晩秋から春まで長く開花が楽しめる一年草、パンジー&ビオラ。単色から虹色、花びらのフリルの強弱や大きさの違いなど、多種多様な品種群に選ぶ楽しさが増えました。なかでも近年注目されているパンジー&ビオラの一つ、佐藤勲さん作出の「ドラキュラ」の魅力や丈夫な苗作りの苦労、そして将来発売が待たれる品種について、千葉県在住の橋本景子さんがレポートします。
目次
パンジー「ドラキュラ」との出会い
今やサトウ園芸さんが作るパンジーの代表的な品種となっているパンジー「ドラキュラ」ですが、私が初めて見たのは2016年のこと。宮崎の園芸店「アナーセン」さんで開催されていた「個人育種家 パンジー・ビオラ作品展」を見に行った時でした。
この年にデビューしたパンジー「ドラキュラ」は、園芸業界に大きなセンセーションを巻き起こしたと記憶していますが、それまで私が好きだったのは、“可愛くて優しい色の小ぶりなビオラ”。その時、初めて見たパンジー「ドラキュラ」は、造形の面白さや色の鮮やかさ、独特なネーミング、そして花弁は5枚だけなのに、まるで球体のような花形という驚きや感動はあったものの、正直言って、ビオラ派の私には色も形もサイズもがあまりにも男性的で、自分で育ててみたいという気持ちにはなれなかったのです。まさか、「ドラキュラ」とのお付き合いが、この後これほど深くなるとは、当時は思ってもいなかったのでした。
佐藤さんのハウスで花のパワーに衝撃
この後、ご縁があって見せていただいた広大な佐藤さんのハウスには、大好きな「ヌーヴェルヴァーグ」の素晴らしい親株がたくさん並んでいて、圧巻!
もちろん、パンジー「ドラキュラ」もハウスの中でその独特な存在感を見せつけていて、キラキラと眩しく輝く「ドラキュラ」が、そのネーミングのごとく、ちょっと近寄りがたいけれど、スペシャルなパンジーであることに、やっとこの時気がついた私でした。
佐藤勲さんによる苗作りの技術
野菜農家に生まれた佐藤さんは、農業研修生としてアメリカ・コロラド州のプラグ苗の会社でポインセチアやパンジー、観葉植物などの花壇苗の生産を2年間学び、1988年に帰国してからハウスを新設。アメリカで学んできた生産技術を生かした花苗作りを始めました。
高崎市の市街地にある1,300坪のハウスでは、ペチュニアをはじめ、カリブラコア、ニチニチソウ、マーガレット、パンジー、ビオラなどの花苗を年間を通して約50品目生産しています。
その中でもいま特に大人気のパンジー&ビオラのオリジナル品種の生産は、8月上旬に種まきした苗を9月に植え替え、早いものでは10月下旬から順次出荷されますが、生育期である夏場は、暑さによって株が弱り、湿度が高ければ病気が出るので、防虫や殺菌に気をつけながら、遮光をするなどといった地道な作業を重ねています。その労力は多大で、例えば、花苗管理で大きなウェイトを占める灌水作業についていえば、苗が小さいうちは根鉢の深さまで水が浸み込む程度にとどめ、生育するに従って水の量を増やしていきます。出荷される頃には上層部から下層部までまんべんなく根鉢が形成されるように加減する、その絶妙な灌水技術を取得するまでには、15年かかったといいます。
「1日1回の水やりとしても、一人で数万鉢に灌水するには6時間から8時間もかかります。それは、僕の人生の3分の1は水やりということですね」と笑う佐藤さんですが、ポットから根鉢を取り出すと、まるで毛細血管のように美しく広がる根の様子を見れば、佐藤さんの技術の素晴らしさは一目瞭然です。
佐藤さんのパンジー&ビオラの一ファンとして
いまや佐藤さんが生産するオリジナルのパンジーやビオラの大ファンとなってしまった私ですが、ここ数年、シーズン中に数回ハウスにお邪魔しては、巷の流行や人気の色・形など、パンジー、ビオラ好きな一般人としての正直な意見をお伝えしています。
どんな意見にも、いつも頷きながら耳を傾けてくださる佐藤さんの穏やかで真面目なお人柄には、お会いするたびに尊敬の念が深まります。
左/パンジー「ドラキュラ」だけの寄せ植え。右/「エッグタルト」とワイヤープランツなどの寄せ植え、どちらもローザンベリー多和田にて(2017年)。
自宅で育てた「ドラキュラ」の鉢植えは、花は小さくなりましたが、こんもりと美しくまとまりました。晩秋に植えて、5月末まで約半年間も楽しめるのですから、とってもコスパのよいパンジーです。バラとの競演も可能です。
左/ピンクの可愛い「ヌーヴェルヴァーグ」には、渋い色の葉牡丹をチョイス。右/色が可愛い「エッグタルト」は、ターコイズ色のカップに活けてみました。
パープル系の「ヌーヴェルヴァーグ」を寄せ植えに。寄せ植えにする場合も、私は脇役には地味な植物を使います。
佐藤さんの苗はポットに単植することが多く、この渋いカラーの「ヌーヴェルヴァーグ」はBizen&Whichfordのワークショップで作ったポットにぴったりでした。
左/バードバスに浮かべた「ヌーヴェルヴァーグ」と秋のバラ。右/ガラスの器の中にもたくさんの花を浮かべて楽しみます。
たくさん摘んだ花を小さなグラスに入れて楽しむことも。真冬でもこんなに華やかなガーデンになるのは、パンジー&ビオラのおかげ。
佐藤さんが作る人気シリーズをご紹介
佐藤さんが現在生産しているパンジーやビオラの中でも、特に人気なのはビオラ「ヌーヴェルヴァーグ」や「エッグタルト」、パンジー「ドラキュラ」、「ローブ ドゥ アントワネット」など。これらは偶然に変わった色や形が出現したものをコツコツと掛け合わせ、世に無いものを生み出してきたのです。数年かけて商品化するという、佐藤さんの弛まぬ努力と技術から生まれた苗は、色や花の形、花付き、性質、株張り、耐病性などを厳しく吟味しながら、育てやすい品質を維持し、佐藤さんのオリジナルの素晴らしい品種として全国に販売されています。
佐藤さんのハウスで親株として、来年度用の種子を採るために維持されている美しい「ヌーヴェルヴァーグ」は、花色のバリエーションだけでなく、絞りや丸弁、フリル、切弁など多彩で、その組み合わせにより出現する花の数は無限です。一期一会であることもビオラの魅力の一つですね。
パステルカラーからアンティークカラー、ラテカラー、モーブカラーへと変身し続けて来た「ローブ ドゥ アントワネット」は、今年ついに夜会に相応しいダークなカラーバリエーションが出現! 「ソワレ」という名前で来年からの本格販売を目指しています。
大人気なのに、なかなか種子がつきにくいことに加え発芽率が悪いために、入手困難で幻となっているパンジー「ドラキュラ」ですが、今年も量産のための工夫を惜しまず、来年はたくさんの方のもとに届くようにと努力を続けています。
「開発に年月を費やしても、2、3年で飽きられることもある園芸業界ですが、定番の花苗の生産を軸にしながら、常に新しい品種を生み出したいと思っています。でも自然が相手ですから思い通りにいかないことだらけです。でも、園芸業界を盛り上げる一端を担いたいという思いは強く持っています。奥が深い世界ですが、そのためには何よりも下積みをしっかりと、底辺が広ければ広いほど頂上は高いのです」という素晴らしいプロ意識も、佐藤さんのパンジーやビオラが大人気である理由なのでしょう。
Credit
写真・文/橋本景子
千葉県流山市在住。ガーデングユニットNoraの一人として毎年5月にオープンガーデンを開催中。趣味は、そこに庭があると聞くと北海道から沖縄まで足を運び、自分の目で素敵な庭を発見すること。アメブロ公式ブロガーであり、雑誌『Garden Diary』にて連載中。インスタグラムでのフォロワーも3.
Noraレポート https://ameblo.jp/kay1219/
インスタグラム kay_hashimoto
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