甘柿や渋柿があり、品種によってはシャリシャリとした歯ごたえが楽しめたり、ねっとりとジューシーな果肉を味わえたりと、バラエティーに富んでいる柿。日本人にとって、馴染みの深いフルーツですよね。この記事では、柿の基本情報から始まり、詳しい育て方まで、幅広くご紹介していきます。
目次
柿を栽培する魅力
古くから親しまれてきた柿は、日本の気候によく合うため、放任してもたわわに果実を実らせてくれます。果樹の中で最も手のかからないのが柿だと言ってもいいでしょう。秋に収穫の喜びをもたらしてくれる柿を、ぜひ植樹してはいかがでしょうか。ここでは、柿の基本情報やライフサイクル、種類などについてご紹介します。
柿の基本情報
柿はカキノキ科カキノキ属の落葉高木で、原産地は東アジアの温帯から東南アジアの熱帯。中国では紀元前から栽培・利用されており、日本には中国から伝わったといわれています。その歴史は古く、10世紀初めの文献に記述が見られます。日本の気候によく合ったため各地に広がっていったようで、1912(明治45)年の調査によれば、甘柿、渋柿を合わせて、日本では約1,000種類あることが判明しました。
柿は寒さ・暑さに強いほうですが、甘柿は暖かい気候を好み、渋柿は寒さに強い傾向にあります。関東以南は甘柿、関東以北は渋柿を選択するとよいでしょう。
柿の自然樹高は2〜5mで、放任すると大きく成長します。「そんなに大きくなるなら持て余してしまいそう」と心配になるかもしれませんが、毎年の剪定によって樹高を抑え、樹形をコントロールすることができます。庭木として育てるなら、高さ2.5m、株張り2.5mを目安に、それだけのスペースを確保できる場所に植え付けるとよいでしょう。
柿のライフサイクル
庭木として根付いた柿の一年のライフサイクルは、以下の通りです。
3月中旬頃から新芽を展開して成育期に入り、5月中旬〜6月中旬に開花。6月下旬から果実の肥大が始まります。9月下旬〜12月が収穫期間で、11月下旬にはすべての葉を落とし、休眠に入ります。越年してまた3月中旬から新芽を出す……という繰り返しです。
甘柿と渋柿
柿には、そのまま食べておいしい甘柿と、加工しなければ渋くて食べられない渋柿があるのはご存じでしょう。その甘柿と渋柿は、さらに完全甘柿、不完全甘柿、完全渋柿、不完全渋柿の4種類に分類されます。
完全甘柿は、種子の有無にかかわらず、常に甘柿になる品種で、温暖な地域での栽培に向いています。不完全甘柿は、種子が多く入ると甘柿になる品種で、授粉樹が必要です。完全渋柿は、種子の有無にかかわらず常に渋柿になる品種で、寒い地域から温暖な地域まで、幅広く栽培することができます。不完全渋柿は、種子が多く入って渋みが残り、やや不安定な品種です。
これらのうち、不完全甘柿は授粉しないと甘柿になりません。そのため、花粉を多く持つ品種を授粉樹として植える必要があります。植えようとしている品種には、授粉樹が必要かどうか、あらかじめチェックしておくことが大切です。
柿の品種
日本はフルーツ天国で、甘くてジューシーな品質のよい果実を目指し、日進月歩で品種改良が進んでいます。柿もまたしかりで、美味しい品種が毎年のように生まれています。ここでは甘柿、渋柿の人気の品種をご紹介しましょう。
【甘柿】
果実の重みが約380gになる大玉の‘太秋(たいしゅう)’は、シャキッとした歯ごたえが魅力。‘富有(ふゆう)’は、栽培適地が広く甘柿の代表的な品種で、たくさん実がつきます。‘富有’から派生した、実が1.5倍の大きさになる‘大玉富有’、ジューシーで甘い‘すなみ’、果肉が緻密な‘宗田早生(そうだわせ)’、果汁が多い‘花御所(はなごしょ)’などもあります。
【渋柿】
大玉で揃いがよく、緻密な果肉の‘幸陽(こうよう)’は、まろやかな風味。早くから実がつき、面長な顔つきの‘大西条(おおさいじょう)’は、脱渋が簡単です。耐病性が高く実つきがよい‘愛宕(あたご)’は渋柿の最高品種の一つといわれています。干し柿を作りたいなら、専用品種もありますよ! 果重が約100gと小ぶりで豊作になる‘市田柿’、タネをほとんど含まず、晩生で暖地でも干し柿にしてカビがつきにくい ‘夢西条’がおすすめです。
柿は栄養がいっぱい!
柿は栄養価が高く、ペクチン、βカロテン、リコピン、ビタミンC、タンニン、食物繊維などを多く含みます。特にビタミンCは1個で1日のビタミンC摂取量をまかなえるほど豊富に含みます。また、ビタミンCとタンニンは血液中のアルコール分を排出する働きがあり、柿に含まれる酵素はアルコールの分解を促進して血中アルコール濃度の上昇を防ぎます。昔から「柿は二日酔いによい」といわれますが、理にかなっているのです。
また、柿の糖質は14〜18%でとても甘いのですが、意外にもカロリーは100g当たり60キロカロリーで、低いほうといえます。ダイエット中のデザートに、いかがでしょうか。
柿の育て方
ここまで、柿の基本情報やライフサイクル、種類などについて、詳しくご紹介してきました。では、ここからは実践編として、柿の育て方について解説。適した環境から土づくり、植え付け方、水やりや追肥などの日頃の管理、摘蕾や摘果など果実を充実させるための管理、剪定、注意したい病害虫など、一年を通してのメンテナンスについて、深く掘り下げていきます。
適した栽培環境
日当たり、風通しのよい場所を好みます。有機質に富んだ、適度に水はけ・水もちのよい土壌づくりをすることが大切。寒さ、暑さに強く、育てやすい果樹です。
土づくり
【地植え】
まず、一年を通して日当たり、風通しのよい場所を選びましょう。植え付けの2〜3週間前に、直径、深さともに50cm程度の穴を掘ります。掘り上げた土に腐葉土や堆肥、緩効性肥料などをよく混ぜ込んで、再び植え穴に戻しておきましょう。土に肥料などを混ぜ込んだ後にしばらく時間をおくことで、分解が進んで土が熟成し、植え付け後の根張りがよくなります。
【鉢植え】
樹木用にブレンドされた、市販の培養土を利用すると手軽です。
植え付け
柿(苗木)の植え付け適期は12〜3月頃です。
【地植え】
土づくりをしておいた場所に、苗の根鉢よりも一回り大きな穴を掘って植え付けます。しっかりと根づくまでは、支柱を立てて誘引し、倒伏を防ぐとよいでしょう。最後にたっぷりと水を与えます。
【鉢植え】
鉢で栽培する場合は、入手した苗よりも1〜2回り大きな鉢を準備します。用意した鉢の底穴に鉢底ネットを敷き、軽石を1〜2段分入れてから樹木用の培養土を半分くらいまで入れましょう。苗をポットから取り出して鉢に仮置きし、高さを決めます。水やりの際にすぐあふれ出すことのないように、土の量は鉢縁から2〜3cmほど下までを目安にし、ウォータースペースを取るとよいでしょう。土が鉢内までしっかり行き渡るように、割りばしなどでつつきながら培養土を足していきます。最後に、鉢底から流れ出すまで、十分に水を与えましょう。
水やり
【地植え】
地植えの場合は下から水が上がってくるので、ほとんど不要です。ただし、真夏に晴天が続いて乾燥しすぎる場合は水やりをして補いましょう。真夏は昼間に水やりすると水の温度が上がり株が弱ってしまうので、朝か夕方の涼しい時間帯に与えることが大切です。
【鉢植え】
成長期は、日頃から水やりを忘れずに管理します。土の表面が乾いたら、鉢底から水が流れ出すまで、たっぷりと与えましょう。新梢や葉がややだらんと下がっていたら、水を欲しがっているサインです。植物が発するメッセージを逃さずに、きちんとキャッチしてあげることが、枯らさないポイント。特に真夏は高温によって乾燥しやすくなるため、朝夕2回の水やりを欠かさないように注意します。真夏は気温が上がっている昼間に水やりすると水の温度が上がり株が弱ってしまうので、朝夕の涼しい時間帯に行うことが大切です。冬は落葉するので、水やりは控えめにしますが、まったく水を与えずに土をカラカラに乾燥させたままにすると、枯れてしまうのでご注意を。
追肥
2月、6〜7月、10月が追肥の適期です。
【地植え】
2月と10月は有機質肥料または緩効性化成肥料を木の周囲にまき、土によくなじませましょう。6〜7月の追肥は、実肥としてカリ分を多く配合した肥料を施すと、実が甘くなります。
【鉢植え】
2月と10月は緩効性化成肥料をまき、土になじませましょう。6〜7月の追肥は、実肥としてカリ分を多く配合した肥料を施すと、実が甘くなります。生育期に、木に勢いがなく成長が止まっているようなら、速効性のある液体肥料を水やり代わりに与えるとよいでしょう。
病害虫
病気は、成育期に葉に円形の病斑が出る炭疽病、葉に白く粉を吹いたような症状が現れるうどんこ病、葉や果樹に黒い斑点が見られる黒星病、淡い褐色の病斑ができ、やがて全体が灰色のかびに覆われていく灰色かび病などが発生することがあります。
害虫は、カメムシ、カイガラムシ、ハマキムシ、アザミウマ、ヘタムシなどが発生することがあります。
休眠期に、マシン油乳剤、石灰硫黄合剤を散布しておくと、病害虫の防除に効果があります。
摘蕾・摘果
柿は、前年に伸びた枝の先端のほうに、数個の花芽がつきます。この花芽から伸びた枝に花が咲き、実がつきます。柿の花は5月中旬〜下旬頃に咲くので、栄養負担を軽くするために、つぼみがたくさんついていたら、少し減らしておきましょう。
また、6月下旬〜7月は摘果のタイミング。摘果とは、木への負担を軽減し、一つひとつの果実を充実させるために、果実を間引く作業です。果実が大きくなる品種は葉の数25枚に1つの果実を、果実が小さめの品種は葉の数10〜15枚に1つの果実を残すようにし間引いていきます。
収穫
収穫の適期は9月下旬〜11月です。柿には早生、中生、晩生などの種類があり、品種によってそれぞれ適した時期が異なります。購入した際のタグに表記されている、収穫期の目安(成熟した果皮の色・果実の重みなど)をチェックしておきましょう。
果実の皮全体がムラなく均一に色づいたら、ヘタの上部の枝をハサミで切り取って収穫します。
剪定
剪定の適期は休眠期の1〜2月と、徒長枝が多くなり、葉が繁茂する7〜8月です。
勢いよく長く伸びている徒長枝は、付け根から切り取ります。内側に伸びている枝や、絡んでいる枝など、込み合っている部分があれば、間引いて風通しをよくします。また、弱々しい枝や古い枝も切り取り、1カ所から放射状に伸びている状態の車枝は、1本のみ残して他は切り取りましょう。
植え替え
【地植え】
しっかり根付いて順調に生育していれば、植え替えの必要はありません。
【鉢植え】
鉢植えで楽しんでいる場合は、放置していると根詰まりしてくるので、2〜3年に1度を目安に植え替えましょう。植え替えの適期は12〜2月頃です。
植え替えの前に、水やりを控えて鉢内の土を乾燥させておきましょう。鉢から株を取り出し、根鉢を少しずつ崩していきます。不要な根を切り取り、根鉢を軽くほぐしましょう。これ以上大きくしたくない場合は同じ鉢に、もう少し大きくしたい場合は二回りくらい大きな鉢に植え替えます。手順は「植え付け」の項目を参考にしてください。
渋柿の加工方法
渋柿の脱渋には、お湯やアルコール、炭酸ガスなどを使う方法がありますが、中でもアルコールを使うのが簡単でおすすめです。渋柿を収穫したら、霧吹きスプレーに入れた焼酎(35度くらい)をヘタに吹きかけます。密閉用保存袋に入れて閉じ、暖かい場所に5〜10日ほど置いておきましょう。すると、すっかり渋が抜けます。渋抜きした柿は、甘柿とはまた違った食感や味わいを楽しめるので、ぜひチャレンジしてみてください。
また、干し柿に加工すると、長い期間保存することができます。干し柿を目的にするなら、吊しやすいように枝を残して収穫するとよいでしょう。熟した果実の皮をむき、ひもを付けて露や霜が当たらない軒先など風通しのよい場所に吊します。7〜10日ほど乾燥させ、果実を揉んでみて好みの硬さに仕上がったら、室内に入れて保存しましょう。
柿を育てて秋の味覚を楽しもう
ここまで、柿の基本情報やライフサイクル、種類、育て方について幅広く解説してきました。日本の気候によく馴染み、育てやすくたくさんの収穫を得られることが分かっていただけたのではないでしょうか。秋の味覚の代表でもある柿を、ぜひ庭木として取り入れてください!
参考文献/
『決定版 はじめてでも簡単 おいしい家庭果樹づくり』 著者/大森直樹 発行/講談社 2010年11月28日第1刷発行
『はなとやさい』2018年10月号/タキイ種苗
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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