薬味として、また冬の鍋物料理に欠かせない野菜として、日本の食卓に馴染み深いネギ。大きく分けると、手軽に栽培できる葉ネギと、軟白栽培をしてじっくり育てる長ネギがありますが、この記事では、両方の特性と育て方について、詳しくご案内していきます。ビギナーには葉ネギ栽培からのスタートがおすすめ。家庭菜園に慣れた方なら、ぜひ長ネギ栽培にチャレンジしてみてください。
目次
ネギの基本情報
ネギは、ユリ科ネギ属の葉菜類で、原産地は中国西部です。日本には奈良時代には伝えられていたとされ、各地に散らばってさまざまな地方品種が生まれています。ネギの生育適温は15〜20℃で、暑さ、寒さに強い性質を持っています。また、病害虫にもかかりにくいため、比較的管理がしやすい野菜です。連作を嫌うので、1年はネギを栽培していない場所を選んで植え付けましょう。
どのネギを育てる? ネギの種類
ネギは、青々とした葉芯部を薬味として利用する葉ネギ(青ネギ)と、白い葉鞘部を薬味や鍋物などに利用する長ネギ(根深ネギ、白ネギ)があります。
葉ネギは、主に関西地方以西で栽培され、京野菜の九条系が多く出回っています。種まきから収穫までの期間が短いので、ビギナーさんなら葉ネギの栽培からスタートするのがおすすめ。葉ネギは酸性の土壌を嫌うので、土づくりの際に苦土石灰を散布して土壌改良しておくことがポイントです。3月下旬〜4月にタネを播き、7月頃に草丈が60〜70cmになったら収穫します。花苗店やホームセンターでは苗の販売もしているので、苗の植え付けから始めれば、より手軽に栽培できますよ!
長ネギは、関東地方以北でよく育てられており、東日本では千住ネギ系、北陸では加賀ネギ系が多く流通しています。群馬県の特産として知られる下仁田ネギは、軟白部が太くて短く、甘みがあって柔らかいのが特徴です。長ネギは、栽培の際に土を盛り上げて日光に当てないようにする「土寄せ」を繰り返し、人工的に軟白部を30〜40cmほど長く育てます。植え付けの際には、根を傷めないために苦土石灰や肥料を用いないのがポイント。栽培期間は、3月下旬〜4月にタネを播いて、収穫できるのは11月下旬〜2月頃と、野菜の中でも長いほうです。その間、場所を占領するため、周囲に育てる作物の状況も踏まえて、どこに植えるかじっくり検討するとよいでしょう。また、月に1度は追肥と土寄せの作業を繰り返すメンテナンスが必要なため、家庭菜園では上級者向きといえる野菜です。長ネギの収穫期間が11月下旬〜2月までと長期にわたる理由は、収穫適期が過ぎても、2月までは畑にそのまま置いても大丈夫なため。必要な分ずつ収穫することができます。
葉ネギの育て方
葉ネギは、青々とした葉の部分を収穫するので、長ネギのように軟白部を長く育てる管理が必要なく、ビギナーにおすすめです。
葉ネギのライフサイクルは、3月下旬〜4月にタネを播き、間引きながら育成。7月頃から収穫を始めます。
土づくり
【地植え】
日当たりのよい場所を選び、タネを播く2〜3週間前までに、1㎡当たり苦土石灰100gを全体をばらまき、よく耕しておきましょう。
種まきの1週間前に、畝の幅を60cm取って印をつけ、中央に深さ20〜30cmの溝を掘り、1㎡当たり堆肥2kg、緩効性化成肥料(N-P-K=8-8-8)100gをまいて埋め戻します。そこに高さ10cmほどの畝をつくっておきましょう。
【プランター栽培】
葉菜類の野菜用にブレンドされた市販の培養土を使うと便利です。
種まき
ビギナーさんや、プランター栽培なら、花苗店やホームセンターで苗を買い求めて植え付けるのがおすすめですが、葉ネギは種まきからでも簡単に育成できます。
畝の中央に、園芸用支柱などを埋めて深さ1cmほどのまき溝をつくります。そこに1cm間隔でタネを播き、溝の両側から土をかぶせ、軽く手で押さえましょう。最後に、たっぷりと水やりをします。水圧で種が流れ出ることのないように、はす口をつけたジョウロで、高い場所から水をまくとよいでしょう。
間引き
草丈が3〜5cmに育ったら約3cm間隔に間引き、さらに草丈10〜15cmに育ったら約5cm間隔に間引きます。間引いた苗は、薬味として十分に利用できますよ!
苗の植え付け
この項目では、花苗店やホームセンターで買い求めた苗の植え付けからスタートする方に向けて解説します。種まきから栽培するのを選んだ方は、この項目はスルーして、水やりの項目に進んでください。
【地植え】
土づくりの際につくった畝の中央に深さ10cmほどの溝をつくり、苗を10cm間隔で植え付けます。下部にある葉鞘と葉身の境目で、葉が分かれて広がっている分げつ部を埋めないように、浅植えにするのがポイントです。最後にたっぷりと水を与えましょう。
【プランター栽培】
標準サイズのプランターを用意。プランターの底穴に鉢底網を敷き、底が見えなくなるくらいまで鉢底石を入れます。野菜用にブレンドされた培養土に、元肥として用土10ℓ当たり化成肥料(N-P-K=8-8-8)を大さじ2ほど混ぜ込んでプランターに入れましょう。水やりの際にあふれ出さないように、ウォータースペースを鉢縁から2〜3cm残しておきます。株間を約10cm取って、分げつ部を埋めないよう、苗を浅めに植え付けましょう。最後に鉢底から流れ出すまでたっぷりと水やりをします。
水やり
【地植え】
地植えの場合は、下から水が上がってくるので、天候にまかせてもよく育ちますが、雨が降らずに乾燥しすぎるようなら、適切に水やりをして補いましょう。
【プランター栽培】
土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えます。
追肥
月に1度を目安に緩効性化成肥料を、地植えでは1㎡当たり約50g、プランター栽培では大さじ1ぐらいを目安に、周囲の土にばらまきます。軽く耕して土になじませ、株元に軽く土を寄せておきましょう。この時、分げつ部を埋めてしまうと成長しなくなるのでご注意を。
収穫
7月頃、草丈が60〜70cmくらいになったら、収穫します。根ごと引き抜いても、地際で切り取ってもかまいません。
長ネギの育て方
長ネギは、人の手によって軟白部を長く育てる必要があるため、上級者向けといえます。葉ネギよりも管理の手間がかかって栽培期間も長くなりますが、手をかけた分、自家製ならではの美味しさを味わえるので、ぜひチャレンジしてみてください。
長ネギのライフサイクルは、以下の通り。3月下旬〜4月にタネを播き、育苗します。7月頃に畑に植え付け、月に1度の追肥と土寄せの管理をしながら軟白部を育成。11月下旬〜2月頃に収穫します。
なお、長ネギの軟白部を育てるには、プランターでの栽培は難しいので、地植えでの栽培に限ってガイドしていきます。
種まき
ビギナーさんなら、花苗店やホームセンターで苗を買い求めて植え付けるのがおすすめですが、長ネギは種まきからでも簡単に育成できます。「たくさん収穫したい!」という方には、タネを購入して栽培するのがお得です。
日当たりのよい場所を選び、種まきの2〜3週間前に、1㎡当たり苦土石灰100〜150gを均一にばらまいてよく耕しておきます。また、種まきの1〜2週間前に1㎡当たり堆肥2〜3kg、緩効性化成肥料(N-P-K=8-8-8)100〜150gをばらまいて、よく耕しておきましょう。
タネを播く前に、土壌改良資材や元肥となる肥料を施しておくことで、時間をかけて分解されて土が熟成します。タネを播く頃にはよい土壌に育っているので、あらかじめ土づくりをしておくひと手間が、収穫成功への第一歩となりますよ!
幅約70cm、高さ5〜10cmの畝をつくり、透明なマルチを張ります。株間・条間ともに15cmの間隔をとって、マルチに直径1cmほどの平らな穴をあけましょう。1カ所に6〜7粒のタネを播き、土をかぶせて軽く手で押さえます。発芽後、茎の太さが直径7〜8mmになるまで育苗しましょう。
苗の植え付け
土寄せしながら育成するため、栽培には約1mの幅を確保できる、日当たりのよい場所を選びましょう。苗を植え付ける際は根を傷めないようにするため、苦土石灰や堆肥などの肥料は不要です。畝幅の中央に幅15cm、深さ20〜30cmの溝を掘ります。掘り上げた土は、溝の片側(北側がベター)に積み上げて土手をつくっておきましょう。
育苗した苗、または花苗店やホームセンターで購入した苗を、土を積み上げていないほうの溝側(南側がベター)に立てかけるように約5cmの間隔で配置し、根元に少し土をかけます。その上に、苗の根元を覆うようにワラをたっぷりと敷きましょう。ネギは根が呼吸するため、ワラを入れて空気が通るようにすることがポイントです。また、ワラは植え付け後の根を支える役割も果たしてくれます。
水やり
地植えの場合は、下から水が上がってくるので、天候にまかせてもよく育ちますが、雨が降らずに乾燥が続くようなら、適切に水やりをして補いましょう。
追肥と土寄せ
植え付けから1カ月後、ワラの上に1㎡当たり30gの緩効性化成肥料(N-P-K=8-8-8)をばらまき、ワラが軽く隠れる程度に、積んでおいた土を崩して薄くかけます。この土寄せの作業によって、本来は光に当てて濃いグリーンに育つところを、軟白部にして長く伸ばしていくのです。成長に応じて土寄せを繰り返します。
2回目の追肥と土寄せは、植え付けから2カ月後を目安に行います。株元に緩効性化成肥料を1㎡当たり30gを溝に均一にまきましょう。葉鞘と葉身の境目で、葉が広がり始めている分げつ部を埋めないように土を寄せます。分げつ部には成長点があるので、埋めると成長できなくなります。
3回目の追肥と土寄せは、植え付けから約3カ月後。分げつ部が地際より上に出てきたら、株元に1㎡当たり30gの緩効性化成肥料を均一にまきます。分げつ部を埋めないように株元に土を寄せ上げましょう。
4回目の追肥と土寄せは、植え付けから約4カ月後。株元に1㎡当たり30gの緩効性化成肥料を均一にまき、これまで同様に分げつ部を埋めないように株元に土を寄せて盛り上げましょう。土寄せを繰り返すため、最終的には高畝になります。
収穫
最後の土寄せの約1カ月後から、収穫スタート。途中で折れたり、ちぎれたりすることのないように、根元まで土を崩して丁寧に掘り上げます。2月頃まで収穫でき、畑に残しておいても大丈夫なので、必要な分だけ抜いていきましょう。
ネギ栽培で気をつけたい病害虫
発生しやすい病気は、淡黄色や褐色の斑点が現れるさび病です。初期症状であれば、適応する薬剤を散布して防除します。症状が進んでいたら、ただちに病株を抜き取って周囲に蔓延するのを防ぎましょう。
害虫は、ネギアザミウマ、ハスモンヨトウなどに注意。
ネギってどんな花が咲くの?「ネギ坊主」について
冬を越したネギが春を迎えると、花をつけて「ネギ坊主」ができます。ここでは、そのネギ坊主について、ご紹介しましょう。
ネギの花をネギ坊主という
「ネギ坊主」とは、ネギの花のこと。ネギの花は、花茎を伸ばした頂部に、6つの花弁を持つ小さな花が集まって咲き、球状になります。その姿から坊主頭を連想して名付けられたのでしょう。ネギ坊主ができるとネギの成長は止まり、食感も悪くなるので、ネギ坊主ができる前の2月までには収穫を終えるようにしましょう。
ネギ坊主の食べ方
じつはこのネギ坊主、食べられるんです! ネギの風味をギューッと濃くしたような、癖のある味わいで、炒め物やおひたしに利用できます。なかでも、天ぷらにすると風味がよくおすすめ。ネギ坊主を味わうために、あえて畑に長く置いておくのもよいでしょう。
ネギの増やし方
ネギは、種まきで増やすことができます。タネを採取したい場合は、ネギの花である「ネギ坊主」ができるまで収穫せずに残しておきましょう。花が咲いた後、6月頃まで待つと、ネギ坊主が茶色くなってタネを採取できます。茶色く枯れ込んだネギ坊主を摘み取り、トレイなどに入れてさらに乾燥させましょう。それを手で揉みほぐすと、中から簡単に黒いタネを取り出すことができます。保存する場合は、紙袋などに入れて種まきの適期まで冷蔵庫に入れておくとよいでしょう。
薬味として大活躍! ネギを自宅で育てよう
ここまで、葉ネギ、長ネギのそれぞれの特性や育て方について、深く掘り下げて解説してきました。同じネギでも栽培方法がまったく異なることに、驚いた方もいるのではないでしょうか。そばやうどん、みそ汁などの薬味のほか、鍋物料理などいろいろな料理に欠かせないネギの栽培に、ぜひチャレンジしてください。
参考文献/
『やさしい家庭菜園』 監修者/藤田智、加藤義松 発行/家の光協会 2006年3月1日第1刷
『別冊やさい畑 野菜づくり名人 虎の巻』発行/家の光協会 2009年2月1日発行
『甘やかさない栽培法で野菜の力を引き出す 加藤流絶品野菜づくり』著者/加藤正明 発行/万来舎 発売/エイブル 2015年5月25日発行第2刷
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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