「キク」と聞いたとき、どんなイメージがわくでしょうか? 冠婚葬祭、重陽の節句、お盆…なんとなく伝統や風習とつながる“和”の印象をお持ちの方が多いかと思います。しかし昨今、そのイメージをガラリと変えるさまざまな色形の新品種のキクが生み出されているのをご存知ですか? ここでは、25年にわたりキク栽培に携わってきた岩手県二戸市浄法寺町の生産農家・馬場園芸が栽培する珍しい品種のキクをご紹介します。キク栽培にかける想いや、花の選定時のこだわりなど、生産者の熱い思いも取材。馬場園芸によるYouTube生配信のイベントも開催しますので、ぜひご覧ください!

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岩手県二戸市浄法寺町とキク

岩手県二戸市浄法寺町で200年以上にわたり農業を営む馬場園芸が、キクの栽培を始めたのは1994年。現在9代目として馬場園芸の経営を担う馬場淳(まこと)さんの祖父(7代目)の決断によるものでした。

浄法寺町でキクを栽培しているのは、今では馬場園芸だけですが、当時は、20軒ほどのキク生産農家がありました。馬場さんの祖父を筆頭に活動的な世代が、地域のみんなで「キク栽培で町を盛り上げよう!」と連携し、キク栽培を始めたといいます。

秋のお彼岸すぎ、涼しくなってくると咲く花というイメージのあるキクですが、キクには2つの種類があります。

暑さにも強い“夏秋菊”と、秋に咲く“秋菊”。

前者は愛知や静岡といった比較的温暖な地域で生産されています。後者は涼しい場所で咲き、暑さの影響を受けないので、色がよくのり、色形もさまざま。

馬場園芸が生産しているのは秋菊。浄法寺町は、山背の影響で夏場が涼しく、夜はグッと気温が下がるので、その涼しさが発色の良い秋菊を生み出し、そこが評価されて全国の生花市場から受注を受けるほどに発展しました。

馬場園芸のキク

「飾る人本位」で…栽培から出荷までのこだわり

馬場園芸では、届いた花をより長く楽しんでいただけるよう土作りからこだわっています。

キクにかぎらず、花全般の生育には窒素・リン酸・カリが重要で、ほとんどの化学肥料にはこの三要素が含まれていますが、特に窒素は過剰に吸収してしまうと花もちが悪くなります。そこで馬場園芸では、有機肥料だけを使っています。

キク栽培

また、キクの収穫後は、規格ごとに長さを切り揃えてから、葉がしっかりシャキッとなるまで大きい水槽に水あげします。その日の夕方までに水あげ作業を終わらせて、翌日の朝には梱包し出荷。その過程でも、薬品は一切使いません。

出荷作業

花は、流通の過程でも悪くなりがちですが、馬場園芸のキクは、お客様の手元に届いてからも、2週間から長くて1カ月もつ場合もあると好評をいただいていると馬場さんは言います。

出荷先は、6割は岩手県盛岡の市場。そして3割が大阪。

浄法寺町の気候だからこそ生産できる、色形さまざまな秋菊は、ブライダルやお葬式などの冠婚葬祭のほか、日常のあらゆる場面でも活躍します。関西の気候ではそのような秋菊は暑過ぎて生産できないので、大阪での需要がとても多いというわけです。

馬場さんの代になって、特に心がけていることをうかがいました。

「とにかく、飾る人のことを想って栽培しています。キク栽培の作業がお休みとなる冬場を利用したホワイトアスパラガス栽培を私の代で始めましたが、こちらも食べるものなので、“食べる人”本位で生産することを大切にしています。これって当たり前のようで、当たり前じゃないんです。つくる人の都合で大量生産重視になるとか、売る人の都合で規格重視になったり、農業でいうと農協が主体になり過ぎているということが多い。食べる人のためのものなのに、気づいたら違う誰かのためにつくっている。そこに違和感を感じていました」

それは、花であっても米であっても同じ。飾る人本位、食べる人本位で生産するとはどういうことだろう、と考えたとき、結局は「自分自身が本当に飾りたい、食べたいと思えるものを追求する」という結論に馬場さんはたどり着いたのです。

飾る人本位で

花が売れない時代を乗り切る! 品種選定のこだわり

花が売れない時代を乗り切る! 品種選定のこだわり

馬場園芸がキク栽培を始めた当初は、一重咲きのマーガレットのような花形など、もともと中国と日本で栽培されていた一般的なキクが主流で、色は赤・白・黄色に限られていました。

かつて日本で一般的とされていたそのようなキクは、品種改良が進んだり、明治時代にヨーロッパにわたって育種されて、色形を発達させて日本に戻ってくるなどして、その後今までなかった個性的な品種が誕生しました。

その中から、馬場園芸では秋菊の中でもユニークな花を選抜し生産しています。淡いサーモンピンクの大輪や花心から花縁にかけ美しいグラデーションとなる花、花弁の先が縁取られる覆輪、発光するかのようなグリーンやピンク、深みのあるバーガンディ…。花形も小輪、大輪、平咲き、ポンポン咲き、アネモネ咲きなど、目を見張る多彩なバラエティはアレンジメントの世界に、新風を巻き起こしそうな予感です。

「需要に合う開花時期や性質など、生産性も花農家としてはもちろん重要なのですが、私が最も大切にしていることは“どこにでもあるようなものは選ばない”ということです。ちょっと変わっていて楽しそう!という新鮮味や気持ちの高揚感を一番にして選んでいます」

“オリーブライム”
“オリーブライム”

さらに、馬場さんは時代に合わせ、フラワーロスを引き起こさない販売本数の工夫を加えました。

「私が父から経営を引き継いだ時代は、花自体が売れない時代。冠婚葬祭もどんどん小さくやることが主流になっています。そういう状況で、花屋は1品種だけを100本単位など大量に仕入れてもさばけなくなっていました。ですから、花屋が使いやすいように5色(赤・白・黄色・緑・その他1色)のミックスを作って販売開始しました。これは他と競合しないやり方だったので、成功しました」

昨今、花屋ではかなりの量の花が捨てられています。冠婚葬祭、特に突発的に起こる仏事に備えるために、過剰在庫を抱えておかなければならないというのがその理由です。

そんな中でも色違いのキクが取り揃えてあれば、冠婚葬祭以外でもさまざまな用途に使え、廃棄が減ります。無駄にしてほしくないという生産者の想いと市場のニーズが一致したのです。

6月下旬〜7月上旬のイチオシは“初夏”をイメージした珍しい品種のキク

通常は秋頃に開花する秋菊を、早い品種では6月下旬ごろから生産できる技術が、馬場園芸にはあります。その技術とは、“日長コントロール”。中を暗く保つことができる遮光ハウスを利用することで、秋の環境を作ってあげるのです。

ですので、馬場園芸の販売ラインアップには、今の時期から馬場さんのセンスで選び抜かれたこだわりの秋菊たちが並びます。

「たとえば、6月から7月に販売する秋菊は、“初夏”をイメージした涼し気な色と形を中心に選定し、少量多品種で取り揃えています」

珍しい品種のキク

この時期の馬場園芸の一つのハウスでは、32品種ほどのキクが栽培されています。馬場さんは、よりキクを身近な花として感じていただき、“飾りたい花”と思っていただくために、バリエーション豊かに揃えたいという想いから、品種を増やしてきました。

「正直、品種が多ければ多いほど、管理の仕方はそれぞれ違うのでとても大変になります。それでも“飾りたい人本位で!”の気持ちで、通常1,000本や1万本のところを、300本や500本単位に減らし、より多くの品種の苗をオーダーしています」

出荷先は花屋が主ですが、2020年からは通販での個人向け販売にも力を入れるようになりました。

馬場さんに未来への想いを聞くと、キクへのあふれる愛情が伝わる答えが返ってきました。

「生産者が感じるような収穫の喜びをお客様にも感じていただきたい。花の生産から販売まで、その花の背景に連なる誕生ストーリーごと、お客様のもとにお届けしていきたいと思っています」

馬場園芸の9代目、馬場 淳さん。
馬場園芸の9代目、馬場 淳さん。

馬場さんおすすめ! 今年の珍しい品種ベスト5

6月下旬から7月上旬にかけて開花する珍しい品種の秋菊の中から、馬場さんにおすすめベスト5をうかがいました。

ベスト5

ベスト1:バルティカサーモン

ベスト1:バルティカサーモン
“バルティカサーモン”

花形はデコラ咲き。やわらかいサーモンピンクの色と幾重にも重なる花びらが魅力。上品さ、清純さの中に爽やかさも感じられる、初夏にぴったりの品種です。

ベスト2:インヤン

インヤンXXL
インヤンXXL
インヤンピンク
インヤンピンク

花形はサンティニ咲き。ピンク色の“インヤンピンク”と、ホワイトの“インヤンXXL”の2種があり、どちらも芽が黒いところが魅力。単体でも可愛く、他の花とも合うので、アレンジに取り入れるのおすすめです。

ベスト3:サイレント

“サイレント”
“サイレント”

花形はポンポン咲き。品のある雰囲気が魅力です。ユーカリなどのグリーンとあわせると素敵なブーケに。さまざまなシチュエーションに活用できる品種です。

ベスト4:セレニティー

花形はアネモネ咲き。“セレニテティーサーモン”と“セレニティーダーク”の2種があり、キクでは珍しく斑入りなところがポイント。どちらも色味がとても可愛い品種です。

セレニティーダーク
“セレニティーダーク”

ベスト5:グリーン系

“カントリー”
“カントリー”

グリーン系はアレンジの際に1品種入れると、周囲も引き立ち、爽やかな印象を加え、バランスが良くなります。今のおすすめは “カントリー”と“デリグリーン”。どちらも花形はポンポン咲きです。

ガーデンストーリー読者様向けにスペシャル切り花セットをご用意!【販売終了】

テーマは“清純-innocent”。

今回発売の切り花セットのテーマは“清純-innocent”。やさしく清らかな色合いのキクを集めました。

価格:1,650円(7本入り、税込)+送料別途

ガーデンストーリーウェブショップにて7月13日(火)までの販売ですので、ぜひチェックしてみてください。

※YouTubeをご覧いただいた方は、ぜひ動画内でお知らせしている10%OFFクーポンコードをご利用ください。
※ガーデンストーリークラブ会員様には15%OFFクーポンを配布いたします。

アレンジ例
“清純〜innocent”のアレンジ例。アナベル、セージの葉、ギボウシ、カニクサの葉、ススキの葉とあわせて…

7月4日「キクのイメージが変わる!? 珍しい品種のキク紹介」オンラインサロンを岩手県浄法寺町からYouTubeで生配信!

7月4日(日)15:00〜、オンラインにて「キクのイメージが変わる!? 珍しい品種のキク紹介」のオンラインサロンを開催します。こちらは通常、『ガーデンストーリークラブ』会員様限定公開ですが、今回はどなたでもご覧いただけるよう、YouTubeで生配信いたします(アーカイブもご覧いただけます)。

当日は、岩手県二戸市浄法寺町の馬場園芸のキクのハウスから生中継で、9代目・馬場淳さんと編集部が、この時期に咲く珍しい品種のキクの魅力をたっぷりお伝えします。

ガーデンストーリー読者様向けに、上記スペシャルセットの販売も予定しておりますので、ぜひご覧ください。

●YouTubeライブ配信URLはこちら→https://youtu.be/iaqMxj7gYXI

●ガーデンストーリークラブについてのご案内はこちらのページをご覧ください。

Credit

ガーデンストーリー編集部

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