可愛い名称で、夏の風物詩ともいえる「フウセンカズラ」。風に揺れる青い実が涼を感じさせてくれる、つる植物です。種子からでも育てやすく、丈夫で、栽培方法も簡単。初夏から秋口にかけてぐんぐん伸びる特性をいかせば、天然の日よけ“グリーンカーテン”に仕立てることもできます。上手に育てるコツをつかんで、この夏は、エコなガーデニングを楽しんでみませんか。
目次
フウセンカズラの基本情報
植物名:フウセンカズラ
学名:Cardiospermum halicacabum
英名:Baloon vine、Heart pea vine
和名:フウセンカズラ(風船葛)
その他の名前:ハートカズラ
科名:ムクロジ科
属名:フウセンカズラ属
原産地:北アメリカ南部
分類:一年草
風船状にふくらんだ淡緑色の果実が美しいフウセンカズラ(Cardiospermum halicacabum)は、ムクロジ科フウセンカズラ属のつる性植物。十数種がアメリカ大陸を中心とする熱帯に分布しています。
ムクロジ科の植物は、その果皮にサポニンを含むものが多く、魚毒や石鹸として使われてきました。日本では食用ではなく、観賞用として普及しています。インドなど一部の地域では薬や野菜として口にされることもありますが、作用が強く毒性と判断されることも多いので、食べることは避けましょう。なお、熱帯や亜熱帯で果物として食用にされるレイシやリュウガン、ランブータンなども同じ科になります。
木本が多いムクロジ科の中で、フウセンカズラは少数派の草本植物。熱帯では多年草として生育していますが、寒さに弱いため日本では一年草として扱われています。
フウセンカズラは育てやすいため、初心者にも人気の植物です。開花期も比較的長いので、独特な花や実、種をじっくりと楽しめるでしょう。
フウセンカズラの花や葉の特徴
園芸分類:草花
開花時期:7~9月
草丈:1~3m
耐寒性:弱い
耐暑性:強い
花色:白色
長さ数メートルにも伸びる茎に、モミジのような深い切れ込みのある柔らかな葉。その葉の付け根から出る細長い茎の先には、数ミリほどの小さい花と細い巻きひげがついています。このひげで他のものに絡みついて、よじ登りながら成長していくのです。7月頃になると、4枚花弁の3mmほどの小花が咲き始めます。花が終わると、子房の膜が膨らみ始めて、直径3cmほどの中空の実に。ぷっくりと膨らんだ実が風に揺れる様子から、和名は「フウセンカズラ」、英名では「Balloon Vine」と呼ばれています。また、「Heart Pea」「Heart Seed Vine」などもフウセンカズラの別名です。
風船のような実の中から現れる3粒の種子は、黒熟した腹面に白いハート形が。フウセンカズラの属名である「Cardiospermum」は、種子の特徴にちなんでギリシア語の「cardia(心臓)」と「sperma(種子)」から名づけられています。
フウセンカズラの花や葉の特徴を、上手に生かした栽培法を「あんどん仕立て」と呼びます。鉢に植え、つるを支柱に絡ませて育てると、実がつく頃には行灯(あんどん)のような、風情のある佇まいの鉢植えになるでしょう。また、支柱にうまくつるを絡ませれば、日差しをさえぎるグリーンカーテンも作れます。幅広い飾り方で家を彩るフウセンカズラは、日本でも人気の高い草花です。
フウセンカズラの名前の由来と花言葉
フウセンカズラ(風船葛)の名前は、風船のように空気で膨らんだような見た目の実をつけることが由来です。なお、「葛(かずら)」はつる植物を指します。また、花言葉は、「一緒に飛びたい」。風船のような実の見た目にふさわしい、軽やかで可愛らしい花言葉ですね。名前や花言葉に、花ではなく実の特徴が反映されているのは、独特な形の実のほうが、よりインパクトが大きいためでしょう。
フウセンカズラだけじゃない。ぷっくり膨らむ実を愛でる植物たち。
花後につく実の形状がユニークな植物は、開花期よりも実をつけた状態で切り花やドライフラワーとして楽しまれます。なかには、フウセンカズラのように膨らんだ実をつけるものもあります。代表的なものをあげてみましょう。
ニゲラ
キンポウゲ科・クロタネソウ属のニゲラ(Nigella)。薄紫やピンク、白などの花も美しいですが、花後に膨らむ果実はドライフラワーにしても楽しめます。
ホオズキ
日本原産のホオズキ(鬼灯、鬼燈、酸漿)はナス科の一年草。萼(がく)の部分が果実を包んで袋状になります。
フウセントウワタ
怒ったときのハリセンボンのようなトゲつきの実をつけるのは、アフリカ原産のガガイモ科(キョウチクトウ科)の一年草、フウセントウワタです。切り口から出る白い汁は毒性があるので注意を。
フウセンカズラの栽培12カ月カレンダー
開花時期:7〜9月
植え付け・植え替え:5月中旬〜6月中旬
肥料:5〜9月
種まき 4月中旬頃
グリーンカーテンやあんどん仕立てなどのために、つるを誘引したい場合は、本葉が5~7枚生える頃を目安にしましょう。
フウセンカズラの栽培環境
日当たり・置き場所
フウセンカズラは日当たりのよい環境を好みます。土は水はけがよく、栄養豊富なものがいいでしょう。基本的には、草花向けの培養土がおすすめです。また、鉢植え・地植えどちらでも育てられるので、ライフスタイルに合わせて栽培法を選びましょう。なお、あんどん仕立てにしたいなら、鉢植えでの栽培がおすすめです。グリーンカーテンに育てたい場合は、グリーンカーテンを作りたい場所に種や苗を植えましょう。土や鉢植えの選び方は、後ほど詳しく解説します。
耐寒性・耐暑性
フウセンカズラは暑さに強い植物です。夏場でも直射日光のもとで、たっぷりと日差しを浴びさせましょう。なお、フウセンカズラは一年草のため、冬越しの必要はありません。
フウセンカズラの育て方のポイント
用土
地植えにする場合、掘り起こした土に完熟堆肥や腐葉土を混ぜてよく耕すとよいでしょう。鉢植えの場合は、水はけがよく、通気性のある土が適しています。 市販の草花用培養土を利用するか、赤玉土6:腐葉土4で土を配合するのもよいでしょう。
水やり
暑い季節が成長期にあたるため、梅雨時期を除いては、土の表面が乾いたらたっぷりと水やりを。鉢植えやプランター植えの場合は、鉢底から水が出てくるまで十分に与えます。夏場は、日中に水やりをすると蒸れてしまうので、朝や夕方など涼しい時間に与えます。緑のカーテンとして植えるような直射日光が当たる場所では、吸水がより活発になるので、早朝と夕方、1日2回与えるくらいの頻度がよいでしょう。
肥料
肥料を多く欲しがるので、土壌や用土には、元肥として緩効性化成肥料を混ぜておきましょう。ただし、チッ素分の与えすぎは葉だけが茂り果実を落とす原因に。追肥には、リン酸分とカリ分が多めの緩効性肥料を置き肥にするか、1~2週間に1度液体肥料を施すとよいでしょう。
注意する病害虫
病害虫の心配はほとんどありませんが、高温・乾燥下の環境ではハダニが発生することがあります。葉のツヤがなくなり、茶色くなって枯れてしまうのはハダニが増殖している合図。ハダニがつきやすい葉の裏側に、こまめに散水すると予防になりますが、変色した葉が多くなったら殺ダニ剤を散布して駆除しましょう。
フウセンカズラの詳しい育て方
苗の選び方
苗はつるや葉が変色していないものを選びましょう。つるばかりが伸びているものや、虫食い跡があるものは避けたほうが無難です。
植え付け・植え替え
フウセンカズラは移植を嫌うため、種を直まきしない場合は移植ポットで発芽させてから植え付けます。発芽させたフウセンカズラや市販の苗を植え付ける時期は、5月中旬~6月中旬が目安です。
↓用土のところと被る原稿がここに入っていたのですが、用土に移動する?by倉重
水はけ・通気性に優れた栄養豊富な土壌を好むため、赤玉土と腐葉を6:4で配合するか、市販の草花用培養土を使ってもよいでしょう。なお、直まきする場合は、土壌を深さ30cm程度耕し、腐葉土や完熟堆肥をすきこんでおきます。
植え付けや植え替えの際は、地植え・鉢植えともに、株間が20~30cmになるように植え付けます。また、鉢やプランターで育てるときは、十分な深さがあるタイプを用意しましょう。
フウセンカズラは、植え付けてから1~2カ月で早くも開花時期を迎えます。つるを思い通りの場所に誘引したいなら、つるを絡めるためのネットや支柱を早めに用意しておくことも重要です。
日常のお手入れ
本葉が5~7枚展開したタイミングで、茎の先端を摘み取る摘心を行うと、脇芽が伸びてボリュームのある株に育ちます。脇目が伸びてきたら、適宜その先端を摘心すれば、枝葉が広がり美しいカーテンに。アサガオのように茎自体がくるくると巻きついて登っていくのとは違い、フウセンカズラは細い“巻きひげ”が絡みついてよじ登るスタイル。そのため支柱やフェンスなど棒状のものにそのまま絡みつくのは苦手です。ネットを張るか、柵やトレリスなどには、棒と棒の間に麻ひもなどを渡すと巻きひげが絡みやすくなります。行灯仕立ても同様に、支柱と支柱の間にネットや紐を張るときれいに仕上がります。軒下などにネットを吊すときは、フウセンカズラの背面にネットを張るように。伸ばしたい方向に茎を誘引するのもよいでしょう。
種まき
フウセンカズラの発芽適温は20~25℃。種まき時期は、関東以西であれば5月の連休以降が種まきの適期です。「八重桜が咲く頃」と覚えておくと分かりやすいでしょう。
フウセンカズラは移植を嫌うので、種を直まきするか、移植ポットを用いて発芽させるのがおすすめです。種子は吸水しにくい硬実のため、刃物やヤスリなどで表面に傷をつけ、一晩水につけておくと発芽が揃いやすくなります。
増やし方
暑さの盛りを迎えると、緑色だった実が茶色く色づいてきます。1つの実に3つ入っている種子も緑色から真っ黒に熟し、収穫のタイミングです。9月に入ると葉が落ち始めるので、ネットをはずして撤去するとともに、来年用の種子を採取しておきましょう。大きく成長した株からは200個以上の種子が採れることも。白いハート模様の真っ黒な硬い種子は、かなり個性的。クラフト素材にしたり、瓶に詰めて飾ったりすると、とても可愛いですよ。
春まきのつる性植物で省エネ対策の「グリーンカーテン」を
夏の強い日差しを遮るように、壁面や窓の外側に張ったネットに、つる性の植物を這わせてつくる天然の日除け、いわゆる“緑のカーテン(グリーンカーテン)”。その効果は、日陰をつくってくれるだけでなく、「建物に熱を蓄積させない」「蒸散により葉から空中に放出された水分が周囲の熱を下げ、涼風を室内に運ぶ」など。自然の力を利用した夏の省エネ対策です。
●緑のカーテンの詳しい記事はこちら
酷暑に備えて早めの準備! 緑のカーテンを目指した栽培計画
夏場に成長が旺盛になるつる性の植物であれば、たいていのものは“緑のカーテン”に利用できます。花を楽しむのであれば、アサガオやユウガオ、トケイソウ、ルコウソウ、ツンベルギアなど。収穫も楽しみたいのであれば、ゴーヤやヘチマ、オカワカメ、ツルムラサキなどがよいでしょう。細い茎、淡い葉色のフウセンカズラでつくったカーテンは、やや繊細なイメージですが、ゴーヤやヘチマのように重い実がなる植物に比べて、ネットや留め具にかかる負担も少なく、初めて挑戦する人にもおすすめです。
フウセンカズラで涼を呼び込むガーデニングを
酷暑ともいえる日本の夏にも負けないで、すくすくと伸びるフウセンカズラ。その丈夫さとは裏腹に、ほっそりとした草姿に可愛らしい実をつける様がなんとも涼し気です。緑のカーテンに、行灯仕立てにと、アレンジの幅があるのも魅力。自家採種で毎年更新できるので、育ててみてはいかがでしょう。
Credit
文 / 3and garden
スリー・アンド・ガーデン/ガーデニングに精通した女性編集者で構成する編集プロダクション。ガーデニング・植物そのものの魅力に加え、女性ならではの視点で花・緑に関連するあらゆる暮らしの楽しみを取材し紹介。「3and garden」の3は植物が健やかに育つために必要な「光」「水」「土」。
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