ブーケの存在、ご存じだったでしょうか? ブーケに加えても見応えのあるひと束になります。お洒落な庭木として一緒に広めていきましょう!
Credit
写真&文 / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -
えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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