マンションのバルコニーもガーデニングを一年中楽しめる屋外空間です。都会のマンションの最上階、25㎡のバルコニーがある住まいに移って2021年で29年。自らバラで埋め尽くされる場所へと変えたのは、写真家の松本路子さん。「開花や果物の収穫の瞬間のときめき、苦も楽も彩りとなる折々の庭仕事」を綴る松本さんのガーデン・ストーリー。今回は、収穫できて日除けにも活躍するつる植物、パッションフルーツをご紹介。個性的な花から、人工授粉を経て丸い果実が実るパッションフルーツの味わい方についても教えていただきます。

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収穫できるグリーンカーテン

パッションフルーツの緑のカーテン
5~6月に花が咲き7~8月に実が完熟する。昨年の夏は鉢植えの1株で30個ほどの実が収穫できた。

わが家では、北に面した広めのバルコニーで、60鉢のバラを育てている。さらに東に面したベランダには、熱帯植物などの鉢が並び、寝室の窓辺の日除け用にパッションフルーツが設えてある。パッションフルーツは、成長が早い多年生のつる性植物で、葉が多く茂ってグリーンカーテンとなり、同時に実が収穫できるという、実用的で嬉しい植物だ。

パッションフルーツ
挿し木して1年目の苗。すでに花芽が付いている。パッションフルーツは株が古くなると実付きが悪くなるので、挿し木苗を育て、2~3年ごとに株を更新する。

最近では4月頃から、園芸店の店先で1年目の挿し木苗を見かけることが多くなった。購入して一回り大きな鉢に植えつけると、やがて花芽が出てくる。苗が成長したらさらに植え替えて、翌年にはグリーンカーテンを作ることが可能だ。

夏に実を付けた苗が、行燈仕立ての鉢で出回ることもある。そのまま育ててもよいが、プランターに植え替えて、トレリスやネットに這わせると、グリーンカーテンとして楽しめる。

ユニークな花姿

パッションフルーツの花
受粉後に横から見た花。3本の雌シベ(柱頭)と5本の雄シベが付いている。

5~6月にかけて咲く花は、ユニークな姿をしている。和名はクダモノトケイソウで、花を時計の文字盤に見立ててその名前が付けられた。観賞用に改良されたさまざまな花色の園芸品種もあるが、わが家で育てているのは、名前の通り果実の収穫を目的とする品種だ。

パッションフルーツの名前の由来

トケイソウ
トロピカルな花姿。日本では花を時計に見立て、トケイソウの名が付けられた。

パッションフルーツという名前を知ってから長い間、パッションは「情熱」だと思っていた。だがある時、パッションは「キリストの受難」を意味する言葉だと知った。原産地の南米で花を見たイエズス会の宣教師が、花の子房柱を十字架、雄シベを釘、ガクを茨の冠として、キリストが十字架にかけられた姿を思い描き、ラテン語で「パッション・フローラ」(英語でパッション・フラワー)と名付けたのが由来とされる。

それからはトロピカルで華やかな花が、なんだか別の顔を持って現われたような気がしている。

懐かしい味

父の仕事の関係で、子ども時代を伊豆の熱帯植物園の敷地内の家で過ごした私にとって、パッションフルーツの実は最高のおやつだった。まだ国内では苗が流通していない時代で、植物園では実験的に路地栽培を行なっていたのだ。

当時はトケイソウと呼んでいて、青い実が付くと、成熟するのを心待ちにしていた。収穫した実を父が自宅に持ち帰ると、母が果肉をガーゼで絞りジュースにして、姉と私に手渡してくれた。

幼い頃、母の手元をかたずをのんで見つめていた記憶が、今も鮮明に残っている。

人工授粉

パッションフルーツ
受粉して数日後、花の中から小さな果実が顔を出す。受粉しなかった花は翌日に落下する。

花が咲くと、蝶や虫がやってきて受粉を助けてくれる。だが確実に結実してほしいので、いくつかの花に人工的に授粉作業を施す。朝の開花と同時に、綿棒を使い雄シベの花粉を直接雌シベにつけるのだ。受粉すると数日後に花の中央の子房が膨らみ、小さな実が生まれる。受粉しなかった花は落下する。

パッションフルーツ
実は次第に大きくなり、やがて花は枯れる。
パッションフルーツ
丸く青々とした果実が膨らみ、5~6cmの大きさになる。実は1~1.5カ月後に、赤紫色をおびてくる。

食べごろ

パッションフルーツ
完熟すると自然落下するので、色付き始めたら袋がけをする。完熟の果実が味わえるのは、自家栽培ならではの醍醐味だ。

青い小さな実が、約2カ月かけて5~6cmほどの楕円の球形に成長する。それが濃い赤紫色に変わるのが収穫の合図。収穫前に実が自然落下することもあるので、最近は色付いたところでネット状の袋がけをして実を受け止めている。

パッションフルーツ
収穫した実を、イギリスのアンティーク皿に盛りつける。収穫はほぼ1か月続く。ビタミンC豊富な果実で、夏を爽やかに過ごすことができる。

収穫した実は完熟しているが、それから2~3日常温下に置くと、表面がシワシワになり、甘みが増してくる。実を2つに割ると、中に種子とそれを包むゼリー状の果肉が現れるので、種子ごとスプーンですくって食べる。ヨーグルトやアイスクリームにトッピングするほか、サラダのドレッシングに加えても美味だ。

甘酸っぱい南国の果実は、私にとって懐かしさとともに、夏の到来を告げる季節の味となっている。

Credit

写真&文/松本路子
写真家・エッセイスト。世界各地のアーティストの肖像を中心とする写真集『Portraits 女性アーティストの肖像』などのほか、『晴れたらバラ日和』『ヨーロッパ バラの名前をめぐる旅』『日本のバラ』『東京 桜100花』などのフォト&エッセイ集を出版。バルコニーでの庭仕事のほか、各地の庭巡りを楽しんでいる。2018-21年現在は、造形作家ニキ・ド・サンファルのアートフィルムを監督・制作中。
noteでWebマガジン始めました。https://note.com/mmatsumoto0128

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