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- 個性的なビカクシダ(コウモリラン)をカッコよく飾ってみよう!
おうち時間が増えて、観葉植物などのインドアプランツが人気です。数あるインドアプランツの中でも、部屋のインテリアアイテムとして注目されているのが、個性的な姿が楽しいビカクシダ(コウモリラン)です。ここでは、オージープランツを100種以上育ててきた経験のあるガーデンプロデューサーの遠藤昭さんに、その魅力と育て方、仕立て方などを教えていただきます。
目次
ビカクシダの名前の由来・形状など基本情報
ビカクシダ(学名Platycerium)は、漢字で書くと「麋角羊歯」。つまり鹿の角のようなシダという名称です。英語の俗称では、「Elkhorn Fern」または「Common Staghorn Fern」で、こちらも共通して鹿の角という意味ですね。では、別名のコウモリランはなぜ「ラン」なのでしょう。垂れ下がる姿がコウモリに似ているのは見た目で分かりますが、シダなのに、「コウモリシダ」ではなく「コウモリラン」とはこれ如何に?
余談になりますが、キミガヨラン、リュウゼツラン、クンシラン、マツバラン、オリヅルランなど、蘭ではないのにランと呼ばれる植物はいろいろあります。これは、葉が蘭に似ているからという説と、江戸時代・明治時代に日本に紹介された珍しく高価な植物には「蘭」を付けたという説があります。まあ、コウモリランは、きっと後者ですね。では、本題に戻りましょう。
学名はPlatyceriumで、語源はギリシャ語のplatys (広い)と keras (角)の2語からなる「広い角」を意味し、葉の形がオオシカの角に似ていることに由来します。種類は、世界中に18種あるとされています。
日本で主にビカクシダとして流通している、Platycerium bifurcatumは、オーストラリアのクィーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、そして、ニューギニアやジャワ島の熱帯原始林で樹木の着生植物として原生しています。株は最大で高さ・幅ともに1m程に成長し、鹿の角形の葉裏の先端に胞子嚢(胞子の入った嚢)をつける胞子葉と、上のほうに包み込むように伸びる、やや茶色がかった枯れたような色の貯水葉(外套葉)があります。この2つのタイプの葉を持つのがビカクシダの特徴です。貯水葉は自然環境の中で、雨水を溜め込むとともに、上方から落ちてくる枯れ葉や野鳥などの糞を栄養素として取り込む機能があるとされています。
よく見ると、貯水葉の葉脈も綺麗です。
胞子葉の表面は、すべすべしています。
ビカクシダの育て方と管理
僕が育て方を解説する際、必ず触れているのは“原生地の環境を知る”ということ。のびのびと成長している自然環境に近づけてやれば、よく育つはずだからです。
ビカクシダの原生地は熱帯から亜熱帯地域で、ジャングルに生えている樹木に着生しています。つまり、ある程度の太陽光と気温、そして湿度を保つ必要があります。
日本での育て方の資料によると、冬は10℃程度を保つようにと書かれているものが多いようですが、オーストラリアだと、同じPlatycerium bifurcatumでも、5℃程度という表現が大半です。恐らく5℃というのは、オーストラリアでは比較的寒いメルボルンあたりでも、「外で越冬します」ということでしょう。日本でも都内では、屋外で越冬しているのを見たことがあります。凍らなければ多少傷んでも越冬するようです。しかし、やはり冬は屋内で越冬させるほうが無難でしょう。
【日当たり】
シダなので日陰で育つと思われがちですが、真夏の直射日光は避けつつも、しっかり日光や風に当てたほうが、丈夫に育ちます。ですから、夏は屋外の半日陰になる木の下など、風通しのよい場所で育てましょう。特に冬は屋内でしっかり日に当てます。そして天気のよい暖かい日には、外で日光浴をさせるのもよいでしょう。日光と通風は病害虫の予防にもなります。
【水やり】
春から秋の成長期は、鉢植えならば用土が乾いたらたっぷりと、冬は乾燥気味に管理します。板などに着生している場合は、成長期には乾いたらバケツの水に浸けるとよいでしょう。冬は乾燥気味にします。
【肥料】
成長期に、観葉植物用の液肥を規定通りに希釈し、2週間に1度程度与えます。
【病害虫】
ビカクシダの主な害虫はカイガラムシ、ナメクジ、アブラムシ等で、風通しや日当たりが悪いと発生します。見つけたら駆除してください。
病気には、カイガラムシやアブラムシの糞から発生する灰色カビ病の他に、うどんこ病や立ち枯れ病があります。予防策は、日当たりや風と通しをよくすることを心がけて、病気に負けないよう丈夫な株に育てることです。
【植え替え】
もともと着生植物なので、基本的にあまり植え替えは必要ありませんが、よほど大きくなってきたら植え替えます。植え替えの適期は気温の高くなった5~8月です。
植え替えたあとは、しっかり根付くまで風通しのよいところで水やりを続け、根付いたら水やりペースを通常にもどします。
【増やし方】
貯水葉の下から出ている株を切り取って、株分けします。または、胞子葉にできた胞子を採取して、熱湯で殺菌したバーミキュライトか種まき用土を鉢に入れ、胞子をまきます。そして、開口部を食品用ラップフィルムで覆って、縁を輪ゴムなどで止めてカビなどの雑菌が入らないようにします。乾燥を避けるために鉢はトレイで腰水に浸け、明るい日陰に置いて20~25℃を保つと、約1カ月半で発芽します。これは、かなりマニアックな作業です。
ビカクシダの種類
ビカクシダは、葉の形や大きさの違いでいくつかの種類があります。主な品種3つをご紹介しましょう。
ビフルカツム
英名:Platycerium bifurcatum
日本で主にビカクシダとして園芸店やホームセンターで流通している品種です。Platycerium bifurcatumは、暑さ寒さに強く、室内であればほぼ越冬でき、管理しやすく育てやすくオーストラリアのクィーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、そして、ニューギニアやジャワ島の熱帯原始林で樹木の着生植物として原生しています。
株は最大で高さ・幅ともに1m程に成長し、鹿の角形の葉裏の先端に胞子嚢(胞子の入った嚢)をつける胞子葉と、上のほうに包み込むように伸びる、やや茶色っぽい枯れたような色の貯水葉(外套葉)があります。この2つのタイプの葉を持つのがビカクシダの特徴です。貯水葉は自然環境の中で、雨水を溜め込むとともに、上方から落ちてくる枯れ葉や野鳥などの糞を栄養素として取り込む機能があるとされています。
ビーチー
英名:Platycerium Veitchii
オーストラリアのクイーンズランド州に自生し、シルバーエルクホーンシダまたはシルバースタッグホーンシダと呼ばれ、やや白い胞子葉が特徴です。それは胞子葉に星状毛と呼ばれる白っぽい毛が生えているためで、星状毛は触りすぎると剥がれるので注意が必要です。また、胞子葉は上に向かってまっすぐ伸び、貯水葉は深い切れ込みが入っているのが特徴です。観賞用の品種として、英国王立園芸協会のガーデンメリット賞を受賞しています。
コロナリウム
英名:Platycerium coronarium
南アジアとインドシナ半島が原生の大型の品種です。貯水葉が最大で2m、胞子葉は切れ込みが多く、ウェーブしながら細く垂れ下がり、最大4m以上になります。
貯水葉の形が王冠(英:crown,ラテン語:corona)かのような所からコロナリウムの名が付いたとされます。
創造願望を満たす「ビカクシダの壁掛け」作り
【用意するもの】
- ビカクシダの小さな苗(数百円)
- 苗の根元部分が収まる程度のサイズで、厚み1.5cm以上の板切れ(ホームセンターの工作室の横などに並ぶ木材の切れ端でもOK)
- 水苔
- 長さ1cm程度の木ネジ10本
- 麻ひも、またはテグス(釣り糸)
- 針金
- ドライバー
- キリ(あれば)
- 鉛筆
- 定規
【作り方】
- 定規と鉛筆で、均等に8本の木ネジを立てる位置決めをする。
- キリでネジを入れやすいようにしておくと、この後の作業がラク。
- 8本のネジを印の位置に立てて打つ。後で麻ひもを掛けるので、ネジの頭部は少し浮かせておく。
- 裏側上部に2本の木ネジを打ち、額を吊り下げる針金を付ける。
- 2本の木ネジに針金を固定する。
- あらかじめ適度に湿らせた水苔を板に敷く。
- ビカクシダの苗の根を少しほぐし、余分な土は取り除く。
- 葉が真上に向くように、水苔の上に苗を置く。
- 根鉢をやさしくつぶして、少し平たくする。
- 根鉢の周囲を湿らせた水苔でまんべんなく覆う。
- ここからは針金掛けをスタート。まず1カ所の木ネジに針金の端を固定する。
- 苗を板に固定することをイメージしながら、針金をしっかり対角線の木ネジにかけ、次は1つずつずらして板に対して横、斜め、縦と木ネジにひっかけながら、水苔に包まれた根鉢を板に固定する。
- 最後の木ネジに針金をかける。
- 木ネジが露出している場所は、水苔を追加すると見栄えがよい。
- 適度な日当たりで風通しがよい壁にかけたら完成!
僕とビカクシダ、そしてビカクシダから学んだこと
昨今は、花も咲かないのにビカクシダに熱い視線が集まっているようですが、人々がこのコロナ禍にビカクシダに興味を持ち始めた理由が、僕には何か分かるような気がするのです。僕が初めてビカクシダを「カッコイイ」と感じたのは、もう30年以上も昔、赴任先のメルボルンで、一軒のレンガ造りの邸宅の玄関ポーチに、巨大なビカクシダが着生して育っているのを見つけた時でした。それまで、正直なところ、「コウモリラン」には陰気で不気味なイメージを抱いていたのですが、それを見て「一目惚れ」してしまったのです。
その後、帰国してさまざまなオージープランツを育ててきましたが、ビカクシダが似合うのは「レンガ造りの邸宅」というその印象が刷り込まれていたことと、寒さに弱いので、日本の家屋で育てるには「対象外」と思いこんだままで、長いこと手を出さずにいました。
ところが20年近くの歳月が流れ、定年退職後に相談員として勤務した都市緑化植物園の温室で、巨大なあの「コウモリラン」と再会したのです。そこに育つ株は、推定樹齢は20年以上。ただし、植物園の温室で栽培されているビカクシダは、立派で素晴らしいものの、イマイチ、メルボルンのレンガ造りの邸宅の壁で育っていた、あの「カッコ良さ」が感じられなかったのです。
長年、ガーデニングをやってきて思うのが、大自然の中の植物は美しいけれど、現代人が感じる「カッコ良さ」というのは、植物本来の美しさやエネルギーに、人間の感性や創造性を加味し、人工的にファッション、あるいは芸術として表現したものではないかということです。
そんな思いから、数年前に小さなビカクシダを1株購入し、観葉植物として育てて部屋で飾って楽しんでいます。
今コロナ禍で、人々にビカクシダが人気なのは、「部屋に緑を!」という願望に加え、花も咲かず、ある意味、単調な容姿であるがゆえに、育てる人の感性で自由に個性的な表現がしやすいからではないかと思ったりするのです。コロナ禍の引き籠り生活で、誰もがストレスを感じていることと思いますが、ビカクシダは場所も取らず、壁でもハンギングでも、手軽に主(あるじ)の個性と感性、さらには芸術創造願望への充足欲求すら満たしてくれる植物なのではないでしょうか。
まだまだ、もうしばらく続きそうなコロナ禍の巣籠り生活ですが、コツを覚えればビカクシダを育てるのは難しいことではないのでぜひ挑戦して、ビカクシダと共に豊かに、創造的に楽しんでみませんか?
Credit
写真&文 / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -
えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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