オーストラリアのワイルドフラワーの一つ、ピメレアは、白やピンクの丸い花や釣り鐘状の花など、品種によってさまざまな花姿があり、西オーストラリア原生の植物の中でも最も魅力的な花の一つとされています。オーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、神奈川県の自宅の庭で25年間、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主、遠藤昭さんが、ピメレアの魅力と育て方をご紹介します。
目次
今年こそオージープランツ栽培に挑戦を
春になると、毎年オージープランツが園芸店の店先に並ぶようになる。
今年は、久々にピメレアを見かけた。確か15~16年ほど前に一時流通していたが、その後あまり見かけなくなっていたのだ。これはもしやピメレア人気到来かとも思い、魅力や育て方についてご紹介したい。
また、後半ではオーストラリアの植物全般の育て方を詳しくご紹介している。ぜひ、今年はオージープランツを迎えて、元気に育ててもらえたら嬉しい。
自生地で出合ったピメレアの花
「ピメレア(Pimelea)」は、オーストラリアを中心に80種ほどあるといわれ、多くの園芸品種が世界中で栽培されている。
僕が初めてピメレアを見かけたのは、もう17年も昔のことで、西オーストラリアのワイルドフラワーツアーに行った時だった。パースから4泊5日のバス旅行で訪れた約200~300km南にある自生地の明るい林の中で、真っ白い花がフワフワと風に揺れて咲いていた。近くに寄ってみると、日本では見たことのない小さな花が集まった、まるで“おとぎの国”に出てくるような不思議さと優しさを感じる花で、周りの西オーストラリアの荒涼たる風景とのコントラストが印象的だったのを覚えている。
その後しばらくして、横浜の大型ガーデンセンターでこのピメレアを見つけ、感動して連れて帰った。
ピメレアの主な品種1
ピメレア・スペクタビリス(Pimelea spectabilis)
原生地では、明るい林の中で10月(南半球では春ですよ!)に花を咲かせる。日本でオージープランツを育てる時に、原生地の環境を知ることは、とても参考になる。
ピメレアは、西オーストラリア南西部の比較的乾燥した地域に自生している。もともと高さ2mほどになるものが多いオージープランツにしては繊細な感じの低木で、白い花もふんわりとしている。開花は日本では3~4月。ジンチョウゲ科の植物なので、ジンチョウゲのように小さい花が集まり、ぼんぼりのような丸い花序を形成する。
小さな花が集まって咲き、中央はややピンクがかっている場合がある。ジンチョウゲ科だと聞くと親しみが湧くのは、やはり日本人だからなのだろうか? ピメレアはジンチョウゲほど香りは強くないが、ほのかに香る。
ピメレアの主な品種2
ピメレア・ロゼア(Pimelea rosea)
今年、園芸店で見かけたのは、ピンクの花が愛らしい、ピメレア・ロゼア(Pimelea rosea)という品種。
先に紹介したピメレア・スペクタビリスに比べると、葉が楕円形で厚みがあり、がっしりした株立ちに見える。花もしっかり密に咲く。やや濃いピンクで、株全体が半球形に自然に整う。
ピメレアの主な品種3
ピメレア・フィソデス(Pimelea physodes)
「クアラップ・ベル(Qualap Bell)」とも呼ばれ、他のピメレアとは見た目がまるで異なるが、正真正銘ピメレアの仲間なのだ。クアラップ・ベルと名が付いている通り、大きな目を見張るような釣り鐘を思わせる花を咲かせる。西オーストラリア原生の植物の中でも最も魅力的な花の一つとされている。
花弁のように見える部分はガクで、臙脂色から先端にかけてクリーム色に変わるグラデーションは見事だ。
ピメレアの主な品種4
ピメレア・フェルギネア(Pimelea ferruginea)
「ピンク・ライスフラワー(Pink Riceflower)」とも呼ばれる、西オーストラリアの原生種。ピメレア・ロゼアと似ているが、高さ1m、幅1〜2mほどで、密な株立ちになる低木だ。葉は深緑色で、長さ12mmほどの楕円形の葉が2対対生し、十字の列に並ぶのが特徴。
小さな丸い花は、枝先に群生していてとても目立つ。花色は一般に明るいピンクだが、いくつか、より濃い色の花が栽培されていて、白い花の種も知られている。春先から夏にかけて開花する。
ピメレアなどオージープランツの育て方
最後に、育て方に触れておこう。
西オーストラリア原産の植物に共通するポイントは4つ。
ポイント1 蒸し暑さに注意
原生地は年間雨量が500mmほど(東京は1,500mm)の乾燥気候なので、特に夏の蒸し暑さが苦手。したがって、その原生地の気候に近づけるために、日当たり、風通しのよい所で育てる。雨に濡れると加湿になりがちなので、鉢植えの場合は、軒下や屋根のあるベランダなどに置くとよい。
ポイント2 水はけのよい用土に植え、水切れに注意
鉢植えは、水はけのよい土を使用する。地植えは、水はけをよくするために、植える場所を畝のように少し高くしたり、根鉢の下に軽石を敷いたりするとよい。
乾燥に強いというものの、苗が小さな間や、鉢植え、移植して1年未満の成木は、特に注意が必要。グレヴィレアなども、鉢植えだと意外と水切れに弱いので注意。
●オーストラリアで推奨される鉢植え用の水はけのよい土とは
①荒い川砂:ココピートモス(ココヤシ繊維)が3:2
②荒い川砂:ココピートモス:砂壌土(砂土よりも粘土の多い土壌。粘土の含有量が12.5~25%のもの)が5:4:3
これを日本で手に入れやすい材料に置き換えると。
①小粒軽石:調整済みピートモスが3:2
②小粒軽石:調整済みピートモス:鹿沼土が5:4:3
オーストラリアの植物は、Ph5.5~7くらいの弱酸性の土を好むので、日本の鹿沼土は使える。必ずしも、これでなければということはなく、ピートモスの代わりに腐葉土や軽めの園芸用土など、いろいろ試して調整するのも楽しい。
ポイント3 肥料について
オーストラリア原産の植物は、概して肥料分は少なめで育つ。特にヤマモガシ科のプロテア、バンクシア、グレヴィレア、初恋草、エレモフィラ・ニベアなどはリン酸を嫌うので、リン酸分の多い、花苗用の液肥は根を傷めることがある。
特に夏は水分の蒸発が早いので、鉢の中のリン酸分が濃くなって枯れることがある。液肥は窒素:リン酸:カリが5:10:5とリン酸分が多い。観葉植物用だと10:5:10ぐらいだ。オーストラリアの上記の植物は3%以下のリン酸分がよいとされているので、観葉植物用の液肥を倍の希釈にして使用するとよい。
リン酸分の少ない肥料としては、菜種の油粕が5:2:1だ。菜種の油粕を10倍の水で薄めて1カ月発酵させ、その上澄みを5~10倍に希釈して使用する方法もある。
オーストラリアでは有機肥料志向が強く、化成肥料は強くて効きすぎるといってネイティブプランツには敬遠されている。
日本の市販品では「創美味4号(8-1-8)有機質率60%」というのがある。主にリン酸分が足りている圃場用に使われている肥料だ。日本の畑も連作によってリン酸分過多の所が多いとか……。
ポイント4 耐寒性について
日本に入ってきている植物のほとんどは、西オーストラリア南部や東オーストラリア南部の原産で、耐寒性はマイナス2~3℃まではある。ただし、鉢植えは冬には屋内に取り込むのが無難。また、庭植えした苗木も小さいうちは寒さに弱い。移植した成木は根付いてしまえば耐寒性も強くなるが、最初の冬は保護が必要な程度の耐寒性である。
特に西オーストラリア原産種は、東オーストラリア原産種よりも、日本での栽培は難しいものが多いように感じる。西オーストラリア系は、雨や高温多湿に弱いと覚えておくとよいだろう。
今回ご紹介した4種のピメレア、お気に入りはありましたか? 園芸店でピメレアと目が合ったら、ぜひ連れて帰ってください。そして、当記事で育て方をもう一度チェックしたら、しっかり育てて可愛いピメレアと豊かなおうち時間を過ごしましょう!
Credit
写真&文 / 遠藤 昭 - 「あざみ野ガーデンプランニング」ガーデンプロデューサー -
えんどう・あきら/30代にメルボルンに駐在し、オーストラリア特有の植物に魅了される。帰国後は、神奈川県の自宅でオーストラリアの植物を中心としたガーデニングに熱中し、100種以上のオージープランツを育てた経験の持ち主。ガーデニングコンテストの受賞歴多数。川崎市緑化センター緑化相談員を8年務める。コンテナガーデン、多肉植物、バラ栽培などの講習会も実施し、園芸文化の普及啓蒙活動をライフワークとする。趣味はバイオリン・ビオラ・ピアノ。著書『庭づくり 困った解決アドバイス Q&A100』(主婦と生活社)、『はじめてのオージープランツ図鑑』(青春出版)。
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