秋になると、艶やかな紫色の実をたっぷりとつけるムラサキシキブをご存じでしょうか。紫色の実をつける植物はなかなか少なく、庭先や玄関前などにあるとパッと目を引いて、個性を演出することができますよ! この記事では、ムラサキシキブの基本情報や特性、種類、名前の由来や花言葉、楽しみ方、詳しい育て方など、幅広く取り上げていきます。
目次
ムラサキシキブとは? 紫色の実が印象的
ムラサキシキブは、シソ科ムラサキシキブ属の落葉低木です。原産地は北海道~九州、沖縄、中国、朝鮮半島、台湾など。古くから日本の雑木林や明るい林床などに自生してきた植物で、暑さ寒さに強く庭などに植えて放任しても、よく育ってくれます。
ムラサキシキブのライフサイクルは、以下の通りです。3月下旬頃から新芽を出して生育期に入り、6~7月頃に直径3mmほどの小さなピンク色の花が密に咲きます。9~11月上旬に、艶やかな紫色の果実をたわわにつけます。明るい紫色が目を引き、開花よりも実のほうが観賞価値が高いとされているほどの美しさです。11月下旬になると落葉して休眠しますが、枯れたと判断して抜かないでください。休眠して越冬し、春になれば再び新芽を出してくれます。一度植え付ければ何年も新緑・開花・結実を楽しめる、コストパフォーマンスの高い植物です。
ムラサキシキブの樹高は2~3mで、低木に分類されています。根元から多くの枝を伸ばして放射状に広がる株立ち状の樹形です。細い枝を水平に伸ばしつつしならせて茂るので、風に揺れて柔らかな雰囲気をもたらしてくれます。葉は長さ5~10cmほどの楕円形で、枝に左右対称につく「対生」。葉腋に小さな淡いピンクの花が房状に咲き、3mmほどの紫色の実をつけます。
「コムラサキ」とは違うの?
コムラサキは、クマツヅラ科ムラサキシキブ属の落葉低木で、ムラサキシキブとは別種とされていますが、園芸店などではこちらもムラサキシキブとして販売されていることが多く、庭木としてもよく見かけます。コムラサキは樹高が1.5~2mで、ムラサキシキブよりはやや小ぶり。地際から細い枝を立ち上げて放射状に伸ばす株立ちの樹形は同じです。ムラサキシキブとコムラサキは見た目が似ているため、混同されることが多く、またムラサキシキブには変種や園芸品種も多いので、「ムラサキシキブの仲間」として広く捉えたほうがよさそうです。
見分け方のポイントは、ムラサキシキブの実は葉脇にまばらにつくのに比べ、コムラサキの実は葉腋からやや離れた場所につき、枝がしなるほど大きさも量も多い傾向にあります。楚々とした野趣感を漂わせるのがムラサキシキブ、庭木の素材として洗練されているのがコムラサキという印象です。庭木としてはどちらかと言えばコムラサキが使われることが多いため、今回の記事でも、どちらもムラサキシキブの仲間としてご紹介します。
その他、ムラサキシキブと似ているもの
ムラサキシキブは、変異種が多いのも特徴の一つです。ここでは、ムラサキシキブと似ている樹種をご紹介します。
オオムラサキシキブ
ムラサキシキブの変異種で、本州、四国、沖縄に分布し、主に海岸近くに自生しています。樹高は2~3mくらい。葉が大きいのが特徴で、長さ10~20cmの大ぶりで厚みのある葉がつきます。花序も大きめで、実ると華やかです。
ヤブムラサキ
主に宮城県以西の本州、四国、九州の山地に分布しており、朝鮮半島でも自生しています。ムラサキシキブに似ていますが、葉や花などに細かな毛が生えるのが、見分けるポイントです。花は数個単位で咲き、その分実の数も少ないため、ムラサキシキブほどの派手さはなく、野趣感があります。
ムラサキシキブの名前の由来や花言葉
ムラサキシキブの名前の由来は、さまざまな説があります。まずは、紫色の実がたくさんつくという意味から名付けられた、「ムラサキシキミ」が訛って、平安時代に活躍した紫式部を連想させたという説。ちなみにシキミとは「敷き実」と書き、実がたくさんなるという意味があります。また一説には、同様にたくさんの実がつくという意味の「茂実(しげみ)」から「ムラサキシゲミ」と名付けられ、それが訛って「ムラサキシキブ」に変化したともいわれています。一方では、江戸時代に植木屋を営む主人が、実の美しさを『源氏物語』を書いた紫式部になぞらえ、命名して売り出したという説もあります。もしそうなら、イメージ戦略として大当たりだったのではないでしょうか。ちなみに江戸時代初期には、「実紫(みむらさき)」「玉紫(たまむらさき)」と呼ばれ、まだムラサキシキブとは呼ばれていなかったようです。
ムラサキシキブの花言葉には「愛され上手」「上品」「聡明」など。紫式部が書いた『源氏物語』に登場する光源氏の君を連想して「愛され上手」「上品」という言葉が与えられたのでしょう。「聡明」は、紫式部の人物伝からとされています。
ムラサキシキブの楽しみ方
ムラサキシキブは、樹高2~3mで樹形は株立ちになるので、中高木の足元を彩るのに役立ちます。また、樹高の高い中高木と草花の間をつなぐ役割としても重宝。開花と実の美しさを観賞でき、派手さはないものの彩りを添える名バイプレイヤーとなることでしょう。鉢植えで小作りにして、盆栽仕立てにすることもできます。紫の実を、リースやスワッグなどクラフトに利用しても素敵です。
ムラサキシキブの仲間の育て方
ムラサキシキブは樹木に分類されていますが、低木で小さくまとまるため、それほどメンテナンスの手間はかかりません。ここでは、適した環境の見極め方から植え付け、水やりや施肥、病害虫対策などの日頃の管理、剪定や植え替え、増やし方まで、詳しく解説していきます。
適した環境
日当たり、風通しのよい環境を好みます。半日陰の場所でも生育しますが、花つきが悪くなり、実の数も少なくなるので注意を。乾燥がやや苦手で、適度に水はけ・水もちのよい土壌づくりをすることが大切です。極端に乾燥する場所では、根元をバークチップなどで覆うマルチングを施しておくとよいでしょう。
用土
【地植え】
まず一年を通して日当たり、風通しのよい場所を選びましょう。植え付けの2~3週間前に、直径、深さともに50cm程度の穴を掘ります。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきましょう。こうしてしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
樹木用にブレンドされた市販の培養土を利用すると手軽です。
植え付け
ムラサキシキブの植え付け適期は2~3月です。花苗店などで観賞期の株を買い求めた場合は、植えたい場所へ早めに定植します。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘って植え付けます。最後に、たっぷりと水を与えます。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、8~10号鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1~2段分入れてから樹木用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して鉢に仮置きし、高さを決めます。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2~3cmほど下の高さまでを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
水やり
【地植え】
植え付け後にしっかり根づいて茎葉をぐんぐん伸ばすようになるまでは、水切れしないように管理しましょう。根づいた後は、地植えの場合は下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただし、真夏に晴天が続いて乾燥しすぎる場合は水やりをして補いましょう。真夏は昼間に水やりするとすぐお湯状になり、株が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。
【鉢植え】
日頃から水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。枝葉がややだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。真夏は気温が上がっている昼間に水やりするとすぐにお湯状になり、株が弱ってしまうので、朝夕の涼しい時間帯に行うことが大切です。冬は休眠するので、土の状態を見て控えめに与えましょう。
肥料
【地植え】
2月下旬~3月頃、新芽を吹き出す前に有機質肥料を施すと、春からの生育がよくなります。
【鉢植え】
2月下旬~3月頃の新芽を吹き出す前と、花が咲く前の5月頃、実が色づく9月頃に、緩効性化成肥料を施しましょう。
剪定と切り戻し
剪定の適期は、12~2月です。
この時期は休眠期に当たるため、どこで切ってもかまいません。大きくなりすぎて邪魔になる場合は、樹高の半分くらいまで切り戻してもOK。もっさりと茂って込み合っている状態を解消したい場合は、古い枝や長く伸びすぎている枝、内側に向かって伸びている枝は元から切り取ります。込みすぎている部分は、絡んでいる枝などを切り取り、風通しよくスマートな樹形に整えましょう。
夏・冬越し
暑さには強い性質ですが、西日が強く当たって熱がこもりやすい場所では、葉を落としてしまうことがあるので注意。冬の寒さにも強く、鉢上げして温室へ移動するなどといった手間は不要です。地植えのままで、または鉢植えを戸外に出したままで越冬します。
植え替え
【地植え】
しっかり根付いて順調に生育していれば、植え替えの必要はありません。
【鉢植え】
鉢植えで楽しんでいる場合は、放置していると根詰まりしてくるので、1~2年に1度を目安に植え替えましょう。植え替えの適期は2~3月です。
植え替えの前に、水やりを控えて鉢内の土を乾燥させておきましょう。鉢から株を取り出し、根鉢を少しずつ崩していきます。不要な根を切り取り、1/3くらいまでを目安に根鉢を小さくしましょう。これ以上大きくしたくない場合は同じ鉢を用い、もう少し大きくしたい場合は2回りくらい大きな鉢を用意し、植え替えます。手順は「植え付け」の項目を参考にしてください。
増やし方
ムラサキシキブは、挿し木で増やすことができます。挿し木の適期は5月か9月頃です。若くて勢いのある新梢を選び、7~8cmの長さで切り取ります。市販の園芸用の培養土を育苗用トレイなどに入れて、採取した枝を挿しておきます。直射日光の当たらない明るい場所で、水切れしないように管理しましょう。発根した根が充実したら、黒ポットなどに植え替えて育成します。大きく育ったら、植えたい場所に定植しましょう。挿し木のメリットは、採取した株のクローンになることです。
また、株分けでも増やすことができます。適期は3月下旬~4月頃。株を掘り上げ、3~5芽つけて根を切り分け、植え直します。
ムラサキシキブの実を採取して、種まきして増やすこともできますよ! 9~11月上旬につく果実から種を取り出して、育苗トレイに播きます。種は乾燥に弱いので、採取したらすぐに播くことがポイントです。発芽後、本葉が2~3枚ついたら黒ポットに鉢上げして育苗し、株が充実したら生育期に定植するとよいでしょう。
病害虫
大変強健な性質で、基本的には病害虫の心配はほとんどありません。
ただし、風通しの悪い場所では、カイガラムシやハダニが発生することがあります。カイガラムシは見つけ次第、ハブラシなどでこすり落として退治を。適応する薬剤を散布して防除してもよいでしょう。
鮮やかな紫の実がキレイ! ムラサキシキブをぜひご自宅に
平安時代に『源氏物語』を記した紫式部を連想させるムラサキシキブは、物語の世界観もあってか、貴族文化が花開いた時代の高貴なイメージを想起させてくれます。低木で手入れがしやすく、ライフサイクルも長いので、一度植え付ければ毎年の開花・結実を楽しめます。ぜひ日当たりのよい場所に植え付けて、四季によって表情の変化を見せてくれるムラサキシキブを愛でてはいかがでしょうか。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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